「メディス!しっかりしろ!」
「メディスさん!」
引き留めようと声をかけるも聞く耳を持たない。いや、聞こえていないのだろう。声をかけても無駄とわかった2人はメディスを追い越し、先にエリア6にたどり着く。持っている武器の関係上総体重が最も重いノルンがメディスを止め、イヴは咆哮を上げたモンスターを探す。
「あれは……?ノルンさん、気絶させてでも退いてください!」
「わかった、殿頼む!」
ノルンはイヴの言う通り、首筋に剥ぎ取りナイフの峰を当て気絶させ引きずるようにベースキャンプに向かっていった。
イヴの前には見たことがあるような無いような飛竜が尻尾がこちらに向いていた。
見てくれは迅竜ナルガクルガ。しかしその体色は白。特殊許可が必要な白疾風とイヴは断定した。幸いにもイヴとノルンは特殊許可されているハンターなので問題はない。が、問題はその出現が予測されていなかったことだ。
イヴの足音に気づいたのかこちらを向き始めた。その左目には傷があり、残された右目は紅く光っていた。
「こちらも手負い…しかも怒り状態……」
雪一文字【銀世界】を抜刀し、何が来ても大丈夫なように構える。飛びかかる構えを見せた白疾風ナルガクルガ。前脚は、左を引いていた。
「そう来るなら、一歩下がって……ここ!」
繰り出された左前脚を後退することで避け、続く右前脚を潜ることで回避。髪の毛が斬り裂かれたがダメージはない。すぐさま反転してナルガクルガの飛びかかりに備える。
が、反転して見えたのは姿勢をわずかに下げ飛び上がり、尻尾を叩きつけてくるナルガクルガの姿だった。嫌な予感がして咄嗟に太刀を前に構えるが、ガードできない武器でガードを試みようとする方が間違っている。尻尾から放たれた
「かはっっ!?」
鮮血が舞う。吹き飛ばされるも起き上がってすぐさま回復薬グレートを飲み干し、物陰に隠れ少しの間体を休める。当たった衝撃波は幸いにも体の中心からは外れ、左半身に命中した。しかし、凄まじい威力だったことには変わりなく、肩に手を当て痛みに耐えていた。
「次は鎧にしましょう……!?」
ある程度傷が塞がったところでナルガクルガがイヴの隠れた岩場に回り込む。そして尻尾を大きく一回転させ薙ぎ払ってくる。イヴは咄嗟に頭を下げ潜るようにして回避。そこでイヴは負けじと雪一文字【銀世界】を抜き放ち、隙だらけの脳天目掛けて振り下ろした。
攻撃してくるとは思わなかったのか、軽く怯むナルガクルガ。イヴはすぐに雪一文字【銀世界】を納刀してエリア4に繋がる穴に駆け込んだ。
エリア4は狭く涼しい洞窟になっていて、エリア3とエリア6を繋ぐ裏通路にもなっている。洞窟というだけあって暗く涼しい環境にあっているのかギィギの卵があったりもするが、今回は無いようだ。
疲労と増えていく出血に意識が朦朧としていく中、イヴが目指したのは孤島におけるアイルー達獣人族の巣である。
「んにゃ…誰か来たにゃ……って、大丈夫かにゃ!?」
「大丈夫じゃ、ないので、ちょっと、休ませて…ください…」
言うなりイヴはそこで倒れ、気を失ってしまった。その様子を見たアイルーやメラルーは軽くパニックを起こしたが、近くで見ていた山菜じいさんが、
「こりゃ裂傷状態になっておるの。サシミウオを持ってくればなんとかなるかの」
「わかったにゃ!」
アイルーは数匹の仲間を連れて駆け出していった。山菜じいさんは彼らを見送った後、持ち合わせの素材で手当を始めた。
同刻。
モガの村についたノルンは、目を覚まさないメディスと一向に戻ってこないイヴを心配していた。クエスト的には成功なのだが、予想外のことが立て続けに起きたことでノルンもまた疲労を隠せないでいた。
いつの間にか村が騒がしくなっていた。何事かと顔を出すと、我らの団の団長と交易船の船長、そして一人のハンターが何かを話していた。
「──つまり、とても凶暴な白疾風ナルガクルガが出てるんだな?」
「そうなんスよ。今狩りに出てるハンターはいるんスか?」
「さっきうちのメディスと船長が連れてきたノルンというハンターが帰ってきたが……」
「後もう一人、狩場に残ってるゼヨ」
「不味いっスね……」
船長や団長と対等に話しているということは、かなりの実力を持ったハンターかギルドの使いかのどちらかだろう。事実、装備は援護を主軸に調整されたものではあるが強力なモンスターの素材を用いられていた。
レックスUシリーズ。ある程度の咆哮から装備者を守り、さらに捕獲ができるかどうかを見極めることもできる。そのハンターはそこに罠を素早く設置できるように調整もしてある。
武器は片手剣。白疾風ナルガクルガと聞こえたから雷属性武器を持っていた。銘を雷盾斧ヴァンクロム。ラギアクルスの素材を用いたチャージアックスである。扱いが難しい武器種であるため使用者は少なく、武器を見るのは初めてだった。
「僕がもう一度出て探してきますよ」
「危険すぎるッスよ!……っと初めましてッスよね」
