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これは間に合わなくて供養という形になったリズとアーミヤ
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なんか前のドクターが王様みたいになりました。
ついでにリズレベル90、S3特化3完遂しました。こらそこ潜在限凸まで諭吉叩けとか言わないで
__約1年前 カズデルにて
フードを目深に被った白衣の男と簡素な服を着たコータスの少女が、世紀末のような街を歩いていた。それなりの身長差があり、2人の服装からある程度関係を邪推されそうである。ただし現在、彼らを不釣り合いだと揶揄うものも、怪しいからと警察に通告するものもこの街にはいない。代わりに大量の、動かざる血の山が散らばっているだけである。
至る所から血生臭さを感じてしまう、まさに地獄絵図と言っても差し支えない状況。カズデルは大規模な内紛によって生命がすっかり枯れた地域となってしまった。
「”ドクター”、やはり生存者は見つかりませんね…」
「想定内だ。こんな大戦火の中で生き残れるやつはそういない。それは例え強い種であるサルカズ共でも変わらないだろう…あそこに倒壊していない建物がある。入るぞ」
「はい…」
”ドクター”と呼ばれた男は、とある製薬会社に勤めるしがない研究者である__というのは表向きの紹介であり、実態は研究者兼、製薬会社を装った武装集団の指揮官である。故にこういう場所には慣れているのだ。
やや傍若無人なドクターの振る舞いに傍らの少女は逆らわない。彼女もまた会社に所属しており、目的を一にしてここへ訪れているのだから。
それから2人は半壊すら免れている建物に無断で侵入し、生命の気配を探る。
「ドクター、これは地下室への扉でしょうか?」
「…そうみたいだな。もしかしたら中に人がいるかもしれない…!」
ある本棚の裏に隠されていた扉。その前に2人が立つ。
生者を探すためならば躊躇などしていられない。男と少女が慎重にその扉を開けると、予想通りと言うべきか地下へ続く階段が暗闇へと続いていた。
光を発生するアーツユニットを起動させ、2人は小走りで降りていく。
やがて階段を下りきると、また別の扉があることに気が付いた。そこも何故か鍵が壊れていたため、ドクターが先導しそっと押し開く。
「…誰ですか……?」
最低限の明かりだけが壁にかかっている、薄暗い部屋。そこにいたのは、最高級の絹糸を思わせるプラチナブロンドにブルートルマリンのような碧眼を持った、1人のサルカズの女性だった。
ただしその髪はひどく乱雑で、その眼はまるで何も見えていないかのように空虚。まるで中身のない、白紙のような。
「せいぞん、しゃ………………あ、ドクター!?」
そう少女がぽつりと呟く。それを聞き届けるよりも早く、男が目の前の女性に駆け寄る____まるで、久しく顔を見なかった恋人と偶然再会したときのように。
そして、その勢いのまま女性を思いきり抱きしめた。
「……貴方は、一体誰なのですか…」
「…私はクラヴィスという者だ…生存者がいて、本当に良かった……ッ!!」
さまざまな感情で顔を歪ませているだろう男。
彼の目からは、この場ではあまりにも異質で、それでいてひどく優しさを感じさえする涙がとめどなく流れていた。それに対し、女性の方は眉1つすら動かさずにいる。
「…鉱石病患者か。それなら尚更都合がいい、お前を私たちのところに連れていって治療させる」
「……治療…ですか?」
「ああ。私の会社はロドス・アイランドと言って、普段は製薬会社として活動しているが、鉱石病の研究なども行っていてな。その一環で、症状をある程度コントロールする技術が確立しているんだ」
「…それは……」
「見たところそれなりに症状が進行しているが、まだ手遅れじゃない。だから頼む、私と一緒についてきてくれ…ッ」
まだ涙のひかない顔のまま、男は目の前の患者に向かって手を差し出す。それを見たサルカズの女性は、全く感情が見受けられない無機質な瞳で男をしばらく凝視した後、ひどく緩慢な動作で伸ばされたものを掴んだ。
「……わかりました…貴方に付き従います…ですが、私は今歩けないので…」
「…そういうことなら、私が背負う。アーミヤ、行きと同じように周辺の警戒を頼む。これ以上いるかわからない生存者を探すより、目の前の救える命を救う方が先だ」
「了解です、ドクター」
ここまでの一連の出来事が、
*************
____無限の暗闇。
気が付けば、そんな途方もない場所にいた。いや、正確にはいるかどうかすらもわからない。
ここはどこだろうか。
それよりも…私は一体誰なのだろう。
そんなとりとめのない、しかし大事なものを問うているような感覚で過ごしていると、不意にどこからか、かすかに音が聞こえてきた。
違う…これは人の声だ。必死に叫んでいるように聞こえる。
やがてその声は大きくはっきりと聞こえてくるようになり…。
「……ドクター……ドクター…!」
「ぅ………ぁ……」
「…ドクター……私の手を…手を強く握ってください…」
不意に視界に入る、強烈な白光。顔も腕も口も、何もかもが自由に動かせない。
しかしその中で目だけははっきりとその機能を取り戻していく。白光を遮る、何者かの影。長く伸ばされている白金色の髪に、碧眼を携えた端正な顔立ち。ただしその顔は、驚愕と歓喜に彩られているように見える。
言われるままに、力の入らない手で女性に握られている方を握り返す。
「ぁ………」
「…ドクターの覚醒を確認しました……手術は成功です」
「ぐ………」
握り返したところで、意識は再び闇へと沈んでいった。
あれは………誰だったのだろうか。
*************
天から巨大な拳が振り下ろされたのかと思うくらい大きな打撃音。
「…………」
「……目が覚めましたか…成功です、ナイチンゲールさん!ドクターが覚醒しました!」
「…ドクター」
暗闇に再び沈む、その直前に見た女性。じわじわと冴えてゆく体。先ほどよりもはっきりと開けた視界に、彼女の顔を捉える………だが、やはり見覚えはない。
その女性が、あろうことかベッドから身を起こした私にすり寄ってきている…ここは、どこだ。そして…
「貴方は……誰だ?」
「………」
誰ともわからぬような人に距離を詰められても、知らない人なのだからまず疑問で頭がいっぱいになる。
