さて、(事実上の)第2章開幕です。起承転結の承と転の間くらいのイメージ。何が第2章かって?それは読んでくださいな。
活動報告に結構重要な気付きを投稿しました。どれくらいかと言えば、牛丼を食べるときの紅ショウガと七味くらい。つまりめっちゃ大事。
ニアールさんがとうとうロドスにお越しになられたのでプロファイルを流し読みしてたら、シャイニングさんがリズのことを名前で呼んでいるという地味にでかい事実が発覚しました。
初めて知りました。
なんでこれまでの話も全部変えておきますね。すまねえシャイニング。
ドクターは最近、よく他のオペレーターに誘われることが多くなりました。ただの外出から酒盛りのお誘いまで…。
ここ数週間で、レユニオンの強襲に対する緊急の出撃は起きていません。書類の仕事も、かつて忙殺されていた時期に比べれば随分と量が少なくなったように思います…。
ドクターは日中でもマスクをしないことが多くなりました……もともと、夜に体を休めるときには「息が詰まるから」と外していらっしゃったのですが、それも落ち着いたようです。
それで、あの方の精神的な安寧を他の方々が読み取ったのか、執務室には様々な方が訪れるようになったのです…。
それは、非常に喜ばしいことだと思います。ですが……何故でしょう。それに伴って、私の感情に不自然なものが紛れているような気がするのです。
何故でしょうか…私の感情には、意味もないものですのに。
「ん……リズ、何かあったか?元気がないように見えるが」
今日は業務が少なく、同じソファで私のことを気にかけてくださるドクター……その表情に偽りはなく、その声音に他意はなく…貴方の向けられる感情に、何一つ不快なものはありませんのに……。
「…いえ、何もございませんよ」
何故私は、これをドクターにお伝えすることを躊躇っているのでしょうか。
何も言わないでいると、ドクターは私の隣まで席を移し、ゆっくりと腰を下ろします。そうして、いつも私の頭を優しく撫で始めるのです。
スペクターさんとクオーラさんがこちらに訪れた日から、ドクターは時折こうして私を慰撫してくださるようになりました…。
「大丈夫さ……きっと、大丈夫……」
「…ドクター……」
私に良くしてくださるとき、必ずドクターは“大丈夫”という言葉を口にします…それは、傍から見れば私に向けられたものに聞こえますが……私には、あの方が自身に言い聞かせているようにしか聞こえないのです。それを見るたびに、何かしてあげられることはないかと考えてしまうのです。
それで…こうしていただくほど、ドクターのお傍を離れたくはないと思ってしまいます…私には過ぎた望みなのだと、思わずにはいられません。
「おっはよう、ドクター!ナイチンゲールさんも!」
「ん?ああ、マゼランか。おはよう」
様々に思いを巡らせていると、補助オペレーターであるマゼランさんが執務室に入ってきました。
彼女はライン生命に所属し、そこで実地調査員をなされているそうです。あまり想像はつきませんが…私とは違って、自分の足でさまざまな劣悪な環境を踏査していくのでしょう。
ひと月ほど前にロドスと協力を結び、現在はここを拠点にして活動しているそうです。
「ねぇドクター、今度カジミエーシュ北方の森に行こうよ!緑が綺麗で空気も美味しいんだよ!ナイチンゲールさんも、何か動けるようなサポーターがあればいいんだけど……」
「うーむ…お誘いはとてもありがたいんだが、それは何日コースになりそうだ?」
「そうだなぁ、短くて1週間って感じ?やっぱり広いし、十全に楽しみたいからね!」
「そうか……それなら、今はまだ厳しそうだ。
「そっかぁ…残念だけど、ドクターも大変だもんね!仕方ないよ!」
「それに、リズを置いて行きたくはないからな…」
「確かにね…うん、じゃあまたいつかね!」
「………」
何故か、口から言葉は紡がれませんでした。
私の身を案じてくださったことに明確な喜びを覚えましたが……同時に、私のことなど気にせずにもっと自由に動いてほしいという感情が、かすかに沸き上がってしまいます…。
加えて、それを自由に提案出来るマゼランさんが…少しだけ羨ましいとも思ってしまうのです。そのことも、ドクターには言えないまま…。
