とある洋食屋の物語 作:ジャンパー
更新が遅くなってしまってすみません。
思った以上に忙しくなったのと、長くなってしまったためです。
次の話はなるべく早めに上げれるよう頑張ります。
あと、お気に入り登録や評価ありがとうございます。
とても励みになります。
「はぁ…。憂鬱だわ…」
起き抜けの最初の一言がこれである。
今日は日曜日、そして5バンド合同ライブの日だ。
しかし、まだ色々踏ん切りが付いていない内から日菜と共演する事になってしまった。
そしてそんな状態なのに、葵さんとお兄さんが来る事になったのだ。
2人とも、日菜の事をまだ知らない。
そして今までの経験上、私と日菜の2人を初めて同時に見た時、ほぼ全員がこぞって私達を比較しては日菜を褒めるのだ。
まだ知り合って1ヵ月しか経っていないが、2人ともそんな事はしないだろうと思うぐらいには信頼している。
しかし…それでも…もしかしたら……そう思うと怖くて仕方ない。
「憂鬱だわ…」
知らず知らずの内に、またもや同じ事を口癖のように呟いてしまうのだった。
「兄さん、そろそろ行きませんか?」
「まだ少し早いんじゃないか? それに差し入れの準備中だから、もう少しだけ待ってくれ」
今日は沙綾から誘われたライブイベントに行く予定だ。
開場は12:30の13:00スタートで、今は11:30頃、会場までは15分程で着く距離なのだが、待ちきれないのか葵が急かしてくる。
聞けば沙綾、氷川さん、はぐみ、Afterglowのみんなも参加するらしく、それならという事で皆への差し入れの準備をしている。
何を準備しようか迷ったが、女の子ばかりという事なのでプリンにした。
使い捨てカップにすれば手軽に食べられるだろうし、数を用意しやすいのもある。
それにプリンは嫌いな子は少ないしな。
知り合いだけに用意するかとも思ったのだが、1人だけ差し入れを食べるという状況は中々きついだろうから全員分26個用意する事にした。
数も多いし、そんなに時間もないのでプリンは冷やすだけのタイプにする。
生クリームやバニラビーンズを使用すれば蒸さなくても全然美味しく作れるからな。
あと、この前沙綾が誘ってくれた時、何となくだが氷川さんの様子がおかしいような気がしたから、氷川さんだけ特別にフライドポテトを用意する事にした。
せっかくだし、ちょっとアレンジしたフレーバーポテトも用意してみるかな。
そんなわけで差し入れを持って会場へ向かう。
恐らく開場5分前には着くだろうと思う。
「兄さん、今日のライブ、すっごく楽しみですね!」
「そうだな。つぐ達のAfterglowはよく誘ってくれるけど、沙綾は久しぶりだもんな。はぐみはバンド始めてたの全然知らなくて驚いたけど…」
「ですね。沙綾ちゃん、前組んでたバンドの時はたまに呼んでくれてましたけど、解散してからはバンドやめてましたもんね。はぐみちゃんは私も知らなかったです」
「まぁ昨日会った時に聞いたら、始めてそんなに経ってないって言ってたぞ。それでもうライブするのかと思うと、あいつ才能あるんじゃないか?」
「かもしれませんね。はぐみちゃん、結構多才ですし。あ、あと氷川さんの演奏も楽しみです!」
「そうだな。以前に聞いた話だと相当努力してるみたいだったし、普段からストイックに練習してるところを見ると期待してしまうな」
「えっ、兄さん、氷川さんの練習見た事あるんですか?」
「あー、すまん、言葉が足らなかったな。皿の持ち方とかの話な。仕事もあれだけストイックに努力出来るんなら、ギターもかなり練習してるんだろうなと思ってさ」
1ヵ月目処ぐらいに考えてた4枚持ちを2回目の出勤日に出来るようにしていたんだから、相当な努力家なのは一目瞭然だ。
