【TS】配信者やってると、こういうこともあるらしい。   作:16色のレイン・コーラス

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TSモノなのに可愛さが足りないって?
ショック!


一番見たいところは?

 手ごわい夜だった。

 昨晩の風呂で何があったかという話題は少々センシティブゆえに割愛する。

 

 俺は 何も 見ていない。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 昨日、氷蜂ちゃんが部屋に侵入してからのことを思い出してみる。

 

「どこから聞いてた?」

「いや今来たばかりだけど。もみじがその女の子の身体を洗ってあげるって迫っているくらい」

「言い方に悪意を感じるなぁ! 僕はそういう趣味はないぞ。大体鍵はどうした」

「ひみつー」

 

 先生もどこから入って来たのか知らないのかよ。

 仲いいのかな、この二人。年の差はありそうだけどいったいどういう関係なんだろう。

 

「それで結局、何お話だったの? 話せないような病気?」

 

 ぐるん、と氷蜂ちゃんの顔がこちらを向く。

 

「氷蜂」

「いいですよ。話しても」

「えっ、君がそういうなら……。命拾いしたな」

 

 今の先生チンピラっぽかった。

 服を選ぶことを手伝ってもらうのに、男だっていう秘密を隠し続けるのは不誠実だと思う。話した結果として拒否されるかもしれないけど……。

 

「俺、実は男なんだ」

「まじ?」

「本気」

「ツいてるの?」

 

 ツいてる? なにが、って……ああ。

 

「そういうわけじゃなくて。今朝目が覚めたら女の子になってて」

「本気っていうか正気? もみじ?」

「嘘は言っていないよ」

「ふうん。そう言うこともあるんだ。変身かな」

「変身?」

 

 予想の斜め上な反応。これはいいのか悪いのかどういう感じなんだ?

 

「分からないならそれがいい。まあ男でも女でも変わらないもみじみたいなのもいるし――」

「おいこら」

「――例え正体が何であっても今が全て。仲良くしよう」

「ありがとう!」

 

 手を伸ばして握手をしてくれる氷蜂ちゃん。

 でもそれって俺が男に戻れたらまた赤の他人レベルの対応に戻るのか?

 

「それで、名前は?」

「はい?」

「私は氷蜂(ひばち)(あや)。あなたの名前を教えて」

湯川(ゆかわ)(けい)。今後ともよろしく」

 

 こんな感じで、氷蜂ちゃんと仲良くしてもらえることになった。

 自分の状況の一割くらいしか話せてないけど、それから氷蜂ちゃんは帰っていって、俺は花袋先生に晩御飯をごちそうになったりいろいろ教えてもらったりした。

 氷蜂ちゃんは何しに来ていたんだろう。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そんなこんなで次の朝。

 

「花袋先生、ブラがきついです」

「んなあほな」

 

 一日に一体どれほどの羞恥を受けるのだろう。

 寝間着代わりに借りていた病衣から、花袋先生が用意してくれた余所行きの服装に着替える。

 女性用下着(ブラジャー)の付け方など知らないので知らないなりにスマホで調べながらつけてみたのだが、どうもしっくりこない。

 

「僕の今使ってる奴と同じサイズなんだけど……何が原因だろう」

「間違えました、カップがきついです」

「そっか」

 

 しょうがないので()()()でぐるぐるまきにされた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「シャケ焼けたから持ってって」

「はーい!」

 

 二人で朝食の準備をする。ずっと一人暮らしだったからこういうやり取りもいいな。まるで新婚の夫婦みたいだが、そうなると今の見た目では100パーセント俺の方が新婦になってしまうのであまり深く考えないようにしよう。花袋先生は白衣を着ていないときはモデルのお兄さんのようだ。

 そして先生はどうやら和食派らしい。

 

「席についたね。ではいただきます」

「いただきます」

 

 朝は一杯の味噌汁から始まる。俺はパン食で済ませることが多いから実践してないけど。

 うん、おいしい。

 

「先生、今日は服を買いに連れていって下さるとのことですが、いったいどうやって行くんですか? と言うか行先はどこです?」

「隣の解形市のショッピングモールまで行く。もちろん車でね」

 

 花袋先生の運転が荒くないといいが。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「おはよ」

 

 ご飯を食べ終わって洗い物を行っていると、診療所ではない普通の玄関の方から氷蜂ちゃんがやってきた。

 間取りを覚えるのが大変。

 

 玄関から外へ出る花袋先生の後を付いていき、大きな車庫へと移動する。

 先生が『よっこいしょ』と車庫のシャッターを持ちあげると、黒塗りのボンネットが長い車が現れた。センチュリーではない。俺はいつも軽しか運転していないから、こんな長い車だとぶつけそうというか擦りそう。

 

 それにしても、ここはやっぱ立地が悪いわ。車庫までに階段をぐるぐる降りなければいけないし、担架運べなそう。

 

「さあ乗って。二人とも後ろでいいね?」

 

 先んじてドアを開けて待っている花袋先生。こういうところが女子にモテるのか?

 

「それでは出発」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「まずは靴が必要でしょ。それと下着類。普段着は最低上下三着として……慶くんは何か意見はある? どういうのが趣味だとか」

「正直何もわからないんでお任せします」

「そっか、そうだよね」

 

 出発して数分で氷蜂ちゃんはくぅくぅと寝息を立てていた。元々眠そうだったけど朝弱いのか?

 頭を俺の方に預けてくる。いい香りがする。やばいな煩悩。

 

「静かだね。ジャズでもかける?」

「氷蜂ちゃん起きちゃいますよ。好きなんですか?」

「運転中は歌詞がある曲よりも演奏だけの曲の方が好きかな。竹原ピストルとかだと事故りそう*1

「ひどい差別を見た。先生は運転お上手ですよ」

「それならよかった」

 

 本当のことです。

 藤盛市周辺はもう整備もされていなくてガタガタの道だから運転できるだけでもすごい。

 いつ崩落するか分からないくらいにひび割れていて怖いし*2

 

「……昨日遅かったんですかね?」

「氷蜂? ちょっとしたバイトかなー」

 

 そもそもこの街で成り立っている仕事はあるのだろうか。

 

 それからしばらく花袋先生と他愛もない話を続けながら、流れる景色を眺めていた。

*1
好きだけど

*2
そこまですぐ壊れない

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