しかし、その言葉はあまり宜しいものではなかったようだ。
「……私は、リズ…貴方を、救うために来ました」
リズ……リズ。初めて聞く名前だが、不思議と呼び慣れているように感じる。私の知り合いなのか…?いや、そもそもだ。
「私は誰なんだ…?」
「貴方は……私のパートナーであり、私たちの仲間です」
独り言めいた疑問にも、リズという女性は答えてくれる。パートナー、仲間………全く何も覚えていないが、ひとまずこの場では信用しよう。
「__Dr. クラヴィス。私の、一番大切な……ドクター、覚えていらっしゃらないのですね…」
それが……私の名前か。だが、こちらはひどく体になじまない…まだ「ドクター」という方が、私のことを差しているように思われる。
目の前のリズという女性、そして先ほどから傍らにいたもう一人の女性。どちらも思い出せない。そして何より、未だに全面的に信用出来ているわけではない。
「…私は、何も覚えていない……空っぽだ」
「…現段階で、私たちのことを信じろとは言いません……ですが、貴方こそ私の最も大切な人………少しだけ、時間をくれませんか…」
そう吐露する彼女の目には、ひどく感情が揺れていた。
*************
その後、命からがら「ロドス・アイランド」なる場所に帰ってきた私たち。間もなく私はPRTS、人事管理、基地建設……といろいろと叩き込まれた。正直一回ですべてを把握するのが難しいので、これらはおいおい覚えていくとしよう。
今現在、ロドスはそこそこ深刻な人材不足に陥っているらしく、ひとまず募集をかけようということになった。
話がとんとん拍子に進んでしまっているが、今は「そうしないといけないのだな」と半ば諦めつつ受け入れている。
「合言葉は『ペンギン帝国万歳』、アンタが今回の雇い主?あたしのことはエクシアって呼んでね。あの無愛想なオオカミとは違って、声をかけてくれればいつでも遊んであげるよ!」
「名前はテキサス。仕事は車両の運転と物資の輸送、そして要人の警護だ。任務に関する指示はできるだけシンプルに頼む」
10人募集した中で特に気になるオペレーターがいる。
まずはペンギン急便という会社に所属するトランスポーターであるエクシアとテキサス。この二人は最序盤の戦線を構築するのにおいて良いペアを組むことができ、更に同僚のために連携も一定以上に取れる……と思う。
「カジミエーシュ無胄盟のアサシン、契約により参上。コードネーム?うーん……じゃあプラチナにしよう。よろしくね」
次に、カジミエーシュという国からやって来た弓使いの暗殺者であるプラチナ。彼女の経歴そのものはすべて自己申告のため怪しいとされているが、素人目に見ても戦闘にたけているとわかる。あと恰好がなかなか際どい。
「皆、私たちのために協力してくれてありがとう。私は「ドクター」という者だ。戦闘指揮は基本的に私が行う。これからよろしく頼む」
「私は、コードネーム・ナイチンゲールと申します……主に戦場救護と支援を担っています……現在はドクターの秘書も務めているので、何かご用事があれば私に…」
そして、目下の最大疑問点。それが、今私の隣にいるリズ(頑なに名前を呼ばせようとする)だ。他のロドスの人から聞いたが、どうやら初対面ではないどころか前の私の秘書を長らく務めてくれていたらしい。だから私が目覚めた直後にあんなことを言っていたのか。
「よろしくねリーダー、ナイチンゲールさん!せっかくこうして一堂に会したんだし、パーティーでもしようよ!」
「…すまないエクシア、今のロドスでは余裕がない。少し後になるが、ささやかなものであれば出来そうだが」
「ロドスは現在、複数の機能がまだ復活していません……それらが元に戻り、十全な環境になれば、可能だと思われます…」
「じゃあ、準備はこっちでするからさ!パーティーは人生の娯楽なんだよ!」
「……うちは物を運ぶところだ、それくらいは用意してやれる」
「……そうか。なら是非お願いしたい。どうせこれから長い付き合いになるんだからな」
………いつの間にか、顔合わせパーティーを開催する運びとなってしまった。
*************
「それでは皆さん。これからの明るい未来と皆さんの健闘を願って__乾杯!」
『乾杯!!』
あれから私の指揮するチームに入っているオペレーターたちを集め、その日の夜に無事こうして交流会のようなものを開催するに至った。ペンギン急便の人らの準備の早さ…驚異的だったな……。
とは言え、何か緊急の強襲作戦でも発生しない限りこの時間は皆の心の慰安にもなるだろう。改めて提案をしてくれたエクシアには感謝をしなければ。
「ドクター、楽しんでいますか?」
「…アーミヤ」
私の隣までやって来たのは、ロドスの公的代表であるアーミヤという少女。初めてこの子を知ったときは「こんな小さい子がロドスのトップとか、大丈夫だろうか…」と、この組織を疑ったりもしたが、ふたを開けてみれば代表らしくしっかりとしたものを持っていることを知った。
どうやら私は、アーミヤとは浅からぬ関係にあったらしい。そのことを聞いたときに、前の私は2人を相手取るようなクソ野郎だったのかと自己嫌悪をしてしまったが、どうやら2人ともそうではないらしい。アーミヤとはそれなりに長い年月を過ごしてきて、リズとはこの1年でベストパートナーとさえ言えるくらいの関係になっていたとか。
「…今日隣にいる人が、明日もいるとは限らない。そんな不安を抱えた中で、それでも積極的に絆を育むのはとても大切なことだと思うよ」
「……そうですね。私はロドスの代表として、皆を生かし、導きたいと思っています。ですが立場上、全てのことに気を回すことは出来ません……ですから、ドクター。オペレーターたちには、リズさんと共に前向きに接していただきたいのです」
「分かっている。彼らを理解することで、私も作戦の遂行をよりスムーズにできるのだから」
私は、感染者の未来を取り戻すために動くロドス、そこで明確な役割を与えられるために目覚めたのかもしれない。
「ドクター、アーミヤさん……こちらにおられたのですね」
「あ、リズさん!」
「……リズ」
私が生まれ落ちて、最初から側にいた人。
この短い間でも、私のことをかなり気にかけてくれていることがわかった。コミュニケーションがとりづらいわけでもなく、何も分からない私に適切なアドバイスをくれる。何より美しい。
