ナイチンゲールは支えたい   作:織部よよ

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団体の最初期メンバー、鉱石病ではない外部要因による記憶喪失、身に持つ能力を振るおうと強制される環境(この作品では共通点)。

ドクターとリズって実は意外と共通点があるのでは、という気付きから生まれた物語。



基本ほのぼの、時々シリアス。どうぞリズとドクターの行く末をご覧あれ。


#0 綻び

*******  第■資料

 

 

 

理性を削る生活にはもう慣れた。毎朝4時に起きて、それまでの睡眠で回復させた理性を消費するべく作戦立案を行い、理性が切れたら倒れて、また起きて仕事をする繰り返しの生活。

 

自分にしか出来ないことかと言われたら、実はそうでもない。戦術立案に秀でているオペレーターたちも何人かいる。だがそれとは別に、信頼を寄せてくれているオペレーターたちが思いの外いるのだ。

 

今でこそケルシーが鉱石病の研究をある程度担ってくれているが、それも本来は私のやるべきこと。

 

チェルノボーグで目覚めたときには既に記憶はなく、私の中にはただ「鉱石病をなんとしても治さねば」というかすかな使命感だけが残っていた。それからすぐに戦闘指揮能力を発揮したせいか、今現在では作戦遂行にも精を出している。

 

 

 

 

理性を削る。

 

理性回復剤を少しだけかじる。湿布のような味がするし頭痛も起こるが気にしない。

 

それでも足りないときは源石を飲み込む。どうせ鉱石病が治らなければロドスの皆と道連れになるのだから、そのときは私の責任だ。みんなと一緒に心中でもしよう。

 

それでも倒れない。最近は、こんなところで倒れてやるわけにはいかない、とも思えてきた。前の私のせいでケルシーから疎まれようが、レユニオンから命を狙われようが自分が不治の病に罹ろうがなりふり構ってはいられない。

 

 

 

 

 

 

私は仮令自分がどうなろうと、今日という今日を生き延び、そして皆を生かさなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

…私がドクターにお会いしてから、もう2か月も経ちます。

 

マスクとフードを常に身に着けており、初めはとても不気味な人だと思ったのですが…ふたを開けてみると意外に陽気な方で、お話していくうちに悪い人ではないと思うようになりました。

 

鉱石病や天災の研究家で、その知識や鉱石病に対する真摯さには少し驚かされます……更に戦闘指揮の能力にも秀でており、戦場でも普段の明るさが損なわれることはありません。その姿に何故かひどい違和感を覚えてしまうことは度々ありますが…。

 

 

私を秘書に任命した理由は未だにわかりません…私のような重症患者を任命する理由がありませんから……ドクターは「まあ、ちょっとした事情があるのさ」とおっしゃっていましたが、私の知ることではないのでしょう。

 

助手になる前のひと月…すなわち、ロドスに来てからの初めのひと月でのドクターの印象は、そのような感じでした…ああ、この人なら、他のたくさんのオペレーターたちに慕われているのも不思議ではないと。

 

 

 

 

ですがその印象は、その後のひと月で全く別のものへと変わりました…。

 

 

 

 

…まず驚いたのは、ドクターと一緒に仕事をする執務室ではあの方はほとんど口を開かないこと。

 

普段オペレーターたちと楽しそうに話している姿は見る影もなく…ただ黙々と、何かにとり憑かれたかのように書類を整理しているのです……そのマスクの下の顔はわからないので、初めてお会いしたときより不気味に感じます…。

 

そして、一番驚いたのは…一日に数度、意識を失って倒れるのにも関わらず、目を覚ましたときには何でもないように……そのときだけ、一瞬「いつもの」陽気な口調になることです…。

 

 

聞くところによると、ただ単に一時的に理性を回復している、とのことですが……正直、異常の一言で終わるものではないでしょう…。

 

そんなドクターは、今日も変わらずに淡々と書類の整理をしていますが……何がそこまでドクターを駆り立てるのか…少し、気になります。何故だか、あの方が倒れるたびに私の心が__既に壊れて閉じ込められているはずの心が__鈍く痛むのです…。

 

 

「…ドクター、少しお聞きしたいことがあるのですが…」

 

「……なんだい、ナイチンゲール」

 

 

…ドクターは動かしている手を止ないまま応じてくれましたが、その声音はひどく平坦で、まるで感情らしい感情が感じられません…。

 

 

「…ドクターが日に数度倒れるのは理性を削るからだとお聞きしていますが…」

 

「ああ、そうだね。毎日毎日倒れては起きて倒れては起きての繰り返しだ。だが今のところ作戦などに大きな影響はない。もっとも、心ばかりにこの身を気遣っているだけだから、源石を摂取すれば倒れずに済むが」

 

「……源石を摂取、ですか…?そのようなことをすれば、貴方も鉱石病に罹ってしまうのでは…」

 

「だろうな。だが、既に1度や2度では済まされない量の純正源石を服用しているが、現時点では体に何か影響が出ているわけではない。現時点ではな。もし罹ったとしても、ただ他の皆と同じ容態になるだけだ。むしろ研究面を見ればメリットとも言えるだろう…それが、どうかしたか?」

 

 

…どうかしたか、で済まされるものではないでしょう……何故、どうして貴方は…

 

 

「…何故、そこまで平気でいられるのですか……何がそこまで貴方を動かすのですか……私には、それがわからないのです…わからないのに、貴方が倒れるたび私は胸が苦しくなる………どうしてでしょうか…?」

 

「…只の使命感と、僅かな反骨精神だけさ。君が気にするほどのものではない」

 

