BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
客があまりにも来ず、ただカウンターでぼーっとするだけだった午前中。只管に浪費され続ける時間に業を煮やし、オーナーである祖母に断り店を閉めた。
自室に戻りすっかり定位置となっている座椅子に腰を落ち着けた直後に……冒頭のやや控えめなノックが鳴った。
「??……誰?」
俺の知る限り我が家にノックをしそうな人間は居ない。古物商?骨董屋?…を営む我が家だが、オーナー…いや、もう勤務時間じゃないからいいか。バァさんは有無を言わせず勝手に開けて入ってくるし、たった一人の妹はそもそも部屋に来ない。
…この家にはその二人と俺しか住んでいない訳で、ノックにも全く心当たりはない状態だ。
「…お、おにぃ…ちゃん…。」
「!?」
「はっ……はいっても、…いい?」
「……
如何せん障子越しのシルエットじゃ誰かわからないが…その少しツンッ気のある声と、俺に対しての呼び方から妹の有咲
「そぅ……だっよ。」
「話し方どうした。…んまあ入るのは構わないけど。」
すすす…と静かに障子が開き覗き込むように顔を出したのは、ウェーブがかった明るい金髪をポニーテールにまとめた妹。…顔が赤いのは何なんだ。
「はいっていい??」
「いいよ。」
「…ちょっと待っててね?」
何やら後ろの廊下に向かって一言断り、部屋に踏み込んでくる妹。後ろ手でぴったりと障子を閉める辺り几帳面さが窺える。
俺の目の前にドスンと腰を下ろすや否や、
「店、閉めたの?」
「誰も来ねえからさ。」
相変わらず語気の強いやつだ…。
「兄貴が仏頂面で座ってるからっしょ。」
「普通に真顔だったぞ。」
「あっそ。」
どうでもいいんならイチイチ貶さないでほしいんだが。特に顔はやめなさい、怖い怖い言われて割と凹んでるんだから。
誰に似たのか、俺は酷く厳つい顔をしているらしい。数少ない友人には「視線だけでスクランブル交差点を空にできる」などと訳の分からない弄られ方をする程である。
「で、さっきの変な喋り方なんだ?今更可愛い子ぶってもだいぶ手遅れだぞ?」
「五月蠅い死ね。…友達来てっからさ。暫く部屋から出てこないでくれる?」
……口の悪さが引っ掛かるが、要するに厳めしい兄貴が居ることをあまり知られたくないのだろう。言われなくとも、この後は惰眠を貪り過ごすつもりだ。
「態々言わんでも分かるだろ?俺が仕事以外で部屋から出るかよ。」
「念の為に言ってるだけだってば。兄貴マジでヤバいツラしてんだから、そろそろ自覚したほうがいいよ?」
「言・い・過・ぎ・だッ。わーったから、もう出てけ。俺は寝る。」
チッ、と小さく舌打ちを残して部屋を出て行く有咲。後ろを向く瞬間に物凄い笑顔を作ったのを俺は見逃さなかったからな。
精々友達と仲良くやっておけ。
「さってと………。鬼の居ぬ間に睡眠、ってなぁ…。」
仲が悪いわけじゃないんだが、どうも顔を突き合わすと口汚く罵り合うだけなんだよなぁ…と、いつから始まってしまったのか分からない諍いに想いを馳せつつ、平たく背凭れを倒した座椅子に寝転がるのだった。
**
「……………ん。」
背中が痛い。随分と長いこと寝てしまっていたようで、紅いながらも顔を見せていた太陽はすっかり沈み切り真っ暗な闇が部屋を支配していた。
首と背筋をポキポキ言わせつつのっそりと起き上がる。
「……あ"ー……喉が……ん"んっ。」
まだ少し暖かいとはいえ秋もすっかり深まっていて。風邪ではないが乾燥に喉をやられたらしい。
「…茶…は寝る前に呑み切ったか。」
机の上に置いた湯呑はすっかり空に。…冷めきっていても水分が残っていりゃ…と少しは期待したんだがな。
「お水ならありますよ。」
「おっ、サンキュ。」