こんな人が私のパートナーだったなんて、一周回って現実感がまるでない。
「ドクター、楽しめているでしょうか…?」
「…まあ楽しいとは感じている。こうも賑やかな時間は全く嫌いではないことは確かだ」
「そうですか……それは、良かったです…」
…リズという人物は、信用してもいいような気がする。
彼女と接しているときに度々感じている、胸の奥の暖かみは…決して、不快なものじゃない。むしろ…今の私には、とても大事なもののように思える。
悪くない感覚だった。
「ドクター、何かお飲みになりますか…?」
「…ああ、そうだな。紅茶を頼む」
パーティーが終わり、片付けもした後。
私とリズは執務室に戻り、ゆっくりと夜の休息を取ろうということになった。
それからしばらくして、併設されている給湯室から2人分のカップを運んでくるリズ。ひどく手馴れた動作に見えたので、おそらくそれなりに前からの、彼女の仕事だったのだろう。
そのまま部屋のソファに合わせて移動し、腰を下ろす。
「リズ、ありがとう」
言いながら紅茶を飲む。深くコクのある味に、砂糖の甘みが程よく解けて混じり合っている……すこし甘すぎるような気もするが、かなり私の好みの味だ。
「…とても美味しい。特に甘さの加減がばっちりだ」
「…そうですか…」
そう呟くリズの顔は、何故かうれし泣きのような様相だった。
………しかし、これから私はどうなるのだろう。このまま記憶が戻らないまま、周りに前の私とのギャップを感じさせたままなのだろうか。レユニオンとやらを本当に鎮圧出来るのか、人員は増えるのか____鉱石病というものは、治るのか。
無数に湧いて出てくる不安が私の体を覆っていく。カップを持つ手は震え、視界はチカチカと閃き、このまま溶けてなくなりそうな錯覚を覚える。
このまま倒れてしまうのではないかと思ったとき__ふと、隣に人の気配を感じた。この場においては該当人物は一人しかいない。
「ドクター……」
明滅して滲んでいる視界に、リズを捉えた。彼女はひどく心配そうな表情を浮かべている。
それと同時にふわりと漂ってくる、ミルクめいた甘やかな匂い。彼女から発せられていることは想像に難くなく、加速度的に意識してしまう。
しかしそれとは逆にその甘やかさは私の体に深く入り込み、先ほどまで不安に囚われて形を失いつつあった体を再構成していく____視界も元に戻り、手の震えもなくなっていく。
気が付けば、先ほどまで感じていた嫌な感覚は一切消え失せていた。
「…ドクターは、私がお支え致します。ですから、安心してください…
小さく呟かれた言葉は…ひどく決意じみたものを孕んでいた。
*************
「…アーミヤさん、いらっしゃいますか?」
ドクターの秘書であるナイチンゲールが、ある部屋の前に立っていた。それは、ロドスのCEOとして日夜尽力しているアーミヤの部屋。
「はい、どうぞ」
発せられる声と同時に、その部屋の扉が開かれる。アーミヤがナイチンゲールを迎え入れたのだ。そのまま2人は中央にある炬燵のような机に腰を下ろす。
「…………」
「…………リズさん。私は、ちゃんとやれているでしょうか」
しばらく互いに無言のままでいたが、不意にアーミヤが口を開いた。ただしその語気はひどく弱弱しく、普段の振る舞いからは到底考えられないようなものである。
「…私たちは、ずっと前から感染者の問題を解決しようと頑張ってきました。当然、成果が出ないわけではありませんでしたが、つい最近ではレユニオンの問題も発生してきて…更に、ドクターは…記憶を失っていて……」
「ドクターが生きていたのは、本当に喜ばしいことです……ですが、本当にこのままドクターに、以前のように戦闘指揮を任せてしまってもいいのでしょうか…」
「いくらリズさんがいるとはいえ……とても、危険なことなのではないかと…思わずにはいられません……っ」
そう吐露するアーミヤの目からは、既に涙があふれている。
彼女がここまで感情をあらわにするのはとても珍しい。普段から組織のトップとして動いているのだから、私情を出すこと自体がそもそも許されないとすら認識していることもある。そんな彼女でも、この状況では涙を流すことを避けられなかった。そんな“家族”の姿を、ナイチンゲールはひどく痛ましい表情で見つめている。
ナイチンゲールがロドスに来た当初は、彼女は今の様子からは想像できないくらい無感情で無機質な
その碧眼は虚空を見つめ、その唇は動くことはなく……まるで自我すらも喪失しているような状態。かすかに存在していたのは、彼女をあの暗い部屋から連れ出したドクターとアーミヤ2人への__興味。当時は、感謝の念すら生まれなかった。
そんな人とすら言えなかったであろう彼女に、2人__特にドクターの方__はひたすらに寄り添った。あの地でただ1人見つけ出した人がこんな状態だなんて、そんな理不尽があってたまるか……と。
手を尽くし、時間を費やし、心を通わせ……ナイチンゲールは、徐々に人間性を取り戻していった。笑うようになり、冗談を言うようになり、喧嘩するようになり………そうして、彼女の中で次第にドクターとアーミヤに対する感謝の念が沸き上がり、自分が受けた恩を2人に返そうと思うようになっていったのだ。
彼女の記憶の原点は、暗い部屋
なれば、それと同じことをしようとするのは彼女にとっては単純な行為以上の意味合いがあるということだ。
「…!リズさん……」
「アーミヤさん……大丈夫です…」
ナイチンゲールは2人目の家族を優しく抱擁する。その碧眼は慈愛に満ちており、その唇はかすかに震えている。
「私は…他でもないドクターとアーミヤさんに救われました。ですから、今度は私があなた方をお救いする番です……必ず、ドクターのことは私がお守りいたします。アーミヤさんは、アーミヤさんにしか出来ないことを……」
「…リズ、さん……すみません、今は…」
*************
「ドクター……そろそろ、オペレーターの昇進をご検討なさっては如何でしょうか…」
「…昇進、ふむ」
ある日、リズからそんなことを提言された。
“昇進”。オペレーターたちのこれまでの功績を認め、階級を1段階引き上げる…らしい。それに伴って彼らの能力も大きく向上するらしく、昇進を果たすということはそれだけで大きな価値があるということだそうだ。
さて、作戦を遂行していくにあたって、確かにこれまでよく登用していたオペレーターたちには何度も助けられた。リズの言うことも一理ある。
