ナイチンゲールは支えたい   作:織部よよ

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タイトルでわかる通り、アンソロの派生の話です。リズが秘書になったことでどう分岐していくのか…ということに重点を置いていきましょう。




……OF-LPA-EXの3パートの挿絵、投稿する数週間前にラフが出来上がったのを加筆・修正せずにそのまま投稿してしまったので挿絵内の文と本文とで齟齬が生じてましたが、本文の方が正しいです。ややこしくてすみません。




…ちなみになんですが、ボイスの信頼タッチで「ドクターが明確にスキンシップをしている」ことと「リズが突然のことに驚いているような声を上げている(ように聞こえる)」ことが判明しました。信頼200以外のボイスであまり見られない感情の揺らぎを見られる信頼タッチはめっちゃ稀有なので今一度聞いてみてください。幻聴だと言われたらそれまでですが(;‘ω’)



#10 エクセプショナル・サルカズ

 

「…………」

 

 

平和だ。

 

緊急の出撃はここ最近で1度も起きていない。たまにレユニオンの残党が発見されるが、うちの戦力ではメフィストらなどと対峙した時のように特段苦戦することもない。

 

今日も今日とて書類整理くらいしかやることがないだろう。とは言ってもその書類がかなり多いわけだが。

 

 

Piririri……

 

若干手持無沙汰な時間を噛みしめていると、唐突に備え付けの電話が鳴ったので出ることにする。これは外線の方だ。

 

 

「はい、もしもし。ロドス・アイランドですが……」

 

『もしもし、××大学医療研究機関の○○だ。“ドクター”というお方に話があるのだが変わっていただけないだろうか』

 

「ああ、○○か。私がドクターだが、いったい何の要件だ?まさか、例の件が受理されたとでも?」

 

 

もしそうであれば寝耳に水どころの話ではない。一気にいろいろな目処が立つ。

 

 

『そのまさかだよ、ドクター君。こちらでも未だに研究しきれていない部分もあるが、それまで後少しでなるべく成果を出してから提供するつもりだ。君のような権威の頼みともあれば、僕も多少の無茶は押し通すものさ』

 

「ありがとう、私は記憶喪失だというのに」

 

『持ちつ持たれつ、というやつだよ。僕は君への借りをいつか返したいと思っていたんだ』

 

「本当にありがとう。それじゃあ、仔細は後日詰めるということで」

 

『お互いに頑張ろう、ドクター君』

 

 

通話を切る。

 

相手はかつての私とそれなりの関係を築いていた(深い意味はない)とある大学医療機関の研究者で、私はかつてお世話になっていた…らしい。

 

それにしても、まさかこれほど早く受理の連絡が来るとは思っていなかった。早くて半年くらいはかかると思っていたのに、これは本当に行幸過ぎる!

 

 

「ドクター…?何か、嬉しい事でも…?」

 

「ああ。と言ってもまだ先の話になりそうなモノだがな」

 

 

これで当面の目処は立った。これからのことを考えると早めに結果が出るといいが……まあ、そこは私の方でも粉骨砕身しないといけないな。

 

 

 

 

 

ここ最近の平和に加えて、喜ばずにはいられないことが2つほど出来た。

 

1つは先ほどの会話にも表れていたが、リズが会話のときにテンポが遅れないようになったこと。今までは人に何かを言われても少し間が空いてから言葉を発することが多く、どこか浮世離れした印象を受けていたのだが、それがなくなり普通のペースで会話をするようになっている。これは彼女自身がこちら側に寄ってきていることに他ならないだろう。

 

そしてもう1つ、それよりも大きなことが_____

 

 

「そうだ、リズ。例の書類は揃えてくれたか?」

 

「はい…最近になってオペレーターになった人たちの資料、ですね…こちらです」

 

 

そう言って彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

歩いてくる。

 

 

そう。

 

つまり、リズは杖を持たずに歩くことが可能になったのだ。もちろん、限定的な範囲でだが。

 

これがどれ程大きな意味を持つか。どれだけの価値があるのか。

 

