BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 -   作:津梨つな

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すれた こころ に じゅんすいさ が ささる

 

 

 

「にーちゃん!ドライブ行くの??」

 

 

 休日の早朝、せっせと車にタイヤを積み込んでいると学校へ行こうとする妹に見つかった。

 

 

「あ、あぁ……ドライブ…とはちょっと違うけどね。」

「う?…用事??」

「まぁそんなところかな。…車屋さんに行くんだよ。」

「また車買うの!?」

 

 

 俺が今お世話になっているカーディーラーは隣町にある。隣町と言っても、中々に遠い為休日でもないと尋ねられないのだ。

 今日は来たる冬季間に備え、スタッドレスタイヤへの履き替えを依頼しに行く予定だったのだが…。

 

 

「買うわけないだろう…。この車、まだ半年も乗ってないんだから。」

「そ、そうだよねっ!」

「じゃ、兄ちゃんはもうすぐ出発だからはぐみも学校頑張…」

「はぐみもいきたい!!」

「……はぁ。」

 

 

 始まった。

 何だか最近矢鱈甘えたな我が妹は、事ある毎に俺に纏わりつこうとしてくる。…いや、前からこうだった気もするが最近特に酷い…と言った方がしっくりくるか。

 何せ俺の休みに合わせて学校をサボろうとするほどなんだから。俺自身決して真面目に学校へ通っていた生徒じゃあなかったが、それは今は棚上げして良いだろう。

 

 

「前にも言ったと思うけど、具合が悪い時以外はお休みしちゃいけないよ?学生は学校に通うのがお仕事なんだから。」

「やだ!はぐみ、にーちゃんと一緒が良いんだもん!!」

「はぐが学校から帰ってくる頃には俺も戻ってきてるからさ…ね?ちゃんとお行きよ。」

「やーだー!やだやだやだー!!」

 

 

 駄々っ子か…。こうなると途端に聞き分けが無くなるし、正直俺の手には負えなくなる。

 ただ一つ懸念することと言えば、はぐみがこうなる時はただ一緒に居たい訳じゃなくて、何か伝えたいことだとか相談したいことだとか…胸の内に秘め事があることが多い気がするのだ。

 可愛い妹が悩み事でも抱えているなら…と無下にできない俺はきっと"シスコン"ってやつなんだろうな。

 

 

「……じゃあ、お母さんに訊いてご覧?お休みしていいよって言ったら、兄ちゃんと一緒に居ていいから。」

「………やだ。」

「どうしてさ。」

「かーちゃん、絶対ダメって怒るもん。」

「そりゃ駄目だからさ。」

「どうしてダメなの?はぐみはにーちゃんと一緒に居たいだけなのに!」

 

 

 そんなにウルウルした瞳で見上げないでほしい。…そんな目で訴えかけられると…

 

 

「分かったよ…。兄ちゃんも一緒に行くから、お母さんのところ行こ?」

「…うんっ!!」

 

 

 シスコンの俺にはクリティカルに効くんだよ。

 

 

**

 

 

「ダメです。」

「えぇー!!!やだやだやだやだ!にーちゃんと一緒に居るぅ!!!」

「わがまま言わないの。…それと〇〇、アンタもお兄ちゃんなんだからしっかりしなさい。」

「……んー。」

「可愛い妹が不登校になったらどうするのよ。」

 

 

 その心配は全くしてないよ、母さん。

 

 

「でもさ、俺としてはやっぱり嬉しいんだよね。こんな歳になっても一緒に居たがってくれるっていうのは。」

「だからって……もう、甘やかしすぎじゃないの?」

「ははは……まぁ、たった一人の可愛い妹だからさ。甘やかしたくもなるよ…。」

 

 

 隣に立つはぐみの髪を手櫛で好きながら答える。…少し伸びたか、面影もお姉さんっぽくなってきたようだ。

 

 

「はぁぁ……。いいよ、私から学校に連絡入れておくから、少し病人っぽくしてなさいよ?」

「…母さんだって甘いじゃんか。」

 

 

 根負けしたように深い溜息を吐く母親を精一杯のジト目で睨む。結局何だかんだ言ってこう言うところは家系なんだろうし、話も楽で助かる。

 

 