そう思うとほんとにいい子が入ってくれたなと、自分の幸運を噛み締める。
葵は「なるほど、そうですね」と納得していた。
そんな事を話している内に会場に着いた。
『CiRCLE』というライブハウスで、つぐ達に呼ばれるライブもここでやる事が多い。
それなりに勝手知ったると言った感じで受付へと向かった。
「いらっしゃいませー……あら、東雲さん、こんにちは」
「月島さん、こんにちは」
彼女は月島まりなさんといい、ここCiRCLEのスタッフだ。
Afterglowのライブの度に顔を合わせており、毎回差し入れの受け渡しをお願いしている内にそこそこには話をするようになったのだ。
「あれ…東雲さん、チケットは持ってるんですか? 今日はAfterglowからの取置きは聞いてませんけど…」
「あぁ、今日はAfterglowじゃなくて山吹沙綾の取置きになってませんか?」
「沙綾ちゃんの…? あ、ありました! 2枚伺ってます」
「それなら良かった。ではそれでお願いしますね」
「かしこまりました。それにしても東雲さんも隅に置けませんねー? Afterglowのみんなだけじゃなく沙綾ちゃんまでだなんて。葵ちゃんも気が気でないんじゃないの?」
「いえ、私としては兄さんには早く結婚してほしいと思ってるんですけど、未だに彼女の陰すら見えないので逆に心配なんです…」
「あ、そうなんだね。ちなみに東雲さんは誰狙いなんですか?」
「いや、みんな妹みたいなもんですけどね…」
全員赤ん坊の頃を知ってる身としては、さすがに恋愛対象にはならないんじゃないかと思うよ、よっぽどな事がないとさ。
「そんな事言ってたらいつまで経っても結婚出来ませんよ? 私は早く甥っ子か姪っ子が見たいです」
「あー、もうこの話は終わりな! そんな事より月島さん。申し訳ないけど、また差し入れ届けてくれますか?」
そう言って持ってきた差し入れ全てを渡す。
「はいはい…って今回はまた多いですねー! 誰に渡すんですか?」
「今回は沙綾から5バンド25人みんな知り合いだと聞いてるんで、5つの袋に人数分のプリンを入れてます。なので各バンドに1つずつ渡して下さい。あとこの袋だけはAfterglow用、これはRoselia用なので、それだけ間違えないようにして下さい」
「了解です。でもなんで袋を分けてるんですか? しかもRoseliaも?」
「Roselia用のは氷川さんへのフライドポテトも入れてるので。Afterglow用のは蘭がビター好きって事で蘭の分だけカラメルを苦めにしてるんです」
「はえー、氷川さんとも交流あったんですね。わかりました…ってあれ? なんか袋1つ多いですよ?」
「あ、それは月島さん用です。良かったら後で食べて下さい」
「私にまで!? ほんとそういう所はすっごくマメですね。ありがとうございます。後で頂きますね」
「いえいえ、月島さんにはお世話になってますから。じゃあ俺らは行きますね」
「はい! ごゆっくりどうぞー!」
そう言って中へ入る。
思ってたより早く開場してたのか、既に人が多い。
葵に席を確保してもらいつつ、俺はドリンクを貰いに行くのであった。
「Afterglowの皆さーん! 東雲さんからの差し入れが届きましたよー!」
「あっ、まりなさん! ありがとうございます!」
まりなさんは忙しいみたいで、『それではー』とだけ言って足早に去っていった。
「今回は何だろうねー? あっ、プリンだー」
「おっ! 悠介のプリンは美味しいからな! 早く食べようぜ!」
「じゃあ配るよー! あ、これが蘭専用だって」
「…ちょうだい」
