蒼穹の一閃   作:hareth

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2.

 後にギルドに問い合わせるとその現象は「狂竜ウイルス」におかされた生物が発症する「狂竜化」と呼ばれる現象とわかった。

 そのショウグンギザミはそれまでの行動速度から考えられない程鈍重に、そして俊敏に(・・)動くようになった。

 

「それに、いつの間に殻変えたんだ!?」

 

 グラビモスの頭殻を背負っていることも災いした。半乱狂になっているためかブレスと爪で薙ぎ払うという行動が増えた。手の付けようがない。

 攻撃を入れることを諦め、様子見に専念する。大剣は動きが鈍重になるからこういう相手には下手に攻撃できない。

 一方イヴは紙一重で爪を躱しながら斬撃を入れていた。新米とはいえその身のこなしは既に中堅クラスの動きだ。だがいつまでもそれが持つ訳ではない。早いところ仕留めなければ……。

 

 突如独特の臭気が当たりに漂う。ハンターならよく知っているペイントボールの臭いだ。ノルンもイヴも手持ちには入れているものの、使ってはいない。ならばこの場にいないテアンが付けたものだろう。自動マーキングのスキルがついているのにペイントしたということは別の大型モンスターが出没したということだ。

 

「イヴ引くぞ!」

「わかりました!」

 

 ノルンの声にイヴが反応した。しかし不運なことに振り回された爪がイヴの背中を掠めてしまった。掠めたとはいえかなりのスピードで振り抜けられたので、イヴの軽い体は吹き飛ばされてしまった。幸いノルンの近くだったので問題は無いように見える。

 

「大丈夫か!?」

「…問題ないです! 早く行きましょう!」

 

 攻撃を受けたダメージのせいか息が若干切れているような気はしたが、ノルンはその不安を一旦飲み込んで走り出した。

 

 

 

 

 

 

 ペイントボール及びペイント弾の臭いはエリア9から漂っている。そちらの方も気にしながらベースキャンプへと急ぐ。原因はわからないが途中でイヴが倒れたのだ。やはり先ほどの攻撃で何かあったのだろうか──―狂竜症をノルンはまだ知らない──―と心配するが、いつモンスターに遭遇するかわからないところで看病などできない。

 ベースキャンプには既にテアンがいた。こちらを確認するとすぐにイヴを支えてベッドに寝かせる。一目見るだけでわかるほどに消耗していたのだ。

 

「何があったんだ?」

「ショウグンギザミが急に黒くなったんです。テアンさんこそどうしたんですか?」

「溶岩地帯にリオレウスが現れたんだ。この狩猟地の外から来たとしか考えられないよ」

 

 イレギュラーに次ぐイレギュラー。環境が不安定にもほどがあるなとノルンは少々うなだれた。それはともかくイヴのことが心配だ。毒でももらったのかとも思い、イーオス対策に持ってきていた解毒薬を飲ませたが意味はなかった。少々でも症状が治まるようにとウチケシの実をすり潰し、回復薬に混ぜて飲ませたところすこし顔色がよくなった。が、まだ脂汗を掻きながら苦しそうに横になっている。

 

「テアンさん、この症状知ってますか?」

「僕も初めて見たよ。ウチケシの実が効果的なのがわかったのは幸いだったけど……」

 

 イヴの容態がどうしたらよくなるのかがわからないが、今から撤退しても大して状況は変わらないだろう。イヴ抜きで狩猟を再開しようと考えていた時に、イヴが起き上がった。

 

「もう少し横になってた方がいいんじゃないか?」

「いえ、大丈夫です。それに動いた方がいいと思うんです」

 

 そういって立ち上がるもやはりふらついている。おそらく思考も鈍っていることだから危険すぎる。

 

「いや……ショウグンギザミならまだいけるかも。あいつもしっかりと狙いの定めた攻撃はしてこなさそうだし」

「そうなんだ。ならそっちに行こう」

 

 ベースキャンプを3人で出発した一行。エリア5にショウグンギザミが居座っているのでそちらに向かう。一方リオレウスは各地を転々としているから、いつ遭遇するか緊張の糸を張り巡らして警戒する。

 

