BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 -   作:津梨つな

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終わりの始まり

 

 

 あの僕の"自傷行為"の後、目覚めたのはひと月ほどの昏睡期間を経てからだった。

 

 

『○○っ!?…よかった…目覚めたのね…本当によかった…!!』

 

 

 目覚めてすぐ、僕の手を取り涙を流す金髪の少女の姿が忘れられない。そこには確かに、愛情を感じることができたから。

 お医者様の話だと、外傷や体内へのダメージは然程深刻じゃあない代わりに精神的にショックが大きかったのでは…といった感じだった。強いストレスやメンタル面での圧迫に多量の失血や大きな外傷が重なることで目覚め無くなる事例は少なくないらしい。

 その間も、付きっ切りで()()()は看病してくれたようで…

 

 

「〇〇、気分はどう?」

「うん、傷もすっかり治ったみたいだし…だいぶ良くなったかな。」

「そう、それはよかった。…お昼ご飯もちゃーんと食べられたって聞いたわ。」

 

 

 彼女は本当に心配してくれていたようで、目覚めてからも毎日ここを訪れてくれている。面会時間いっぱい、お喋りしたり世話をしてくれたり…とにかくべったりして帰るのだ。

 今日も今日とて丸椅子に座る彼女は可愛らしい。そのゴールドの瞳も金糸の様な髪も、まるで作り物であるかと疑ってしまう程に美しく、僕の目を惹いて止まない。今は点滴や固定器具に囲まれ自由の無い僕だが、この体がもっと動けたならきっと触れてしまっていたことだろう。

 そんなことを考えつつボーっと彼女を見ていると、彼女は照れたように林檎を剥く手を止めこちらに視線をやる。

 

 

「な、なあに?…あまり見られるとその…恥ずかしいのだけれど。」

「ううん。……どうしてそこまで、してくれるのかなって。」

「……だって、〇〇がこうなったのって、あたしたちのせいなんでしょう?」

「そんなことないよ。君たちが悪い訳じゃない。」

「いいえ、あたしと、美咲が悪いのよ。あなたに出逢ってしまったから。」

「……そんなことないさ。だからその、そういう償いみたいなことなら」

「違う!」

「…………病院だよ。もう少し声を抑えたまえ。」

「ぁ……ごめん、〇〇。」

 

 

 思わず立ち上がり声を荒げる彼女を座らせる。…うん、今のは確かに、少し意地悪を言った自覚はある。

 しかし、本音としてはそうなのだ。彼女らに気を遣わせたり、謝ってほしくてこんなことを仕出かした訳では無いのだから。

 本当に死んでしまおうとさえ思った。こころと奥沢さんは仲がいい。見ているだけで思わず頬が綻んでしまうような、少々スキンシップ激し目とも言えるかもしれない程べったりな、素敵な友人同士のはずなんだ。

 そこに僕という異物が混ざってしまったことで互いを疑い牽制し合う様に、果ては傷つけ蹴落とし合うようにさえなってしまった。それならばこの異物は一刻も早くそこから消え失せるべきであり、彼女らはまた元の関係に戻るべきなのだ。

 

 

「……全部僕が悪いんだ。君たちは…こころも、奥沢さんも悪くないんだから。」

「…〇〇。でも、あたしが○○の元を訪れるのは何も償いの為だけじゃないわ。あなたを愛しているから…傍に居たいのよ。」

「……それはよく伝わっているよ。毎日本当にありがとう。」

「うん…。」

 

 

 二人の間に妙な空気が流れるのを肌で感じる。以前こころと部屋の中で味わった、蜜月の沈黙とはまた違ったものだ。目の前の少女も落ち着かないようにソワソワと視線と指を動かしているし、僕も何だか居た堪れない気分になってくる。

 そんな中口を開いたのは彼女の方だった。

 

 

「ねえ、〇〇。」

「ん。」

「あなたは…あたしと美咲、どっちが好きなのかしら?」

「……ふむ。」

 

 

 少し軌道の変わりだした話に、思わず息を呑み込む。どっちが…というのは正直考えていなかったことだ。

 贅沢な風に言えばどちらも好きだ。愛していると言っても過言ではない。…そして率直に言うならば、それぞれが違うベクトルに進む感情の為比較の仕様が無いと思っている。

 

 

「そうだね……難しい質問だけど…。こころは、純粋に可愛いし放っておけないし…好意も物凄く真っ直ぐに伝わってきて好きだ。」

「そう……美咲は?」

「奥沢さんは…そうだな。何を仕出かすかわからないっていう不安要素は正直大きい。その根源が僕に対しての愛情だって知ってしまってからはどうしたもんか対応にも困った。」