*************
マゼランさんが執務室から姿を消して、再び2人きりになります。
「リズ、今日はここで仕事を終わりにしてしまおう。まだ残ってはいるが、まあ今日くらいは大目に体を休めても問題ないだろう」
「……しかし、それでは明日に響くのでは……」
そう言うと、途端にドクターは顔を背けました。
「……ドクター」
「……大丈夫、なんとかなる。いいんだ、思えば一度も長時間の休憩を取ってないんだから…」
「……そう仰るのであれば、私も構いませんが…」
大丈夫でしょうか。そう思いつつ、私も書類整理の手を止めます…ドクターは、ふらふらとした足取りで給湯室へ向かいました………本当に、大丈夫でしょうか。
「ハロー、リーダーにナイチンゲールさん!」
「エクシアさん…ごきげんよう」
ちょうどドクターが席を外したタイミングで、狙撃オペレーターの1人であるエクシアさんが執務室へと入ってきました…。
彼女は「ペンギン急便」という物を運ぶ会社に所属しているそうで…ロドスの中では、かなり明るい方だと認識しています。そう言えば、あまりここには留まらないことで有名なモスティマさんも、同じ所属だったような気がします。
「今日はどのようなご用件でしょうか…?」
「リーダーにうちでやるパーティのお誘いに来たんだ!ところでそのリーダーは?」
「今、給湯室で淹れていらっしゃるので、もう少しお待ちください…」
エクシアさんをソファに座るよう促します…特に何か不平を漏らすこともなく、私の正面に座りました。私は…あまり、陽気な方とは話が出来ませんが。
すると…目の前の能天使さんは、おもむろに口を開き出しました。
「ねぇ、ナイチンゲールさんってさ、リーダーと結構仲良いよね?なにかきっかけとかあったの?」
「……何故、そのようなことを聞くのですか?」
理由は……漠然と推察出来ますが。
「いやほら、リーダーって最近すっごく調子良さそうに見えるからさ。ナイチンゲールさんが何かしたのかなーって☆」
「……そうですね。確かに、以前よりもずっと生気に溢れています。本当に、喜ばしいことです……私は、ただ秘書としてお傍にいただけですよ…」
「ほんとかな~…ロドスの中でも噂になってるんだよ?リーダーとナイチンゲールさんの距離が目に見えて近くなったって」
……そう、なのでしょうか。
初めに思い当たったのは、ごく最近になってからドクターに頭を撫でられるようになったこと。次に、私の歩行補助をしてくださっていること。
「…確かに、ドクターとは随分と物理的に距離が近くなったように思えますが…」
「あー……そうじゃなくて、えっと実際の距離じゃないというか…」
何故か、エクシアさんの反応は芳しくありません。何か齟齬が生じてしまったのでしょうか。
現状、私は十分すぎるほどにドクターに良くしていただいています。ですから、今のままでも何も無いのですが…。
「おや、エクシアじゃないか。どうしたんだ?」
「あ、リーダー!」
その時、ちょうど給湯室からドクターが帰ってきました。その両手には、いつものように2人分のカップを乗せたトレーを持っています。
「リーダー、今度ペンギン急便でパーティーやるんだけどさ、リーダーも来ない?」
「…それ、私が行っても大丈夫か?内輪のものだろう?」
「んー、まあ大丈夫でしょ!リーダーもなんだかんだで信頼されてるしさ!」
「へぇ……いいね。君という友人が行くのなら、私もついていこうか」
「む……そこまで言われてしまうなら、多少は…」
「ほら、モスティマもそう言ってるし、行こうよ!今日の18時からだよ……って、え?」
「うん?」
「どうしたんだい?2人とも」
『…………モスティ(マ)?!』
いつの間にか、エクシアさんとドクターの会話にふらっとモスティマさんが混ざっていました……一体いつロドスへと帰って来たのか、私には見当が付きませんが。
突然姿を見せたモスティマさんに対して、エクシアさんはひどく狼狽しています…何か因縁があると聞いていますが……。
「いつ帰って来たんだ?」
「ついさっきだよ。ここに帰ってきたら、まずは君のところに行こうと決めてるからね」
「モスティマ、そ、それよりうちのパーティーに来るって話なんだけど」
