BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「ただいまぁ。」
「あらおかえり。…今日は早かったのね。」
「あぁ。…母さん、はぐみは?」
土曜日。いつもどおり仕事を終え帰ってみたはいいものの、いつも元気よく迎えてくれる妹の姿が見当たらない。
「…それがね、何だか元気がなくて…今も部屋から出てこないのよ。」
「……何かあったのかな。」
「今はそっとしておいた方がいいかもしれないけれど…。」
はぐみの元気を奪えるとは、ただ事じゃない何かが起きていると見える。一先ず自室に寄り、部屋着に着替えた後にはぐみの部屋へ。
「おーい、はぐー。兄ちゃん帰ってきたぞー。」
ドア越しに呼びかけるも反応はない…どころか物音一つ聞こえないんだが、本当に中にいるのか?
「はぐー?いないのかー?…もうすぐご飯だぞー。」
ああ、いるわ。
「ね、出ておいで。兄ちゃんと一緒にご飯食べよ。」
ふむ。出ては来るみたいだが…確かに声に元気は無い。ただ単にお腹でも壊してずっと寝てた、とかなら全然いいんだけど。
兄としては心配である。
やがて、俯きつつ妹が出てきたのは五分ほど経ってからのことだった。
**
「ごちそうさま…」と小さく呟いて食卓を去るはぐみ。その姿に両親も心配を隠せないようで、親父に至っては氷だけになったグラスをひたすら呷っている。
俺も慌てて掻き込み食事を終わらせる。…シンクに置き粗方の汚れを落としたあとに、はぐみの後を追って妹の部屋へ。
「はぐみ!……ありゃ?」
部屋には誰もいなく、真っ暗なままで。その代わり、壁の向こう…隣の部屋から、何かが壁にぶつかる音が聞こえた。
隣の部屋…即ち俺の部屋だが、そっちに行ったのか?あの子は。
「…はぐみ?…あぁ、本当にこっちにいたんだ。」
「うん、にーちゃん…。」
俺のベッドに上がり膝を抱えるようにして小さくなっているはぐみの姿があった。隣に腰掛け、一度大きく息を吸った。
「……。」
「……ねえ、にーちゃん。」
「………ん。」
「…ぎゅーってしてもいーい?」
「……いいよ、おいで。」
「…うん……。」
いつものような元気いっぱいのタックルめいたハグではなく、そっと何かを確かめるようにしがみつくハグ。…気のせいかもしれないが、いつもより心なしか体温も低そうだ。
「…。」
「……あのね、はぐみね。」
「………。」
「…すっごーく、困ってるけど、すっごーく皆が好きでね。」
「……うん。」
「にーちゃんも、かーちゃんも、とーちゃんも…それから、こころんもかおるくんも、かのちゃん先輩もみーくんも皆みんな好きなの。」
「うん…。」
「……どーしたらいいんだろ。」
例によって、はぐみの言葉は拙い。だからいつもどおり、その中から情報とこの子の気持ちを汲み取ってやらねばならない…。
「…そうだなぁ…。皆が好きなのはいいことだね。」
「…うん。」
「でも、好きで居られなくなっちゃうようなことが起きたのかい?」
「……んーん、そうじゃなくて、好きだから辛いの。」
辛い…か。
「そっか。…学校で何かあったのかな??」
「うん…そーなの。」
「学校……そろそろはぐみも受験とか考えなきゃいけないもんね。進学とか、そういう話かな?」
「……どーしてわかったの??」
これかぁ…。
「兄ちゃんは兄ちゃんだからね。…はぐみのことはよく分かってるよ。だから兄ちゃんと話してみたくてこっちの部屋に来たんだろう?」
「……うん、そーなの。」
暫しの沈黙。うーんうーんと小さく唸っているところから察するに、一生懸命言葉と気持ちを整理しているのだろう。
リズムよくトントンと背中をさすりながら待つ。…とんでもないこと言い出さなきゃいいけど。
「……あのね。」
どれほど待ったか。時計のないこの部屋では確認できないが、妹は自分で話し始める。
「昨日ね、学校でね…」