「いーえー。」
タイミングよく隣からキャップを外して差し出されたペットボトルに勢いよく口をつける。………ふぅ。枯れ切っていた喉に再び潤いが戻り、それだけでも幾分か生き返った心地になる。
自分でも引くほど喉が渇いていたらしく、元々七割程しか入っていなかった水をほぼ飲みほしてしまった。
「あー…ごめんな。殆ど飲んじゃったわ。」
「あっいいんです!全部飲んじゃってください!」
「…そ?そりゃ悪いな。…んっ……んっ……んっ、ごちそーさん。」
「わぁぁ……!はっ、お、お粗末でした!」
さて。喉も潤ったしどうすっか。どうせ有咲の友達がいるせいで部屋からは出られないし、まだこのまま寝続けるのもいいかもなぁ…。
ぬ。妹の声がする。声を出しながら歩き回っているあたり、何かを探しているような感じがあるな。
"かすみちゃん"。きっとそれが、遊びに来ている友達の名前なんだろう。
「…にしてもあいつが、"ちゃん"付けで人を呼ぶなんてなぁ。」
口調と威勢だけならスケバンとも間違えられるほどの女だ。見た目も化粧こそしていないがハッキリとした顔つきをしているし、中途半端に美人な辺りも色々闇が深そうなのに……。
そういや、友達を家に連れてくんのも初めてか。
「…友達、迷子になってんかなぁ…。」
「この家、広いですもんね。」
「まぁな。初見は絶対迷うと思う。」
「私、迷わなかったんですよ。…凄いですか?」
「ほほう、大したもんだ。」
そうだよな。うちは所謂和風建築ってやつで、庭もそこそこ立派なものが広がっている。バァさんの話じゃ、ここ
…今となっちゃただ古くて不便も多いデカイだけの建物だが、そのあたりも含めて"由緒"が云々ってことなんだろうか。でもこのご時世に竈だぜ?笑うわ。
「……お兄ちゃんは、ずっとここに居るんですか?」
「まぁ、有咲が外に出るなっていうからさ。」
「…閉じ込めておきたいんでしょうか。」
「友達に見られるのが嫌なんだとさ。…かすみちゃん?ってさっき呼んでた子だと思うんだけど。」
「別に見られて困るようなことでもないと思いますけどねぇ。」
「そうかな。」
あいつの本当の顔の方をむしろ見せてやりたいくらいなんだけどな。………ん。
俺はさっきから一体誰と話しているんだ??俺のことを"お兄ちゃん"と呼ぶ女の子…まさかこの子が有咲…ということはあるまい。確かめるべく、吊り下げられた電球に電流を流す。
「ふぁっ!!…まぶしっ!」
「おっと………………誰?」
薄黄がかった光に照らされ、部屋の全貌が明らかになる。眩しそうに声を上げる割には全く動じず、俺がさっき飲み干したであろうペットボトルをガジガジ齧っている少女が隣に座っていて、思わず暫し見つめ合う。
「……………。」
「………………。」ガジガジ
「…………。」
「……………。」ガジガジガジ
「………どうしてペットボトル齧ってんの?」
「……おにいちゃん、言うほど怖い顔してないですね。」
「…いや誰やねん!!」
思わず大声を出してしまった。…だって、目の前にいる茶色髪の幼い顔つきの少女、あまりにも初対面すぎる。どうしてそう落ち着いていられるのか全くわからないし、その目的も右に同じだ。
「きっ、君がかすみちゃんか!?」
「そですよ。
「はっ、はろうぃん…?そりゃまた随分とウチに似つかわしくない行事だね。」
「純和風ってやつですもんね。…でもほら、仮装、似合ってないです?」
じゃーん、と擬音を口にしつつ両手を広げてみせるかすみちゃん。
「…有咲と同じ制服ってことはわかるんだけど…何かアレンジでもしてるのかい?」
「……あっ、まだ着替える前でした。…えへへ、いやぁ失敗失敗。」
「なんなんだ……。」
「!!」
先程の叫び声を聞いて来たのだろうか、それとも灯りを?