「ん?ああ、そうだね。せっかくドクターもいるし、久しぶりに顔を出すくらいはいいんじゃないかな」
……これほど困惑した表情を浮かべているエクシアさんは、初めて見ました…それに対し、モスティマさんは薄く笑みを浮かべたまま。ドクターは、綺麗に間に挟まっています…大丈夫でしょうか。
「急すぎるよ、モスティマ…」
「エクシアだって事前の断りなく当日にドクターを誘ったんだから、お互いさまさ。それで、ドクターはどうするのかな」
…お2人の言葉に、悩ましい表情を浮かべるドクター。時折私の方をちらちらと見ています…。
「………」
“良いのです、ドクター……私のことなど、貴方が気にする必要は何処にもありません”
そうお伝えしようとするも、この口は何故か言うことを聞いてくれません……どうしてですか。
しばらく逡巡するような素振りを見せた後……ドクターは、ひどく申し訳のなさそうな表情を浮かべてこちらを見やりました。
「……すまない、リズ。これだけ熱心に誘われたら、行かずにはいられない。今晩は他のオペレーターに補助を頼んでくれ。なんだったらそこの仮眠室で寝てくれても構わないから」
「………は、い。構いません…楽しんで、来てください……」
……
ドクターに行ってほしくないという感情…ドクターに行ってほしいという感情…エクシアさんとモスティマさんを、少しだけ羨ましいと思ってしまう感情____先ほどのマゼランさんの時と同様の…わずかばかりの感情が、私の喉と声を絞ったのです。
「それじゃ、仕事は大丈夫だよね?今から準備しよう!」
「やはり突然すぎるような気もするが、了解した。モスティは大丈夫なのか?」
「うん、私はこのままで大丈夫さ。それよりも、ナイチンゲールは行かなくてもいいの?」
「ナイチンゲールさんも来る?多分大丈夫だと思うけど」
モスティマさんは、私にも訪ねてきます。お誘いそのものは、とてもありがたいですが……私がいては、きっと急便の方々も気を遣われてしまうでしょう…断ることにします。
「……いいえ。私こそ、部外者ですから…それに、あまり動けないので」
すると、ソファに座っている私の前までモスティマさんが歩いてきました……彼女はそのまま私を見下ろし、見透かすような視線を向けてきました。
「君の本心はどこにあるのかな、白き悪魔さん」
「_____」
「ふふ、ちょっとロドスにいない間に随分と面白いことになってるね。これだからここは飽きないんだ」
…モスティマさんは、すぐにドクターの元へと戻っていきました。私は……しばらく、茫然としたまま。
一通り話を付けたドクターは、一旦お2人と別れ執務室の扉を閉めました…。
「……リズ」
「ドクター……っ?」
突然、ドクターに両手を握られてしまいます。私のそれとは違う、大きくてごつごつとした手。
ドクターは、とてもこちらの身を案じるような、不安そうな眼を見せています…。
「…どうされましたか?」
「リズ…先ほどから気になっていたが、何をそんなに気に病んでいるんだ?私には話せないことか…?」
……そんな目をなさらないでください…。これはきっと、私の身勝手な感情なのです。身勝手だから、貴方にご迷惑をおかけするわけには…いかないのです。
「いいえ……私は、何もございませんよ」
「……それなら、いいのだが」
「………」
ドクター……貴方に嘘をついてしまったことを、お許しください。
結局、吐き出せない違和感を抱えたまま…ドクターはエクシアさんらと共に出発していきました。
私にも、分からないのです。
*************
『……………』
「私は……どうしてしまったのでしょうか」
私の感情のはずなのに、自分ではどうすることも出来ません。
通信機でアズさんとプラチナさんに連絡し、話だけでも聞いていただくことにしました…。私の良く知るお2人は一通り聞いてくださった後、どちらも似たような……困ったような表情を浮かべました。
「うーん……そうだなあ、私もあんまり詳しいわけじゃないけど…それは多分正常で、でもずっと付き合っていかなきゃならないものだと思うよ」
「こればっかりは、折り合いをつけていくしかないと思いますわ。でも、良い傾向だと私は思います」
