BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「おいどうすんだ友希那…。もう一ヶ月切ってるんだぞ…?」
目の前の光景に、若干の萌えと不安を感じつつ思わず吐いた声は震えていた。視線は60度程下方へ、前方の床へと向けられていた。
そこには―――
「み、湊さ……ぁんっ。」
「にゃー!紗夜!その持っている果実を…渡すにゃっ!」
「ちょ、ちょっと待って湊さん…そんなとこ舐めちゃ…あぁっ。」
―――猫耳と尻尾を装着し、身も心も猫になり切っている姪とその友人がまさに
**
昼過ぎ、休日を満喫していた俺の部屋のチャイムを黒猫の運送屋さんが鳴らした。
…ついに、あれが届いたか。
逸る気持ちを抑えつつ、若干のスキップ風味で玄関へ向かい受け取る。
部屋に戻るや否や、包み紙をもうめちゃくちゃにする勢いで開封していく。アメリカンチルドレンのように。
「おぉ…これは想像以上だ…。」
通信販売にて購入したのは"猫耳"と"猫尻尾"のセット。以前渡したものよりもしっかりした造りで種類も違う…三毛柄だ。何気なくまとめサイト巡りをしていた時に広告を踏んでしまい、深夜テンションも相まって購入してしまったものだ。
これを友希那に…久々に『ゆきにゃ』が拝めそうだ。
丁度今日は料理の件で訪ねてくる日。まだ時間があるし、材料の買い出しにでも向かうか。
訪れた産地直送の市場。そこで恐ろしい物を見た。
「マンゴー…?こんなデカいのも買えるのか…?」
値札を見ると…。
あっ、これはいけない。見なかったことにしよう。果物一玉に付いていい"ゼロ"の数じゃない。あれは貴族の食べ物だ。きっとそうだ…。味わってみたい衝動には駆られたがお財布事情的に手は出せない。
…それに今日は料理の材料を買いに来たんだ。マンゴーなんて買っても調理しようがないだろ。
**
さて、中々に良い物を見られた買い物だったが。…そろそろ来る頃か?
姫様が来る前に換気を、と思い何気なく窓を開けると。
と。
また珍しく他の人と歩く友希那が見えた。
声こそ遠いが、ある程度良い関係の…友達かな?前のリサちゃんとは違う感じの子っぽいけど、意外と広い人脈持ってんのなぁ。
ボロクソ言われている…。そんなに見てたか俺。
何にせよ、あの位置に見えるということはもう五分と経たずにうちに来るということだな。にゃーんちゃんセットは隠しておいて、と。
「来たわ。」
「お、お邪魔しま…あっ」
「いらっしゃい。…変質者の家へようこそ!」
「ちょ、湊さん!?さっき教えてくれてもよかったのでは?」
「着いてから紹介する方が時短になるでしょう。手間も減るし。…叔父よ。〇〇っていうの。」
「〇〇おじさんだよん。」
「……ひ、氷川紗夜と申します…。あの、〇〇さんはいつもそんな感じなんですか?」
「…な訳ないでしょう。……ちょっとあなた、ふざけないで。誤解されるわよ。」
「まじか。こんなキャラだと思われるのは嫌だな。」
「キャラって…?えっ??えッ!?」
この氷川ちゃんって子は冗談の類が通用しない子らしい。視線が物凄く忙しなく行ったり来たり。恐らく今必死に頭の中を整理しているんだろう。一見冷たそうな彼女だけど、よく見ると表情豊かで可愛い。
「イテッ」
「今、不埒なこと考えてたわね?」
「いきなり抓んなよ…。表情豊かでちょっと可愛いなって思っただけだよ。」
「思ってるんじゃない…!!」
「いちちちちち…やめなさいってば。」
「あ、あの…私…」
「あぁ、ごめん氷川ちゃん。誤解されてたら申し訳ないけど、俺別に変質者とかじゃないからさ。
もうちっと肩の力、抜いていいよ?」
