BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
『呑みに行きましょ~!』
彼女から提案があったのは授業の前日…つまり昨日だ。
社会人になってからとあるスクールに通いだした僕だが、思っていたより歳の近い学生も多く、通いだして数日で気の合う友達も増えた。現在は仕事の都合上休学と言う形を取っている彼女も、初対面で意気投合した稀有な人間の一人だ。
「急だね。」
『私今休学中じゃないですかぁ。…本当はみんなともっともっと仲良くしたいのに、中々機会が無いからぁ!』
「…でもこんな急じゃあみんな予定合わないと思うけど。」
彼女――
『あっ、ええと、お兄さんだけでいいんです!』
「僕ら二人でいいなら前も飲んだじゃない?」
『でもほら、学校の事はお兄さんから聞けばいいし…。』
「矛盾がもう…」
「みんなともっともっと仲良くしたい」とは何だったのか。結局お酒好きなだけなんじゃないのかなこの子は。
因みに僕が二十五歳、香澄ちゃんは二十一歳。…その歳の差から、お兄さんと呼ばれているらしい。
「まぁ、暇だったらね?」
『やったー!』
**
「ねね、お兄さん、もいっかい乾杯しよーよぉ。」
「…おかわりする度に乾杯する気なの?…はいはい、乾杯ね。」
やたら上機嫌な香澄ちゃんに擦り寄られつつ、チンッとグラスを合わせる。隣のボックス席のお客さんが珍しいものでも見るような視線を投げかけてくるのはある意味正解だろう。
何しろこの乾杯も八回目になる。おまけに香澄ちゃんときたら、お酒は大好きな癖にアルコールに耐性が無さすぎるという至極面倒なタイプらしく、制止も振り切ってスタートから
「でぇ?」
「…なにが?」
「そんらろ決まってるでしょー??学校らよ、がっこー。」
「ああうん…普通に楽しくやってるよ。皆気の良い連中ばかりだしね。」
最早呂律の怪しい香澄ちゃんとは対照的にいつもと全く変わらない僕。別段普段から飲み慣れている訳じゃあないが、中々どうしてお酒には強いらしい。
今は亡き父親の遺伝だろうか。…あれは中々のザルだったと聞いているが…。
「それだけぇ?」
「んー。…一体何を聞きたいのさ、香澄先生は。」
「わたしはねぇ……うふぇふぇふぇ…まら若い
「あーもうめんどくさいな…。」
呂律だけじゃなく人格まで危うくなっているようだ。普段のこの子は、目が合うなり「えへへ」とはにかむ様な可憐な少女だというのに。…成人済みの女性に「少女」は無いか。
「その辺は僕にはわからないかなぁ。…ほら、僕大してそういうの興味ないし。」
「うそばっかりぃ!…知ってるんらよ?…いっつもいーっつもありさひゃんのおっぱい見てるでしょー!」
「見てないよ…。」
ありさちゃん…っていうのは、同じクラスになった小柄な女の子の事だ。あまり絡まないせいで苗字は覚えちゃいないが、言われてみれば確かに胸の大きい子だったような気がする。
「うそらぁ!…すっごいやらかいんらよ?」
「感触の情報貰ってもな…。背が低いから大きく見えるわけじゃなくて?」
「ちがーもん!…あっ、お兄さんも触ったらわかるとおもぅ。」
「馬鹿なんじゃないの。」
どんな状況ならそれが正当化できるってんだい。「君のおっぱいの感触を確かめたいんだ。」って?ホント馬鹿。
「うぬぬぬぅ……。」
「はいはい、もう大人しく飲もうね。」
「おにさん!」
「誰が鬼やねん。」
ごすっ。僕も少し酔い始めていたのか、脳天に落としたチョップが少々鈍い音を立てた。コンマ数秒遅れて頭を押さえる香澄ちゃんに、ほんのちょっぴりだが申し訳ない気分になる。
「うーむむむむ……どーしてたたくのかなぁ…。」
「ごめんごめん、加減が利かなかった。」
「あーあー…これは明日にひびくやつだらぁ。」
「ごめんて…」
「謝るならせーいってものがあるでしょぉがぁ。」
「SAY??」
「せー…いー…。」
セエイ??……いやいや、そんなに目一杯口を動かしても伝わらない物は伝わりませんよ。
…あ、歯並び綺麗。
「うーん。……えいっ。」
香澄星人の意味不明な言語の解析は諦め、店員呼び出しボタンを押す。店内に響く「ぴんぽん」と、困惑した様子の香澄ちゃん。
「なんで?なんでなんでなんで?」
「??飲み物もうないなーって思ってさ。…次何飲む?」
「せーい…」
またそれか。
「…………YO!香澄Chan!HA!気付けばグラスが空っぽだYO!次はっ何飲むのっ?SAY!!」
「へっ?…ぅあ、えっと……こ、これっ!」
僕なりのSAYで返してみたつもりだったが、香澄ちゃんはエラく慌ててしまって。…手元のメニューに、ズビッ!と細い人差し指を突き立てていたので覗き込む。
「……HEY!香澄Chan!
何だか楽しくなってきた。
「ち、ちちがうもん、知ってたもん、チーズだもん!」
「それじゃあ何飲むの?SAY!!」
「むむむむ……」
「HEY!Doした?RAPはYO!Tempoが大事だYO!
おいおい乗ってきちゃったぞ。…僕、ラップの才能あるんじゃないか?