「それにしてもー、ゆーくんはほんとにマメだよねー。いつも蘭の分は味を変えてるんだからー」
「ほんとだよね。うちのお父さんもお客さんによって豆の配合変えたりするみたいだけど、簡単に出来る事じゃないよ」
「それじゃあ悠介に感謝して、いただきまーす! んー!美味しー!もっと食べたいー!」
「ひーちゃん、太るよー?」
「ちょっと、モカー!?」
「せめて私の分のカロリーだけでもー。えーい」
「やめてよー!!」
「…苦くて美味しい」
「あはは…蘭ちゃんはマイペースだね…」
「Roseliaの皆さーん! 東雲さんからの差し入れですよー!」
「東雲さん? 誰かしら?」
「私も知らないなー? 誰か知ってる?」
「いえ…私も知らないです…」
「すみません。私のバイト先の店長の方だと思います」
「あっ、やっぱ悠兄ぃだったんですねー。そうかなーとは思ったんですけど、確信が無くて」
「なるほど。紗夜ちゃんとはそういう関係なんだね」
「まりなさん。ええ、そうなんです。ちょうど1ヵ月前ぐらいからお世話になってます」
「そうなんだ。ちなみに紗夜ちゃんには別で差し入れを入れてるって言ってたよ?」
「私にですか? わかりました。後で見てみます」
そしてまりなさんが去っていった。
「紗夜ー。せっかくだから開けてみようよー」
「ええ、そうですね。湊さんもよろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
「それでは…あっ、プリンが入ってますね。それも人数分」
「ええー!! 悠兄ぃのプリン! 食べたい!」
「あ…あこちゃん…落ち着いて…」
「あはは…まぁ私も気になるし、食べちゃおうか」
「ええ、配りますね……あら、これは……!! ポテトも入ってます!」
「へえー、紗夜の好みに合わせて用意してくれたんだ。もしかして紗夜に気があるんじゃないのー?」
「いえ、それはないでしょう。東雲さんは誰にでもすると思います」
「え〜、そうかな〜?」
「それより紗夜。早く食べたいわ」
「そうですね。じゃあ改めて配っていきますね」
プリンを配り終え、私はポテトの袋を開けた。
あら? いつもと形状も違うし、匂いも違う。
だが、変わらないのはとても美味しそうである事だ。
「なんかすっごくいい匂いがするね。紗夜、1口貰えない?」
「ええ、いいですよ。というか、いっぱいありますので良ければ皆さんもどうぞ」
「いいんですか!? じゃあいただきまーす! うわ! さすが悠兄ぃ、すっごく美味しい!」
「本当…ですね。このピリ辛の…とても美味しいです…」
「これは…恐らくベーコンチップを砕いてパウダーにした物とチリパウダーをまぶしてる…。こっちのはレモンの風味はするのにカリカリさは損なわれてない…一体どうやって…」
「リサが評論家みたいになってるわ」
「いやー、これだけ美味しいとどうやって作るのか気になって…。というか紗夜、もうちょっと落ち着いて食べなよ」
「はっ、すみません…。初めて食べる味だったのでつい…」
「でも…気持ちはわかります…。本当に…美味しいです…」
「プリンもすっごく美味しいですよー!!」
「後で東雲さんには御礼を言わないとですね」
「Poppin’Partyの皆さーん! 東雲さんからの差し入れですよー!」
「えっ、悠介から?」
「沙綾、知ってるのか?」
「うん、私の幼馴染みなんだ」
「沙綾のコレな人?」
「おっ、おたえ!! そんなんじゃないよ!」
「沙綾のその反応…怪しいな…?」
「さーや! 何貰ったの!?」
顔を真っ赤にして狼狽える沙綾。
「うんうん、沙綾ちゃんのかわいいとこが見れて良かったよ。じゃあ私は行くね」
「え? あっ、ちょっと待ってまりなさん!」