「……まずい、リオレウスがこっちに来た」

「この状況でリオレウスとはやり合いたくないから早いとこ抜けちゃいましょう。イヴ走れるか?」

「大丈夫です!」

 

 元気にはなってはいるがまだすこしふらついている。大事を取るならだれか一人がここに残って引き付けておくことだが……このパーティーでリオレウスとやり合ったのはテアンしかいない。だがガンナーのテアンだと長時間押さえておくのは厳しいだろう。

 

「テアンさん、イヴ連れてショウグンギザミの方へ。リオレウスは俺が押さえておきます」

「えっ!?」

「高い知能を持つリオレウスより理性を失ったショウグンギザミの方がイヴは狙われにくいです」

「それなら僕が!」

「テアンさんの観察眼を生かしてイヴを援護してください!」

 

 ノルンはテアンにそう言い、今まさに降り立とうとしているリオレウスに向かって走り出した。テアンはノルンになにか言いたげだったが、すぐさま切り替え洞窟内に走っていった。この先には異変を起こしたショウグンギザミが……。

 

 

 

 さて、洞窟入り口のエリア2で戦闘に入っているノルン。自分の実力ではリオレウスに敵うことはないと理解している。できる限り引き付けてリオレウス側から退かせることを優先にする。

 ペイントボールの臭いが漂う。おそらくテアンとイヴがショウグンギザミに遭遇したのだろう。これで動きが追える。全神経をリオレウスに注ぐ。注意すべきは火球ブレスと爪の毒だ。

 

「ギャアアアアァァッ!!」

「っ!」

 

 火球ブレス。正面にいたノルンを正確に狙う狙撃だ。しかしそれは背後の岩壁に当たり火炎が四散する。ノルンは最小限の動きで躱し、頭部に抜刀斬りを入れて懐に入り込む。

 

「グギャアッ!」

 

 懐に入られたのがうっとうしいのかその場で回り始める。大剣を扱うノルンもこの狭い空間では振り回しづらい。二回振り回された尻尾を見ながらタイミングよく外に出る。──―背筋に悪寒が走る。反射的にヴァルキリーブレイドを盾にしてリオレウスの方を向く。

 リオレウスはノルンをしっかりと見据え、火球ブレスを吐きながら後ろへ飛んだ。バックジャンプブレスとでも言うべきか、ほぼほぼ真横にいたはずのノルンを正確に狙ってきた。リオレウスによくある行動だが、話に聞いていたよりもはるかに速い。

 

「こいつも異変種…? どちらかといえばこの前のリオレイアに似てるな」

 

 未だ空中で羽ばたいているリオレウス。時折火球ブレスを吐いてくるが、これはよく見られる行動だ。そして、上空高く飛び上がりさらにブレスを吐く。一発、自身の真下に。二発、ノルンの近くに。三発、ノルンを正確に狙って。これを難なく回避したがここでまた悪寒が走る。翼を畳んで急降下をし、毒の爪で蹴りを入れてきた。リオレウスを見上げていたところでそれをやられたためノルンの死角に入った。咄嗟に身を投げ出して回避したものの体勢は崩れてしまった。

 それをリオレウスが見逃すはずがなく、踏みつぶさんと突進をしてきた。一瞬だけノルンの方が速く動き出せたので突進をまともに食らうことはなかったが、強靭な翼爪に引っ掛けられて飛ばされる。

 

「ぐっ…!?」

 

 一般的に伝わっているリオレウスの特徴と合致しない。大部分はその通りなのだが細かいところが大分違う。急降下からの急襲もそうだし、今の突進も体をこすりつけて減速するのではなくしっかりと脚だけで減速している。ノルンは反撃という考えを完全に捨て気を引き続けることを選んだ。

 

「勇敢と無謀をはき違えてはならない」

 

 教官に口酸っぱく言われてきた言葉だ。だが、今やるのはそのどちらでもない。どちらかと言えば無謀だが、やらなければならないからこそここに残る。だからこれは勇敢でも無謀でもなくノルンの、

 

 ──―ハンターの意地だ。

 

 

 

 

 

 

