BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「○○!これはなぁに??」
「それは…練り消しゴムだ。」
「これが消しゴム!?…だって見て、こぉんなに柔っこいのよ??」
「ん。形を変えて……こんな感じでほら、ちゃんと消えるだろ?」
「うわぁ!!…まるで魔法だわっ!」
膝の上で足をばたつかせて燥ぐこころ。…練り消し一つで魔法のようだとは…昨今の魔法使いも安くなったもんだなこりゃ。
今日は平日だが、朝からずーっと二人で過ごしている。勿論、目に見えずとも黒服はいるはずなので、二人きり、なんてロマンチックな状況じゃあないんだけどな。
練り消しゴムを弄り終えたこころが続いて手を伸ばしたのは木炭。机の脇に予備として置いてあったものだ。
「これは??」
「…あっ。あーあ、やっちまったなこころ。」
「んぅ?」
「何でもかんでも躊躇なく掴むからぁ……」
剥き出しの木炭をむんずと掴めば結果はお察しだろう。…案の定隙間から見える手のひらは真っ黒黒の黒。こころ本人はまだ気づいちゃいないか。
「…ほれ、パーにしてごらん。」
「……??…あっ。あぁぁああ!!!」
「あーあー。真っ黒だなぁ。」
「黒!これ、黒!ふわぁ……」
「はっははははははは!!!なんだこころ、その顔!!」
ぶーっと膨れて両手を交互に見るこころ。ちょっとハリセンボンみたいで可愛い。
手が汚れたことに対して怒っているのか俺が笑ったことに怒っているのか。…どちらにせよ、このままって訳にもいかないな。
「ごめんごめん…。よし、手ぇ拭いてやるからな。一回降りてくれ。」
「ええ。………これ、どうやって降りたらいいかしら?」
「どうやってって…あぁ、手が使えないからか。」
気づいてすぐ置けば被害は片手で済んだのになぁ。手を開くときにご丁寧に持ち替えたもんだから、両手とも真っ黒だ。確かにこのまま立ち上がろうとするなら、触った箇所を確実に黒く汚してしまうことだろう。
「うーん……しゃーないな。ちょっと擽ったいかもだけど我慢してくれな?」
「えっ??…うっ、んっ、あ、ちょ、ちょっと」
「よいせ…………っと。」
脇の下に手を差入れ持ち上げる。今回ばかりはこころが小柄で良かったな。…同じくらいのタッパの奴に試したらわかるぞ?これ滅茶苦茶キツいんだから。
「な……な………な…な……」
「??…どした、痛かったか?脇。」
「……そ、…ち、ちが……」
「??まぁいいや、タオル取ってくるから待っとけ。…あんまりあちこち触るんじゃないぞ?」
何やら顔を真っ赤にして物言いたげなこころを残し洗面所へ。…あ、炭だし水拭きだけじゃ落ちないかもしれんなぁ。
「どれハンドソープも…」
「○○様。」
「のわぁっ!?……なんだ横澤さんか。いい加減足音立ててくれよ…。」
「これは失礼。……先ほどの件ですが。」
「さっき?何かあったっけ?」
膝に乗せてたのがまずかったのかな?お父さんに怒られちゃう?
「ええと、その……。」
「?」
「膝からの降ろし方が、少々まずかったというか…。」
「どういう。」
「その…お嬢様は、胸部の発育が少々伸び盛りでして。」
「…あぁやっぱり?気にはなってたけど、あれくらいの子の胸を凝視して過ごしているわけじゃないから比べたこともなかったんだよな。」
やっぱでけえんだ。そりゃまあ、服の上からでも分かるくらいだしデカイ方ではあるんだろうとは思ってたけど…
「……今想像してます?」
「まあね。」
「し、しないでください。」
「……や、別にそれに気づいたところで
「…本当にぃ?」
「ホントだよ。」
そんなジト目で睨まんでください。心配しなくても、そんな弦巻一族を敵に回すようなことはしませんって。
でも、押し付けられるだけでハッピーな気持ちになるのは確かにあるよ。よく抱き抱えてるから感じる感覚だけども。
「何でそんな話になったんだっけ。」
「はっ。そ、そうでした。…さっき、膝からお降ろしになる際に触れたのでは?」
「………あー、うん。すっかり慣れちったから気にしてなかったけど、少しは当たったかも。」
「ええ。そこなんですが。」
何か問題あったか?まさかその降ろし方も今後は禁止とか言うんじゃないだろうな。
「慣れているのはお嬢様も同じはずなんです。」
「そうだな。」
「……先ほどのお嬢様、何か気になりませんでしたか?」
「…まぁ、ちょっと変だったかな。顔も赤かったし。」
「えぇ。……おそらくは、
こころが…恥ずかしいだって??