「は、はあ…。」
何だか満足いってないご様子。そのうち、はっ!と何かを思い出すような表情の後に、鞄からごそごそと何かの袋を取り出した。
「そういえば…お渡しするのが遅くなってしまい申し訳ありません。こちら、つまらないものですが…」
「あ、いえいえそんなお構いなく…。」
なるほど、礼儀とかはちゃんとしている。委員長とかやってるタイプの子だな?思わずこっちまで敬語になりながら、頭を下げて袋を受け取る。
…マジか。
「えっと、氷川ちゃんも△△マーケット行ったの?」
「えっ…!何故、それを?」
「これ、昼間行った時に買おうか迷ってたんだよ。」
「??〇〇、一体何を貰って……なにこれ?」
「先程一緒に寄ったお店で買ったじゃありませんか。何を見ていたんですか全く…。」
「むっ、失礼な物言いね。」
頂いたのは先程目を奪われたマンゴー。持ってみて改めてわかる。実のしっかり詰まったいいマンゴーだ。というか友希那お前…口で「むっ」って…可愛いかよ。
「こりゃあいいお土産を貰っちゃったな。ところで、氷川ちゃんは何の御用で来たんだい?」
「えっと…今井さんに、教えてもらいまして。」
「今井…?」
「リサよ。この前来たでしょう。」
「あぁ、そういえばそんな苗字だったな。…何を教えてもらったんだ?」
「…この家に行けば、
「………。」
「…………リサ、やってくれるわね。」
「友希那。キミ普段どんな接し方してんの。」
「別に、普通よ…。」
「氷川ちゃんから見て友希那はどう?今もう既に違ったりするの?」
「だいぶ違いますね。まず先程のように他人の体に触れたりはしませんし」
抓った時の奴か。痛かったぞあれは。
「そもそもそんなに他人の近くに立ちません。」
あぁ、今は寄り添うように立ってるもんな。何なら、俺の左半身は友希那の体重を僅かに支えている。…要は寄りかかられている。
「あとは…そうですね、口数も多いですし、表情の変化も大きいです。」
「ほぉー?…友希那、友達とはもっと仲良くしないとだめだぞ?」
「余計なお世話よ。それに、友達じゃないし。」
「あぁ、バンドの仲間だったな。…つーか氷川ちゃん、友希那についてえらく詳しいな。」
「へ?…いえ、別に。」
「ふーん。」
好きなのかな。仲いいって羨ましいなぁ。
お、そうだ。
「氷川ちゃん。君にはとっておきの友希那を見せてあげよう。」
「とっておき…ですか。」
ゴクリ、と氷川ちゃんの喉が鳴る。綺麗な子の喉って色気があるな…。じゃなくて。
「…ちょっと、何する気よ。」
「友希那、これ。プレゼントだ。」
「…??何この箱。」
「開けてごらんなさい。」
「?ええ。」
ごそごそと箱を解体していく。その若干不器用そうで危なっかしい様子を、俺と氷川ちゃん二人して見守る。
…やっぱりそうだ。この子も友希那が好きなんだろうな。
「……?……ッ!!!!」
「どうした?」
「にゃっ、にゃ、にゃんてものを…!!」
「…いまいちだったか?」
「つけてきていい??」
「あぁ、いっといで。」
言うや否や、箱から出したそのセットを持ち、普段歌練習に使っている部屋へと飛び込む。後にはぐちゃぐちゃに散らかされた箱だったもの。にこにこの俺。呆然とした氷川ちゃん。
「…どうだ?」
「…にゃ、にゃんですか今の…。」
「感染ってるぞ。」
「湊さん……はぁぁ…。」
幸せそうな溜息じゃないか。因みに扉の向こうからは、結構な音量で鼻歌が聞こえてくる。流石の肺活量だ。
まぁ、あっちには姿見もあるからな。今頃鏡の前で色んなポーズを取っていることだろう。
「友希那ぁー。どうだー?」
タッタッタッタッタ…バァンッ!!