「1回目の昇進であれば、左程手間はかからないと思います……どうされますか?」
「そうだな……思い切って、今メインで動いてもらっている12人と、要所で活躍してくれている他数人は順次昇進させようと思う」
「その12人というと…フロストリーフさん、ヘイズさん、テキサスさん、エクシアさん、グムさん、クオーラさん、ススーロさん、メランサさん、テンニンカさん、プラチナさん、アーミヤさん…そして、私ですね……」
「ああ。それに加えてショウ、ラヴァなども含め、おおよそ16人くらいになる。しばらくはそのための作戦を繰り返し行うだろう。その作戦も大部分はPRTSに任せられそうだから、少しゆっくりするかね……ここ最近はずっと理性剤を摂取していて頭痛がひどい」
なんなんだあの薬剤。一説によると「危険指定」と言われている芥子を配合しているらしいが、真偽のほどは定かではない。摂取すると頭痛が起きる代わりに思考が冴えるので忙しい時には多少無理をしてでも用いるのだが、いかんせんその副作用が重なると何も考えられなくなってくる。
「…パフューマーさんから、ドクター宛てに体の不調に効く香りの花を入れた茶葉をもらっています。まずはこちらでフレーバーティーをお飲みになってください…」
「ああ……ありがとう…」
そういってリズはいつものように給湯室へと向かっていく。
彼女、昔は歩けなかったらしい。今の様子では到底そうは思えないが、どうやら前の私やケルシーらが尽力してようやく人並みにまで機能が回復したのだとか。さらに言えば、昔は今よりも遥かに感情の起伏に乏しかったらしく、それもまるで想像がつかない。
「ふぅ……」
不安が消えたわけではない。これから私が頑張るしかないのだ。
自分の手が、随分と生気のないように見えた。
*************
また後日、無事に12人の昇進が承諾されたので最初の4人____すなわち、エクシアとテキサスとプラチナ…それからリズを昇進させる運びとなった。どうしてSoCを使うだけでお金や素材がかかるんだという嘆きに答をくれる人はいなかったが。
「エクシアとテキサスは序盤の戦線構築、プラチナは火力のある固定砲台、リズはその治療・支援能力にそれぞれ大いに助けられた。今回はその功績を考慮し、まずは4人を昇進させる運びとなった。力を貸してくれてありがとう、そしてこれからもよろしく頼む」
「ごひいきにしてくれて、ありがと~!」
「十分な報酬だ」
「プラチナのキラーランクだけじゃ足りないなんて、面白いことを言うね、アンタ」
三者三様。しかしなんとなく、私に対して猜疑心や不信感は抱いてないだろうとは感じている。良かった。
しかしリズだけはちょっと他と違う反応だ。少し申し訳なさそうにしている。
「リズ?どうかしたか?」
「……改めて、私がこんな待遇を受けていいのかと思ったのです……私ではなくとも、パフューマーさんなども十分昇進に相応しいオペレーターだと思いますが…」
……ふむ、確かに彼女の治療も素晴らしい。今でこそ爆発的な回復能力を発揮するススーロが代替しているが、ほんのちょっと前まではパフューマーも一線で活躍してもらっていた。しかし……まあ、な。
「…あまり上に立つ者としてはよろしくないのだろうが、リズは是非とも早々に昇進させたいと、個人的な感情があってだな……」
エクシアら3人は固まって会話に花を咲かせている。そこから1歩離れつつ、隣にいるリズに小声で耳打ちした。こと彼女の香りが目の前に迫ってきて、一瞬だけクラっとしかけたのは内密にしておく。
小さくて綺麗な耳から顔をそっと離し彼女の様子を窺う。秘書として怒られてしまうだろ
うか。あり得そう。
だが、そんな予想とは逆に。
「…………その、ありがとう、ございます……」
比較的落ち着いた表情でいることが多いリズ。そんな彼女の顔には赤みが差し、それと同時にわずかに視線を逸らされてしまった。それも左右に揺れている。
…………
………
……
「…かわいいな」
「え………」
「い、いやなんでもない。忘れてくれ」
何を浮ついた感情を抱いてしまっている…!今の私にはそういうことを気に掛ける余裕もなければ、きっと資格もないのだ。
そんなものはレユニオンの猟犬にでも食わせておけばいい。今は__必要ないから。
「さぁ、3人とも。今日も疲れているだろう、各々の部屋に戻るなり食堂に行くなりして体を休めるといい」
「リーダー、そろそろロドスも余裕が出てきたっしょ?今から昇進記念のパーティーでも開かない?小規模でもいいからさ!」
「ふむ、良い考えだ。しかし実は他にも今回昇進させる予定のオペレーターが十数人ほどいるんだ。彼女らの昇進がすべて完了してからではどうだ?」
「そういうことなら了解☆そいじゃおやすみ、リーダー!」
「おやすみ、ドクター」
「じゃあね、ドクター、リズさん」
「ああ、おやすみ」
*************
「………ふぅ」
ロドス内に存在している施設の1つ、大浴場。
駐在するオペレーターにはそれぞれ個室が与えられており、そこにはシャワー室も存在しているが浴槽は生憎とない。
体をしっかりと温めたいと考えるオペレーターたちの要望に応えたもの。それが、この男女別の大浴場なのだ。
今現在その場所を利用しているのは、元鳥籠の天使であるナイチンゲール。
「……クラヴィスさん…」
最愛の家族の名前を無意識にぽつりと呟いてしまう__それも、役職ではなく名前で。それほど彼女の中では「ドクターの記憶喪失」が重く響いている…。
実はドクター救出作戦の前に、手術成功の副次効果の話があがっていた。そのうち一番起きる可能性が高いものが、記憶障害と言われていたのだ。
ナイチンゲールは現代医療がわからぬ。彼女は生体知識と運用方法こそ他の医療オペレーターの追随を許さないが、それ以外のことはまるっきり。過去の兵士が戦場で直接患部をどうこうして処置をしていたのを、卓越したアーツ技術でやってのけているようなものだ。
それゆえ手術の副次効果についてあまりイメージがつかなかったのかもしれない。当人にしてみれば、ひどい後悔が押し寄せてくるくらいだが。
湯舟に張られたお湯の暖かさとは反対に、彼女の心の底にはずっと冷たいものが燻っていた。
『なぜ私がお前を助けたか、だって?そんなこと決まっているだろう、お前が鉱石病患者だったからだ。私は、必ず鉱石病を治す方法を探さなければならない…!』