「まりなさん、行っちゃった…」
「っで、沙綾。結局何貰ったんだ?」
「えっと…プリンみたい。人数分あるよ」
「プリン! さーや! 早く食べよう!」
「プリン! プリン!」
「香澄ちゃん、おたえちゃん、落ち着いてー!」
「はいはい、すぐ配るから!」
香澄とおたえに急かされてプリンを配る。
「なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ」
「すっごく滑らかで美味しいね」
「プリン…もう無くなっちゃった…」
「私も…」
「お前ら食べるの早すぎだろ!」
「あはは…悠介には後で御礼言っとくよ」
「ハロー、ハッピーワールド!の皆さーん! 東雲さんからの差し入れですよー!」
「え? 東雲ってゆーくんの事かな?」
「うん、多分そうだよ」
「あら、はぐみの知ってる人なのかしら?」
「うん、近所の幼馴染みのお兄ちゃんなんだ! 洋食屋やってるの!」
「あぁ、儚い…」
「薫さん、もはやそれ言いたいだけですよね?」
「おやおや、これは手厳しいな」
「それではぐみちゃん、差し入れって何なのかな?」
「あたしも気になるわ!」
「えっとねー。プリンだよ!」
「へえー、プリン。ならせっかくだし、今から食べちゃおうか」
「そうね! あら? これだと5つしかないからミッシェルの分がないわよ?」
「それはいけないね。仲間外れは良くないな」
「ほんとだ!! みーくん、どうしよう!」
「あー、あたしがミッシェルと半分こするから大丈夫だよ。だから気にしないで」
「あはは…」
「それなら安心ね! それにしてもこのプリン、とても美味しいわ!」
「さすがゆーくん!」
「はぐみ! 知り合いなら、あなたのプリンのおかげでみんな笑顔だったと伝えてちょうだい!」
「わかったよ、こころん!」
「Pastel*Palettesの皆さーん! 東雲さんからの差し入れですよー!」
「東雲さん? 誰かしら?」
「あたし知らなーい!」
「ジブンも知らないっす…」
「どなたでしょうか?」
「東雲さん…クラスメイトにそんな名前の人はいるけど…」
「あ、パスパレには知り合いいなかったんだね。ごめんごめん。今回は沙綾ちゃんの招待の方なんだ」
「『今回』という事は、他にも知り合いがいらっしゃるという事ですか?」
「うん。他にはAfterglowは全員、ハロハピのはぐみちゃん、あとはRoseliaの紗夜ちゃんと、多分あこちゃんもだよ」
「えっ? お姉ちゃん?」
「そうだよ。近くの洋食屋で店長してる方なんだけど……あっ、ごめん、そろそろ戻らないと!」
「あっ、ちょっと!」
そうしてまりなさんは急いで戻っていった。
「行っちゃったね…」
「まぁ素性ははっきりしてる方みたいだし、他のバンドの方とは交流あるみたいだから差し入れも安全だとは思うわ」
「中身はプリンのようです!」
「せっかくだし、いただきましょうか」
「じゃあ配るッスよ! はい、ヒナさんも!」
「あっ、うん」
「わぁ! このプリンすっごく美味しい! どこで買ったんだろ?」
「ほんとッスね! すごく滑らかッス!」
「この味はとてもブシドーです!」
「確かに美味しいわね。日菜ちゃん、今度紗夜ちゃんにどこで買ったものか聞いてもらってくれないかしら? 紗夜ちゃんの知り合いらしいから」
「う、うん。それはいいんだけど…」
「「「「?」」」」
「お姉ちゃんとどういう関係なのか気になるよー!!!!」
「へくちっ!」
「紗夜ー? 風邪? 大丈夫ー?」
「ええ、大丈夫です。ちょっと悪寒がしただけですので…」
「兄さん、こっちですー!」
「うっす、悠兄ぃ」
「おー……あれ、ますきも来てたんだ」
