BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「○○…ッ!!」
「わっ…っと…。」
「○○っ!○○っ!!」
しがみ付く様に飛びついてきて、僕の存在を確かめるが如く全身に手を這わせ頬擦りをする痩せ細った少女。それは紛れもなく、あの予測不可能でいて太陽のように無駄に眩しかった弦巻こころの成れの果てであった。最後に記憶に残っている痛々しい傷や包帯こそ纏っていないが、確かに。
一方部屋の入り口で苦虫を噛み潰した様な顔をする奥沢さん。ようやっとこの部屋の事を教えてもらったのは今日の事…僕の退院に合わせてのタイミングだった。
「こころ…こんなになって……。」
「あたしはいいの…あたしなんかはどうでもいいのよっ!…今は○○が帰ってきてくれた、それだけで…」
僕が自分を傷付けたあの後、奥沢さんはこころに責任を押し付け責め立てたのだと言う。
――「あんたがあたしの○○を奪ったから、あんたがすべて悪いんだ。」――
当然反発・否定をするこころだったが、既に半分崩壊しかかっていた心が壊れきるまでに時間はかからず。人間不信に陥ってしまい僕の帰りを待つだけの人形となってしまったこころを、奥沢さんは何と自宅の空き部屋で世話していた。
黒服の方々に動きが無い所を見ると、全てが正当化されているか若しくは…
いや、そんなことはどうでもいい。僕は帰ってきたんだから。
「待たせてごめん、こころ…。」
「ううんっ!!こうして帰ってきてくれたんだもの、間の時間なんて些末な問題だわ!」
「………ごめんねこころ。」
僕という存在に触れて確かめたからか、落ち着いた様子で身を預けるこころを抱きとめる。…あぁ、こんなに痩せてしまって。少し感情的に抱き締めたならば折れ砕け散ってしまう程にか細く儚いその身に、味わい続けたであろう苦しみを感じ取る。
もう、こんな事を引き起こしてはいけない。再度決意するに充分な程、こころの軽さは僕に重く圧し掛かった。
**
どれだけそうしていただろうか。
二人触れ合う部分のせいか、少し暑いとさえ感じ始めた頃。痺れを切らしたように後ろの彼女から呟きが漏れる。
「…だから教えたくなかったのに。」
事の真相か、或いはこの場所の事か。歯噛みする様に吐いた声は、後悔と苛立ちに満ちていたように感じる。
「ねえ奥沢さん。」
「……なに。」
「奥沢さん、こころの事が憎い?」
「今はね。」
「こころの事が邪魔?」
「…今はね。」
「なら、こころが嫌い??」
「………………。」
嫌いな筈はない。何故なら彼女は甘すぎる。
こころに対して数々の悪行を画策してきた奥沢さんに憤りと怒りを抱いていた僕が言うのも変な話だけど、きっと奥沢さんはこころのことも愛していた。
愛する友人、いやそれ以上かもしれない相手が自分と同じ男性を狙っていると知った時、どうするか。すっと一歩退くなり真っ向勝負でアタックを敢行するなり、それは大人に
邪魔だと警告するかのように危害を加えるも究極に追い込むことはせず踏み止まったせいで、動き回れる程度の怪我を与えたのみ。その中途半端さ故に僕をこころに取られた後も、「嫌だ」とは思いつつも実力行使の末の結果の為直接こころに働きかけることは出来ず、唯一不確定要素である僕を揺さぶるという足掻き。
その結果僕が想定外の行動をとったために取り乱しこころを追い込んで
「…嫌い………」
「…ん?」
「嫌い…になんか、なれる訳………ないでしょ。」
「……美咲。」
この無様さ、この素直さ、この愚直さよ。奥沢さんという少女の、何と人間らしい事か。何と愛おしいものか。
だから僕は、
やはりこの二人は…僕が愛してやまないこの二人は、どこまでも仲良く愛し合っていなきゃ。僕という無粋な存在が介入しても尚、崩れ去ることのない生温い血の沼のように、何処までも繋がっていなきゃいけない。
そう居てくれるのであれば、僕は喜んでその血を飲み干そう。全身で味わい、共に混ざり合おう。
「……ごめ…ごめん…っ!…こころ、あたし……ッ!!」
「…いいの、美咲。………美咲も辛かったんだものね。…苦しかった…のよね。あたしにはわかるわ。」
「こころ…!!!」