そんな馬鹿な…と一蹴しようのない反応ではあったけど、でもあのこころだぞ?
「…やっと恥ずかしさを覚えてきたってことか。」
「その可能性は大いにあります。…何せあんなにも身体の発育は進んでいるのです。内面が追いつくにしても、むしろ遅いくらいです。」
「だよなぁ……。あ"っ!!」
「どうしました、○○様。」
恥ずかしさを覚える……つまりはあれか。純粋無垢だった娘に思春期が来てしまったようなもので…。
俺は気づいてしまった。よく聞きはするが自分には無縁だと思っていたあの事象の危険性が生まれていることに。
「まさか、だけどさ。」
「はい……?」
「俺、そのうち嫌われる?」
「!!!!!!!」
「……だってさ、女の子ってある時期になったら急に父親のこと嫌いになったりウザがったりするんだろ?」
「…あ、あわわわわわ…。」
「な!?な!?あるよなこれな!?」
「はわわわわわ、ど、どどどどど、どうしましょうね??」
「えぇ!?嫌だよぉ!?嫌われたくないよ俺!!」
「そんな!そんな!!私の尊い時間がぁ!!!」
凄いな。人間は感情が昂ぶっている時に自分より荒れている人間を見ることで落ち着くと聞くが…。本当だわ。
横澤さんがかつてないほど取り乱しているのを見て、何だか冷静になっている自分を感じた。
「……まぁ、取り敢えず手を拭きに行ってやらないと。」
「…ああ、そうでしたね。」
「横澤さん、大丈夫?」
「なにが?」
「いやめっちゃ荒れ狂ってたじゃん。落ち着いた?」
「…うん。ごめん。」
「それが素なんだ?」
「あっ。」
「いや別に俺は気にしないよ?…敬語嫌いだし。」
「マジ?ウケるんだけど!テンアg」
「や、やっぱり戻して!」
「……………。」
**
「うわぁ…。」
「もーっ!随分と遅かったじゃないっ!」
一悶着の後、タオルと水の入ったバケツに洗剤を引っ提げて戻ると。
先ほどの状態に加え、何故か両頬まで真っ黒に汚したこころが仁王立ちで待っていた。ぷんすこしてる。
「悪かったよ…。というかこころ、ほっぺたどうしたんだ?」
「こっ、これは……ちょっと触っちゃったのよ、うん。」
「あちこち触るなって言ったろ…。」
「ごめんなさい…」
全く、話を聞かない子だな。
「ほらそこ座って。……はい、じゃあ両手出してな?」
「うん。……んっ。」
両手を出させて綺麗に拭いていく。予想通り水拭きじゃ綺麗にならなかったので洗剤も混ぜながら優しく落としていく。
「ふんふふん…ふんふふん……♪ふふっ。」
例の歌をハミングで奏でつつゴキゲンなこころ。…よし、まだ嫌われていない。
未だにこの子のご機嫌スイッチがどこにあるのかわからないが、基本的に俺とスキンシップを取っているときは楽しそうな気がする。自惚れかなぁ。
「…はい、終わり。……ほっぺたはどうしようかな。」
「うふふっ、綺麗になったわっ!…ほっぺも拭いてっ?」
「……はいはい。じゃあ俺も座るな。」
正面から向き合う形で座り、近くに引き寄せる。場所が場所だけに、正面から至近距離で見つめ合う形になる。
「じゃあどっちからやるかな…。」
「………んー。」
「………。」
目を閉じて拭き取られるのを待っているであろうこころ。……いや、大丈夫だ俺は。何も邪なことは考えちゃいないぞ。
だからニヤニヤしないでくれ横澤さん。
「………エモい。」
「漏れてる漏れてる!」
「どうぞ、私なぞ気になさらず、続きを。」
「…………。…よしこころ、拭いていくからなー。」