『どうだ、最近の調子は…と言っても、お前の体は随分とボロボロのようだが。本当に、なぜお前のような者がそんなに傷を負わねばならんのだ……』
『お前は随分と生気のない面をしているな、それではせっかくの端正な顔立ちが台無しだろう……何?私がそんなことを言うのは珍しいだって?たわけ、事実を口にしただけだ。何の問題もありゃしない!』
『私の秘書を務めたい?体の調子が改善されてきたから?たわけ、あまり無理はするでない!せっかく治療がうまくいっているというのにまた悪化したら困る……何か役に立ちたい?ふむ……ならばまずはこの書類勢を仕分けしてもらおうか。これなら座ってでも出来るだろう?』
『……お前が自分の足で立てるようになって、本当に良かった…!そうだ、私のしてきたことに間違いはない…!これからはより多くの仕事を任せるからな、覚悟しておけ』
『……はぁ、お前も物好きだな。普通、私のような人格は好まれないものだろう。まだアーミヤの方が万倍、人に好かれる性質をしている……私が悪い人ではない、優しい人と知っている?抜かしておけ__たとえ悪になろうが、私のやることは変わらないのだからな』
『……私は一部のロドス職員からは“暴君”などと呼ばれている。実際自分でもかなりやりたいようにやらせてもらっている自覚はあるさ。しかし、本当はそうではないのだ。本当の私は、もっと穏やかで、気の小さい……なに、ただの昔話だ』
『………認めよう、ああ認めるとも!私は、お前をそれなりに好いている!…ただ、それはお前もだろう?ならば今ここで互いに誓おうじゃないか__この身命、互いに預けると!ゆめ忘れることは許さない。わかったな?』
『__お前の髪は、とても綺麗だ。ふわふわと絹糸のようで、それでいて1本1本がしっかりとまとまっている。実に撫で甲斐のあるプラチナブロンドだ……拾った日から時間が経って、随分と様変わりしたな____ああ、ああ。とても綺麗だ、リズ』
ドクターと今まで交わしたやり取りを思い出す。そのどれもが崩壊していた自我を繋ぎとめ、形作ってくれたもの__掛け値なしに、一番大切な思い出。
「おっふろー!……って、ナイチンゲールさん?」
「……エクシアさん?それにテキサスさんも」
「珍しいな、ナイチンゲールを見かけるのは」
そのとき、浴場の扉を開ける音とともに勢いよく入ってきたのはペンギン急便の2人。
過去の追憶を中断し、意識を2人に向けるナイチンゲール。
「…今日は、こちらで体を暖めようと思ったので。いつもは私の部屋でシャワーを浴びているのですが…」
「確かに、そういう日もあるよねー。あたしたちも今日は特別って感じ?」
「…改めて、昇進おめでとうございます。お2人とも…」
「ありがとー!でもま、あたしたちの実力はこんなものじゃないからね。ね、テキサス!」
「ああ。今は敵がぬるくて楽だからな」
「…ペンギン急便は、優秀な人たちばかりなのでしょうね…」
「人数は少ないけどね。ボスも面白いし、特にモ……いや、彼女はいいや。いつ帰ってくるかわからないし」
「…?」
「気にするな、こちらの話だ」
エクシアとテキサスは体を洗いながら。ナイチンゲールは湯に身を沈ませながら。あまりロドス内で話すことのない2人と1人は世間話を交わす。単に同じ場所で会った、それだけならば2人もあまり積極的に会話しようともしなかったのかもしれない。だが__
「ね、そう言えばナイチンゲールさんってリーダーの秘書だけどさ、なんかとっても仲良いよね?」
「ああ…確かに言われてみれば。私にしては珍しく、ずっと気になっていたんだ。どうなんだ、ナイチンゲール?」
外部からの協力の元ロドスの小隊に加入したオペレーターたちは、軒並みナイチンゲールのドクターへの態度に好奇心を煽られていたのである。当然、本人への興味もそれなりにあるだろうが。
しかしこのナイチンゲールというオペレーター、その素直さが輝く。
「私は今からおよそ1年前に、ドクターとアーミヤさんに拾われました…」
「…拾われた、だと?」
エクシアはおろか、テキサスすら困惑する。この鳥籠、遠慮も配慮も知らないと言わんばかりに語る口を閉じない。
「はい。カズデルで起きた内紛で、私が監禁されていた暗い部屋から連れ出していただいたのです…当時の私は、まるで感情らしい感情がありませんでしたが…」
「……監、禁?」
2人の表情が急激に冷えていく。
普段の陽気さが完全になりを潜め、エクシアは悲痛な面持ちをしてしまっていた。ナイチンゲールは語る口調こそいつもと変わらないのに、その内容はどう考えてもそれで通してよいものではない。
それでも彼女は止めない。まるですっぱりと過去のものだと割り切るように、まるで
「私は、記憶喪失を初めとする様々な外的要因の疾患を抱えているそうです。昔は立てすらしなかったのですよ…?」
「へ、へぇ…じゃあさ、リーダーのことはどう思ってるの?」
その言葉を聞くと同時に一転、ナイチンゲールの表情がふっと柔らかいものに変わる。先ほどまでの話とは違い、今度こそ雰囲気まで緩く優しいものへと移ろいだ。
「……私は、ドクターとアーミヤさんを“家族”だと認識しています。この1年、様々なことを支えていただき、協力し、乗り越えて…あの日私を見つけ出してくれた2人には、多大な恩をいただきました。ですから、今度は私がお返しする番なのです……」
「…………」
「…随分とドクターに似合うと思っていたら、そういうことだったのか。少し、羨ましいな」
「羨ましい……ですか?」
一足先に全身を洗い終えたテキサスが浴槽に入りながらそうこぼす。
「ああ……私も感情の起伏に乏しい方だから、よくわかる。とは言え、昔の貴方を実際に見たわけではないが」
「でもテキサスだって、今の方がいいよ。私のおかげ、ってね☆」
同様に体を洗い終えたらしいエクシアも続けて浴槽に浸かる。ナイチンゲールの目から見ても、この2人には単なる同僚以上の絆が育まれているように見えていた。
「…そう言えば、ケルシー先生を始めとする医療チームの方々に、容態の記録として映像を撮られていたような気がします。明日にでも聞いてみては如何でしょう?」
「え、それ見られてもいいやつなの?」
「はい。もう随分と、昔のことですから……少し、恥ずかしいですが」
*************
エクシアとテキサスから、ケルシーのところに行こうと誘われた。なんでも、昔のリズが患者の記録用にと映像として残っているらしい。私も確かにそれは気になるのでついていくことにする。