「そうですね。話を聞いた限りギルドの使いということで間違ってないですか?」
「間違ってないッスよ」
彼の名はエイデン。ギルド直属のハンターである。
ギルド直属のハンターには”ギルドナイト”と呼称されているハンターもいる。が、彼は筆頭ハンターと呼ばれるまた別の直属ハンターであり、ギルドから直接命令が下りこの場にいるという。
「この森に白疾風ナルガクルガがいるッス」
「白疾風…二つ名だったか…」
「アンタ、特殊許可は?」
ここ最近高難易度クエストが多く、無事に獲得することができていた。既に二つ名モンスターの狩猟も行っている。
「獲得済みだ」
「なら問題無いッスね。……っとそんなこと話してる場合じゃなかった、捜索しに行くッスよ」
「わかった」
ノルンは武器を煌剣リオレウスに変えて、エイデンと共に狩場へ続く門をくぐって行った。
イヴが倒れて数刻。手当が完了したイヴの意識は無事に戻り、エリア4で休息していた。裂傷状態からも立ち直り、現在はアイルーやメラルーたちと戯れているところだ。
「それにしても順応が早いのぉ?」
「色々ありましたから、慣れてしまいました」
山菜爺さんの言葉に困ったような笑みを浮かべながら答えるイヴ。現在は胴装備だけを外し、身軽になっている。
先程までは頻繁にナルガクルガの咆哮が響いていたが現在は収まっており、一定の安心感を与えていた。が、この洞窟を出れば即座に追ってくるであろうことは、容易に想像できた。
「……私、ここ2年程家族に会えてないんです」
「…ほう?」
唐突に話し始めたイヴに耳を貸す山菜爺さん。
「気がついたらドンドルマの…今住まわせてもらってる宿の前に倒れていました。ここが私の知る場所でないということもすぐにわかったのでハンターになって家に帰る方法を探してるところなんです」
「なるほどのぉ…しかし何故ハンターに?商人にでもなれば世界を見て回ること自体はできるぞ?ハンターなら最悪、帰れなくなるかもしれんのに」
「……寂しさを紛らわすために体を動かしていたかった、でしょうか…。……いえ、
「…まぁ面白い話が聞けたから、良いとするかの。迎えが来たようじゃな」
「そうですね」
話しているうちに足音が聞こえていた。静かになっていたこの集落もまたちらほら騒がしくなってきている。そんな中で一匹のハッカ色のアイルーが近づいてきた。
「…ボクを連れてって欲しいニャ」
「ふぇ?」
「こやつは前から広い世界を見たいと言っていてな。この集落にハンターが来るなんて滅多にないもんだから、お主を看病するのに一番働いたアイルーじゃよ。よかったら連れて行きぃ」
「……あなたは家族と離れる苦しさに、耐えられますか?」
自分とは同じ思いをしないで欲しい。いくら
イヴはハッカ色のアイルー、ペパを肩に乗せて集落を出る。そこにはノルンとエイデンが待っていた。
「お待たせしました」
「大丈夫だったか?」
「ちょっと大きいの貰いましたけど、無事です!」
血の滲む包帯を指差しながら無事をアピールするイヴ。正直に言って全く無事ではないので迎えに来た二人は苦笑いを浮かべる。
「とにかく、一旦村に帰るッスよ。いつここに来るかわからないから……」
「っていう警告、ちょっと遅かったみたいですね……」
エリア2に続く坂道の方にナルガクルガが降り立った。イヴが相対した時には気づかなかったが、両刃翼には黒い靄のようなものが出ている。加えて、右目は紅く怒り状態が途切れていない。常時怒っているとも見れる。閃光玉はあまり意味を成さないだろう。
「おそらく、常時怒り状態です。左目が失明、右目は興奮状態が続いています」
「分かったッス」
「あぁ。僕が殿になるから速攻で抜け出せ」
エイデンがけむり玉を地面に叩きつけた瞬間走り出す。音は恐らく聞こえているはずだからすぐにエリア1へ向かう。しかし回り込まれてしまった。
「速すぎかよっ!エイデンさん援護を!」
「わかってるッス!イヴさん離脱して!」
イヴはエイデンの言葉通りに離脱しようと一旦エリア2の方向へ走り出そうとした。その時──
「ギャオォォン!?」
黒曜煌めく鎧を身にまとう操虫棍使いが、ナルガクルガの前に立ち塞がった。メディスだ。
メディスはそのまま斬竜旋ヘルダイトを振り回し、ひたすら頭部を斬りつける。ナルガクルガは攻撃から抜け出すためか、状態を低くし飛びかかる。メディスはモロにそれを受けて吹っ飛ばされた上に動かなくなった。
それに見向きもせずに尻尾で叩きつけようと飛び上がる。
「させないっ!」
「待て、イヴッ!」
ペパを肩から下ろし、ナルガクルガに向かうイヴ。そして叩きつけられた尻尾を――紙一重ですれ違う様に回避、続く水平衝撃波を飛ばすために横に振る尻尾を”鏡花の構え”で対処、反撃した。
「ギャアァァオォォン!?」
「行きますよ!」
エイデンが呆気に取られたがすぐさまメディスの元に向かい、ノルンと共に担いで村に向かった。
To Be Conntinued……