…あいや、これ深夜テンションにアルコールが混ざっておかしくなってるだけだわ。
香澄ちゃんもお気に召さないようで頬を膨れさせちゃってるし。
「…いじわるなお兄さんきらーい。」
「NA!?」
「全然話きいてくれらいんだもーん。」
「Cho!Cho!待つんだYO!」
「らっぷもきらーい。」
「香澄ちゃん…。」
「ふーんだ。」
どうしよう。多分「せーい」って誠意の事なんだろうけど、今更そんなことも確認できない雰囲気になっちまったぞ…。
少々激しめのLyricをかましてしまったのは申し訳ないと思うけど、こんなに機嫌を損ねてしまうとは。
そしてそこにオーダーを取りに来る店員さん。益々話しにくい…。
「ええと、角ハイ一つと……香澄ちゃん、何飲むの?」
「ふーんだ、あててみたらー?」
相変わらずツンとそっぽを向いている香澄ちゃん。怒っているんだろうけどこれはこれで可愛い…じゃなくて、中々の難問が繰り出されたぞ。
今日香澄ちゃんが飲んできた履歴を確認すると…生ビール、梅酒サワー、芋焼酎、トロピカルカルーア、生ビール、ウーロンハイ…こいつ滅茶苦茶に飲みまくってんな…。
全く規則性も何もあったもんじゃないし、見たところほぼ全てが一気飲みなためどれが好きなのかもわからない。……かくなる上は。
「香澄ちゃん…ちょっとこっちおいで。」
「…なんですかー。」
ずりずりとおしりスライドで近寄ってくる香澄ちゃんの肩に、飽く迄自然に手を回す。そのまま側頭部を抱え込む様にして僕の顔に近付け……
「正解教えてくれたら、…とっっっておきの、面白いお話してあげる。」
と耳元で囁いてみた。正直話のタネなぞまるで持ち合わせちゃいないが、学校のゴシップを心待ちにしている香澄ちゃんならきっと食いつく事だろう。
……と思ったのだが僕の予想は大きく外れたようで、香澄ちゃんからは何やら震えた声で「ひゃい…」と返ってくるだけだった。
「や、「ひゃい」じゃなくてさ、次の注文どうするの?」
「ひぅっ!……あ、あおりんご、そーだ…。」
正解はまさかのソフトドリンクだった。
その茶番っぷりには僕も店員のおねーさんも思わず苦笑。その一杯を最後として、二人で店を出たのだった。
**
「おぉー、結構冷えるねぇ。」
「…………。」
外に出て、近くの鉄塔にくっ付いている時計を確認すると…時刻はてっぺんを過ぎたところ。
何という事だ。終電を逃してしまったらしい…。
「…香澄ちゃん?」
「………うぇっ!?」
だがそれよりも気になるのは、会計時からやけに大人しい香澄ちゃん。どこかポーっとした様子で、大人しく袖を掴んでついてくる。
名前を呼べば反応はあるんだけど、どうしたもんかな…。
「具合悪いのかい?飲みすぎた?」
「……んーん。」
「まだ怒ってるの?」
「んーん。」
「……少し座って休んでいく?」
「…………あのね、お兄さん。」
袖を掴んでいた手が、すすすっと下に降り僕の左手へ。きゅっと弱弱しく握ったかと思うと、身長差の都合から上目遣いの香澄ちゃんは
「…まだ、帰りたくないなって。」
とんでもない音速の矢を放ち、僕のほろ酔いハートを撃ち抜いたのだった。
―――結論から言うと、香澄ちゃんも少々酔い過ぎていたようで、特にその後どうこうなることは無かった。
ただ僕の帰宅手段が無いのは事実な為、その後始発が動き出す時間まで二人カラオケで歌い明かしたんだ。
「……んーっ!いっぱい歌ったねぇお兄さん。」
「そうだね…もう喉がボロボロだよ…。」
「えへへ…あ、そうだ。」
まだ薄暗い冬空の下、僕の耳元に口を近づけた香澄ちゃんは、「誰かの恋愛話とか、知ったらすぐ教えてね!」と囁いて満面の笑みを浮かべた。
…本当に好きなんだなその手の話題が。
「だから…僕、そういうの興味ないんだってば。」
「偶然聞いちゃったら~とかでいいの!…教えてくれたら、私も、…私の好きな人のお話、聞かせてあげるからね!」
「…ふーん。香澄ちゃんは居るんだねぇ、好きな人。」
少し意外だった。周りで騒ぎ立てるのばかり目に付くせいか、彼女自身にそういう話は無いもんだとてっきり…。
「いるよっ!絶賛片想い中~。えへへ。」
「そかそか…まぁ、何かあったら教えるよ。」
「ん!…じゃ、私あっちだから~!!」
元気に駆けて行く背中と揺れる赤茶の髪を、その姿が見えなくなるまで見送る。相変わらず帰る手段はまだ無いし、結局手持無沙汰だ。
…あぁそういえば。僕がその手の話題に興味が無いのは、自分の事で手一杯なだけだ…と彼女に伝え忘れてしまったようだ。
人の色恋沙汰にはまるで興味が無い。…いや、違うな。
僕は
「好きな人…誰なんだろ。」
一本目の電車が動くまであと数分。
僕の君への想いも、発車の時が近付いて来ているようだ。
<今回の設定>
〇〇:25歳。ある夢を諦めやりたくもない仕事で生計を立てているが
やはり諦めきれずに隣町のスクールに通い始める。
クラスで目立つ方ではないが、黙々と努力し続けるタイプ。
酒にはめっぽう強いが、好んで飲む訳じゃない。
香澄:21歳。夢を追って某スクールに入学したが、夢よりも友達が欲しかった。
何でも卒なくこなすタイプで、すぐにクラスの中心人物に。
働きながら通っているせいもあり、現在休学中。
酒には弱いのに、泥酔した感覚が好きだという困ったちゃん。