ナイチンゲールは支えたい   作:織部よよ

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危機契約、廃墟10以上とほざいていたら12まで行けてしまいました。皆様はいかがお過ごしでしょうか。


今のこのシリーズだけで手いっぱいなので、アズフィリとか他のアークナイツオリ主ものとかのプロットもあるのですが、しばらくはこちらだけに集中したいと思います。忙しいですし。









リズに起こされたいだけの人生だった。


#3 団欒と相談

7:00 a.m.  晴天

 

 

 

目が覚めた。

 

体を起こすと、まだ見慣れない部屋の様相が目に入る。布団くらいしか置いていない、6畳ほどの殺風景な部屋。

 

まだぼんやりする視界と頭をしゃっきりさせようと一つ、伸びをする。ふとこの部屋のすぐ右にある給湯室から、料理のする音が聞こえた。

 

 

「…ああ……そういえば、今日からアズがご飯を作りに来るようになったんだっけか…けったいなこともあるものだな」

 

 

まるで通い妻だ。

 

なんて、私には到底似合わないような感想を抱いていると、不意に仮眠室の扉がノックされる音が。誰。

 

 

「…起きている」

 

「…入ってもよろしいでしょうか……」

 

 

ぼんやりとアズかと思ったが、寝起きでもわかる。この声はリズの方だ。おまえだったのか。

 

そうしてやや控えめにドアが開かれる。

 

 

「…おはようございます、ドクター…起こしに来たのですが、先にご自分で起床なさっていたのですね……」

 

「…ああ、さっき起きたがまだ眠いな……今は何時だ?」

 

「…7時ですが…」

 

 

7時か。

 

ロドスで仕事し始めてから、実はまとまった睡眠時間をほとんど取ったことがない。業務して倒れて起きてを延々と繰り返していたから、だいたい4時間ごとに1回3時間くらい寝る周期を繰り返して生活していた。それでも毎日4時には必ず目が覚めるので、日によって倒れる合計時間はまちまちであったが、それをリズの忠言を受けてまとまった睡眠時間を取るようにしたのだ。

 

結果体調も頭も以前より格段に整っているので、リズには本当に頭が上がらない。

 

 

「…今、アズさんが朝食を作っています……後10分ほどで仕上がると仰っていたので、そろそろ着替え等をされた方がいいかと…」

 

「…わかった、急ぐ……っふ」

 

 

未だにこの生活スタイルに慣れていないので起き抜けは頭が回らない。大きくあくびをかますと同時に緩慢な動作で布団から立ち上がった。

 

 

「……先にリズは戻っていてくれ、すぐ行く…」

 

「…あの、まだ脳が覚醒していないように見えますが……大丈夫でしょうか…?」

 

「…たぶん、大丈夫さ」

 

 

久しく忘れていた感覚だが、嫌いではない。さっさと…いや、俊敏には出来ないだろうが着替えて朝餉を食べに行くか。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

起き抜けで凝り固まった体をなんとか動かしながら仮眠室を出ると、ふわりと朝餉のいい香りが漂ってきた。匂いを感じ取ると途端に腹が減った感覚を覚える。

 

あー……なるほど、これが健康な生活を送っている証拠か…。

 

 

「おはようございますわ、ドクター。丁度今配膳が整ったところですの。お座りになって」

 

「…おはよう、アズ。配膳までやってもらってすまないな……ふあ」

 

「これくらい、何てことないですわ、ドクターのためですもの。それに配膳に関してはリズさんも手伝ってくれましたし。それより、ひどく眠そうですわね?」

 

「…生活リズムをガラッと変えたから、まだ慣れなくてな……まあ、そのうち慣れるだろう…」

 

 

言いながら、まだ緩慢なペースでソファに座る。眠気が取れていないためソファの沈み込みがとても心地よい。このまま寝てしまいそうだ…。

 

 

「ふふっ、本当に眠そうですわね。コーヒーを淹れましたから、お飲みになってください」

 

「…何から何まですまない…」

 

 