彼女がロドスに来てからすぐにオリジニウムの毒素を抜いたのはいいものの、それだけでは当然歩くことなどほぼ出来なかった。それからずっとリハビリを定期的に行い、ようやく少しの距離であれば杖なしでも歩けるようにはなったのだ。執務室から彼女のよく行く場所(隣の秘書用の部屋、宿舎などか)には歩いて行けるように。

 

 

もう一度言おう、限定的な範囲であれば、彼女は歩けるようになったのだ。

 

非常にうれしい。ただし、完全に治すには細胞単位でどうにかするしかなく、歯がゆいものだ。今のロドスではそれが出来る余裕がないから、それだけが悩ましい…しかし、まあ。

 

 

「……はは」

 

「?ドクター…?」

 

「…ああ、いや。最近、嬉しいことが続いて顔が緩まずにはいられないんだ……資料ありがとう」

 

 

先日のシエスタでまだまだオペレーターへの歩み寄りが足りないと自覚した私。そこでまず比較的最近にロドスに加入した物たちから知ろうと思い、こうして時間のあるときにそれぞれのプロファイルを見ようと思った次第である。

 

1人1人の資料を見ていくと、とあるオペレーターのものに少し気になる記述があった。正確には、正規の記述に付与された別途の資料に、だが。

 

 

「『サルカズ族はお互いに反目し合うものだ』という風潮、常識をあまり気にしていない同族のオペレーターが数いる中で、彼女は典型的にその常識を持ち合わせており、作戦における連携の強化のため個別の改善の必要がある…か」

 

「メテオリーテさん…ですか。私と同じ、サルカズの……」

 

「ああ。傭兵としての活動が長く、その前はファイヤーウォッチ小隊というところに所属していたらしい。サルカズにしては異質なオペレーターらしいが……この通り、同郷の人に対して少し穿った視点にを持っているみたいなんだ。だからどうにかそれをなくす…とは言わないまでも、軽減出来たらとは思うんだが」

 

 

だが、こういう社会的な問題は解決が難しい。世間が作り上げた偏見ほど厄介で大きいものなんてそうそうないからだ。幸い、うちにいるサルカズはリズを筆頭になんともない人らが多い。ハイビスカス姉妹は言わずもがな、ワルファリンやミッドナイトもサルカズだがいい奴らだ。それにシャイニングも優しい……まあ、リズとかエンカクとかは例外としてもだ。

 

 

「うーん…………あっ」

 

 

そうか。メテオリーテはきっと今までの経験からサルカズに対しての偏見__この場合はむしろ偏見というより常識か__が染みついてしまっている。しかしロドスでは通用しない。それならうちにいる他のサルカズともっと仲良くなってもらって、払拭すればいいのか。

 

だが、それを表立って伝えてしまうときっと身構えてしまう。それなら__

 

 

「良いことを思いついた。リズ、君に協力をお願いしたい」

 

「私に出来ることであれば、お手伝いいたしますが……いったいどのような?」

 

「ああ、それはな…」

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

ロドス・アイランドには、サルカズが多すぎる。

 

私がここに加入してから、一番目下で気になっていることだ。

 

私は自分でも普通のサルカズ人とは違うと自覚していたし、だからこそ社会に蔓延するさまざまな私たちへの差別もある程度理解も納得も出来ている。だけど、それとこれとは違うでしょう…。

 

 

「止血鉗子!」

 

「繁栄か……あるいは滅亡か…」

 

「お前が相手か?それともお前か?」

 

 

皆が皆、ロドスでの生活をそういうものだとして受け入れ、他のサルカズともなんら不和を起こすことはなくある程度仲良くなっているように見えた…エンカクさんは、ちょっとわからないけど。

 

長年こびりついた常識は、環境が変わったからといってそう簡単に改変するものではない。それは私が誰よりも知っている。頭ではわかっていても、どうしても脳が追い付かないんだ。

 

 

だからこそアーミヤから告げられた指令は、私にとっては福音とも地獄行きの宣告とも取れるような意外なものだった。

 

 

「ええっ!?私たち5人が同じ宿舎に!?」

 

「はい。ドクター直々の提案で、皆さんの仲がより強固なものになればということで」

 

「で、でも皆サルカズだし…」

 

「ドクター直々の、ご命令ですよ?」

 

「う゛っ……」

 

 

そう言われては、私は逆らうことが出来ない。しぶしぶ受け入れるしかなくなる。

 

