BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 -   作:津梨つな

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奥沢美咲編

テーマ「陰キャ覚醒」


【奥沢美咲】奥沢さんは掴めない
初めての人


 

 

「○○ってさ。」

 

 

 斜め向かいに座る気怠げな少女―――奥沢美咲が名前を呼ぶ。

 

 

「…いや、なんでもない。」

「そう。」

 

 

 放課後。

 部活や委員会がある連中はとっくにそれぞれの場所へ向かっているであろう時間。

 僕は一人、使われていない教室の乱雑に放置されたうちの一つ、まだ使えそうな椅子に座り締切が目前に迫った原稿に取り組んでいる。

 

 彼女、奥沢さんは何が面白いのか毎日こうして僕の作業時間が終わるまで眺めている。

 暇なのか、変人を観察する目的で来ているのか。

 

 

「ねえ、奥沢さん。」

「…ん。」

「ここのところ毎日だよね?何しに来てるのか知らないけど、暇なの?」

 

 

 作業の手を止め訊いてみる。

 気紛れのようなものかもしれないが、こうもまじまじと見つめられると居心地が悪すぎる。

 その問に奥沢さんは表情一つ変えず、

 

 

「…別に。

 特に暇ってわけじゃないけど。いっつもHRの後早足でどこ行ってんのかなって思ってさ。

 …まさか毎日同じ場所で同じことしてると思わなかったけど。」

「……あそう。じゃ、用が済んだらさっさと」

 

 

 「帰れ」と言おうとしたが別に彼女から迷惑を被っているわけじゃない。

 「邪魔しないように適度に放っといてくれ」と訂正し作業に戻る。

 

 

「…うん。

 …………○○ってさ。ぼっち?」

「ッ…!……うるさいな。どうでもいいだろそんなこと。

 話しかけないでくれよ、こっちは集中したいんだ。」

 

 

 解ってる。

 実際にクラスで()()()()()こと。どのグループにも属せず、誰とも共通のものを持っていない。

 内向的なことも原因かもしれないが、こういった具合に上手くコミュニケーションが取れないこともまた原因だろう。

 

 

「ごめんね。

 ほら、あたしも…割とぼっちっていうか、友達とかいないしさ。」

 

 

 はは…と乾いた笑い。

 いいよ別に合わせてくれなくて。

 確かに輪の中心になるようなタイプじゃないかもしれないけど、友達がいないような人じゃないだろ君は。

 

 

「…いや、あたしはさ。

 友達って存在がよくわからないんだよね…。友達と知り合いの違いって何なのかなって。」

「…それで?」

「うん…。

 確かにクラスで話しかけてくれる子とかは居るけど、それって向こうが勝手に寄ってくるだけじゃん?

 あたしが選んで、好き好んで一緒にいるのとはちょっと違うのかなって…。」

「そう。」

「でもね、なんというか、すごく気になる人…っていうか…。

 興味が湧いた?…これも違うかな?うん、まあそんな感じがいてね。」

 

 

 …何の話だ?

 話の意図も分からないし、正直僕には関係ない話なんだと思う。

 流石に暇が過ぎたのか、はたまた沈黙に耐えられなくなったか。

 いや、じゃあ帰ればいいのに。

 

 

「でもその人ってさ、全然周りと関わろうとしないし、あたしが話しかけてもツーンって感じ?

 最初はちょっと嫌な奴かな?って思ったんだけど、今はただただ…気になっちゃうんだよね。

 あ、変な意味じゃないよ?……ただ、興味があるってだけの、話。」

「…で?結局何が言いたいわけ?

 言ってんじゃん、集中したいんだよ。締切が近いんだよ、わかるかい?

 れっきとした仕事なんだ、他人も関わってるんだよ。」

「あ……ぅ……。」

 

 

 これはいけない。

 これがいけない。

 

 

「いいかい?奥沢さん。

 君がなんの目的で僕に付き纏って、毎日眺めるだけ眺めて僕の集中力を削いで、

 挙句今日はよくわからない話まで始めて、僕の時間を奪っているのかわからないけど」

「集中、出来なかったの?」

「僕は………え?」

「あたしがいて、ここのところずっと集中できてなかったの?」

「そりゃそうでしょ。

 いつも一人だったのに急に跡を付けられるようになるし、ずっと一人だった教室に入ってくるしずっと見つめてくるし、僕が帰る時間に合わせて帰るし…そりゃ気にもなるよ。」

 

 

 何が言いたいんだ奥沢さんは?

 そんな当たり前のこと訊いてきてさ。

 ずっと、ずっといるんだよ?

 

 何か言いたいことあるのかな、とか、何で僕なんかに付いてくるんだろう、とか

 ずっと見ていてそんな面白いことあるのかな、とか…

 

 

「…毎日気になって、集中できないんだよ。」

「………。」

 

 

 ほら見ろ。またやっちゃったよ…。

 ついムキになって捲し立てて、会話よりも言葉数で圧倒する事を優先してしまう。僕の悪い癖だ。

 こうして僕の周りからはいつも人がいなくなっていく。

 

 

「なーんだ。○○もあたしのこと気になってんじゃん。」

 

 

 …え?

 

 

「さっきの話ね。

 …あたしが初めて興味持っちゃった人。あれ、キミだよ?」

「えっ……。」

「あたしには興味持ってくれたってことだよね。……友達に、なれそう?」

 

 

 頭が真っ白に…いやホントになるんだねこれ。

 一瞬で何も考えられなくなった。

 いつもの喋りで圧倒する癖も、この時ばかりは息を潜めていて――

 

 

「しっ…仕方っが、あるまいね。」

 

 

 ――発せたのはやっと一言。

 それも吃りまくった上に芝居がかったような、動揺してるのがモロバレのやつ。

 それでも奥沢さんは笑いもせずに、

 

 

「…やったね。

 これからよろしく。」

 

 

 そう真顔で言って教室を出ていくのだった。

 

 …少し口角の上がったあの表情は、ズルいと思います。

 

 

 




<今回の設定>

〇〇:挙動不審・陰気・口下手・孤立しがちと、絵に描いたようなアレ。
   毎日放課後にはとある空き教室で作業に勤しむ。

美咲:クラスではそこそこの人望とそこそこの人脈を持っている。
   とはいえ特定の誰かと仲良しでもないわけで。
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