BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 -   作:津梨つな

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あったかもしれない祝福

 

 

 ――これはまだ、奥沢さんが"豹変"する前のお話。

 

 

**

 

 

「〇〇、これどうしたらいいの。」

「ん…あぁ、じゃあこっちで貰おう。続きは僕がやるから、奥沢さんはまたそっちの仮縫いを。」

「ん。りょーかい。」

 

 

 相も変わらず放課後の作業場で衣装づくりに勤しんでいた僕らだったが、今日は少し特別だ。

 何でも、奥沢さんも弦巻さんに着せるための服を作りたいらしく、僕の手伝いを並行してやってもらう条件の下に同じ場所で作業しているんだ。

 何だかんだで僕の方が洋裁は慣れているし、当然っちゃ当然の流れなんだけど。

 とは言え、飽く迄主体となりデザインやら形取りやらを執り行うので、僕の出番と言えば仕上げ程度のもの。当然、すぐに手持無沙汰になり奥沢さんを観察する作業になる。

 

 

「………つっ!?」

「……はぁ。また刺したのかい?」

「んー……。」

 

 

 今日だけでもう何度目だろうか。ぷっくりと膨れ上がっていく真っ赤な液体を二人して見つめる。

 痛いのに不思議とぼーっとしちゃうことってある種の"あるある"なんじゃなかろうか。

 

 

「……吸う?」

「はぁ?奥沢さんの指を?」

「うん。」

「結構だ。…吸血蝙蝠にでもくれてやるといいよ。」

「あそ。……はむ。」

 

 

 差し出されたその指を断ると、自分で刺した薬指を咥え暫し吸う奥沢さん。…血ってそんなに美味いものじゃなかろうに。

 じっと見つめる視線に気づかれただろうか。ふと視線を上げた奥沢さんは悪戯っぽく笑うと、「やっぱり吸いたい?」と口から離した指先を突き付けてくる。

 いや、ほんと、要らない。

 

 

「……手、借りるよ。」

「ほ、ほんとに?」

「?………………これでよし、と。」

「あっ………むー…。」

 

 

 出血と言うのは吸うもんじゃないよ奥沢さん。一刻も早く止めるものだ。

 てらてらと光っている指を消毒液に浸したガーゼで拭き取り絆創膏を巻く。僕がしたのはこれだけだ。

 何がそんなにご不満なのか。

 

 

「…〇〇って、鈍いとか勿体無いとか言われるでしょ。」

「何のことだか。」

「今あたしが言いたいことね。」

「はいはい。集中してやらないと、終わるものも終わらないが?」

 

 

 全く。少し返事を返すとすぐ調子に乗って手元を疎かにするなこの子は。悪い癖だと思うよ。

 しかし、変に根を詰め過ぎて出血過多で死なれるのも夢見が悪い。…ここは用意してきた()()を出す時が来たかな。

 

 

「む。言われなくても分かってるし…。」

「……その前に少し休憩しようか。」

「えっ??…珍しいじゃん、〇〇の方からそんなこと言うなんて。」

「たまにはいいじゃないか。」

「ふーん…。何企んでるの?」

「…………べ、別に。」

 

 

 何故そんな疑うような眼差しで刺してくるんだね君は。僕を刺殺体にでもしたいってのかね。

 確かに、企てはある。だが、飽く迄ここは冷静に。気取られては行けない。

 

 

「ふーん?」

「……さ、さあ!手を一旦止めて!休憩も大事だよぉ奥沢さぁん!」

「や、とっくに止めてるけど。…変だよ、〇〇。」

「う"っ!」

「……はぁ、わかった。付き合ったげる。」

「う…む。」

 

 

 なんだか納得は出来ないがまあいい。慣れない事はさっさと終わらせちまおう。

 

 

「時に奥沢さん。」

「なんでしょう。」

「今日は何の日かね。」

「今日?10月1日……何かあったっけ。」

「今日は……はっ、はははっはっははっ」

「何?笑うんなら顔も笑いなよ。…ほら、口角上げてさ。」

「ちがわい!……ハッ、はっぴー…ばぁすでいという奴だろう…き、君の。」

 

 

 言えた…!ハッピーパースデイって何て恐ろしい言葉なんだ。気軽に使うもんじゃないぞこれは。

 

 

「……たまげたなぁ。」

「えっ、あれ!?思ってたリアクションと違う!?」

「…ぷっ。あははははは!!!」

「????」

「何その顔っ!あっははは!!………はー、はー…覚えてたんだ?」

 