「うちのお姫様だもん、別にいいでしょ。はぐみとアンタが会えたのだって私のお陰なんだから、感謝しなさいな。」

「ははは、ありがとう母さん。」

「…う?お休みして、いいの?」

 

 

 ワンテンポ遅れて首を傾げる妹君。自分の話なんだからちゃんと聞いていなさい。

 

 

「ん。お母さんが学校に電話してくれるってさ。…よかったね。」

「ほんとっ!?…やった!!かーちゃん大好き!!!」

「はいはい、明日からはちゃんと学校行くのよ?」

「行く!!はぐみちゃんと行くよ!」

 

 

 現金な奴め…。

 ワントーン高い余所行きの声で電話をする母さんと、元気いっぱいに鞄を放り投げるはぐみ。

 俺もまたタイヤを積み込む作業へと戻り…最終的に出発に漕ぎつけたのは午後になってからだった。

 

 

「……にーちゃん、タイヤ変えるのってどれくらいかかる??」

「んー…いつも三十分くらいかなぁ…。」

「へー…。」

「………。」

「………。」

「にーちゃん、たこさんといかさんならどっち好き??」

「んー…食べるならたこさんかなぁ。」

「そっかー…。」

「………。」

「………。」

「に、にーちゃん、ビッグベンって、うんt」

「はぐみ?」

「にゃっ、なに!?」

 

 

 車内の会話。…特に話すことが無いのはいつもの事だが、今日は俺がはぐみの出方を伺っているだけに特に間が開く。

 だが妹よ。最後の話題は流石に止めさせてもらったぞ。世界的な建築物をクソミソに言うのは良くない、うん。

 

 

「…何か、にーちゃんに言いたいことがあったんじゃないかい。」

「う"っ…。」

 

 

 分かりやすい奴め…。

 

 

「にーちゃんが気付かないと思ったか?…おばかさんめ。」

「うぅぅ……。えとね、はぐみ、にーちゃんが大好きだよ。」

 

 

 唐突に愛の告白かぁ。

 相変わらず愛い妹よ。

 

 

「ん、知ってるよ。」

「でもね、でもね…いつかは、はぐみも大人になっちゃうでしょ?」

「なっちゃうね。」

「そうしたら、きっとにーちゃんとは一緒に居られなくなっちゃうよね。」

「…なっちゃう、かもね。」

「大人って、いーっぱいお仕事したり、いーっぱい我慢したりしなきゃいけないんだよね?」

「…そういうこともあるだろうねぇ。」

「やっぱりそうなんだ…。でも、そうやってずーっと頑張ったら、好きな人が出来たりして、誰かのお嫁さんになったりするんだよね?」

「ああ、いずれはそうだろうね。」

 

 

 将来の話、か。俺なんか当面の事すら考えられずにただ働いてるだけだってのに、大したもんだな…。

 

 

「にーちゃん。………大人になるって、どんな感じかなぁ…。」

「…………。」

 

 

 どう答えたものかと、暫し無言で車を走らせる。果たして俺は、この子と同い年の頃にそこまで思考していただろうか。ありったけの想像力を膨らませて、それでも見えない未来にヤキモキしたのだろうか。

 …情けない。そして、痛いほどに眩しい。

 

 

「…にーちゃん?…泣いてるの??」

「……えっ。」

 

 

 自分では気づかなかったが、とうに頬から顎と伝った涙はシャツの胸の辺りまでをも濡らしてしまっている。運転中に泣くなんて、危ない事この上ないな…と変に冷静ぶったことを考えつつも、妹がさっきまで話していたことを忘れられずにいた。

 擦れ切ってしまった"大人"にとって、無垢な純粋さは猛毒なんだ。きっと。

 

 

「にーちゃん…?哀しいことでもあったの?はぐみ、聞くよ?」

「大丈夫、大丈夫だよ。……ほら、もう少しで車屋さんに着くぞ?降りる支度しちゃいなさい。」

「わ、ほんとだ…!…今日もいっぱい車並んでるねぇ!」

 

 

 大人になるって、どういう事なんだろう。

 

 

 




<設定更新>

〇〇:何とか雪が降る前には履き替えが完了しそうで一安心。
   はぐみの日々の成長っぷりを目の当たりにし、
   自分の不甲斐なさに藻掻いている。

はぐみ:毎日が楽しい。
    とある事情により、お兄ちゃんと離れることになる未来を畏れている。
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