恐らくこのイラついたように連打されるノックは有咲のものであるし、素を隠そうとしない態度から何かしら気づいているのかもしれない。
未だポケーっと突っ立っているかすみちゃんを抱き寄せ、その流れのまま寝床に突っ込む。
「か、かくれんぼですか??」
「しーっ。面白いもの見せてやるから、じっとしててな?」
「…ふふっ、どきどきします。」
咄嗟に飛ばしてみせたウィンクに意図を汲み取ってくれたようだ。悪戯っぽく笑うかすみちゃんに布団を被せ、未だ微振動を伝えている障子のもとへ。
「……ふぁああ…、何だよ有咲…。」
「馬鹿兄貴っ、ノックしたんだからすぐ開けろよな!!……かすっ…友達、来てねーかな?」
「友達ぃ?……さぁ、俺は見ちゃいねえけど…。いなくなったんか?」
「……うん。なんか、「トイレいってくるー」って出て行ったっきり戻ってこねーんだよ。もう二時間以上になる。」
「…帰っちまったんじゃねえの?…お前、どうせ変に可愛い子ぶって愛想尽かされたんだろ?」
「…っ。…………やっぱ、そう…なのかな。」
…あれ?もっと強く言い返してくると思ったんだがな。珍しくしおらしくなっちまって…。
「やっぱ」って言ってたし、自分でも思うところがあったんかね?…何も言えずにじっと妹の顔を見つめていると、ほんのり涙を浮かべた顔で俺を見上げてきた。
「……兄k…いや、お
「…なんだ、懐かしい呼び名だな。」
「…私、やっぱり怖がられてるのかな。」
「うん。めっちゃ気持ち悪かったぞさっきのお前。…友達の前だといつもああなのか?」
「……だって、お兄にしてるみたい話すと、みんなヤンキーだとか不良だとか言うから…。」
「しょうがねえだろ。…実際不良みたいなもんなんだから。」
「…不良じゃ、ないもん。」
不満そうに口を尖らせる有咲。もうちょっと畳み掛けてみるか。
「…一度素で接してみたらいいじゃねえか。こっちが普通の私なんだ~っつって。」
「…絶対、嫌われるもん。」
「今だって嫌われてるかもしれない状況だろ?なら、思い切ってやってみたっていいんじゃねえの?そっちの方が友達にはウケるかも知れないし。」
「うぅ……他人事だと思って…ばかお兄。」
「そりゃ他人事だもんよ。…そんなに嫌われたくない相手なのか?」
別にかすみちゃん以外にも同じクラスの女の子くらい沢山いるだろうし、正直一人に対しての固執が重すぎると思うぞお前は。彼女かよ。
「嫌われたくないよ!…絶対、嫌われたく、ない。」
「ふーん?…何かあったんか?」
「だってぇ…大好きなんだもん。」
「は?」
「だ…大好きなのっ!香澄ちゃんが!!」
「……えぇ?そっち系?」
「ちっ、ちがっ……!……初めて言ってくれたんだもん。…「私たちは一番の友達だよ」って。」
「…なら、尚更素の状態でよ」
「だからこそ、嫌われたくなくて、慎重になって……変に、意識しちゃって……。」
……こりゃ、思った以上に重症だな。あの有咲がまるで恋する女の子みたいだ。
「…っあー…。まぁ、あの子なら受け入れてくれると思うぞ?…悪い子じゃなさそうだし、簡単に人を嫌いになるような子じゃ…」
「待って。」
「あ?」
「…どうしてお兄が香澄ちゃんのことわかった風に言うの?何を知ってるの?」
「………えーっと…だな。」
ついうっかりやっちまった。
「………ぁ。」
俺に詰め寄るようにして一歩踏み出した有咲は、部屋の中をまっすぐ見つめ固まっている。直後、グルンと音が聞こえそうな不気味な動きで顔をこちらへ向ける。
「あの水のペットボトル、どうしたの。」
「あぁ、ありゃ俺がさっき飲んだやつで」
「嘘。さっき香澄ちゃんが買ってたやつだもん。…香澄ちゃんはどこ?」