案の定、ケルシーには難色を示されたが、「昔の君を思い出す…とまでは言わずとも、きっかけになればいい」と最終的に許可をもらうことが出来た。そこにアーミヤがやって来たのだが、なんと彼女も映像を部屋に保存してあるらしい。「ホームビデオ」と言っていたが、その名状はどうかと思う。
そして結局、アーミヤ、エクシア、テキサス、リズの4人と一緒にいくつかのビデオを見る運びとなったのだった。
「うーん…先にケルシー先生の方を見ましょうか。リズさん、本当にいいんですか?」
「はい。今の私にとっては、文字通り記録同然のものですから…」
リズが率先して再生機にビデオを差しこむ。しばらくして画面が切り替わりそこに映ったのは、少しの検査機器が置かれた殺風景な部屋とその中心に座るリズの姿だった___ただし、その顔は今とはまるで違い完全な無表情。
もう度肝を抜かれていた。
『……ケルシー先生。これは、何をしているのでしょうか…』
『これは記録用の映像を撮っている。君のような例はあまり見かけないからな、残せるものは残しておくべきなんだ…さて、それじゃあいくつか質問させてもらう。まず、名前は?』
『……リズ。それが、私の名前です…』
『記憶喪失という診断が出ているが、自分の名前以外で覚えていることは?』
『……すみません、覚えていません』
『自分の体の容態についてはどこまで把握している?』
『……オリジニウムの毒素を吸入したせいで、記憶と下半身の神経に障害が出ているということは聞きました』
『OK。では次のフェーズに移る。ドクターのことはどう認識している?』
『……不思議な人。なぜ私をあそこから連れ出したのか、どうして私のような患者に構うのか…理解できません…』
『…それについては、彼に直接聞くといい。それでは、アーミヤについてはどうだ?』
『……同様です』
『…ふむ、わかった。では最終フェーズだ。君は、どうしたい?』
『……別に、どうも…私には、会話してくれる小鳥さんがいますから…それ以外は、左程重要ではありません』
『……わかった。これで終了だ、ありがとう』
『……………』
………信じられない。
画面に見えるリズと今隣にいるリズが、全く同一人物に見えない。確かに容姿や背格好は同じはずなのに、画面に見える方は…まるで、生ける亡霊のように空虚だった。
ペンギン急便勢も、私と同じように口を開け目を見開いている。いつもクールなテキサスでさえ、だ。アーミヤもひどく暗い表情を浮かべているが、唯一当の本人だけは何食わぬ顔で視聴している。どうやら再生前に放った言葉は虚勢ではなかったらしい。
「…それでは、次にアーミヤさんの持ってきた方を再生しましょう」
手際よくテープを入れ替え、同様に再生ボタンを押す。今度はアーミヤの部屋に、私とリズが映っていた。あれ、アーミヤは?と思ったがどうやら撮影側らしい。
部屋の中央には炬燵と呼ばれる布団付きの机が鎮座しており、その上にはケーキやチキンなど普段に比べて豪勢な料理が並んでいる。
『アーミヤ、ちゃんと私とリズは映っているか?』
『ばっちりです!』
『宜しい。今日はリズがうちに来てから丁度半年の日だ、祝わずにはいられない!』
『この料理は誰が作ったのですか?』
『全て食堂の者に頼み込んだ。追加でボーナスを支払うと言ったら「いえいえ、ドクターの頼みとあらば何でもご入用ですから!」と言って断られたがな』
『クラヴィスさん…それは少し、過小評価が過ぎますよ…何でも龍門幣で済ませようとしないでください』
『喧しいぞリズ。それだけこれに命を懸けていたのだから取れる手段は取るべきだろう』
『…あんまりやり過ぎるとケルシー先生に減給されますよ、ドクター』
『む……それは困る。まあいい、アーミヤも早く来い』
『今行きますよ、ドクター』
『…よし。それじゃあ改めて__リズがうちに来てから半年、当初はあんなに生気がなかったのに、今ではこんなに感情豊かでかわいらしくなった。本当に喜ばしいことだ。これからも私たちと共に歩んでほしい、リズに明るい未来が齎されることを願って___乾杯!』
『乾杯!』
『乾杯…』
『さあ食え、飲め!今日ほどめでたい日はないからな!』
『リズさん、これすごく美味しそうですよ!取りましょうか?』
『はい、ありがとうございます……クラヴィスさん、これはどういった料理なのでしょう?』
『ああ、これはクルビアで獲れる鳥を使ったソース煮込みだ。いつもは健康上の理由からあまりこういったものは食わないが、まあ今日くらいはいいだろう。味は保証するさ』
『ドクター、こちらのサラダも皿にお取り分けしますよ』
『ああ、助かる。だがアーミヤもどんどん食べてくれ』
そのまま食事は恙なく続いていく。
『クラヴィスさん……本当に、ありがとうございます。私は重症患者だというのに、こんなに良くしてもらって…』
『たわけ。当時こそ私も患者として接していたが、今は違う…もうすっかりロドスの一員だな、お前は』
『………ふふっ』
『…リズさんが、笑った…!?』
『…ありがとうございます。私に感情を教えていただいて』
『うむ。やはりお前ほどの顔であれば、笑えばいっそう愛らしいな。今後とも機会を増やしていくといいさ』
『……なんだか、家族みたいですね、私たち』
『家族とな、アーミヤ?』
『はい…こういう何でもない光景が、とても大切に思えるのです』
『ふむ、ふむ……いいな。私ももう随分とロドスで暮らしている身だ、新しい家族というのは悪くない。それに、お前たちのことは少なからず大事に思っている』
『はい…私も、クラヴィスさんとアーミヤさんのことは大切です…』
『私もお2人と同じ気持ちですよ……それなら、今回しているビデオには「ホームビデオ」と記しておきましょう。これからもたくさん撮りましょうね!』
_______
「…ぷっ、くくく…あっははははは!何あのリーダー、すっごいテンション高いじゃん!あははは!」
「あんまり笑わないでくれ、エクシア…私自身でもとても驚いているというのに」
先に見た記録用の映像とは違い、本当に「ホームビデオ」と呼ぶに等しい光景が映されていた。
誰だあれ。いや本当に誰なんだ。今の私とは到底似ても似つかぬ。振る舞いが完全に傲岸不遜の王そのものではないか。
……しかし、画面の中の前の私はとても自信に満ち溢れていて…正直、私もあんなふうになりたいと願ってしまう。