 一方イヴとテアンも交戦に入っていた。ショウグンギザミはやはり黒紫とでもいうべきか、禍々しい雰囲気を纏い手当たり次第に暴れていた。かと思えばいきなり倒れ込んで休むかのような様子もうかがえる。

 

「緩慢な動作にもなるのか……」

「そうみたいですね…」

 

 ウチケシの実を頬張りながらイヴもショウグンギザミを観察する。症状は緩和されるだけだが完全には治らないから、戦闘中に動きが鈍ったら危険だ。

 

「私が先に出て引き付けます。先んずれば人を制す、です!」

「相手人じゃないけどね……。それで行こう、でも無理はしないように」

「了解です!」

 

 イヴが飛び出し、最初の遭遇(ファーストコンタクト)でノルンがやったように左側の脚に斬撃を入れる。その間にテアンは正面に回り雷撃弾の速射を行う。

 

「くぅ!」

 

 斬りつけた脚がかたいためか、それとも原因不明の体調不良のためか、しかめっ面で攻撃していた。攻撃されたことで場所を把握したのか爪を振ってくる。この状態になってから先の遭遇の時とは違い緩慢にも見えたショウグンギザミだが、獲物を見つけると過激になるようだ。現在背負っているグラビモスの頭殻からブレスでテアンを狙い、近距離で立ち回っているイヴには爪の連撃を浴びせる。その連撃は万全の状態ならともかく、今のイヴにはつらいものがあった。紙一重で回避し続けるも徐々に攻撃を掠めるようになっていく。

 テアンが側面に回り込み貫通弾Lv2の速射、気を引こうとするも頭殻をこちらに向けブレス。イヴが間合いに入ると爪で連撃。攻めにくい。

 

「だけど遠距離には遠距離、近距離には近距離ってもはや本能で戦ってるとしか思えないな……。イヴちゃん、落とし穴仕掛ける!」

「……ッはい!」

 

 すぐさまエリア中央に穴を掘り始める。イヴはテアンが危険にさらされないようにと頭の隅で考えながら、できる限り中央に寄せる動きをしている。だがイヴの集中力は原因不明の体調不良に加え、火山の熱気や狩り場からのプレッシャーにより通常時にくらべるとかなり落ちていた。

 ショウグンギザミの攻撃が一旦やんだ隙にウチケシの実を噛み砕く。すぐに飲み干し、再び斬撃。攻撃しているときは呼吸を止めているのだが、息切れが激しいためか基礎連係が続かない。

 

「ケホッケホッ……うぅ」

「仕掛け終わった!」

「…了解ですっ!」

 

 仕掛け終わった落とし穴に向けてイヴが走り出す。が、足をもつらせて転んでしまった。すぐに立ち上がるも、ほとんど真上からショウグンギザミの鎌が迫る。

 

「急いでッ!」

 

 テアンが咄嗟に徹甲榴弾Lv1を爪に当てた。小規模な爆発はイヴをテアン側に飛ばし、ショウグンギザミはその爆発で怯みを起こしていた。

 

「……ありがとう、ございます…!」

「まだ動けるね?」

「もちろんです…!」

 

 怯みから抜けこちらに突進してくるショウグンギザミ。カムフラージュされた地面を見抜けず落とし穴に拘束された。すかさず駆け寄り斬撃と射撃。テアンはさらに拘束するため麻痺弾に切り替えた。そこでイヴの動きの違和感を感じた。

 

「動きが良くなってる…? さっきまであんなに苦しそうだったのに?」

 

 変化を感じていたのはイヴも同じである。体調は未だに悪いままであるが、徐々に動きにキレが出てきた。倦怠感が抜けていきより力を入れて斬撃を行うことができている。

 そして──―

 

「キシャアアアアッッッ!!?」

 

 渾身の上段斬りがショウグンギザミの右爪にひびを入れた。ここでさらに麻痺弾の効果が表れ、さらに拘束する。

 

「今だっ!」

「セヤアアアアアッ!」

 

 テアンは電撃弾を装填し、ショウグンギザミの頭部を的確に狙撃する。

 イヴは勇ましい雄叫びと共に縦横無尽に氷刃を振り回す。太刀使いの奥義、気刃斬りだ。体の周囲を振り回すようにして遠心力を加え一撃、逆回転させ二撃目。左右に小さく斬る二連撃のあと上段から叩きつける。