「……そんな言い方をなさらないでください…どうしても、教えていただきたいのです……白紙の心がどうして痛むのか…それも含めて……」

 

 

…どこか、放っておけない雰囲気を感じるのです…。まだ顔を合わせてから2か月だというのに……まるで、写し身を見ているような…。

 

 

「……はぁ、わかった。そこまでナイチンゲールが食い下がるのも珍しいし、その原因不明の胸の痛みも気になるからな」

 

 

…そう言ってドクターは、独り言のようにぽつり、ぽつりと話し始めました。

 

 

 

 

 

「私も記憶喪失だという話は、前にしたろう。チェルノボーグで集中治療を受けていて、それが奇跡的に成功した代償とも言うべきか。目覚めたばかりの私には、それはもうびっくりするくらい何もなかった。その中で唯一残っていたのは、『鉱石病をあらゆる手を使ってでも治さねば』という、ほんのわずかな使命感だったよ」

 

「その後レユニオンの包囲網を抜けるために、すぐに戦闘指揮を執ってね。手術から復帰したばかりの人間にはひどく酷だったなと、今では思うよ。その後、ロドスに逃げ帰ってからいろいろなオペレーターたちとひとまず話をしたよ。聞くに、今の私は以前とはだいぶ変わったらしい」

 

「それでも私の戦闘指揮能力や、鉱石病に対する知識なんかは健在らしくてね。それが唯一の救いとも言うべきだろう。もし記憶喪失になって、そんなものまで失ってしまっていたら、私はここにいる意味も、この使命感の投資先もないから」

 

「…まあ、最近は生活にも慣れてきたり、他の外部からのオペレーターたちともそれなりにうまくやるようになって、悪くないと思い始めてきた。それと同時に鉱石病に対するやるせなさや反骨精神も養われてきたのさ」

 

「こんなところで諦めてやるわけにはいかない、私はまだ動けると。誰から疎まれようが、誰から命を狙われようが、さっき言った通り鉱石病に罹ろうが………私は決して死ぬわけにはいかない。この力が必要ならばいくらでも身を粉にしなければならない。倒れるくらい何ともないというわけだ」

 

 

…ドクターの声は既に疲れ切っています。少なくとも、私にはそう聞こえるのです……。

 

それに、先ほど感じた「写し身」かもしれないという予感……あれはやはり間違いではなかったようです…。

 

 

 

……ドクターは、私と同じなのです。一見自らの意志で尽力しているように見えますが、それはドクターと周りがそう思い込んでいるだけでしょう……私のように枷をはめられ、自由に動くことを許されず、身に持つ力を捧ぐように求められているのです、きっと……しかも、ロドスにいる人たちが無意識に期待しているのですから、ドクターも周りの人も気付かないのです…。

 

……ああ、今ならわかります。私の胸が痛む理由が…そしてある思いが、空っぽな私の中にあることにようやく気が付きました…。

 

その思いは…私に杖を握らせ、そしてドクターの方へと歩かせます…。

 

 

「どうした、ナイチンゲー……っ?」

「…ドクター……」

 

そして私は、座っているドクターの頭を胸にそっと抱き入れました…マスクをしていようが、お構いなしに……。

 

同時に、私の目からは抑えられない涙が溢れ出てきますが……仕方ありません。

 

 

「私は…貴方を癒して差し上げたい、支えて差し上げたいと思っています…貴方の今の環境が、私と同じに思えてならないのです……ですが、私に出来ることなど、そう多くはありません…」

 

「……これは、気が付いたら勝手に体が動いていました…こうすることが正しいのだと…なんとなくですが…」

 

「……ですから、可能な限り貴方のお傍にいさせてください…貴方が自らに呪いをかけるというのなら、私はせめて少しでもその苦しみを和らげたい____

 

 

____もう誰にも知られずに、独りで抱え込まなくともよいのです……」

 

 

 

…私はドクターにそう告げて、更にこの方の頭を強く抱きしめます……かつて、同じような境遇にいた私がいるから大丈夫だと…。

 

 

「…もしかして、泣いているのか?」

 

「…お許しください。今は、止まらないのです……私は壊れているはずなのに…」

 

「………ナイチンゲール、これは君が泣くほどのことではない。私が果たすべき責務なのだから。それに君に迷惑はかけられない、秘書にしたのも君の症状の緩和の糸口になるかもしれないと思ったからで……」

 

「……それでも、構いません。これも、私がしたいと思っただけですから……それとも、ご迷惑でしょうか…?」

 

「……参ったな。実のところ、このまま微睡んでしまうくらいには、安心しているらしい。済まない……ナイチンゲール…」

 

 

………もう少し、このままでいさせてくれないか。

 

 

 

 

…その機械的とさえ感じる声には、少し涙が混じっているように聞こえます……きっと、無意識にも気付いてくれる人を欲していたのではないでしょうか……。

 

 

「…良かった」

 

 

…そのまましばらく、私たちは鼻をすする音を執務室に響かせていました。

 

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

 

…もし、何か困りごとが起きたり、お疲れになったときは…遠慮なくお申し付けください。また今日のように…私に出来ることを尽くさせていただきます……。

 

 

 

……ですからどうか、貴方がいずれその役目を終える時が来るまで……貴方の傍にいさせてください。

 

 

…ドクター。

 




放置ボイス「……貴方も自由な鳥になる夢を見ていますか?」って完全にそういうことだと思うんですよね。

だってドクター、記憶喪失で右も左もわからないままロドスとかいう方舟で仕事しかやってないし。
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