TS異世界転生コメディ系   作:匿名希望

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005

 

 ――王都に戻り、宮殿に案内され、国王と謁見する。

 

 そんな仕事を終えた俺は、客室の椅子に腰を下ろしてため息をついた。

 いちおう女神が直々に寄越した“救世主”なので、扱いは悪くない……というか、むしろ厚遇されているのだろう。しばらくは宮殿で過ごしながら、貴族やら軍人やらの主要な面々と顔合わせしつつ、休息を取るようにと俺は伝えられていた。

 

 いきなり魔物退治に向かわせられなかったことは、まあ僥倖だろうか。

 とはいえ王様の口ぶりからすると、地方領主からは「救世主をさっさと派遣しろ」とせっつかれている様子だった。王国各地を巡行させられるのも時間の問題かもしれない。

 

 今のうちに、都市見学でも楽しんでおこうか――

 そんなことを考えていた時だった。

 ノックもされずに、戸口が急に開かれたのだ。俺は眉をひそめながら、そちらに顔を向けた。

 

「…………あ」

 

 どこか戸惑ったように、小さくその少女は声を漏らした。

 

 誰だ?

 と一瞬だけ思ってしまったが、俺はすぐに身体的特徴から相手を理解する。

 

 亜麻色のふんわりとした髪は、俺と同様に以前より伸びているようだった。

 顔立ちはおとなしく、目はやわらかい印象を抱かせえる。うぶな少女のような印象だが、その“中身”を知っているとずいぶんギャップがあった。

 じつに半年ぶりに再会した、わが友人――佐倉に対して、俺は気さくに片手を上げて挨拶する。

 

「よっ」

「…………」

「どうした? 俺の顔を忘れたか?」

 

 怪訝そうな表情で言うと、彼は確認するような声色で尋ねてきた。

 

「……椎名……だよね……?」

「ああ。……髪型も服も違うから、わからなかったか?」

「い、いや……なんか、雰囲気が別人のように感じたから……」

 

 ……そんなに変わっていたか?

 意外に思ったものの――男子、三日会わざれば何とやらという言葉もある。半年間も剣を振り回していた俺は、生っちょろさも消えて印象が変化していたのかもしれない。

 

「こんな世界で暮らしていりゃ、俺だって成長もするさ」

「そ、そうかなぁ……」

「……にしても」

 

 俺は椅子から腰を上げると、戸口のほうにいる佐倉に近づいていく。

 距離を詰めるこちらに対して、彼はどこかよそよそしい態度を放っていた。まるで別人であるかのように。

 

「お前も……ちょっと、変わったな」

「そ、そう……?」

「ああ、なんとなく……」

 

 ――女の子っぽく見える。

 口には出さなかったが、俺は内心でそう思った。

 

 なんか言葉遣いが弱気で控えめだし、守られ系のお姫様みたいな印象がある。半年前は思いっきり野郎の口調だっただけに、余計に違和感があった。

 

 もしかして……?

 いやいやいや、以前は男らしさのある女性が最高! とか言っていたのが佐倉という男である。女らしさに目覚めることなんて、まさかあるわけがないだろう。それこそ本人が忌み嫌っていた“メス堕ち”にほかならないのだから。

 

「――お、いたいた」

 

 と、その時。

 廊下のほうから男性の声が上がった。

 誰だろうか? そう思って間もなく、一人の青年が姿を現した。

 

「おっと……きみが、例の剣聖の弟子かな? サクラの友人だっていう」

 

 ――精悍な顔つきの男だった。

 年頃は二十くらいだろうか。背も高めで、パッと見は好青年という印象である。煌めく金髪が高貴さを漂わせていた。

 そして、発言から察するに――佐倉と知り合いのよう。

 

「……初めまして。椎名と申します」

 

 相手の地位がわからないので、とりあえず俺は敬語で挨拶をした。

 すると彼は、右手を差し出しながら名乗る。

 

「ウルドール騎士団のロイスだ」

 

 聞き覚えのある所属だった。ウルドール騎士団――国王が保有する組織で、近衛も担当する騎士集団である。

 ということは――

 

「あなたが……私と活動をともにする方ですか」

 

 そう確認しながら、俺は彼の手を握った。

 すでに王と面会した時に、ウルドール騎士団の二名と佐倉のチームに加わり、魔物の平定任務に当たるよう告げられていた。この男――ロイスが、そのうちの一人なのだろう。

 