 

「それじゃあ、頑張ってくださいね!」

 

「ちょっと待って!置いてかないで__」

 

「宿舎は5人が規定ですから!」

 

 

必死の懇願もむなしく、笑顔で修羅場に放置されてしまう羽目に。

 

…とりあえずソファに座ろう。

 

 

「あの……大丈夫、ですか…?何やら、大変そうな表情ですが…」

 

「え……」

 

 

ソファに座った直後に後ろからおもむろに声をかけてきた(というより心配してくれた?)のは、ロドスの中でも非常に優秀な医療オペレーターだと聞いているナイチンゲールさん。ドクターの現秘書で、入職したときにも軽く会話をしている……といっても、私の方は少し避け気味になっていたけれど。

 

というより、ドクターの秘書なら何か知っているのでは。

 

 

「ねぇ、ナイチンゲールさん。今回のこの指令の意図とか、ドクターから何か聞いてないかしら?」

 

 

淡い期待を込めて尋ねてみたものの。

 

 

「…すみません、私も急に言われたので……」

 

 

私の運がないのか、彼女は少し逡巡した後申し訳なさそうに答えた。そんな顔をしないでほしい。というより、戦場でのナイチンゲールさんと目の前にいる彼女、印象が違って見えるのは気のせいかしら?

 

 

「でもまあ、私はなんとなくわかりますよ、この状況とドクターの意図」

 

 

横の一人用ソファから会話に参加してきたのは、ええと。

 

 

「確か、ヴィグナさんだったかしら。それで、意図がわかるって?」

 

「はい。あたしは別にそんなつもりはなかったんですけど、皆さん単独行動が大好きな方たちでしょう?サルカズということもあるでしょうし」

 

「…そうね、下手すれば毎回この状況になる。それだけは避けたいわ」

 

「ということは…何か、共同で成果を出せば良いのでしょうか……」

 

「それが妥当でしょうね」

 

 

…あれ?ナイチンゲールさんにヴィグナさん、思ったより協力的?

 

この部屋には現在、5人のサルカズがいる。私、ヴィグナさん、ナイチンゲールさん、そして彼女と同じ医療オペレーターのシャイニングさんに一番の問題児__イフリータだ。これでもイフリータは最近は少しずつ改善されてきているらしいけれど。

 

そんなちぐはぐな私たちが宿舎で出来る共同作業……明確に結果を残せるようなことは出来るかしら。

 

シャイニングさんは奥の方で椅子に座って本を読んでいるし、イフリータはソファに寝転がってすごく面倒くさそうな顔をしている。やりづらいことこの上ない。

 

何かあるかしら…。

 

 

「そういえば……キッチンがありますね…何か、協力して作れないでしょうか」

 

 

ふと、ナイチンゲールさんがそんなことを口にした。彼女の視線の方向を見やると、確かにそこには広めのキッチンが。

 

なるほど……料理ね。

 

この空間において出来ることは少ない。それに加えてドクターに目に見える形での共同成果を示せるという点では、料理は最適解だわ。

 

 

「ナイスよ、ナイチンゲールさん!それがいいわ!」

 

「でも私たちだけじゃダメですよね」

 

 

ヴィグナさんの言う通り、この作戦において5人全員が参加することがほぼ必須。だけどイフリータやシャイニングさんに、果たして協力してもらえるかしら。もし本当にロドスのサルカズが、私の聞いていた通り反目することがないのなら好感触を示すだろうけど……目の前のイフリータは、結構嫌そうな顔をしている。しかし彼女も別にそういう常識を持っていないことは、なんとなくわかっているの。

 

 

「イフリータさん……どうでしょうか…」

 

「……オレサマは手伝わねえ。けど、どうしてもっていうときが来たら仕方なく力を貸してやる。仕方なくだからな!?」

 

 

やはりというべきか、イフリータは協力的ではない。さて、どうやって交渉しようかしら__

 

 

「…わかりました」

 

「__えぇっ、今のでいいの!?」

 

 

ナイチンゲールさんのまさかの対応。なぜ?