呼びかけに対し数秒遅れで開かれる扉。壁とか傷つくからもう少し静かに開けてって言ったよね。
現れたのは、『完全猫仕様』――髪を低い位置で二房に分けて縛った、所謂"おさげ型ツインテール"に三毛柄の猫耳・尻尾をつけ、以前プレゼントしたエプロンを装備――の友希那だった。
うぅん、我が姪ながら実に可愛い。可愛さの究ここに極まれりって感じだ。天使か。
隣のクールビューティがえらく静かなのも気になるがまずは写真を…取ろうとして、左手が生ぬるい何かで濡れていることに気づく。??…何だ血か。
…血ィ!?
慌てて左側を見やると
「氷川ちゃーーーーーん!!!!」
微笑みを浮かべつつ鼻から滝のように血を流す氷川ちゃんの姿が。お前の鼻、ジェットか何か積んでんのか。
すぐさま体を支え、傍のティッシュで止血を試みる。…面倒だ、詰めときゃいいや。
出血も収まり、氷川ちゃんの意識が戻ってくるまでわずか数秒。超回復の氷川ちゃんと高速治癒テクニックの俺、どっちが化け物かわからんね。
「はっ!?…天使?私の天使はどこ!?」
「気が付いたか?」
「この胸の高鳴り…抱きしめるしかないっ!」
「待つんだ氷川ちゃん!君今血まみれなんだぞ!!」
「!?ほ、ほんとだ……ってあれ?私は一体何を。」
「漸く正気に戻ってくれたか。血を見ると冷静になれるって本当なんだね。」
まぁアレを見てトリップ仕掛ける気持ちはちょっとわかる。まず友希那がにこにこしてる時点でヤバいもんな。
「……これでよし。〇〇さん、行ってきます。」
「ちょ、これ何?うわ服脱ぎやがった!」
全然正気じゃなかった。下着姿になった氷川ちゃんはそのままの勢いで友希那にダイブ。床に押し倒して写真を撮りまくっていた。いや確かにそれなら血は付かないけど…。ここに男も居るんだけど、いいのかな。
…友希那も嫌な顔してないし、別にいいのかな。
ただ、猫セットフル装備の女の子に下着姿でスマホとマンゴーを持った女の子が跨がっているのは…正直異様だ。何の祭りだ。
「ん?何故マンゴー??」
見間違いじゃない。氷川ちゃんの左手には先程のでかいマンゴーが。
あ、友希那の目は完全にそれを見ている…ということは、瞬時に餌と判断して持って行ったって事か?氷川紗夜…さすが友希那好き。そこまで把握しているとは。
**
「にゃっ!にゃー!いきなり何するにゃー!」
「湊さん湊さん湊さん湊さん湊さん湊さん湊さん湊さん湊さん」
「…正気に…戻るにゃー!!」
「ぁうっ!?」
おぉ、反撃だ。
マウントを取られている状態から跳ね除けるとは。どこにそんな力があったんだ。そして…逆に馬乗りになった。
「こんな、こんな、破廉恥な恰好して…!!その果実ごと食べちゃいたい…にゃぁ。」
「ひぃっ!?…ちょ、ちょっとストップです友希那さん!!」
可哀想に、最悪のタイミングで正気に戻っちゃったよ。三次会辺りで急に酔いから醒めるような意味の分からなさだろう。
「…とまらないっ、とまらないにゃあ!!」
「ストップ…あぁ、だめですそんなところ…いやっ…」
「にゃぁああああ!!!」
**
妙に色気を漂わせた氷川ちゃんが『今日の事は一生忘れません。また来ます。』と帰って行ったのが1時間ほど前。
残された気まずい空気と、今にも溶けそうなほど落ち込んで小さくなっている友希那。
「友希那、今日の料理は」
「死にたい。」
「マンゴーは」
「…明日食べる」
<設定更新>
〇〇:毎度毎度羨ましい観客。
今宵のショーは妙な背徳感もあり危険と判断したため、例の装備は一旦封印した。
マンゴーは翌日美味しくいただきました。
友希那:疲れていたんでしょうきっと。
ちなみにマンゴーは初めて見た。食べた時も可愛かった。
料理をしている描写が最近少ないですが、舞台裏ではちゃんとやってます。
紗夜:被害者?幸せ者?
この祭りは後日Roseliaに拡散され…ることはなく、彼女の心の中にそっと仕舞われた。
友希那が大好き。()