……堕落する。間違いなくアズとリズは私を人としてダメにしようとしてきている。もちろん本人たちにそんな他意はないだろうけど。

 

そんなごく普通の幸せが似合うような立場ではないのでどうにもむず痒いものを感じるが、これも二人が私の事を考えてのことだと思うと、感謝や幸福よりも先に申し訳なさを覚えてしまうのは性分だろうか。

 

とりあえずコーヒーをひとくち。苦味はやや抑えめ、砂糖とミルクが少し多めに入っている。私好みだ。

 

 

「皆、おはよう……あ、もう朝ごはん出来てる。頂いていい?」

 

「おはようございますわ、プラチナさん。丁度ドクターも起きたところですの」

 

 

そんなこんなしているとプラチナが入ってきた。いつもの服ではなく動きやすいスポーツウェアを着ているので、トレーニングでもしてきたのだろう。実際汗もかいているし、首にタオルをかけているし。

 

 

「おはようプラチナ。朝から精が出るな」

 

「まあ、無冑盟のころからの習慣と言うかね~。ドクターは今起きたところなんだっけ」

 

「ああ。まだ慣れないが…」

 

「……私が起こしに来る予定なので、そのうち慣れるかと……」

 

「え、いいなー。私もしてみたい」

 

「…でしたら、いっそのことドクターと同じ床に入ることは…」

 

「こらこら、流石にそれはまずいだ___え?」

 

「うん?」

 

「……どうかしましたか…?」

 

「いや……いつの間に隣に来たんだ?リズ」

 

 

いないと思ってた人物の声がごく自然に会話中に聞こえてきたものだから気づけずにいたが、いつの間にか隣にリズが座っていた。距離が近い。後身長差的に自然と向こうはこちらに対して上目遣いになるので愛らしさが三割増しである。

 

 

「……『本当に眠そうですわね』のところから、ずっと隣にいましたが…」

 

「…だいぶ最初の方からだな…」

 

「私は最初から見えてたけどね。遅くなったけど、おはようリズさん」

 

「…おはようございます、プラチナさん…プラチナさんも、一緒にいただきましょう…」

 

「うん、そうするよ。ありがとうアズさん」

 

 

そう言ってプラチナは私の斜め向かい、アズの隣に腰を下ろした。これで全員なのだろうか。

 

 

「それじゃあ、早速召し上がってくださいな」

 

 

 

『いただきます』

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「お、このサラダ瑞々しくておいしいな」

 

「…パンもしっかりと焼かれていて、おいしいですね……」

 

「これベーコンエッグ?やっぱりすごいねアズさんは」

 

「ふふ、これも皆さんのために作りましたから」

 

「朝早かっただろう。本当にありがとうな」

 

「いえ、わたくしにしてみればいつも通りの時間に起きただけですので、大丈夫ですわ」

 

「私も料理とか覚えた方がいいのかなー」

 

「もしその気ならわたくしが教えて差し上げましょう。そうだ、いつかグムさんなども誘って、お料理教室なんてものも開くといいかもしれませんわね」

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

 

和気藹々と朝餉の団らんを楽しむ私たち。

 

リズ、プラチナ、アズ、そして私。いずれも多少の差はあれど、おおよそこのような団らんをまともに経験したことが少ない、或いは記憶がない者たちばかりだろう。そんな私たちがこうして同じものを食べ楽しく会話をしているこの光景は、荒廃しているこの世界の中でかすかに、けれど確かに尊く思えてくる。願わくば、この先も___

 

 

「……こんな朝食の時間を過ごすことが出来るなんて……想像もつきませんでした…」

 

 

ぽつりと、リズが漏らす。

 

ああ、私も同じ気持ちだ。数か月前まではこんなこと微塵も想像していなかったのに。

 

そしてそれはあとの二人も同じだ。

 

 

「…わたくしも同じことを思っていましたわ。まさか『毒物』であるわたくしが、このような……」

 

「私もだよ。無冑盟時代の仲間とは違って、こんなに平和で暖かい会話は……本当に、久しぶりだね…」

 

「…私もだ、リズ」

 