 

 

「はい…彼女は、自分の力をよく理解していますから」

 

「その割には、あなたに飛び火が行きそうになったわよね…?」

 

 

少し前の作戦で、暴れていたイフリータの火がナイチンゲールさんに向かったのは記憶に新しい(ナイチンゲールさんは自前のアーツで無傷だったけど)。

 

まあ、イフリータのことは一旦置いておこう。残りはシャイニングさんだわ。

 

 

「私はお手伝いしますよ」

 

「へ…って、うわぁ!いつの間に後ろに!」

 

 

腰を上げて彼女の元へ向かおうとするよりも先に、既に最後の1人がすぐ近くまで歩み寄っていた。あんまりにも突然なんだから、驚くのも仕方ない。割にその隣にいるナイチンゲールさんは、シャイニングさんの協力が当然かのように眉1つも動いていなかったように見える。そういえばこの2人はロドスに来る前から同じ団体に属していたらしい、というのを今思い出した。

 

 

「これでひとまず作れそうですね。あんまり本格的なものは厳しそうなので、何か軽いお菓子のようなものでも作りましょうか!」

 

「そうね……冷蔵庫にあるものだと、クッキーとか作れそうよ。それでいいかしら?」

 

「私は、構いませんよ…ですが、私は少々足が不自由なのでご迷惑をおかけするかもしれません……」

 

「私も別に、大丈夫ですよ」

 

「安心してください、ナイチンゲールさん。こういうのは持ちつ持たれつですから!」

 

 

 

…今まで接してきた同郷の人たちとは違って、皆礼儀正しいし協力的だ。ここでは、私も認識を改めた方がいいのかしら。

 

そういう考えが脳裏をよぎっていくのを感じて、戸惑わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「リズ、材料を混ぜるのはいいですが顔についていますよ…」

 

「……私は、気にしません」

 

「動かないでください。今拭きますから」

 

「…手は、止めませんよ…」

 

 

 

 

「クッキーの型紙を作りましょう!」

 

「ヴィグナさんは経験があるのかしら?」

 

「いえ。実家にはちゃんと複数の種類があったので、型紙から作るのは初めてです。ですが何事もチャレンジ精神。やらなきゃ進めないんです!」

 

「作れればいいのだから、そんなに難しい形じゃなくても良さそうね。普通に丸とか」

 

「私はこれにかこつけて、ドクターへの日頃の感謝に作る予定なんですがメテオリーテさんはどうします?」

 

「あー…いや、私はヴィグナさんのお手伝いをするわ」

 

 

 

 

「ぐぬぬぬ…………」

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

順調に進んでいたクッキーづくり。けれどいよいよ焼く工程の準備に入ろうかというときに、ある重大な問題があることに気が付いてしまった。

 

 

「あれ……オーブンが起動しない?」

 

「え、ここまで来てですか?」

 

 

…そう、どうやらオーブンが故障しているみたいなのである。一番大事な工程と言っても過言ではないのに。

 

 

「…メテオリーテさん。オーブン抜きで、クッキーを焼いたことは…」

 

「流石にないわよ……」

 

 

ヴィグナさんも手詰まりといった様子。

 

どうする?何か別のものを今から作り直す?いやでも皆の努力を無駄にするわけにはいかないし…かと言ってこのまま生で提出するわけにもいかないし…火を起こすにしても火加減とかかなり難しいだろうし……。

 

 

「クックック…どうやらオレサマの手助けが必要なようだなァ!!」

 

「い、イフリータ!?ちょ、ちょっと待って!」

 

 

確かに彼女は火を操っているけど、それとこれとはまた別の問題じゃない!第一彼女のアーツコントロールはあんまり信用できないし…!

 

 

「あンだよ、火が足りねンだろ?大丈夫だ、オレサマのいつも使ってる火炎放射器もあるからな!」

 

「い、いつの間に……でも、一歩間違えたらこの宿舎が火の海に__」

 

「イフリータさん…くれぐれも、焦げさせないように……」

 

「__ナイチンゲールさん!?」

 

 

この場では確かに、確かに最適解に近いけれども!味方がいない!?ナイチンゲールさんって結構天然なのかしら…!