それは果たして叶うのだろうか。私の記憶はちゃんと戻ってくれるのだろうか。
皆が和気あいあいとした空気を醸し出している中、1人ずっとぐるぐると考え込んでいた。
*************
利害が一致していても、目指す理想が少しでもずれてしまえば容易に敵対する可能性が生まれてしまう。
スカルシュレッダー……正確には、その姉であるらしいミーシャとそういう結末を辿ってしまったのは、死病とそれに伴う差別意識が蔓延するこの世界の無情さを嫌でもわからされてしまう事件だった。
アーミヤがそっと
彼女がその血濡れたマスクを手に取ると、そのすぐ近くにいた龍門近衛局特別督察隊の隊長であるチェンが彼女と話をしに声をかけた。
私は終始、ただ傍目から見ていただけ。
「……ドクター」
「…リズ。私の、私たちのやっていることは、本当に正しいのだろうか。たった1人の感染者の少女すら納得させられない、あまつさえ見限られるような形で敵対されるなんて…」
「…………私は、ドクターを信じています。私を救ってくださった貴方なら、きっと他の人も救えるだろう、と。正しいかどうかは…答えが、ないのかもしれません。ですから、私たちは日々進むしかないのです…その旅路は、きっと……」
__ロドスには、強い意志と力を持った人が大勢いる。私には寄り添ってくれる人がいる。
それを十全に理解しながらも、私の心に巣食った焦りと猜疑心は消えることはなかった。
記憶喪失であることが、本当に悔やまれる。
きっと映像に見た「前の私」なら、そんなこと知るかと言わんばかりに真っすぐと己の道を突き進むだろうに。
*************
そろそろ2段階目の昇進を考えるときが来たかもしれない。
そう感じたのは、フロストノヴァ要するスノーデビル小隊があまりにも強敵過ぎたことが原因だった。あいつら強すぎる。火力的にも。
そう考えたときに真っ先に候補に挙がるのは、味方全体にアーツ耐性を付与することの出来るリズ。現状彼女にしか出来ない技術だ。しかし…寒冷地帯に放り込んでしまうような形になっており彼女の体にも負担がかかりそうで、これ以上動いてもらうのを躊躇ってしまっている。
そのことを彼女に話すと、前のように遠慮をするわけでもなく、逆に決意じみた視線をぶつけてきた。
「ドクター…これからも戦いは、更に過酷なものとなるでしょう……」
「ああ、わかっている」
どちらからともなく歩み寄る。理由はわからない。
「………かつて、ドクターと共にある一つの誓いを立てました。約束、とも言い換えられますが…それが何か、想像はつきますか…?」
なんとなく、想像は出来る。
「…互いの命を預け合う、とかか?」
「……はい、正解です。実は…ドクター自身が、徐々に使命感と義務感、それから周りの期待に雁字搦めにされ…檻に囚われていたのは、どこかでお聞きしましたか…?」
「…は?」
知らない。
まさか、あの
「少し前に、ホームビデオを皆さんで視聴したでしょう……そのときはまだ兆候も見えなかったのですが、その後から少しづつ消えない焦りを抱いていくようになったのです…」
「………!」
…今の自分が、まさにその状態だ。ピタリと一致する。
「それからドクターは…徐々に合理性を突き詰めていくようになりました。多少の犠牲を無視し、使えるものを使いつぶし…常に理想の結果だけを追い求めて………そして、壊れかけたのです…」
「……壊れ、かけた…?壊れたのではなく…?」
「………私が寄り添おうとしたのです。正気を取り戻して頂けるのなら、この体を差し出しても構わないと。ですが、それは
「……まさか」
まさか、そのタイミングで。
「…はい。そうなる前に、ドクターは深刻な怪我を負い、手術せざるを得なくなったのです…手術は無事成功し、ドクターは息を吹き返しました。ですが、その代わりに……」
「…記憶を失っていた、か」
そういう…ことだったのか。
私の目覚めるより以前の話。私の知らない話。どれもこの身にしてみれば現実感がないものだが…リズの顔を見ればわかる。紛れもなく、彼女の眼前で起きたことなのだと。
「…実は、少し前から焦りを抱いていた。スカルシュレッダーと対峙したときに、少し話したと思うが」
「…はい、薄々感じていました」
「……今の私は、前の私とは違う。臆病者だし、要領も悪いし、小心者だ…それでも、たとえそうだったとしても、リズは私に寄り添ってくれるのか…?」
「…いいえ。貴方は私の知っているクラヴィスさん本人です…」
「…違う、違うんだ…」
違う、ちがう、チガウ!!
「私は……私はッ…………あんな風には振る舞えない…私は、彼じゃないんだ…!」
もう、限界だった。もうこの目から流れる涙を抑えることは出来ない。
目の前にいる彼女だってわかっているはずだ。私と彼は似ても似つかぬ存在であると。彼女の愛した“ドクター”は私ではないと。
「ドクター……」
だが、それでも。
“彼”を愛していたはずの女性は、こちらに寄ってきて__私を、優しく抱擁した。
「…何故だ!?どうして“私”にそこまでする!?どうして、“私”は…“私”は画面にいた彼ではないと「そんなことはありません…!」……!?」
かつてないほどの声量で遮られた。彼女がそんなに大きい声を出すのは、初めて聞く。
リズは私を抱きしめたまま見上げてくる。私と同じように顔をくしゃくしゃに歪ませ、その眼が感情の洪水であふれていた。
「前の貴方も、今の記憶を失った貴方も。どちらも私の大切なドクターです……」
「…そんな、ことは…」
「……覚えていらっしゃいますか、オペレーター初加入のパーティーがあった夜に、貴方に紅茶を振る舞って差し上げたのを。あの時の紅茶は…お湯の温度から砂糖の量まで、全て前の貴方が好んで飲んでいたものなのですよ………」
「……!」
「……それに、確かにあの映像の通り、前の貴方はやや傍若無人さが目立っていました…しかし、一度だけ『自分は気が小さく穏やかな性格だ』と…自分のことを言い表したことがあるのです…」
「……そ、れは……」
「…ですから、貴方は貴方。私の大切な家族である、クラヴィスさんです……それ以外に、あり得はしません…」
「…………私、は。私は…このままで、いい、のか…?こんな、みっともない“私”でも、いいのか……?」
「…はい。私は、それでも貴方の側にいます。どんな風になろうと、私は____」
*************
「…すまない。ひどく取り乱してしまった……恥ずかしすぎて穴に埋まりたい…」
