BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
クラッカーの乾いた祝福が鳴り、気持ち程度の紙吹雪とセロファンの紐が視界を埋める。
クラッカーを持つ者、祝福を受ける者。うん、みんないい笑顔だ。
誕生日はこうじゃなくちゃな。
**
「にーちゃんにーちゃん!!」
「お、なんだはぐみ、まだ学校行ってなかったのか??遅刻するぞ?」
「ねね、今日何の日だか知ってる??」
「ん、お前の誕生日だろ?」
「せいかーい!昨日の内に予習してた甲斐があったね!」
「予習て…あの地獄のようなコール&レスポンスのことか。」
朝、身支度を整え出勤に備えていると制服姿の妹が駆け寄ってくる。
時間的にはかなりギリギリだが、よほど楽しみなのだろう。昨日からこの質問の繰り返しだ。
因みに、地獄のコール&レスポンスとは
はぐみ「せい、ほーお!」
俺「ほーお。」
はぐみ「せい、ほーお!」
俺「ほーお。」
はぐみ「ついに迎える30日!この日の記念日なーんだ?」
俺「一体なんだー、なんなんだー。」
はぐみ「忘れちゃいけない誕生日!年に一度の誕生日!せい!」
俺「誕生日!誕生日!誕生日っぴっぴー!」
はぐみ「よくできました!」
という頭の痛くなるやりとりのことだ。
仕込みの時間も含めて、昨日はほぼ半日これをやった。
誕生日っぴっぴー!のリズムが頭から離れない。
「今日、学校終わったら一緒にケーキ受け取りに行くんだろ?」
「そう!今からすっごい楽しみ!」
「そうかそうか、じゃあ無事に帰ってこないとな。
…ほれ、頑張って行ってらっしゃい。」
「うん!にーちゃん、いってきます!!」
あの遣り取りこそ今年が初めてだが、誕生日の朝は毎年こんな感じだ。
うちはサプライズをしない。ケーキもプレゼントも、はぐみが一緒に見て一緒に決めるのが慣例だった。
「さて、と。俺も一日頑張るかぁ。」
ケーキの受け取り、楽しみだな。
昨日の夜のうちに、担当したパティシエから写真が送られてきてたっけ。
…あいつも立派になったもんだ。
その後、はぐみに負けないくらい楽しみでソワソワしていた俺が部署全体にイジられたのはまた別のお話。
**
「た、ただいま!!」
急ぎ足のまま玄関に飛び込む。
息を切らし挨拶を終えると、外出の準備万端のはぐみがそこにはいた。
「にーちゃん、ダッシュしたの?」
「おう、プチ残業しちゃったからな。」
「でも全然待ってなかったよ!いこ!!」
「おう、いくぞ。」
スマホと財布だけをポケットに押し込み、ビジネスバッグは玄関に放り投げる。
はぐみの左手を忘れずに握り、ケーキ屋へ向かう。
毎年依頼している行きつけも行きつけ。商店街の人気店『洋菓子の七日堂』へ向かう。
昔同級生だった「毛利」という男がパティシエとして働いているその店は、ちょくちょく奇抜な催しをやっては商店街を沸かせている。
今回もその「毛利」に頼んでいるため出来栄えについては全く心配していない。
俺が見たいのはそのケーキを食べる時のはぐみの笑顔だけだ。
「にーちゃん、今年もあのお店なの?」
「そうだよ。違う方が良かった?」
「んーん。あのお店ね、こころんもお気に入りでね、たまに遊びに行くんだ~。」
「ケーキ屋に遊びに行くってなんだ…買い食いか?」
「ちがうよっ。たまにだけどね、お店の前でプロレスやってたり追いかけっこしたりしてて楽しいんだ!」
「…あぁ、そういやそういう店だったな。」
あの店には確か、何年もケーキを作っていないパティシエとケーキ以外のものなら何でも作れるパティシエが居ることで有名だ。
奇抜すぎてつい通っちゃうんだよな。
…と思わず思い出し笑いをしていると件の店の看板が見えてきた。
「ななにちどー!」
「…そうだな。」
やや早歩きで入った店内は涼しく、人もまばらといった感じだったが、カウンターの男と目が合うや否や声をかけられる。
「あっ、北沢さん?受け取りですね~?」
「あ、はい。…ほらはぐみ、ちゃんと受け取ってな。」
「うん!ちゃんと持つよ!」
「いまお持ちしますね~」
裏に消えた男は1分とせずに箱を抱えて戻ってきた。
「はい、それではこちらになります。
傾けないように気をつけてお持ちくださいませ~。」
「あ、はーい。んじゃ支払いを…。」
「はい…はい……。ちょうどですね。
またお待ちしてますね~。」
「はーい、どうもでーす。」
「はぐみの誕生日のケーキ、作ってもらってありがとうございます!