「んっ。……んふ。…んぅ?………んんっ。」
擽ったそうに艶かしい声を上げながらも決して目は開けないこころを拭いていく。
やめなさい、変な気持ちになっちゃうから。あれだったらまたハンドソープのうたでも歌ってて欲しいくらいなんだけど。…あぁ、口の周りも拭くから無理か。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ…!!」
「…横澤さん、息荒いし近いしうるさい。」
耳元で興奮せんでくれ。
「だって、だって!素晴し……いやもうこれはたまらんですなぁ!!」
「誰だあんた。」
何はともあれ、とっても素敵なフキフキタイムは終わり…すっかり綺麗になったこころは鏡で汚れをチェックしている。
その背中を眺めながら、横澤さんと。
「あぁ……よかったよ、まだ嫌われてないみたいで。」
「…ね。凄くよかったですよ。」
「………横澤さんはまた違う意味でしょ。」
「うん。」
「……横澤さんってさ、思春期とか反抗期とか、そういう人間っぽいタイミングあった?」
「別にずっと人間だけど?」
「ほら、黒服ってさ。人間味ないじゃん?……統制の取れたアンドロイド軍団みたいな。」
一体どういう人生を歩んできたらあの仕事できんだよ。とは常々思う。
「あぁそういう。…私は…というか、横澤家って一族がアレなんですよ。」
「説明が雑。」
「弦巻に仕え続ける一族というか…。ズブズブの関係なんです。」
「言い方!」
「私自身も幼少期よりSPとしての教育を受ける日々でしたし、そんなブレている余裕はなかったんですよね。」
「へー。…何だか予想通りでつまんねえな。」
そんなものだろうと思ってたよ。一朝一夕でどうなるものでもないだろうし、「あれ実は面接で決めてるんですよ」とか言われても何かがっかりする。
「だからここちゃ…お嬢様を見ていると羨ましいやら何やらで、眩しい限りなんですよね。」
「へぇ。眩しいってのは同意できるな。」
「……惚れてんですか?」
「…馬鹿言ってんじゃねえよ。」
「というと?」
「あんたらと同じ目線で、好きだってこった。」
「へー。……じゃあ、もし告白でもされたらどうするんです?大人な気分の○○さんは。」
「…さぁわからんよ。問題ないなら付き合っちゃおっかな。」
「………ふーん。怖。」
「…あ、戻ってきたよ。」
「満足そうな顔ですねー。」
たたたっと駆け寄ってきたこころは、勢いそのままに俺に抱きつく。
元気を感じさせる動作で上げた、その邪気の無い顔で一言。
「○○っ!あたし、○○大好きよっ!」
思わず顔を見合わせる横澤さんと俺。
「……どうするんです?」
「………お、俺も大好きだよーこころー。」
はぐらかすように前頭部を撫で回す。
今はこんな子供っぽい子だけど、いつかは告白だなんだという日が来るんだろうか。…恥ずかしさを覚えた今日の一件もあるし、少し不安になってきたな。
「横澤さん、そのニヤケ面やめて。」
「えぇー?だって尊すぎる絵面なんですもんー。」
「これも全部親父さんに報告すんの?」
「…いえ?個人的なコレクションですが。」
「趣味かよ。」
あのね、横澤さんもこころと同じくらい謎多き人物なんだからね。
<今回の設定更新>
○○:横澤さんが仲良くなってくれて嬉しい。
最近こころに合鍵を渡した。
こころ:元気いっぱい。そういえば無かった羞恥心を覚え始めた。
そういえば大きかった。
横澤さん:一度素を見せてしまったがためにキャラがどんどんブレ始める。
ここちゃんだいすき。