TS異世界転生コメディ系   作:匿名希望

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「……暇そうだな、お嬢ちゃん」

 

 はす向かいに座っている身なりのいい男から、俺はそう話しかけられた。

 お嬢ちゃん、という呼び方が少し気に食わなかったが、見た目が少女なのも暇そうにしているのも事実なので、文句は言わないでおこう。

 

 ――馬車の座席に腰掛けながら、延々と変わり映えのない景色を眺める。

 そんな状況に陥れば、誰だって暇にもなるものだった。

 

「……とくにすることもないですからね」

 

 俺は敬語で、王宮からの遣いであり案内人でもある男に答えた。

 初対面でもあるし、何よりいちおうそれなりの地位のある軍人らしいので、言葉は丁寧にしておくべきだろう。無駄に反感を買うような真似はすべきではなかった。

 

 男も退屈で仕方がないのだろうか、苦笑のようなものを浮かべて雑談を振ってきた。

 

「――救世主、とやらについては説明を受けていてな」

「はぁ」

「女神の加護を授かった、凄まじい力を持った少女だと聞いている」

「……凄まじいと言われても、反応に困りますが」

 

 いや、まあ、たしかに超人的な能力なのだとは思うが。樹木の幹を剣でぶった切れる程度のパワーは出せるので、普通の人間には及ばないほどの戦闘力を俺は持っていた。

 もっとも技巧といったものは高くないので、べつに最強の存在というわけではないのだろう。師匠も言っていたとおり、技量の不足を才能で補っているにすぎなかった。

 

「そう謙遜するな。俺も実際に、救世主をひとり見たことがある。その魔術の効果に……神々しさすら感じたぜ」

「……救世主のひとり?」

「サクラ、って名前の少女だよ。お嬢ちゃんと一緒にやってきた救世主だ。知り合いなんだろう?」

「え、ああ……。はい、友人ですが……」

「彼女が王都にいる時に、大けがをした人を治癒する場面を目撃したんだ。一瞬で傷が治って、跡すらなくなったんだぜ。あれを見りゃあ、本当にこの世界の救世主だって思うのも当然だ」

 

 あまり魔術については詳しくないが、一般的には外傷を塞ぐには、相応の時間をかけて治癒をかけつづける必要があるらしい。その基準からすると、大けがを即時に回復させるのはありえない奇跡だった。俺も自分の力が化け物じみていると自覚していたが、佐倉のほうも相当に常人離れしているようだ。

 

 意外なところで彼の評判を耳にした俺は、もう少し詳しく聞いてみることにした。

 

「佐倉のことは、王都のほうだと有名なのですか?」

「ああ、どんな傷病でも治せるみたいだからな。(ちまた)じゃあ、“聖女”だなんて持て囃されているらしいぜ」

「は、はぁっ? 聖女ぉ?」

 

 あんまりにも似合わない称号が飛び出したせいで、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 いやいやいや、聖女って。

 言葉としては優しく慈悲にあふれた人物を思い浮かべるが、俺はあいつのことをこの世界で誰よりも知っていた。中身はとても聖女とは似つかない性格の野郎である。

 

 ――まあ、とはいえ。

 外見は彼も美少女になってしまっていたので、何も知らない人から見れば、そんなふうに映ってしまうのかもしれない。

 おそらく対面して話せば、佐倉が“聖女”などとは思いもしないだろう。俺もホリーから「男らしい」という印象を抱かれていたように、どうしても元の性別はにじみ出るものだった。

 

 だから、きっと。

 あいつは身近な人間からは、ちゃんと「男」と認識されているに違いない。

 俺はそう思っていた。

 

 

 

 ――だけど、佐倉と再会してから。

 俺はすぐ間違いに気づくのだった。

 

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