葵が取ってくれたスペースに向かうと、そこにはますきも一緒にいた。
「ちょうど空きスペースを探してたらますきちゃんに声を掛けられたんです」
「まさか葵姉ぇがいるとは思わなくてびっくりしたよ」
「なるほどな。今日は1人で来てるの?」
「おう、そうだよ。パスパレの麻弥さんを見に来たんだ。あの人はほんと神のようでさ!」
ますきはスタジオミュージシャン(だったと思う)のドラマーとして働いており、凄い腕前だと沙綾から聞いた事がある。
そのますきがそこまで推すのだから、麻弥って子は相当凄いのだろう。
「ますきがそこまで言うのなら楽しみだな。そのグループだけは知り合いがいなくて見所がわからなかったんだ」
「あぁ、確かに他のバンドには商店街関係の皆いるもんな」
開始まで雑談をしながら周りを見渡すと、来場者はかなりの数になっていた。
ますきが気合い入れていいスペースを確保してくれてたおかげで、ステージからかなり近めの席にありつけた。
ますきには今度お礼をしないとな。
そしてライブ開始である。
最初は沙綾がいるPoppin'Partyだ。
沙綾が入場してすぐにこちらに気付いたようで、ウィンクしながらこちらに手を振ってきたので、一応こちらも手だけ振り返しておく。
ウィンクは葵に任せた。
ポピパは最初の1バンド目に選ばれるだけあって、曲調は明るく、歌詞も青春って感じだった。
みんなとにかく楽しそうに演奏しており、それに釣られてこちらも楽しくなってくる、とてもいいバンドだ。
沙綾も楽しそうにドラムを叩いている。
その次はAfterglow。
見慣れた5人だったが、やはり演奏中は曲調等も相まってとてもかっこいい。
ポピパで上がったボルテージをそのまま引き継いでいった。
沙綾と同様に、モカがこちらにピースしてきたりもあったが、とても良い疾走感だった。
そしてその次がRoselia。
Roseliaが入場した瞬間、歓声が更に上がった。
氷川さんがすぐこちらに気付いたようで、会釈だけしてきた。
そして
「あれ? 兄さん、あこちゃんがいます」
「え? あ、ほんとだ。あいつもRoseliaだったのか…」
「あれ、Roseliaの知り合いってあこじゃないのか?」
ここで気付いたのだが、俺はあこちゃんがRoseliaのメンバーである事、ますきは俺と氷川さんが知り合いである事を知らなかった。
そしてますきは俺があこちゃんと知り合いなのは知っており、『Roseliaの知り合い=あこちゃん』であると勘違いしていたというわけだ。
「あこちゃんとは最近会ってなかったから、バンド組んでたのは知らなかったよ。ちなみにRoseliaの知り合いは紗夜ちゃんなの」
「へえー、意外だな。なんでまた?」
「色々あって、東雲亭のバイトに来てくれてるんだ。元々クラスメイトではあったんだけどね。ちなみに白金さんもクラスメイトだよ」
葵は他にも面識のある子がいたらしい。
そういう事は先に教えてほしい。
そして演奏が始まったのだが、正直言って、かなり驚いた。
音楽の荘厳さ、ボーカルの歌唱力、各楽器の演奏技術、どれを見てもかなりの高レベルだ。
そして俺は、氷川さんから目が離せなかった。
氷川さんの綺麗な指から紡がれる正確無比なギター捌き、荘厳な曲調にマッチした容姿や雰囲気、その綺麗な声によるコーラス。
もちろん他の子も、あこちゃんを含めてかなりの高レベルで纏まっている。
この5人で無ければ、このバンドの雰囲気も出ないだろうという予感もある。
それでも俺は
どうやら一目で氷川紗夜のファンになってしまったようだ。
そしてその後ははぐみのいるハロー、ハッピーワールド!
まず一目見て一番に思った事は…クマの着ぐるみがいる!!!!