僕の腕の中から抜け出したこころが嗚咽を漏らす奥沢さんに駆け寄り抱き締める。嗚咽は次第に悲鳴のような悲痛な叫喚へと変わり、一連の騒動の収束を表す鐘のように、小さなアパートの一室に響き渡った。
これが僕の求めていた形。僕自身愛してしまっていると気付かされた二人なんだ。
**
「○○……もう、絶対離れちゃ嫌よ。」
「そうだよ○○。…確かに○○と急に距離を詰めたせいであたし達はおかしくなっちゃったけど。今度は、あたし達にとって掛け替えの無い存在になったんだから。」
一頻り泣いて、夜も更けた頃。改めて今後の関係性を定めた僕達はベッドに川の字で寝ていた。「もう奪い合わず、傷つけ合わない。」その言葉の下に交わされた契りは、一生を三人で愛し合って生きていくというものだった。
僕は二人の関係と二人それぞれを、二人はお互いと僕を深く愛してしまっている訳だから、これ以上素敵に当て嵌る型なんて無いんだ。この結論はある意味必然…運命なんだから。
「ごめんよ…。でも、これからはずっと一緒だ。」
「よかった。……そういえば○○、何だか雰囲気が変わった気がするわ。」
「あ、それあたしも思った。…前はちょっと変わってるーくらいだったけど、今は少し怖い所もある。」
「怖い?」
「うん…。前にあたしの目の前で自分を切った時からそうなんだけど、何をするかわからないっていうか…。」
「…でも、あたしは今の○○も大好きよ。ミステリアスで狂気的で、とーっても魅力的だわ。」
確かに自分でも少し違和感がある。いや、寧ろ違和感は
僕は彼女達の自分に抱く印象を聞きながら、少し前に交わした会話を思い出していた。あれは確か、"ヤンデレ"がどうとかって話だった気がするが…。
後に調べた情報に依ると、相手を想うが故に理解を越えた行動に走ったり、病的…つまり病んでいると判断されてしまう程の愛情表現を自分や周囲にしてしまう人間の事を指す言葉らしいが。
奥沢さんがそんな感じなのかもしれないとは薄々思っていたが、少し前からの僕は何だ。自分を傷つけることで愛する者の愛すべき姿を誘導したり、挙句全てを手に入れたいと我儘を言って見せたり。以前の僕では考えられなかった言動だが、何と清々しい気持ちか。
今までよりも、ずっと生きていると実感できる。
「…ありがとうこころ。…奥沢さん、今の僕は…やっぱり嫌かな。」
「別に……どんな○○でも、あたしの気持ちが変わることは無い…っていうか、こころは「こころ」って呼ぶんならあたしも名前で呼んでよ。」
「奥沢さんは奥沢さんだしなぁ。」
「でも差をつけられるのって、何か嫌。お願い○○。あたしも名前で呼んで…。」
やはり君は素直で良い。人としての生を感じられる。
それに比べて、僕はまだ生きている実感が足りないように思える。尽く々々僕は強欲な様で、ここまで幸せな空間で満たされた時間だというのにまだ実感とやらを渇望している。
そう、あの流れるように体を這う温度。それをまるで他人事のように温もりとして感じたあの瞬間、僕は確かに生きていた。
全てが解決して綺麗な円を描いた今こそ、その実感をプラスすることで最上の快感が得られるんじゃないか。
「わかったよ……じゃあ、美咲。」
「っ!!………う、うん。」
「よかったわね美咲。これであたしたち、お揃いよ。」
「うん。……こころ、○○、あたし、今すっごく幸せかも。」
奥沢さ…美咲のはにかむ様な笑顔がとても眩しい。やはり試したい。生の実感を、ここで――ッ!
「……ぇ、…○○…??」
「………○○、何……してんの…??」
何時ぞやも同じように僕の肌を裂いたピンクのクマ柄の彫刻刀。あの時と逆の手に握られたそれは、未だに大きく残る傷跡の対を作るように項の右から右腕の先を引き裂いていた。
痛みよりもゾクゾクと込み上げてくる快感。肌を這うように流れ出ていく滝のような生温い紅が下がっていく体温と反比例するように僕の脳を灼いていく。これだ、これこそが僕の生きる実感――
「今度は二人で看病してね。」
<設定更新>
〇〇:初めてに初めてが重なり本当の自分を見出した。
生きるって、生きているって難しい。
美咲:ますます。
こころ:何が正しいか、考えるのをやめた。