「………あー。」
直感が告げているが、この状況は確実にまずい。というか、話の流れ的にかすみちゃんを差し出したほうが俺の身の為だが、出てくる場所があそこじゃあなあ。いっそこのまま隠し通し
「えへへー、バレちゃったかぁ。」
「かすみちゃんのばかー!!!!」
乱れてぐちゃぐちゃな髪型のまま、這い出てくるかすみちゃん。バレてない、まだバレてなかったぞ…。
しかも、布団が暑かったのか服を緩め靴下を脱いだ状態でのご登場だ。これはもう何を言われても言い逃れできんなぁ…。
「……クソ兄貴?これはどういう?」
「…ええと。ほ、ほらっ!今日はハロウィンだろ?イタズラしちゃうぞ~っつって」
「ふっざけんな!!じゃあさっきのも全部香澄ちゃんに聞かれて」
「うん!…有咲、すっごい可愛かったよ??」
小首を傾げるかすみちゃん。君もかなり可愛いと思うがね。
「うるせえ!!マジで嫌われたと思って心配したんだかんなっ!!」
「嫌いになんかならないよぅ!私、有咲のこと大好きだしっ、一番大切な友達なんだよっ!!」
「うっ…………う、うっせぇ…ばか。」
ぶわぁっと涙が滲み出てくる有咲の瞳。急すぎて驚いたのか、複雑そうな顔を背けるも、その表情はどこか嬉しそうだ。
「私も大好き…だから、勝手にどっか行くんじゃねえよ馬鹿野郎。」
「えっへへ~、ごめんごめん。……そっちの話し方の方が、有咲は可愛いと思うな?」
「か、揶揄うな!!」
「からかってないも~ん。」
「揶揄ってる!!」
「からかってなぁい。」
どうやら有咲にとってかすみちゃんというのは、特別な友達らしいな。そりゃあそこまで固執するのも頷ける、か。
しかし、女の子二人が楽しそうに戯れつく風景のなんと眼福なことか。
「……うむ、『ハッピーハロウィン』、だなぁ。」
「兄貴?てめーには後で話があるからな?」
「…おっ、イタズラしちゃうのk」
「首洗って待っとけ…。」
俺にももうちょっと優しくしてくんねえかな。
「仲良しなんだねぇ、二人とも。」
「……かすみちゃんみたいな子が妹だったらなぁ…。」
「あっ、私もお兄ちゃんほしいんです!なってください!!」
「そいつは私の兄貴だ香澄ちゃん。」
「取られたくないってこと?」
「ちげー!!」
「んもー、有咲ってば、そんなに
「お前マジでイタズラじゃ済まねえレベルで痛めつけっかんな。」
「あっはい。」
かすみちゃんとの出会いが、今後どう有咲を変えていくのか。
そしてかすみちゃんが俺の妹になる日は来るのか(?)。これは、十月も最後となる少し肌寒い秋の日に起きた、小さな悪戯のお話。
<今回の設定>
○○:今年で二十歳。いずれ流星堂を継ぐ存在のため、高校卒業と同時に働き出した。
強面のため恐れられることが多いが根は悪い奴じゃない。
妹とは何だかんだ言いつつ仲良しで、大切にしているつもりではある。
口が悪いのも妹とぶつかる時だけで、普段は少しぶっきらぼうなくらい。
この時初めて出会った香澄とは五年後に入籍する。
香澄:高校二年生。クラス替えにより、二年生になって有咲と出会った。
独特の髪型…ではない。少し長めの赤茶髪を特にセットもせず居る。
やや人見知りで、初対面の人と対峙すると何か物を噛んでいないと落ち着か
ないらしい。
実は有咲に出会う前に流星堂で主人公に会っており、その時に一目惚れした。
よく笑うが別段明るい子ではない。
有咲:ツン9デレ1くらい。
髪型を頻繁にアレンジする趣味があり、金髪も自毛じゃない。
主人公とは只管ぶつかっている様に見えるが甘えて戯れついていることが多い。
人にあまり好かれないため、人を好きと表現するのが苦手な模様。