着ぐるみを着て演奏出来るのか?とか、色々思う事はあるのだが、インパクトで言えば全バンドの中で1番なのは間違いないだろう。
しかしRoseliaで更に加速したボルテージを引き継げるのかと思ったのだが、とてもノリのいい曲調、そしてまさかのワイヤーアクションもあり、サーカスのような動きで観客全員驚きの嵐だった。
息をつく間もない程のパフォーマンスと、ポピパ同様の笑顔いっぱいのステージでとても楽しかった。
あのボーカルの子、はぐみに負けないぐらいの運動神経だったな。
そしてトリを飾るのはPastel*Palettes。
現役女優やモデルがいるという、正真正銘のアイドルバンドだそうだ。
やはりファンが多いのだろう、会場内のテンションも上がってきている。
「あれ…氷川さん…?」
フリフリの衣装を着た、アイドルな氷川さんがそこにいた。
先程までの荘厳な雰囲気のイメージが一気に霧散する。
似合ってるかどうかで言えばまぁ似合ってるんだが、先程までとのギャップが尋常じゃない。
もはや別人…
「あぁ、Roseliaの紗夜さんとパスパレな日菜さんは双子の姉妹らしいぞ」
別人だった。
そりゃそうだよな!
落ち着いて見れば表情が全然違う。
今も弾いてるギター捌きも凄腕なのは変わらないが、受ける印象に多少違いはあるように思う。
天真爛漫って雰囲気で笑うあの子は、氷川さんとはどう違うのかが気になった。
ちなみにますきはドラムの子に対してキラキラとした視線を送っており、葵は楽しそうに合いの手を入れていた。
どうやらボーカルの子がクラスメイトで、ベースの子は隣のクラスだとの事だ。
なんというか、世間は狭いなと痛感しながらライブは大盛況のまま、幕を閉じた。
ステージ近くにいたせいか、会場から出るのがかなり後の方になってしまった。
どうやら演者が見送りをしてくれるようで、出口付近にみんなが集まっていた。
「あ、悠介、葵お姉ちゃん、ますき! 今日は来てくれてありがとうね!」
「沙綾もお疲れ。今日は誘ってくれてありがとうな」
「とっても楽しかったよ!」
「お疲れ、沙綾。ドラム、めっちゃ良かったぞ」
「ありがとう! あ、そうだ。みんながプリンのお礼を言いたいってさ」
「そんなの別にいいのに」
気恥ずかしさから苦笑いしながらそう言う。
そしていつの間にやらますきはいなくなっており、辺りを見たらパスパレのドラムの子と話していた。
なんかお互いが恐縮しながら褒め合ってる状態になってて笑える。
「みんな、こちらがプリンを持ってきてくれた悠介だよ」
「「「「プリンありがとうございました!」」」」
「いや、喜んでもらえて良かったよ」
そんな感じではぐみからハロハピも紹介とお礼を言われ、Afterglowのみんなからも感謝を伝えられた。
葵は蘭と盛り上がっている。
「東雲さん」
話し掛けられたので振り向くと、そこには氷川さんが立っていた。
「あ、氷川さん。今日はありがとう。とても楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ差し入れまで頂いてありがとうございました」
「せっかく誘ってくれたんだし、これぐらいはと思ってね」
「プリンもポテトもとても美味しかったです」
「それなら良かったよ」
「ポテトはいつもと違って『紗〜夜〜!』キャッ! ちょっと、今井さん!」
何やら茶髪のギャルチックな子が氷川さんに抱きついていた。
確か、Roseliaでベース弾いてた子だったはずだ。
「あはは、ごめんごめん。それよりその人が例の人? 良かったら紹介してよ」
「ええ、わかりました。東雲さん。こちらは今井さんで、同じRoseliaのベース担当の方です」
「どうも〜初めまして! 今井リサっていいます」
「こちらこそ初めまして。洋食屋をやってます、東雲悠介です。よろしくね」