「…構いません…私も、似たような心境ですから……」
大の大人がするべきでない痴態を晒してしまった…だが同時に、今ので決心が付いた。
「リズ。君を昇進させる。君の持つ力、全て私に貸してほしい」
改めて、正面から彼女と向き合う。散々に涙を流した後なので空気は締まらないが、これでいい。
彼女も居住まいを整えて私の方を向いた。
「……きっとドクターは、また近いうちに檻に囚われてしまいます……ですがその時は、今度こそ最期まで共にいましょう…」
「…この手を取ってください……あの日交わした約束と誓いを、もう一度……」
差し出された右手をしっかりと握る。ずっと寄り添ってくれた大切な人を、もう放してしまわぬように。
「私の命、君に預けよう。君の命は、私が預かる…いや、必ず繋いで見せるから」
「…はい…改めて、よろしくお願いいたします、ドクター」
そう言ってリズは、今までで一番の笑顔を見せてくれたのだった。
*************
それから程なくして、エクシアとテキサス、プラチナも昇進させることにした。今では新しいオペレーターもどんどん増えてきたが、やはり最初からずっと力を貸してくれていたオペレーターたちには、こちらから感謝の意を込めて最初に2回目の昇進をさせたかったのだ。
「2度目の昇進?いいね、そーゆーのあたし大好きだよ!」
「…ドクターの信頼には、感謝の念が足りなくなるな」
「それだけ私の本気が見たいってこと?わかってるじゃない、可愛いドクターさん?」
うむ。彼女たちとも随分と信頼関係を築けてきている気がする。一人だけ平時とテンションとかしゃべり方とか違うオペレーターがいる気がするが、そこもまた彼女のいいところでもある。なんだかんだで頻繁に外出に誘われるし。
すると、ふとエクシアが私たちの方を見ていることに気が付いた。
「どうしたエクシア?」
「……んー、なんかリーダーの纏う空気が変わったかなって」
「ふむ…まあ確かにそうかもしれない。よく気が付いたな」
「ははっ、バレバレだよリーダー……うん、本当にいい表情をしてるよ。私のお願いも聞いてくれたしね」
そう言ってエクシアは私たちの前までやって来て、セーフティのかかった守護銃を胸の前に掲げながら両手を添える。普段のおちゃらけた様子はどこかへ消え去り、何かを重んじるような__祈るような目を向けていた。
ここで初めて、彼女が例に漏れず敬虔なラテラーノ人であることを理解する。
「リーダー…いや、義人よ。そして、それに付き従う片翼よ。この銃に誓って、貴方たちを最後の審判までお守りします」
「……ありがとう、エクシア。これからもよろしく頼む」
私の言葉を聞き届けた彼女の雰囲気がすぐに切り替わる。瞬間、いつもの陽気でノリの良いエクシアへと戻っていた。
「……さあ、今日は久しぶりに記念のパーティーだ!今日はパーっと行くよ!テキサス!」
「ああ。ソラとクロワッサンに連絡して準備をしに来てもらおう」
「私も手伝うよ、エクシアさん」
「おおっ、プラチナさん助かる!あ、リーダーとリズさんは主賓だから何もしなくていいよ!」
「いやいやいや、主賓は君たちだろう。私が準備を進めるさ」
「私も、当然お手伝いするつもりですが…」
「いーのいーの!私特製のアップルパイも用意したいし!」
「この前オーブンが爆発してから微妙に信用できなくなったけどね、ふふ」
「プラチナさんシャラップ!あんなミスはHK416が暴発するくらい珍しいんだから!」
ああ、賑やか。とても賑やかだ。
この光景は、間違いなく私たちが一丸となって作り上げた。それには当然私も含まれている。
「ドクター、私たちも準備に加わりましょう…」
「……ああ、そうだな」
リズが入れば、私はしっかりと前に進める。
エクシアらが入れば、私たちは立ちはだかる障害を破っていける。
沸き上がる未来への希望を、しっかりと手に取って_________
*************
「……………」
「おはようございます、ドクター…」
「今のは……夢?」
「夢…ですか?」
「……はは、そうだ。とても素敵な夢を見ていたよ」
ここは現実。さっきまで見ていた夢のように、リズが多少なりとも救われた世界ではない。しかし、たとえ夢の中でもあんな風に感情豊かになったリズを見られたのはとても嬉しいことだった。
そうだ、この世界でもきっと出来るはずだ。
<よくわかる独自設定強めの時系列>
内紛の起きる直前(おおよそ1月前程度)に「使徒」設立→1年とちょっと前、カズデルで内紛が起きる→リズ監禁(ここで現在と同じ状態にさせられる)→数か月後、内紛が終わる→ドクターとアーミヤが生存者探索→リズ発見、連れ出す→ロドスで治療を受け、ドクターの秘書を務め始める→ドクター負傷→チェルノボーグ事変
なのでリズはシャイニングとニアールのことを覚えていない。
はい、というわけでUA10000件記念は「ドクターの目が覚めたときからリズがいた世界線の話」でした。この世界ではリズとアーミヤは家族同然なので仲がいいという。
ドクターらがカズデルから連れ出しロドスで治療を受けるこの1年で、リズは本来の第四資料のような状況から完全に脱しており、明確に人格を作り上げている。
足だけは完全に治ったため走ることも可能。ゆえにリズはチェルノボーグのドクター救出作戦に参加していた。
なのでもし本当にこうなっていたらプレイし始めた最初に☆5術師と☆6術医療が加入することになる。どえらいな…。
というかリズがめっちゃ有能秘書ムーヴしてる。実際は1年(正確には秘書として動き始めた7ヶ月くらい)前から少しづつドクターの業務を見てきたため。
ま、夢オチなんですがね。並行世界の電波を受信したということで、ひとつ。
実はこれ、サブ垢を作って実際にリセマラした結果のオペレーターなんですよね。最初に0-7まで進めて通常のガチャを引く→リズを引け次第更に石を集めまくってスタダガチャを引く→エクテキプラチナ入手という流れ。
で、そのときにかかったリセマラ回数がたったの2回。しかも、アンジェリズPUの時で。120連でリズが出なかったのは何だったのかという。これのせいでニェンも空振ったんですねきっと。
メイン垢と違って始めたてでエイヤがいないのでアーミヤが単術火力というね。なんでアーミヤとリズは同じくらいの育成度になってます。
正直に言おう。書いててちょくちょく泣いてた。