 

ほら、この通りだ。

 

 

「わたくしたち、案外似ているかもしれませんわね?」

 

「…そうだな。そうかもしれないな」

 

 

そうして初めての団らんは恙なく和やかに、ゆるりと終わった。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

10:00 a.m. 晴天

 

 

朝餉を緩やかに終えて、本日の業務を少し終えた後、私はケルシーのいる研究室に訪れていた。もちろん、リズについてだ。

 

 

「ケルシー、今少し良いか」

 

「…なんだ、今は忙しいんだが」

 

「リズ、もといオペレーター・ナイチンゲールに関して相談がある。私ではあまり見当がつかなかったからケルシーに意見を聞きたい」

 

「…ほう?」

 

 

ケルシーが作業の手を止めてこちらに振り向く。やはり医療トップとしてそこは無視できないだろう。

 

 

「お前のことは信用はしていないが、まあそうやって素直に頼みごとをするなら聞こう。それで、ナイチンゲールがどうした?」

 

「ああ、本人は大したことはなさそうだと言っていたが、一度胸に軽く違和感を感じたらしいんだ」

 

「違和感だと?もう少し詳しく」

 

「ああ。どうやら常時よりも少しだけ熱を持ったんだと。その前には一度胸が苦しくなったらしいが、その時も特段痛みなどが伴ったわけではないらしい。私は医療知識には疎いから詳しくはわからないが」

 

 

そも、違和感が生じたのもその二度だけと聞いている。つまるところ私には皆目見当がつかないということだ。

 

 

「…ふむ、もう少し詳しく。具体的にどのあたりとか言っていたか?」

 

「いや、そこまでは聞いていない。リズもそれ以上も以下もないような言いようだったから大丈夫だとは思うが、念のため本人にも聞いておいてほしい」

 

「…わかった。彼女はかなりの重症患者だ、些細なことでもデータを取っておくほうが良いだろう、現段階では私も見当つかないがとりあえず報告感謝する。後は私に任せるといい」

 

 

そう言ってケルシーは再びコンソールをたたき始めた。

 

よし、いくら嫌われていてもこの件はちゃんと了承してくれたな。私の聞き取り不足のせいでケルシーも詳細まではわからないらしいが、まあ彼女に任せれば大丈夫だろう。

 

用も済んだので仕事に戻るとするか。

 

 

「…ところで、どうしてお前はナイチンゲールのことを名前で呼んでいるんだ。あのお前が…」

 

「まあ、ちょっとな。さて、私はそろそろ自分の仕事に戻るさ。リズのことをよろしく頼む」

 

 

ぼろが出る前にさっさと帰ろう。何故だかあまり彼女には話したくはない。

 

そそくさと研究室から出ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつに何があったのかは知らないが、あいつも変わったものだな」

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

…ドクター含めた4人で朝食を食べた後、私はシャイニングさんを探していました…。

 

…どうやら、シャイニングさんは一般宿舎の方にいるそうです…幸い執務室と同じ階だそうで、丁度いいですね……。

 

 

「…失礼します…こちらに、シャイニングさんはおられますか…?」

 

「おや、リズではありませんか。貴方が私のところに来るなんて珍しいですね。何か御用で?」

 

「…実は、以前話した違和感についてなのですが…」

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「なるほど…今日の朝食のときにも、また以前のような違和感を感じたのですね」

 

 

…今朝、ドクターやアズさん、プラチナさんと一緒に朝ごはんを食べさせていただいた時に…いつかと同じ、不思議な胸の暖かみを感じました。

 

…その旨を、シャイニングさんにお伝えすると、彼女は神妙そうな顔をして何度かうなずいています。何か、分かったのでしょうか……。

 

 

「…あの、何か分かったのでしょうか……」

 

「ええ、まあ。ですが原因等は…いえ、見当はつくのですが…」

 

 

…歯切れが悪いですね……?何か、不都合なことがあったのでしょうか…。今の私には、あまり原因が思い当たらないのですが…。

 

 