 

 

「よっしゃぁ!このイフリータ様がBBQと同じように焼いてやるぜ!!」

 

「やっぱり直火じゃ危ないって_____」

 

 

 

 

 

__結論。部屋がそれなりに大惨事になった。だから直火じゃダメだとあれほど……。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「それで出来上がったのが、この焼きすぎたクッキーですか…何はともあれ、念のためにナイチンゲールさんの杖を持ってきて正解でしたね」

 

「申し訳ないです…」

 

 

その後すぐにアーミヤが駆けつけてきたので、部屋の状況含め私たちの共同作業の結果を提示した……直火焼きでそれなりに黒い部分が見えているクッキーを。

 

イフリータのアーツの加減が予想以上に上手だったことにはびっくりしたけど、それでもオーブンで焼くのとは勝手も適正も違う。案の定の結果ではあった。

 

これでアーミヤやドクターは認めてくれるかしら?

 

 

「それで、ドクターのために作ったこのクッキー、どうでしょうか…」

 

 

ヴィグナさんがひときわ申し訳なさそうに尋ねる。この共同作業において彼女が最も気合を入れていた(し作業の進行をまとめていた)ために、誰よりも悔しさやらを感じているのだろう。そういうところは非常に好ましいと思う。

 

さて、アーミヤの反応は。

 

 

「…確かに、今回の配置から目的を推察し、実行に移したことは結果はともかく成果は確実に出ていますね。本当にお疲れ様でした」

 

「……!」

 

 

よし、よし、よし。

 

自分は終始事務的に作業に取り掛かっていたと思っていたが、いざこうして「頑張った」と言われてそれなりに嬉しいと感じている自分もいることに驚かずにはいられなかった。見れば、イフリータはともかくシャイニングさんやナイチンゲールさんも心なしか嬉しそうにしている…ように見える。

 

 

 

 

 

サルカズは反目し合うもの……そうやって教えられてきたし、そう感じるのが当たり前だと思っていたけれど。

 

ここでは、その考えは捨てた方がいいかもしれない。少なくとも、今回で協力し合った4人は他のサルカズとは違う。これなら、仲良くなれそうだわ。

 

 

もう戸惑いは生まれなかった。

 

 

 

 

「ですが、流石にドクターにこれは届けられませんね……」

 

「んぐっ。やっぱりですか…」

 

 

ヴィグナさんがクッキーの入ったトレーを机に置く。

まあ、流石にこんな不出来で不格好で完成品とも言えないものを渡すのはドクターに申し訳ない。

 

 

「ヴィグナさん、今回は皆頑張ったと思うわ。だからまた別の機会に改めて作りましょう?」

 

「そうですね…あーあ、オーブンが故障していなけりゃなぁ__」

 

 

 

 

「そう気を落とさないでもいいさ。君たちはよく頑張ってくれたさ…それに、かすかに良い香りはしているじゃないか」

 

 

 

 

突然、この場にはいないはずの人の声が聞こえた。私がロドスに加入してから一番初めに聞いた、男性の声。

 

 

「「ど、ドクター!?」」

 

「ドクター…いらしていたのですね」

 

 

あんまりにも青天の霹靂すぎてヴィグナさんと揃って驚愕の声を上げてしまった。私たちとは対照的に、ナイチンゲールさんはさほど驚いていない。びっくり耐性が高いのか単に感情の振れ幅が小さいだけなのか。彼女であれば後者な気もするけど。

 

 

「や、リズ。どうだい……と聞こうと思ったが、この部屋の惨状や出来上がったものを見れば分かる。紆余曲折もありながら、全員が自分に出来ることをしたのだろう……イフリータ」

 

 

…ドクターがそんな気軽にオペレーターの本名を呼んでいいものなの?

 

 

「…なんだよ、ドクター。オレサマはちゃんと手加減したぜ。オレサマは悪いこともしてねえよ」

 

「ああ、クッキーの焼き加減を見ればわかるさ。自分の力と役割を理解し、それを拙いながらも適切に扱い全うする。随分とイフリータも成長したものだ」

 

 

そうやってドクターは彼女の頭をふわりと撫でる。彼女は少しくすぐったそうな、それでいて肩透かしを食らったような表情でなすがままになっていた。なんだ、随分とかわいらしい一面もあるのね。

 

ひとしきり撫で終えた後、次にドクターはナイチンゲールさんの側へと寄っていった。

 

 

