BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 -   作:津梨つな

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奥沢サン

 

 

 夕暮れの放課後。僕は久々に例の空き教室(作業場)にいた。

 今度は全く以て今までは違う、衣装作りの依頼を受けたのだ。

 いくら手先の器用な僕とは言え、流石にここまでガッチガチの裁縫経験はない。服て。

 刺繍とかは出来るんだけどね。

 

 

「…痛ッ…」

「……あのさ、苦手ならやらなくていいんだけど?」

 

 

 急に手伝わせろって行ってきた時はまた何か企んでいるのかと思ったけど…。目の前の彼女(奥沢さん)は、本日4枚目の絆創膏を左手薬指に巻きつけているところだ。

 …どうしてそこを刺す?

 

 

「……ほら、あたしってさ、羊毛フェルトが趣味なの。

 …だから、ね?」

「意味がわからない。(イコール)ではないでしょうよ。」

「…出来るかと思ったんだもん。」

「だから、苦手って分かったならもういいってば…帰れば?」

「えー……嫌だけど。」

 

 

 嫌、って…。

 もう痛々しくて見ていられないよ。というか絆創膏持ち歩いているなんて…女子力というやつだろうか?

 

 

「…じゃあもう何も言わないが。

 …くれぐれも、衣装に血は付けないようにしてくれたまえ?」

「ん、気をつけてみるよ。」

 

 

 そしてまた沈黙。

 二人分の息遣いと衣擦れの音。たまに糸を切る小さな音がハッキリと聞こえるような静寂の中で淡々と進められる作業。

 ――嗚呼、静寂の音…!

 コレが僕の求めている空間(モノ)。"学校"という魔窟に於いて唯一心を落ち着けることができる時間。

 最初こそ拒絶したかった奥沢さんだが、こうして理解してくれた上で手伝いまでしてくれる。…そろそろ、空間としての異物感もなくなってきた。

 

 

「…あ。」

「……ん。」

「…忘れてた。」

「…何を。」

「…○○、ちょっとだけ、休憩しない?」

「休憩…?なんで?」

 

 

 僕は全然疲れちゃいない。何せまだ始まってから二時間少々しか経っていない。

 疲れたなら帰ってくれて構わないのだが。

 

 

「いやほら……お腹、空かない?」

「空かない。昼食は食べなかったのかい?馬鹿だね君は。」

「……あー、うん。」

「………。」

「えっと……。クッキー、焼いたんだけど食べない?」

「何故。」

「あの、…あ!糖分ってさ?頭動かすのに必要だって言うじゃん?

 集中力を保たせるためにもさ、ね?」

「??…糖分なら別に不足してはいないし、効率よく糖分を摂取するならクッキーよりも適したものがあるのでは?」

「ぐっ……ああ言えばこう言う……。」

 

 

 食べたいなら食べたらいいのに。

 あ、勿論服に零さないように外で食べてきてもらうが。

 

 

「…い」

「い?」

「…一緒に……食べたい、から、食べて…」

「……っ」

 

 

 そんなに顔を真っ赤にして。

 クッキーを一緒に食べる?僕と?…いやいや。それはないだろうよ。だってそんなの…もう、け、けけ、結婚する流れじゃないか。

 従妹の漫画で読んだぞその展開は…!!

 

 

「そ、そんなに…ボボボボボボ、僕と、く、くく、」

「た、食べたいよっ!」

「………!!」

「……ぅぅ……。」

「そ、そうか………。」

 

 

 その上目遣いをやめないか。まるで僕が悪いことをしているような…ええい、何故僕が罪悪感を感じなければならん…!

 食べるから、食べるからやめて。

 

 

「マッ↑まぁ??そこまで言うなら、食べてやらんことも…あ、あるまい?」

「…ほんと??」

「あぁ…ま、まぁ。」

「へ……へへっ、何か、忍びないね。」

「か、構わんよ…。」

 

 

 動揺のあまり全体的にテンボスってしまったが。

 いそいそと目の前に出されたそれは、見た目的には普通に美味しそうな。

 

 

「…これ、○○の分、だから。」

「おぉぉ……売り物みたいだ。」

「ちゃんと作ったんだよ?…買ってきたとかじゃないから。」

「別に疑っちゃいな…あれ?僕の分、って?」

「あぁ、あたし用のはこっち。」

 

 

 カバンの別ポケットから小袋を取り出す。なぜ分けられているかはわからないが、同じくらいの量が入っている。

 

 

「……?」

「別に、何も変じゃないでしょ?」

「いや、意味がわから」

「いただきまーす。…ん、おいしい。」

 

 

 腑に落ちないが、美味しいと言うんだから食べてみよう。

 …まぁ、余程恨まれている相手ならまだしも、奥沢さんだしな。…食えるものではあるだろう。

 

 

「じゃあ僕も…いただきま

 ……なに。」

「へ!?…え、あ、いや。…ほら!自分が作ったものを人が食べるって初めてだからうまくできてるかなーとか不味いって言われないかなーとか気になっちゃってあはは!!」

「な、何をそんな早口で捲し立てて…」

 

 

 食べようとしているところをそこまでマジマジと見つめられたら気にもなるだろうよ。

 問うたところでまともな答えは返ってこなかったけど。

 

 

「…………んむ?」

 

 

 なんだろう、何か変わった味がする。

 

 

「奥沢さん?これって何味…って、どうしたの、顔真っ赤だけど。」

「はぁ……はぁ……えぇ?…別に、何でもないよぉ。」

「…風邪ひいた?…というか元から熱あった?」

「ぜ、全然そんなことないからぁ!……全部、食べて?」

 

 

 発熱とかならクッキー食ってる場合じゃないと思うんだけど…。

 まぁきっと隠し味的なものでも入っているのだろう。僕は料理を全くやらないし興味もないからわからないけど。

 …あ、二枚目にはアーモンドっぽいのが入ってる。

 