「…何か、問題でも……?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。病魔がなんらかの影響を及ぼした、ということはないはずです。ですが、私がどうこうできる問題ではなさそうで…」

 

 

…そこで一旦言葉を止め、シャイニングさんは居住まいを正しました…どうか、したのでしょうか。

 

 

「リズ、おひとつ聞きたいことがあります…前に窺われたときから疑問に思っていたのですが」

 

 

 

 

「貴方は、ドクターのことをどう思っているのですか」

 

 

 

 

……最近、よく聞かれるようになった質問ですね…私の感情に、何の意味があるのでしょう。ですが、他でもないシャイニングさんに聞かれたのなら…お答えしないわけにはいけませんね…。

 

 

「…誰に、なんと言われようと。私の気持ちは、変わりません……私の使命は、ただ一つです…」

 

 

…そう、壊れた私にドクターが芽生えさせた、生きる理由。

 

 

「…ドクターを。私と同じ、籠の中の鳥であるドクターを……最後まで、お傍でお支えしたいのです…今の私に、壊れた私に唯一出来ることですから…」

 

「………それは、一体どういうことですか…?ドクターが、貴方と同じ…?」

 

「…はい。ドクターはおそらく…私と同じ、周りの人間にその能力を行使させることだけを必要とされている……」

 

 

…私があの日見たもの、感じたものを全てお話ししましょう。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

「……そうですか、ドクターが…」

 

 

……私の話を聞いたシャイニングさんの反応は、アズさんやプラチナさんと似たようなものでした…シャイニングさんはそもそも、ドクターがそういう状況であったことすら…あまり把握していなかったようですが。

 

 

「…となると、リズは当分ドクターと行動を共にする予定ですか?」

 

「…それが、私に出来る数少ないことですから」

 

「…そうですか。これでようやく繋がりました。リズ、その胸の暖かみは、決して貴方にとって害為すものではないでしょう。むしろ大切にすべきものですよ」

 

 

…見れば、シャイニングさんの顔が…いつの間にか柔和なものに変わっています。

 

…大切にすべきもの、ですか。私には…よくわかりませんが。

 

 

「…私は、ロドスに来て良かったと…最近は思うようになりました…本当にありがとうございます、シャイニングさん…」

 

「リズ…」

 

「…相談に乗っていただき、ありがとうございました…それでは、私はこれで…」

 

「…はい。また」

 

 

…ひとまず、シャイニングさんからは「大切にしろ」と言われたので…そうしてみることにしましょう。

 

…少しだけ、この体が軽くなったような気がします。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

ナイチンゲールが宿舎を後にしたのを見送ったシャイニングは、飲みかけのコーヒーをあおり独り言ちていた。

 

 

「リズ…貴方は、ここ最近で随分変わりましたね。聞いた限りでは、悪い方向ではなさそうですし…」

 

 

彼女はナイチンゲールをロドスに連れてきた張本人。ある意味で保護者代わりとも言える彼女からしてみれば、最近のナイチンゲールの様子は微笑ましく嬉しいものである。

 

それにしても、だ。

 

 

「ドクターが、まさかそんな状況だっただなんて…しかし、噂で聞くところによればドクターは時折源石そのものを摂取してでも日々激務に取り組んでいるとか。それを聞いた時はまさかと思いましたが、どうやら事実である可能性が出てきましたね…」

 

「1人の医者として、それは見過ごせるものではありませんね。今度ドクターに探りを入れてみましょうか」

 

 

窓の外、はるか遠くを見やるシャイニング。彼女の目には、ナイチンゲールに対する慈愛とドクターに対する心配の色が浮かんでいた。

 




自分の仕事に忠実な人同士の会話なのでケルシー先生はたぶんリズのあれが症状ではないとは気づかないでしょうねえ。

シャイニングさんはきっといい仕事をしてくれるはず。





ちなみに評価をくれるだけで私のテンションが3割増しになります。是非。


追記
評価バーが赤になりましたん。これも皆さんのお陰ですね。わーい。目指せ評価平均9.50代(圧倒的☆10評価乞食ムーヴ)
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