「この分だと上手く流れを作れたみたいだな。お疲れ様、リズ。少々無理を言っただろう」

 

「いえ、そんなことはありません……少し、示唆しただけですから…」

 

「それならよかった。リズは何をやったんだ?」

 

「私は、生地作りの方を…普段やらないことだったので、新しい経験でした…」

 

「リズ、ハンドミキサーで混ぜているときに生地があちこちにひっついていましたが、随分と熱中していましたね。私が拭っている間も手を止めずに黙々と」

 

「はは、それは少し見たかったな。クッキー、もらっても?」

 

「恐らく、宜しいのではないでしょうか。もともと誰に宛てて作ったものではないですし。しかし少々火が通りすぎたような気もしていますが…」

 

「何、これくらいであればまだ食べられるであろう。1ついただこうか」

 

「それでは……はい、どうぞ。まだ熱がありますが」

 

「ありがとう、あむ………なんだ、美味しいじゃないか。もちろん焦げた部分が多いのはそうだが、中の方はしっかりと味がある。全く食べられないわけではなさそうだぞ」

 

「そうなんですか……あむっ………」

 

「どうですか、リズ?」

 

「……見た目にしては、美味しいですよ。シャイニングさんも、いかがでしょうか…」

 

「それにしても、本当にみんなよくやったと思う。リズがいなければもっと大惨事になっていた可能性が否めないが…」

 

「……これが、“仕掛け人”というものなのですね……心得ました…」

 

 

 

 

 

……………………

 

 

いろいろちょっと待って。

 

ちょっと待ってほしい。

 

 

「…ねえ、ナイチンゲールさん。もしかして知ってた?」

 

 

今の彼女とドクターの会話で判明した事実を確認するべく彼女に聞いてみると、少し申し訳なさそうな雰囲気で彼女は口を開いた。

 

 

「すみません…ドクターから、皆が共同作業を進められるように誘導しろ、と………嘘をついてしまい、申し訳ございません…」

 

「い、いやそれはいいのよ?今考えるとドクターなりの気遣いなんだろうし、それは別にいいの」

 

 

実際そこまで怒ったり気にしているわけではない。結果として一定の成果は出せた…と言える。そこまでは別にいい。

 

けれど。

 

 

「それじゃあ、もう一つ…ナイチンゲールさんとドクターの関係って、何?」

 

「……何って、リズは私の秘書だが。それ以上もそれ以下でもないだろう?」

 

 

いやそれはない。

 

 

と一言で切り捨てる衝動を必死にこらえたのは正解だと思う。

 

普通の秘書であれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!あんまりにも2人とも手馴れているような感じだったのに、ただの仕事関係で終わるはずがないのに!

 

更によくよく見てみると、ナイチンゲールさんの雰囲気が先ほどまでとはまた違ったものになっていることに気が付いた。戦場でのそれとも、私たちといたときのそれとも違う。これは__

 

__心を、開いている?

 

違う、もっとそれより質の高い……まるで、ドクターに寄り添おうとしているような。

 

 

……いやいやいや、まさかね。だってさっき否定してたじゃない。

 

それにドクターだって、サルカズの私を雇おうとするくらい変わり種…いや、それ以外にもたくさんサルカズがいるから変わり種なんてものじゃないけれど…入職のときの会話でも、それ以外のときでも人の好さそうな、それでいてしっかりと自分の目指すところを見据えている人だという印象を受けた。もちろん、ドクターは戦闘指揮官だったりロドスの上の方だったりで、私たちにはわからない苦悩があるのかもしれない。

 

それならナイチンゲールさんがそういう態度になるのもおかしくはない。ない、けれど…。

 

 

「…?どうした、メテオリーテ」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 

今はとにかく、今回の作業がうまくいったことを喜びましょう。私も、もう少しここにいる他のサルカズとも話してみようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

………後日、ロドスの中でのナイチンゲールさんの話を聞いて、やっぱり彼女とドクターとの関係の謎が深まることとなる。

 




ようやっと書けました。メテオリーテに意図せずして違和感を打ち込んでいくドクリズまじドクリズ。

え、CEOはどうしたって?

そりゃあもちろん「あーん」を見て卒倒案件ですよ。

そろそろUA10000行きそうなので

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