 

 そんなに笑うこと無かろう。間違えたかと思ったんだから仕方あるまい。

 未だ涙目で荒い呼吸をしている奥沢さんは、何が楽しいのか上機嫌のまま続ける。

 

 

「…それで?…誕生日を覚えてるだけで終わりってことはないよね?〇〇は。」

「………成程、物質的な祝福でないと歓びを感じ得ない下劣な民族と言うことだな?」

「何その言い方。」

「ふふっ、まあいい。………こ、こっちにきたまえ。」

「はっ?…え?まじ?」

「まじだ。」

 

 

 立ち上がり、左手で手招きしつつ右手は用意したブツへ。あれだけの時間をかけて作ったんだ、役に立ってくれよ…?

 珍しく不安げな様子でゆっくりと近づいてくる。……ちょっとまって、近すぎ近すぎ…

 

 

「奥沢さん!?…あ、ああああああたってるんだけどっ??」

「どこまで近づけばいいの?これくらい?もっと??」

「やわら…あいや、そこでストップしたまえ!」

 

 

 ほぼ抱き合っていると言っても過言ではないくらい密着状態の奥沢さんが見上げてくる。何だねその弱気な顔は。これは立派なパーソナルスペースの侵害だぞ。

 何とか人ひとり分程の距離を確保し、続ける。……あれ、少し残念そうな…いや、考えちゃだめだ。

 

 

「…髪に触れても?」

「……特別だよ?」

「っ!……何つー顔してんだ。」

 

 

 頬を上気させ、目を伏せつつもじもじする彼女の姿は、まるで熱に浮かされているかのように僕の目を惹きつけて止まない。

 許可は貰っている為、遠慮なく前髪に触れていく。

 

 

「…目を、閉じて。」

「……ん。」

 

 

 目を閉じ、少し顎を上げる奥沢さん。ゴクリと聞こえた喉の音は果たしてどちらのものだったか。

 

 

「んっ……。」

「…変な声を出すんじゃない。」

「だって、擽ったいんだもん。」

 

 

 おでこに少し触れてしまったし…そのせいかもしれない。

 決して重い印象は受けない前髪を解き、とてもシンプルで邪魔にならないデザインの髪留めを外す。

 …ふと。端からこの光景を見ると、僕ら二人はどう映るのか。そんな疑問が浮かんだ。

 夕暮れの空き教室。窓際、逆光になり動作が見えない状態で密着する様に向かい合う男女…。うん、これは一刻も早く離れないと。

 

 

「……??」

「あぁ、もう目は開けていいよ。」

「えっ?」

 

 

 作業は終わった。あとは鏡を見てもらうだけだ。

 

 

「鏡を見てごらんよ。」

「鏡…?…………わぁ…!」

 

 

 新しく付け替えられた髪留め。ピンクと水色の花弁をあしらった、少し大きめなデザイン。それでも、きっと彼女は嫌がるだろうと思って派手々々しくならないよう努めた。

 表情を見る限り不満ではなさそうだが…どうだ?

 

 

「こ、これ…どこで買ったの?」

「……非売品だ。」

「…どういうこと?」

「奥沢さんがここに来ない日はこれを作ってた。…なんだか作業もやる気が出なくてさ。

 ……受け取って、貰えるかな?」

「そう、なんだ………!」

 

 

 顔を伏せてしまった為表情は分からないが、突き返されてはいない為大丈夫か…?

 流石に沈黙に耐え切れなくなり、顔を覗き込もうとしたところで

 

 

「!?…ちょ、ちょっと、奥沢さんっ!?」

「……〇〇っ!〇〇っ!!」

 

 

 ものすごいスピードで抱きつかれた。目にもとまらぬとはこういう…じゃない、この状況は色々とマズい。

 彼女は柄にもなく感極まった様子で強く抱きついてくるし、その、さっきは振り解けたあの柔らかさが無遠慮に僕を蹂躙して……

 

 

**

 

 

「本当に、嬉しかったんだよ…。」

「…わかったよ。」

「さっきのは、その、忘れなくても、いいけど…」

「え」

「うそ!やっぱ忘れて!!」

「お、おぉう…。」

 

 

 プレゼントをあげたのは僕の方なのに。

 何だかとても重い意味を持つ贈り物をもらった気分になる夕暮れ時だった。

 

 

「奥沢さん…改めて、おめでとう。」

「……ん。」

 

 

 

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