ナイチンゲールは支えたい   作:織部よよ

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書く時間がなかなか取れません。ぴえん。


#1 Not poison, not medicine.

ナイチンゲール…もとい、リズに衝撃的な告白をされてから数日が経った。ちなみに告白と言うのは語弊ではない。

 

あの後彼女から、

 

 

「……ドクター。私のことは、どうかリズとお呼びください…このロドスにいる、一人のオペレーターとしてではなく…ただの『私』として、貴方のお傍におりたいのです……」

 

 

と言われたので、あれから彼女のことは本名で呼んでいる。ああ言われたものの…正直、自分でもよくわかっていない。無論、彼女の突然の凶行__実際、少し前まで今にも消えてしまいそうだった人から発せられた言葉とは思えない__が、だ。

 

私は、自分が枷にはめられている不自由な存在とはあまり思えないのだ。使命感こそ前の私のものではあるが、周りのオペレーターたちからの期待はそう気持ちの悪いものではないし。

 

それでも確かに、彼女に…その、頭を抱かれたのは心地が良かった。思い返せば、目が覚めてからずっと張りつめていてしっかり腰を据えた休憩も取らなかったような気がするが……。

 

 

まあ、そういうわけで、数日前から「理性が完全に切れるまで業務をして意識を強制的に落とす」休憩ではなく、「理性が切れて倒れる寸前で業務を一旦置いて、他に何か理性回復に効きそうなものをする」休憩に切り替えることにした。ちなみにそれをリズに伝えると心なしか嬉しそうにしていた。

 

「……我武者羅に仕事をして勝手に倒れるのは、休憩とは到底呼べませんが…」とはリズの言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3:00 p.m. 晴天

 

 

「…ドクター、そろそろご休憩なさる時間でしょう……。実は今日、グムさんから手製のケーキを頂いているのです…」

 

「…もうそんな時間か」

 

 

リズの言葉につられて壁の時計を見ると、既に短針が3を差していた。12時手前から始めたので、実に3時間近く業務をこなしていたことになる。いつもは時計など見る暇もなく意識が途切れるので、案外時計を見たのは久しぶりかもしれない…。

 

作業している手を止めて、リズの座るソファへと動くことにする。

 

 

「自分でもいつかは把握できていないのにリズはすごいな…。というか、グムから?わざわざリズに渡すなんて珍しいな」

 

「…そのことですが、詳しくは手紙に書いたそうです。読まれてはどうでしょう…」

 

 

そう言うとリズは、いつの間にか机の上に置いた箱からひとつの便箋のようなものを取り出しこちらに渡してきた。ふむ。グムらしく、かわいらしくあしらわれている。

 

 

「ありがとうリズ。どれどれ…」

 

 

中には一枚のルーズリーフが折りたたまれて入っていた。それをぴらりと開く。

 

 

 

『ドクターへ

  グムたちがロドスに来て、ドクターたちがグムたちに居場所をくれたの、すごい嬉しかった!それに普段の生活も良くしてもらって、ズィマーお姉ちゃんもグムも本当はとっても助かってるんだ!だから、お姉ちゃんの分までグムが何かお礼をしようと思って、アズリウスさんと一緒にケーキを作ったの!最近ドクターはとっても忙しそうで、みんなも忙しいから今はこんなことしか出来ないけど……いつかズィマーお姉ちゃんや他の人にも作っておっきいパーティーを開きたいの!だからこれ食べて頑張って!ナイチンゲールさんも一緒に!

                                    ГУМ』

 

 

「………」

 

「…ドクター、如何なさいましたか……?」

 

「…あ、ああ、いや。グムは本当にいい子だなと思って」

 

 

…いかん、どうも私はリズとの一件以降涙腺が緩くなっているらしい。垣間見えたグムの気遣いが心に沁みる…いや、待てよ。前はそうは感じなかったはずだが。

 

ちらりと、何故かすぐ隣にまで寄ってきている女性を見やる……そうか。そういうことか。

 

 

「……ありがとう、リズ」

 

「…どうかなさいましたか、ドクター?」

 

「いや、なんでもないよ。それよりお茶の準備をしてこようか」

 

 

そう言って立ち上がり、そそくさと執務室に併設されている給湯室に向かう。

 

 

 

 

 

「……ドクター、貴方が思うよりも貴方に感謝し、同時に心配している方は多いのですよ…」

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

「ほれ、リズ。熱いから気を付けて」

 

「…ありがとうございます…すみません、本来なら…私のすべきことなのに……」

 

「いや、リズは杖を持たないとまともに歩けないだろう。流石に杖を持ったまま紅茶を用意するのは危ないから、大丈夫さ」

 

 

元々それも込み込みでリズを秘書にしたのだからそこに関してはむしろ私が積極的にやるべきことだと思っている。ただでさえ、「同じ記憶喪失同士話せば何か改善するかもしれない」という根拠もないようなしょうもない理由だのに…。

 

 

「リズが私のことを心配してくれているように、私もリズのことは一応心配しているのさ。これでもね」

 

「…ドクターには、本当にお世話になっていますね…」

 

「はは、持ちつ持たれつというやつだな。さあ、グムのケーキ、いただこうか」

 

 

箱を開けてケーキを取り出す。私たち二人とも、オーソドックスなイチゴのショートケーキだった。ルビーを彷彿とさせるイチゴに、まるで真新しいゲレンデのように白いクリーム。まるでそこいらの店にでも売っていそうなくらいだ。

 

 

「あっ美味しそう……」

 

「…こんなに色鮮やかなものは……初めてです…」

 

 

意図せず、2人そろって感嘆の言葉をこぼす。これにはさすがのリズも驚いていて、わずかに目が見開かれている。相当珍しい…というか、初めて見た気がする。

 

 

「…いただきます」

 

「いただきます」

 

 

揃っていただきますをした。早速食してみる………っ!?