「…うん。」

「でもね。奥沢さんは、最初から嫌いじゃなかった。僕みたいな奴のことを気にかけてくれるし、何が面白いのか毎日毎日ついてくるし。そのお陰で、口には出さなかったけど、毎日楽しかったんだ。」

「…っ。」

 

 

 最初、奥沢さんに対しても自分と同じような物を少しだけ感じていた。周りの反感を買わない程度ではあるが、適度に周囲と距離を置く立ち振る舞い。一人でいることを苦とせず、ただ自分の波長と合う人間・場所を求める…そんな奥沢さんが、僕は確かに好きだった。

 

 

「大好きだったんだよ、奥沢さんが。」

「…そ、そう…なのね。」

「でも人間って…いや、僕ってやつは存外強欲だったみたいなんだ。」

「…というと?」

「僕はね。……こころの事も好きで好きで堪らないんだ。」

「!!………そうなの。」

 

 

 おかしいな。潤滑なレスポンスで会話を進めていたと思っていたのに。気付けばもう陽が落ち始めているじゃないか。

 彼女越しに見る夕日は少し切なく、胸に来る物があったが…。

 

 

「やっぱり僕がおかしいんだ。君だってこんなこと急に言われても困るだろうし。」

「ええと、その……あたしのどんなところが好きなの??」

「………それを訊いてどうするの?」

「えっ。」

 

 

 僕の問いに驚いたのか、俯きつつ頬を染めていた彼女が勢いよく顔を上げる。ここ最近で一番の大きな動きに、綺麗な髪はふわりと靡き、フローラルな香りが僕にまで届く。

 

 

「だって、気になるじゃない。」

「……僕がこころの何処を好きなのか……それを知ってどうするつもりなの?」

「どうもこうも、ただ純粋に好奇心で」

「もうやめよう?」

「……っ。…な、なにをかしら?」

 

 

 最初からずっと知っている。目を覚ましたあの日から。それでも、きっといつか二人でお見舞いに来てくれるんじゃないかって…いや、一緒にじゃなくても、二人の顔が見られるんだろうって少し期待もしていたんだ。

 それでもやっぱり、このままじゃダメみたいだ。

 

 

「もうやめようよ、奥沢さん。」

「ぁっ…ひぅっ!?」

 

 

 抱き締め…るには両腕の可動域が狭すぎた。手で触れられなくても、こうして頭を彼女の肩に載せられただけで分かったから。

 この匂い、この柔らかさ…こころじゃない。確かにここに居るのは、奥沢さんだった。

 

 

「……恥ずかしいね、これ。」

「………う、うん。…いつから気付いてたの?」

 

 

 少し名残惜しいが、頭を肩から持ち上げる。近くでしっかりと見るその顔は、化粧やカラーコンタクトを使ってはいるものの確かに奥沢さんだ。

 それに――

 

 

「何となく、って感じになら、結構前から。…確信したのは今日だし、証拠を見つけちゃったのもついさっきだ。」

「証…拠?」

「そう。…ずっとつけててくれたの?」

「……ぁ。」

 

 

 僕の目線を辿って言っている意味が分かったのか、しまったという顔をする奥沢さん。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。

 先程勢いよく顔を上げた瞬間、前髪の根元…生え際の部分にちらりと見えた水色と桃色の花弁。…以前誕生日に渡したものだったが、まさか変装のカツラの下にまでつけて来るとは。

 やはり、彼女には本心から好かれているようで、何とも言えず愛しい気持ちになる。

 

 

「やっぱりちょっと嬉しいもんだね。……さて、ここまで来たからには分かってるだろうけど。」

「……うん。」

「こころはどこ?」

「……言いたく…ないよ。」

「言って。」

「だって、〇〇を、取られたくないんだもん。」

「…その点は大丈夫。」

「嘘だ。絶対そっちに行っちゃうもん。〇〇、こころのこと大好きでしょ?だから…」

「大丈夫だって。…さっきも言ったでしょ。」

「………でも……。」

 

 

 目覚めたからには前に進まなければいけない。例え今のあやふやで居心地のよかった関係を壊すことになっても、進むべきなのだ。

 恐らくこれから僕が採る選択肢は最低にイカレてると思うけど、それでも。

 

 

「大丈夫だよ。僕は奥沢さんが大好きなんだから。」

 

 

 




<設定更新>

〇〇:好き、にも色々あるということ。

美咲:初めてでは加減もわからない。
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