 ここで麻痺の効果が切れ、ショウグンギザミは落とし穴から抜け出す。が、イヴは構わず体の全てを使って大きく回転する。気刃斬り連係のフィニッシュ、気刃大回転斬りである。

 

「りゃあああああああッッ!」

 

 その一撃は、今までイヴ達の命を刈り取ろうとしていた右爪を刈り取った。

 

「ギャアアアアアッッッ!!?」

 

 断ち斬った爪はそこそこの距離を飛び、地面に突き刺さった。自慢の爪を落とされたショウグンギザミは、口から黒紫の泡を吹きだしながら暴れまわる。が……

 

「セエエエエエイッッ!!」

 

 イヴが再び気刃斬り連係を叩き込み、その上段からの叩きつけがショウグンギザミの脳天に叩き込まれた。イヴは大回転斬りに繋げることなく側転でショウグンギザミの左側へ抜けた。

 これまでも半乱狂気味で攻撃してきていたが、イヴの連撃によりさらに苛烈な攻撃をけしかけてくるようになった。無くなったはずの右爪を振り回すこともある。もはや本能のみで攻撃しているとしか思えない。

 テアンは通常弾Lv2でイヴの援護を徹底。イヴは原因不明の体調不良から回復し、今までよりも鋭く的確な攻撃を仕掛けていた。

 

「セイッ!」

 

 真正面に立っているというのにまともに攻撃をもらわないことにテアンは感心していた。テアン自身もまだ2年程しかハンターをやっていないが、それでもある程度動きの良し悪しがわかるようになっている。先輩であるマディリアと共に狩りに出てきたからだろう。

 ここでテアンの放った銃弾が残っていた左爪を弾き飛ばす。怯んだところにイヴが気刃連斬を叩き込むと、ついにショウグンギザミは崩れ落ちた。

 

「イヴちゃん、体調は?」

「問題ないです! なぜか急に力が湧いてきたんです」

「…今は置いておこう。それより剥ぎ取りを済ませてノルン君の援護に行くよ」

「了解です!」

 

 手早く剥ぎ取る。ショウグンギザミの体から得体のしれない結晶が出てきたが、それに湧いた疑問は意識しないでおく。イヴは氷刃を研ぎ、テアンは雷砲サンダークルス改に雷撃弾を装填した。ノルンの現在の位置はリオレウスのいるエリア9。ここまで長時間リオレウスを引き付けておくことができるとはテアンは思っていなかった。しかし、引き付け続けているということは、それだけノルンの消耗も激しいはずだ。ショウグンギザミを討伐した2人はすぐさまエリア9に向かった。

 

 

 

 エリア9に向かうとそこでは戦闘(・・)が起きていた。尻尾を掻い潜り、突進を紙一重で躱し、さらにはテアンの見たことがないバックジャンプブレスにも紙一重で対応、反撃という一進一退の攻防が繰り広げられていた。その光景を目にしたときテアンは自身の時が止まった様に感じていた。

 一方イヴはイヴで飛び出すことをためらっていた。リオレウスの動きを机上の書面でしか知らないので、手の出しようがないのである。

 

「ゴアァァァァァッッ!!」

「セイヤァッ!」

 

 紙一重でブレスを回避し、飛んでいるリオレウスの真下まで一瞬で駆け寄り斬り上げ。そこからさらに強溜め斬りに派生させている。顎をかち上げられたリオレウスは空中で姿勢を維持できなくなり墜落した。その頭部を保護しているはずの甲殻は、既に弾け飛んでいた。

 一体どれだけの死闘を繰り広げていたのだろうか……。イヴとテアンはここまで粘ってくれたノルンに感謝し飛び出した。

 

「援護しよう」

「了解です!」

 

 

 

 

 

 To Be Continued……




 企画お疲れさまでした。

 今回の企画に参加していた他作者様の小説は、ものすごく面白いものばかりで順位をつけるのが大変でした。

 次があるならまた参加してみたいです。

 

 ここまで閲覧ありがとうございました
 感想、評価がございましたらよろしくお願いします

 ではまた次回…
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