「よろしくです! ところで聞きたかったんですけど、あのフライドポテトのレモンの風味ってどうやって付けてたんですか? カリカリさはそのままだから、レモン汁をかけた訳ではなさそうなんですけど…」
「ああ、あれはレモンの皮を折るようにして摘むと香味成分を抽出出来るんだ。それをかけただけだよ」
レモンは皮からも香味成分は沢山取れ、普通に果汁をかけなくても十分風味がつくのだ。
バーテンダーがグラスの口にレモンの皮を擦り付けたりすると聞いて試してみたんだが、どうやら当たりだったようだ。
「へぇ〜、そんな事が出来るんですね。あと、プリンもすごく美味しかったです。でも、あれだけの数は大変じゃなかったですか?」
「いや、今回のは蒸さずに冷やすだけで作れる手法だったから手間じゃなかったよ」
「そんな手法であれだけ美味しく作れるなんて…。良かったら今度教えて下さい!」
「機会があれば大丈夫だよ。営業時間でなければいつでも」
そんな約束をしていたら
「あっ、悠兄ぃ!」
あこちゃんがやってきた。
残りの2人も一緒なようだ。
「差し入れありがとうね! すっごく美味しかった!」
「みんなの口に合って良かったよ」
「あ、そうだ悠兄ぃ、紹介するね! 友希那さんとりんりんだよ!」
「湊友希那よ。よろしく」
「白金…燐子です…。今日は…ありがとうございました…」
「東雲悠介です。こちらこそよろしくね」
「東雲さん。今日の私達のライブはどうだったかしら?」
「すっごく良かったよ。歌詞、曲、演奏技術、歌唱力、どれを見ても素晴らしいの一言だった」
「そう。それなら良かったわ」
「うん。あ、あと、氷川さんのファンになったよ」
「えっ? わ、私ですか…?」
「うん、氷川さんの立ち居振る舞いやストイックな雰囲気はRoseliaにすっごくマッチしていたし、あの演奏を見るとね」
「あ…ありがとう…ございます…」
「紗夜〜、良かったじゃん!」
「あ、でもその後にパスパレが出てきて、氷川さんの双子の姉妹の子を見た時は驚いたよ。ますきに聞くまで狼狽えたから」
そう言ってはははと笑う。
しかし氷川さんは少し固まった。
「あの…あの子、妹の日菜と私はどっちの方が良かったですか?」
「え? んー、そうだね。さっきも言ったけど、俺は氷川さんのファンになったんだよ。氷川さんのギター捌きや、Roseliaにマッチした雰囲気に惹かれたからね」
「でも、技術はあの子の方が…」
「それは俺みたいな素人にはそんな違いはわからないかな…。でもこれだけはわかるってのは、Roseliaのギターは氷川さんにしか出来ないって事だよ」
もし氷川さんの代わりに妹さんが入ったとして、それがしっくり来るのかと言われたら答えはNOだろう。
逆にパスパレに氷川さんが入ったとしても同じだ。
それぐらいにどちらのバンドも完成された形だと思った。
「ありがとう…ございます…」
俺はギョッとした。
氷川さんが涙を流しているのだ。
え、つーか俺のせい?
「ええ! なんかごめん! 変な事言っちゃった!?」
「いえ…そうじゃないんです…」
めちゃくちゃ慌てたが、とりあえず問題はなかったようだ。
「あ〜らら。紗夜を泣かしちゃうなんて、責任取ってもらうしかないですね〜」
そんな事を言いながらニシシと笑うギャル、もとい今井さん。
「ちょっと今井さん!!」
「キャ〜、紗夜が怒った〜!」
小学生のようなからかいをする今井さんを走って追う氷川さん。
うやむやになったが、空気が戻って良かった。
今井さんに感謝だな。
改めて皆に挨拶をして俺と葵は帰宅するのであった。
そして俺は、Roseliaのみんなとのやり取りをこっそり見ていた人物がいるなんて思いもしなかったのだった。
10000字超えたのは初めてです。
分けようかと思いましたが、綺麗に分けるとこがなかったのでこのままでいきました。