 

 

「こ、これは………何故だろう、今の疲れ切った理性と体にものすごく効いている…?控えめでコクのある甘さとイチゴの程よい酸味がとても相性のいい……?」

 

 

ぶっちゃけ、想像よりはるかに美味しい。いや、いつも食堂を手伝ってもらっているグムと料理の腕は非常にいいアズリウスが協力して作ったというのだ、まずいわけがないのだが。

 

ちらりと横目でリズを見てみる。彼女もまたこの不思議な美味に感動しているようで、(彼女は気づいていないだろうが)食べるペースが私より早い。その様子はまるで小動物が餌を食べているシーンのようで、彼女の持ち前の童顔と相まってとても可愛らしい。

 

と、不意にリズが手を止めてこちらを向いた。

 

 

「…どうかしましたか、ドクター……先ほどから、熱心にこちらを見て…」

 

「へ…………あっ」

 

 

気付けばちらりどころではなくガッツリと見てしまっていたようだ。途端に申し訳ない感情が沸き出てくる。しまったな、あまりの可愛さにやられていたのかもしれない。

 

 

「あ、ああ。済まない、夢中で食べるリズが愛らしくてつい見とれてしまったようだ」

 

「……愛らしい…私が……?」

 

 

……おや?私は今何を………

 

 

 

『夢中で食べるリズが愛らしくてつい見とれてしまったようだ』

 

 

 

…………

………

……

 

あっ。

 

 

「あー……その、今のは、口が滑ったというか」

 

 

そこで一旦言葉を切って、改めてリズの方を見やる。きょとんとしているのもまた…うむ。

 

長く綺麗な、ゆるいウェーブのブロンド。怜悧だけどどこか神秘さを孕んだ瞳に整った鼻筋。その他も含めて、ぱっと見で考えるならば間違いなく庇護欲を抱かせる、天使にも等しい外見。可愛い。

 

だが……そこではない。私はそこだけに愛らしさ見出したわけではない。

 

 

「…あの日、君に頭を抱かれたときに、思わずそう感じてしまってな。まさかあんなことをされるなど、全くの予想外だったもので」

 

「………貴方さえ宜しければ、また…いつでもして差し上げますが……」

 

「…そうだな、うん。また頼んでしまうかもしれないがそのときは頼む」

 

 

ちょっとあれは抗えないので、流石に日ごろからというわけにはいかないが。あれを高頻度でやられてしまうと私は確実に堕落し依存して、弱くなってしまうだろう。

 

 

「…ドクター、愛らしい、で思い出したのですが…」

 

 

あのときの抱擁の魔力を思い出していると、不意にリズが言葉を発する。愛らしいに対してはスルーか。

 

 

「なんだい?」

 

「…はい、ドクター……私は、貴方のことを…より深く、知りたいと思っているのです…」

 

「…ふむ。何が聞きたいんだ?と言っても、私も記憶喪失だから答えられることは少ないが」

 

 

ぶっちゃけ自分の誕生日とか身長なんかも覚えていない。ましてや過去に何やってたかなど思い出せるはずもない。ただ周りの反応を見るに、相当やばかったらしいが想像は到底つくものではない。

 

が、それはリズも知っていることだろう。では何か。

 

 

「…はい。ひとえに…普段、ドクターが私以外のオペレーターたちと…どんな話をして、笑っていらっしゃるのか……とても、気になっていて……」

 

「……どんな話、か」

 

 

うーむ……そうだな。何かあっただろうか。

 

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 

「…それで、リーフとプロヴァンスが店から出ると、またまたその奇妙な動物がいたらしい」

 

「…ええ、と。フェリーンの特徴を持っている…四足歩行の、かわいらしい動物……ですか」

 

「そう。で、あんまり一日に数回も見かけるものだから、とうとう二人も気になり出して、毎度のごとくその生物が逃げるのを、そのときばかりは後から追っかけていったんだとさ」

 

 

他のオペレーターとの話、ということで、とりあえずこの前フロストリーフから聞いた話をリズに聞かせている。なんでもプロヴァンスとショッピングに行ったときの話だとか。

 

 

「しばらくその生物を追っかけてったら、やがてそいつはプロヴァンスの背丈ほどもある塀に軽々と登って、まるでお前たちには興味がないと言わんばかりに顔をそらしたんだと」

 

「…なんだか、面白いですね……それで、お二方は如何なさったのですか……?」

 