どうやら、学校で進路決定についての授業があったらしい。そこで渡された進路希望用紙に、引き続きこころちゃんたちとバンド活動をしていく…といった進路を書いて提出したところ、結構な尺で怒られたとか。
真面目に考えろだの、勉強は選択肢を増やすための手段だだの、就職して親を助けることこそ有意義だの……聞いていてイラつきそうな内容ばかりだった。どうせ自分の生活の為に事務的に働くだけのゴミみたいな"職業教師"が話したんだろう。
教師という職業を馬鹿にする気はないが、そこまで"職業"に徹するのであればそれにより傷つき心を痛める人間が少なからず居る事を認知した上で信念を持って冷徹に働くべきだとは思うが…いや、これ以上は言うまい。
「でもね…でもね……お勉強いっぱいやって、大学に行くってことは、お引越ししなきゃいけないでしょ?」
「……そうだね。」
そこそこの都市部であるはずのこの辺りだが…我が家から通える距離に大学はない。短期大学や専門学校…といった選択肢もあるのだろうが、本人の意思で選び取る道であることは言わずもがなだ。
「でも、お仕事って、まだ難しいことで、全然想像もできないし…にーちゃんはいっぱいいっぱい働いいててすごいなって思うけど、はぐみは…はぐみは……。」
「うん、うん…。わかった。…わかったよ、はぐみ。」
今にも泣き出さんばかりに声を震わせるはぐみ。
こんな時、兄としてどのような言葉をかけてやるのがいいんだろうか。兄として、俺には何ができるのか。
「……兄ちゃんはな、正直先のこともわからないし、あんまり難しいこともわからない。」
「………。」
「でもな、はぐみどんな選択をしようと俺はずっと味方だし、ずっとはぐみのそばにいるよ。」
「……ほんとう?」
「本当。…勿論、いつか独り立ちしたくなった時は邪魔しないけどね。」
「…ならないもん。」
それはそれで困るけども。
「皆だってそうだ…。はぐみが進学しようが就職しようが…これからの未来、ずっとずっとはぐみを大好きでいてくれるよ。…はぐみはみんなにとって、とーっても大切な子なんだから。」
「……そっか……みんな、本当に好きでいてくれるかな。」
「ああ勿論。…だから、はぐみもちゃんとみんなのことを信じて、一生懸命決めたことを頑張るんだ。」
「……………。」
「どうかな。」
「……うん。…うん、はぐみ、やるよ。えらぶ!」
…ううむ。自分で説得しといて何だけど、少々単純すぎるかも知れない。愛する人達との絆を感じることで頑張れる…それ自体はいいことなんだけど、人の言葉に感化されすぎというか…ううむ。
まぁ、野暮ってもんか。
「けどね…にーちゃん。」
「…ん。」
「……にーちゃんは、ずっとにーちゃん?」
「……そりゃあね。兄ちゃんははぐみのたった一人の兄ちゃんなんだぜ?」
「うん…。」
「何があっても、お前の"にーちゃん"は俺一人だけだ。…忘れるんじゃないぞ。」
「……うんっ!!!」
いい笑顔だ。
これからはぐみがどんな選択をして、どんな人生を生きていくのかはわからない。
それでも、誰にも口出しをする権利はないし、俺はずっとこの可愛い妹の味方で有り続けるだろう。
はぐみが俺を必要としなくなる、その日まで。
「…うっし、それじゃあ風呂に入って、さっさと寝ちゃおう!」
「う??まだ寝る時間じゃないよ??」
「…明日、日曜日だろ??いっぱい遊べる日じゃんか。」
「!!……う、うんわかった!はぐみ、いい子でちゃんと寝るよ!」
「うむうむ。それじゃあ行動開始だ!」
「わーい!にーちゃん大好きー!!」
……いつかは要らないって言われんのかなぁ…。
<設定更新>
○○:昔似たような経験があるとかないとか。
特に先生が嫌いなわけじゃないが、昔の担任に進路を酷く弄られた思い出から
教師をあまり好ましく思っていない。
妹離れはできなさそう。
はぐみ:どんなに大きくなっても永遠の妹。
進路とかいう若い身にしてはクソ重い選択肢の前に思い悩む。
平気な顔してみんな選んでくって凄すぎない?日本。
無邪気、それは正義。