 

「…んむ。…………んん??」

「…どしたの?」

「……ん。これ、アーモンドとかかと思ったけど不思議な味するね。」

「へへへへへへへ……。」

「あ?…なに、そんな顔見たことないよ奥沢さん。」

 

 

 すっごい目尻下がってる。

 笑い声も気持ちわるいし。

 君の表情筋、まだ死んでなかったんだ。

 

 

「これ、なに?」

「……私のつm…じゃない、ウチにあった豆入れたんだよね。しお…ええと、塩漬け?のやつ。」

「なんだそれ聞いたことないな。」

 

 

 まぁ、飛び抜けて不味いって訳じゃないしまあいいか。

 

 

「おいしい?」

「んー……。普段あまりお菓子食べないからよくわかんないけど、不味くはない、のかな?」

「そっか……じゃあ、次はもうちょっとうまくやるね?」

「いや、別に無理して作ってこなくてもいいよ。飽くまで目的は作業なんだから。」

「えへへ、わかってる。作業の邪魔にならないような、手軽な食べ物に入れるね?」

「そうしてくれると助かるよ…。…んん?」

 

 

 今なんて言った?…いや、聞き間違いか。

 奥沢さんの言うとおり、僕も自分で気づかないうちに糖分が不足していたのだろうか。

 

 

「…ね、○○。」

「?」

「喉、乾かない?」

「あぁ、そりゃまああるだろうね。…まぁでも水持ってきてるから」

 

 

 毎日きちんと忘れずに天然水を持ってきている。

 今日の水は確か…アルゼンチン産のミネラルウォーターだったかな。

 

 

「いやいや、勿論、お茶も用意してあるからさ。一緒に飲も?」

「いやいいって。」

「………飲んで。」

「なぜ。」

「飲むべき。」

「……いや持ってきてr」

「飲んで。」

「……ぁい。」

 

 

 なんだって言うんだ…。

 その低い声と冷たい表情から察するに、どうやら今日は水を飲んではいけないらしい。さらばアルゼンチン。…デンマークだったかな。

 

 

「やれやれ…そんなに自信のあるお茶なのかい。」

「ふふ、あのね。クッキーに合うように淹れたお茶だったから、絶対セットで飲んで欲しかったんだ。

 …怖かった?」

「…まぁ。」

「ごめん。…ちょっと押しが強かったよね。」

「そういう問題じゃなかったと思……いや、取り敢えず頂こう。」

 

 

 君、目の光どこに置いてきたの。

 ちょっと失礼、と言い残し水筒を持って教室を出る奥沢さん。何か準備でもあるのだろうか。

 少しして戻ってきた奥沢さんは、若干荒い呼吸をしている上、髪が少々乱れていた。…走ってきたの?ってくらい。

 …まぁ、何はともあれ、お茶を頂く。

 丁寧な手つきで水筒から注がれるお茶からは、ほんの少し湯気が立っている。

 

 

「まさか、今お湯入れてきたとか?」

「まぁ、そんなとこ。…やっぱり温かくないとその…雑味、そう雑味が、ね。際立っちゃうから。」

「そういうもんなのかぁ…」

 

 

 淹れたて?のお茶をすする。

 ……うん?深みの中に……なんだろう、甘みがある気がする。

 

 

「いいお茶っ葉とか使ってるのかな?ほんのり甘いや。」

「あぁ…っ。」

「そういう吐息は飲んだあとに出すもんじゃ?」

「あぁ、ごめんね。つい。」

「??……ねえ奥沢さん、やっぱり熱でもあるんじゃ?

 顔、赤いよ?」

「うーん…そうなのかな。」

「うん、それなら本当に帰ったほうが良いのでは?…口の中乾いたりしてない?」

「あー…確かに、口の中に唾液はもう残ってないかも。」

「そんな状態でクッキーなんか食べるから…。」

「まぁそんなことはどうでもいいんだ。お茶のおかわりは?」

「あぁ、いただこうかな。」

 

 

 水筒の蓋を一旦返す。お茶を淹れてもらうって何かいいよなぁ。途端に自宅のような安らぎを感じる。

 …何故か蓋と水筒を交互に見比べ何かを考え込んでいる奥沢さん。

 

 

「あー、やっぱり熱あるかもー。帰ろっかなー。」

「えぇ?…あぁ、うん。お大事に?」

「この水筒、まるごとあげるね。」

「えっ」

「全部、全部飲んでね…?」

「えっ、えっ?」

「じゃ、またあした!」

 

 

 とても熱があるようには思えない元気な様子で教室を出ていく彼女。

 残されたお茶と僕。

 ……とりあえず僕も、これをさっさと飲んじゃって帰ろ…。

 

 

「んっ…んっ…んっ……んん?」

 

 

 なんだろ、何か入ってる。

 

 

「…髪の毛??」

 

 

 …………………。

 なんで?どのタイミングで??

 …あぁ!さっき淹れに行った時かな?何だか走って髪も乱れていたみたいだし、仕方ないのかな。

 これが隠し味?……って、

 

 

「流石に奥沢さんは、そこまでぶっ飛んでないだろ…。」

 

 

 帰ろ。

 あ、今凄いしょーもない駄洒落思いついちゃった。誰もいないし言ってしまってもいいだろうか。

 

 

「お茶に髪の毛って…。奥沢さんから奥沢産のお茶もらっちゃったよー

 …なんちゃって。」

 

 

 …事故だよね?奥沢さん?

 

 

 

 




<設定更新>

〇〇:こころが居ないのも落ち着いていいなぁと。
   結局の所作業に影響はないのだが。

美咲:人に興味を持ったことはない。
   一度も。
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