「ああ。遠からず、きみとも王国内を巡ることになるだろうな」

「なるほど……よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。その剣技の力を楽しみにしているぜ」

「……期待に沿えるかはわかりませんが」

 

 そんな言葉を交わして、手を放すと――

 ふたたび、こちらに向かって近づいてくる足音が響いた。

 

「――セルウィンっ」

 

 いち早く反応したのは、佐倉である。知人に対する名前の呼びかけだった。

 となると、おそらくは――

 

「やあやあ……遅ればせながら、僕も顔合わせにと思ってね」

 

 そう言って顔を覗かせたのは、優形(やさがた)の美青年だった。黒の長髪が中性的な印象を抱かせる。歳はロイスと変わらないくらいだろうか。

 肉体はあまり鍛えられているようには見えないので、おそらく彼の専門は魔術なのだろうと見当がついた。

 

「見目麗しいお嬢さん、初めまして。僕はセルウィンです」

「ど、どうも……。椎名です」

 

 お嬢さん扱いされることに思うところはあるが、いちいちツッコむと話が進まないので黙っておく。

 

「お二人は、もう佐倉とはそれなりに交流があるんですよね」

 

 そう質問すると、ロイスは軽い調子で言葉を返した。

 

「まあな。ここ三か月で、けっこう一緒に魔物退治に繰り出していたし」

「サクラさんのおかげで、僕たちも名声が高まってありがたいかぎりですよ」

 

 と、セルウィンのほうも答える。

 名声――その単語を聞いて、俺は馬車に乗っている時のことを思い出した。

 佐倉が聖女などと、巷でもてはやされていることだ。それが気になり、俺は何気なく尋ねた。

 

「そういえば……佐倉が“聖女”だなんて言われていると、小耳に挟みましたが……」

「おっ。都に戻ったばっかりなのに、よく知ってるんだな。そう――」

「彼女の治癒魔術は神の力そのものですよ。まさに聖女と呼ぶにふさわしい」

 

 などと佐倉の風評について言及した二人は、彼のほうに顔を向けた。

 いきなり話題の対象になった佐倉は驚いたような顔をしたが、すぐに恥ずかしそうに笑いながら口を開く。

 

「そ、そんな言われるほどじゃないよぉ」

 

 ……おい、なんだそのにやけた気味の悪い口調は?

 俺は眉をひそめながら、おもわず言葉をこぼしてしまった。

 

「でも、聖女なんて佐倉の性格とは似つかない称号だな……」

 

 それは俺の素直な感想だったが――どうやら、ロイスとセルウィンにとってはまったく違うと感じるようで。

 二人は反論するかのように、いきなり言葉を並べはじめた。

 

「いやいや、俺はピッタリな呼び名だと思うぜ。優しいし謙虚だしな!」

 

 はい?

 

「こんなに可愛らしいうえに、治癒の力も一流となれば……聖女と崇められるのも当然でしょうね」

 

 か、可愛らしい?

 

「え、えへへ……」

 

 おい佐倉、お前なに笑ってるんだよ!?

 

「佐倉――」

 

 俺はこらえきれず、彼に近寄ってその両肩を掴んでいた。

 

 過去を思い返す。

 こいつは俺に力説していたはずだ。

 男から女になった人間の、在るべき姿――

 

 俺は問い詰めるように、佐倉に尋ねた。

 

「勇敢さ、力強さ、格好よさ……それが大事な要素なんだろ……?」

「えっ? なんのこと?」

「TS主人公は男らしくあるべきだと言ってたじゃないか……!?」

「そ、そんなこと言ってたっけ?」

「言った! お前が酒に酔いながら説いてたじゃねぇかっ!?」

 

 そう肩を揺らすと、佐倉も思い出したのか目を見開いた。

 そして瞳に迷いのような色を浮かべながら――

 

「椎名……」

「ああ」

「わたしも、いろいろ考えたんだけどさ……」

 

 クソッ、こいつ一人称も変わってやがる!?

 

 困惑する俺に対して、佐倉はどこかしみじみとした声色で言い放った。

 

 

 

 

 

「――TSしてチヤホヤされるのって、やっぱり王道でいいと思うんだ」

 

 

 

 

 

 ――男からチヤホヤされて喜んでたらホモじゃねえかよぉ!?

 

 かつての佐倉なら、そう言っていたであろう。

 俺は変わり果てた親友の姿に、くずおれて涙を流すのであった。

 

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