BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「何を見せられているんだ僕は…。」
放課後、久々に溜まっていた作業をと思い例の空き教室に向かったのだが…。
教室を出た瞬間から感じていた。背後にいつも通りの隙間を空けて付いてくる気配を。
ただ、いつもと違う点があって。
感じていた気配は
それを感じた時点で振り返っておけばよかったのか。今となってはもうどうしようもないが、それを放置してしまったのが恐らくこの状況を作っている。
「もー…。こころ、あんまりうるさくしちゃうと○○に怒られちゃうからさ…ね?
ばたばた走ったりしちゃダメだよ。」
「えぇー?だって、ここにいても何もすることがないわ!
お外に出て、今起こっている面白いことを探しに行くほうが有意義よ!!」
「や、あたしはそういうの求めてないからさ…。」
「だってだって、最近全然構ってくれないんだもの…。
放課後も姿が見えないと思ったらこんなところに……。もー!!!あたしとも遊んで欲しいわ!!!」
「あーもー、くっつかないでよー。暑いでしょー?
ほっぺた膨らまさないで、ね?外に行きたいなら行っておいでって。」
目の前で繰り広げられる問答。
正直僕としては、金髪の騒音源、弦巻さんさえ居なくなってくれればもうなんでもいいんだが。
勿論、決して疚しい事があるわけではない。
奥沢さんと二人の時間を過ごしたいとか、あまり他の人に構っている奥沢さんが好きじゃないとか、そういう事はこれっぽっちも思ってない。
あの日――奥沢さん曰く友達になれた記念日らしい――以来、正直まともに奥沢さんと接することはなかった。
まぁ、次の日とその次の日に僕が欠席したせいもあるが、学校では相変わらずだし放課後も残る用事がなかったからだ。
そもそも僕がやっている作業というのも、知り合いの劇団から脚本やら台本の校正やらを頼まれてのものである。
最近こそこの学校の演劇部からも頼まれているが、それでもそんなに頻繁に発生する作業ではない。
ある一定期間を要するの作業が月に1、2度入るといったところか。
勿論何もない日は余程のことがない限り即下校するので、他人と関わることはまず無いのだ。
「○○、手、止まってるよ。
ごめんね…やっぱうるさかったよね。」
「い、いや…奥沢さんは別に悪くない…けど。」
考えに耽っていたところ奥沢さんにつつかれる。
君のせいじゃないとしっかり伝えた上で、原因に視線をやる。
「…なぁに?」
「弦巻さん。…奥沢さんと遊びたくて、付いて来たの?」
「そうよ!前はたまに構ってくれていたのに、最近は全然だったから尾けてきたの!
あなたはここで何をしているの?」
「はぁ…。別に君に教える必要も義理もないだろう。
僕としては静かに作業に集中さえさせてくれたらそれでいいんだ。
いいかい?弦巻さん。
今ここには、ちゃんと目的があって教室を利用している僕と、対して目的もなく何となく残っている君たち二人がいるわけだ。」
「や、あたしは、○○と一緒にいたくてついてきたんだけど。」
「ぐっ……ぉ↑、奥沢さんちょっと黙っていてくれ給え…。」
急に恥ずかしいセリフを…思わず声が裏返ってしまったが、バレてはいまい。
「今の面白い声ね!もう一度やってほしいわ!!」
「ほ…ほっといてくれ…。」
「…でも、それで美咲は居ていいのだとしたら、あたしも居ていい事になるんじゃないかしら?」
「なんで?」
「あたし、○○とお外に行きたいの。」
「はい?」
「最初は、美咲と遊ぼうと思ってついて来たのだけれど、あなたもすっごく面白そうなの!」
「…馬鹿にしてる?」
「そんなことないわ!えっと……あたし、あなたとお友達になりたいの!
○○みたいな、いつもつまらなそうな顔をしている人、見たことないもの。
きっと仲良くなると、もっといっぱいの発見があると思うのよね。」
何だその理由。
顔のことはほっといてくれ。感情が出やすいんだよ。
「…僕には君と友達になる利点が見当たらないんだけど?」
「利点…メリットね!
それなら、美咲とお友達になるメリットは何だったのかしら?」
「それは…」
「○○は、あたしのことが好きになっちゃったんだよね?
こころ、○○はあたしが居ると気になってそわそわしちゃって落ち着かないんだって。
だからきっと、好きだから、友達になれて嬉しいんだよ。」
語弊のある言い方をしないで欲しいね。
好きだなんて一言でも言ったかい?もちろん嫌いじゃないけど…どちらかというと好きな部類に入るのかもしれないけど…。
「ご、誤解されるような言い回しは止めて頂きたいね…。
そ、そもそも君たちはいつもそんなにべたべたくっついて過ごすものなの?」
今目の前では、椅子に座った奥沢さんに跨り、向かい合い抱き合うようにして弦巻さんが座っている。
その状態でずっと会話を続けるものだから、気になって仕方がない。
こういうのを巷では"百合"と表現するのだとか。
成る程、確かに芳しい百合の如し甘美な光景とも言えるが
「…こころはいつもこうなんだ。
距離感が独特なんだよね。」
「美咲ったらすごくいい匂いがするんだもの!!いつまでも近くに居たいのよ!
……あら?そういえば、○○、あたしの事も気になっているのかしら?」
「へ?」
「だって、さっきから全然ペンも持たないし、ずっとあたしとお話してるでしょう?
これってさっき美咲が言ってた、気になってそわそわしちゃって落ち着かないっていう…」
「…奥沢さん。」
「ん、ごめんね。諦めてもらったほうがいいかも。」
「わかったわ!!○○、あたしのことも好きなのね!!
それなら、○○とあたしも今日からお友達ね!」
あぁぁぁ……そこに繋がってしまうのか。
極端に都合のいい解釈というか、恐るべき短絡的思考というか…。
花咲川の異空間という弦巻さんを指す異名も、ここまでくるとしっくりくるように感じる。
…頭が痛くなってきた、今日はもう帰ろう。
「あぁ、もう友達でもなんでもいいや…。とにかく、僕が作業をしているときは静かにしているか放っておいてくれると助かるんだ。
そこだけ分かっていてくれるなら別に何でも…。」
「もう……またそういうことばっかり……。
○○ってば、難しいことばっかり言い過ぎよ。…ほら、おでこにも皺が出来ているわ。」
「ッ…!」
気づけば顔はしっかりと両手でホールドされ、鼻同士がぶつかりそうな距離に弦巻さんの顔。
近くで見たらその端正な顔つきがより実感できて…じゃない、近い近い近い。
異性どころか同性でさえこんな距離は経験ないんだから勘弁してくれ。
「き、今日はもう帰るっ…から。」
「あら!じゃあ一緒に探索に」
「い、いかない!
……また今度、誘ってくれよ。」
流石にメンタルがもう持たない。
奥沢さんとの時間を切り上げて帰るのは少々痛いが、作業が進まないのもまた困る。
帰り際、少し申し訳なさそうな表情で視線を落としていた奥沢さんの姿に少し胸が痛んだが、そこで気の利いた一言でも言えるのであれば僕は今頃ぼっちなんかやっていない。
くそ、残念だが帰るしかあるまい。
本当、
少なくとも、僕にとってはそうだ。
<設定更新>
〇〇:ちょろい。
美咲:こころを持て余している感。
こころ:自分とは違うものを持っている人には全力で絡みつく。