はぐみは凄く幸せです!!はぐみ、頑張って持って帰ります!」
元気よくはぐみが伝える。
うん、お礼もちゃんと言えるし、最高に可愛い妹なんです。
会計をしてくれた男もにっこにこだ。
そんなこんなでブツを受け取った俺たちは慎重にその箱を抱えたまま家路を急ぐのであった。
**
「たっだいま~!」
「ただいま。」
我が家の玄関からは、先程は感じなかった料理のいい匂いが漂い始めていた。
そして何よりも…
「靴、多いなぁ…」
「みんなもう来てくれてるんだね!!…にーちゃん、はぐみ、ケーキ届けてくるね?
にーちゃんは着替えとかお風呂とか済ませちゃいなさい!」
「お?おう。」
張り切ってるなぁ…。
それではお言葉に甘えて、自宅モードになっちゃいますかね。
流石にずっとスーツでいるのも窮屈だ。
その後、のんびりし過ぎてはぐみに怒られることも少々ありはしたが、漸くパーティへ。
「今年はまたすごいな…」
壮観だった。
我が家の食卓テーブルに来客用のテーブルをくっつけ、長机の様にセッティングされている周りを、やいのやいのと若い女の子達が囲んでいる。
何度か会ったことのあるバンドのメンバーはもちろん、香澄を始めとして何人か知らない子もいるな。
おそらく全員同級生やらバンド関係の知り合いだろうが、お兄ちゃんは幸せだ。こんなにも沢山の人が我が妹の誕生を祝ってくれるなんて。
…あっ、泣きそうだ。
「おにーちゃん、だいじょうぶ?悲しいの?」
「…うん、大丈夫だよ。ちょっと感動しちゃってね。
……というか香澄?君はあっちのグループには混ざらないの?」
「はい!おにーちゃんとはたまにしか会えないのでこういう時に一緒にいたいんです!えへへ…。」
「そかそか。…でもほら、今日ははぐみの誕生日をお祝いしてくれると嬉しいな。」
この子だけは別の目的で来てたのかな。
でも勿論、日頃はぐみと仲良くしてくれているのは知っているし、すごくいい子だ。妹の友達がこういう子でよかったよ、ほんと。
「はぁい、それじゃあみんな??
そろそろパーティ、始めるわよ?」
「すげえや、もう歓声のレベルじゃんか。」
母親の一声にバラバラだった参加者より一斉に歓声が上がる。
今年もいよいよ始まる。一年に一度の大イベントだ。
「それじゃあはぐ?まずは主役から挨拶お願いね?」
「うん!今日はみんな、はぐみのために集まってくれてありがとう!!
…誕生日っていう嬉しい日を、みんなと一緒に過ごせてはぐみはとっても嬉しいです!
いっこ大人になったはぐみと、これからも仲良しでいてください!!」
あぁ…妹が眩しい。
ちゃんと挨拶もできる、いい子だぁ。
拍手の中で皆立ち上がり、一人一つ配布されたクラッカーの紐に手をかけ―――
**
「いやぁ…今日は盛り上がったなぁ…。」
若い子達の騒がしさが帰った後。
母親と一緒に片付け。
はぐみは余程楽しみ疲れたのか、リビングのソファで寝落ちしている。
溢れそうなヨダレがとってもチャーミングだ。
「よし、こっちの片付けは大分終わったし…。
○○?はぐを部屋まで連れて行ってあげて??このままここに寝かせとくわけにもいかないし。」
「…そうだなぁ。じゃ、あとは母さんにパスするわ。」
小柄故に重さを感じないレベルの妹を抱き抱え、部屋へと向かう。
俗に言うお姫様抱っこだな。これもまだ暫くは兄である俺の特権であると思いたい。
「…よし、とりあえずはこのままベッドに…」
「…んぅ?…にーちゃん?」
「お、起きたか?」
「ん……寝ちゃってた…?
あ、にーちゃんに抱っこされてるぅ…えへへへへへ…。」
「こらこら、しがみついたらベッドに下ろせないだろ??」
「だって今日あんまりくっつけなかったから……
ぎゅーってしたい。」
「…しかたないなぁ。一回、ベッドに下ろすぞ?」
「…んぅ。」
「よし、いい子だ。」
ベッドにテディベアのように座り、胡乱な目でこちらに両手を突き出している妹を優しく抱く。
それを受け入れるように背中へと両腕を絡めてくるはぐみ。
寝ていたせいか、体温が高い。まるで人型のカイロだ。
「えっへへへへ…このプレゼントはにーちゃんしかくれない特別なやつだもんねぇ…」
「…とんでもない、プレゼントしてもらってるのは俺のほうだよ、はぐみ。」
北沢はぐみ。俺の可愛い妹よ。
生まれてきてくれてありがとう。
<設定更新>
○○:シスコン。意外な交友関係が発覚。
はぐみ:誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。
またひとつ大きくなったね。
香澄:お兄ちゃんが欲しかった…。