「ああ。リーフがなんとかそいつに触れようと手を伸ばしたら、なんとそれまでの飄々とした態度から一変、リーフの腕を思いっきり噛んだらしい」

 

「……それは、さぞ予想外だったことでしょう……」

 

「はは、リーフも憤慨していたよ。『なんなんだあの生物は!あんなかわいい見た目をして随分と噛みついてくる……今度見かけたら絶対捕まえてやろう!』ってね。一応軽傷で済んだみたいだから良かったが」

 

「…私も、少し見てみたいかもしれませんね……」

 

 

そう言うリズの口元は、わずかに緩んでいた。よし、ちゃんと面白いと思ってもらえたみたいだな。

 

リズがロドスの一員となってから、はやふた月ほど。治療は絶好調とは言わないが少しずつ少しずつ快方には向かっていて、最近にもなるとたまに笑顔も見られるようになったらしい。らしい、というのは実際に見たことはないからだ。今見たが。

 

 

「外に行けば見られるかもしれないが……まあ、今度リーフにカメラでも持たせるか」

 

「……今の私では…外出は難しい、ですね……」

 

「…だろうな。だが、それでも……」

 

………いつか、リズには外に出ていろんなものに触れてほしい、とは思う。そしておそらくそれも私のやるべきことだろうとも思っている。

 

 

「………いや、まあ、いつかね。それより、まだ話はいくつかあるぞ。チェンが実は下戸だった話とか、クオーラの野球についての戦術理論が非常に興味深い内容っだった話とか、フランカによるリスカムのやらかしエピソードとか____」

 

「……ドクター」

 

 

他に面白い話を思い出して列挙していると、ふとリズに遮られる。同時に自分の足に違和感を覚えて下を見やる。あれ、リズの手が左腿に…。

 

どうしたものかと顔を上げると、リズが心なしか申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

 

「どうしたんだリズ……あっ、もしかして面白くなかったか…?」

 

「…いえ、実はドクターにひとつ…謝らなければならないことがあるのです……確かに、貴方のことをお聞きしたかったのですが……本当は、貴方に休んでいただくために…」

 

「…いや、普通にケーキとか食べているだけでも休息としては十分成り立つのでは?」

 

 

甘いものは疲れによく聞くというし、ましてやこのケーキは何故だか理性回復にとても有効なような気がするし…ティータイム的な休憩時間としてはこれ以上ないくらい理想的だと思うが。

 

 

「…シャイニングさんに、精神疲労の回復に効果のあることを教えてもらったのですが……楽しい話をするだけでもそれなりに効き目がある、とおっしゃっていたので……ケーキと合わせれば、と…」

 

 

……驚いた。無論、リズが平時に他人のために行動したことにである。同時に暖かいものが心に湧き出るのを感じる。

 

さぞかしシャイニングも驚いたことだろう。今度その辺りのことも話してみようか…。

 

 

「…ありがとう、本当に。私の、私なんかのために……正直、泣きそう」

 

「…………」

 

 

素直な感謝の意を述べると、リズは口を閉じてじっとこちらを見ていた。何か言いたげで、しかしどう告げようか迷っているような視線を送られているような……なんとなくだが。

 

 

「どうかしたか、リズ。もの言いたげな視線だが…」

 

「…え、と。その……今抱いている感覚が、うまく言い表せなくて……」

 

「…ふむ?」

 

「…その、先のドクターの言葉を聞いて…何と言えばいいのでしょうか……私の胸の辺りが、少し暖かくて…自然と、貴方に触れたくなるのですが……何故でしょう…?」 

 

「……うーん、妙だな。今初めてか?」

 

「…はい。先日、ドクターを抱き寄せて差し上げたときとは、少し違う感覚なので……ですが、先日のように苦しいわけではないので…おそらく支障はないかと……」

 

「ふむ、それなら大丈夫だと思うが…念のためケルシーや他の医療オペレーターたちに見てもらった方がいいかもしれんな」

 

 

あまり聞いたことのない症状だが…実は症状ではなく別のものが原因で症状ですらない、なんてオチもあるからとりあえず経過観察だな。こと医療知識においてはケルシーの方がはるかに精通しているからいっそ直接彼女に聞くのもありかもしれない。

 

 

「まあ、とりあえずは様子を見ることにしようか。まだ話のストックはそれなりにあるんだ、ゆっくりしていこう。久しぶりにね」

 

「…そうですね…私も、もっといろいろな話が聞きたいと思っています…」

 

 

その日は業務もそこそこに、今までオペレーターたちから聞いた話をリズに話した。途中から執務室に来た他のオペレーターも交え、それなりに盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

…久しぶりに執務室で笑った気がするな。

 

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 

「…というわけで、あの暖かみは何だったのだろう、と…シャイニングさん、何かご存じでしょうか……?」

 

「……ちょっと、これは予想外です…」

 




まだ気づかないんですよね。これからです。

このドクターは記憶喪失なのでそういう気持ちの感覚を覚えていません。というかたぶん前の人格ででも知リすらしていないと思います。


意外と毒にも薬にもならない話って大事なんですよ。


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