「はぁ……あまり、要領を掴めないのですが…現段階ではどうすることも出来ない、ということですか……?」
「…残念ながらね~」
「先程プラチナさんもおっしゃったように、それ自体はごく普通のことですから」
……如何いたしましょうか。この違和感は、今すぐに拭えるものではないと言われましたが。
そのとき、似たような感情を以前に抱いた日のこと____クオーラさんとスペクターさんが来られた日のことを、ふと思い出しました。
『それはそうと、先ほどはひどく嫉妬なさっていましたわね……?』
あの日、ドクターに撫でられているスペクターさんを見て…自分も、そうされたいと思ってしまった自分がいたことを。その感情と、先の時間に抱いた感情が同様の物であることを__それを、スペクターさんに「嫉妬」だと言われたことを。
たった今、思い出したのです。
「……プラチナさん、アズさん。この感情は“嫉妬”と呼ぶのでしょうか……?」
問いかけると、一瞬だけお2人が目を見開きました。何か、まずかったでしょうか。
「…どこでそれを知ったの?」
「え、と…以前、スペクターさんが来られた時に……そう言われました…」
「……そっかぁ~…いや、今のうちに知覚したのならまだ良いのかな……うん、まあ大丈夫だよね、アズさん」
「ええ、そうですわね」
プラチナさんが、おもむろに私の手を取ります。続いてアズさんも。何故か、この成長を見守る母親のような視線を向けられていますが…。
「嫉妬の感情には慣れないかもしれないけど、きっとそのうち慣れて折り合いを付けられるようになるかもしれない。だから安心していいよ、リズさん」
「思い切って、勇気を出してドクターに相談してみるのも悪くないですわ。きっとあの方なら真剣に考えてくださるでしょうし…わたくしたちも、いつでも相談に乗りますから」
……私は、随分と仲間に恵まれたように感じます。確かに、シャイニングさんやニアールさんもとても良いお人なのですが…その方たちと同じくらい、このお2人のことを好ましく思っている自分がいるのです。
「……ありがとう、ございます」
プラチナさんとアズさんの言葉を、信じてみようと思います。
*************
「ただいま……はぁ、全くエクシアもモスティも飲ませるんだから…」
「…おかえりなさいませ、ドクター…」
23時ごろ。ようやくドクターがお帰りになりました。傍目から見てもとても良い疲労を得てきたようです……。
扉が空いた瞬間、私は本に栞を挟み顔を挙げました。
「おや?まだ寝ていなかったのか、リズ」
「はい……ドクターがお帰りになるのをお待ちしていましたから」
「はは、ありがとう。だがここに居ずとも、早々に睡眠をとっていても良かったんだぞ?」
そう言ってドクターは、すぐに私の方へと来てくださいます。やはり……それが、私には嬉しくれしく思えてしまいます…。
「……ドクターのお顔が見たかったのです。駄目…でしたか?」
「……まさか、嬉しいよ。そう言ってくれる人がいるというのは、とても喜ばしいことだから…その恰好だと、まだ体も清めていないのだろう?今から一緒に向かおうか」
「………はい。行きましょう」
ドクターは多くの人に好かれていて、多くの誘いを受けます……当然、私には止める権力も権利も、道理もありません…。
ですが、こうして1日の終わりに共にいられることが……私にとって、とても喜ばしいことなのです。これは、ドクターが秘書を変更しない限りは……私が得られる、大切な時間です。
今は………それで十分すぎるほど恵まれていると、言えるでしょう。
用意の出来たらしいドクターが、こちらに寄って手を差し伸べてくださいます。私はそれを、今一度……しっかりと、掴み直しました。
リズは ”しっと”を おぼえた!
これで冒頭に言った「第二章」の意味が分かっていただけたでしょうか。もしそうであれば幸いですね。
いつかギャグも書きたいとは思っていますが…いかんせん、本編が割と真面目なのでやるならUAキリ番で全振りにしたいですね。真顔で冗談を言うリズを書きたい。
追記
ごめんな、毎回前書きとあとがきが多くて…もし万が一続編を書くなんてことが起きたらそのときはちゃんと気を付けるから…(;・Ω・)