とある洋食屋の物語 作:ジャンパー
他にも付けた方がいいというタグがあれば教えて下さい。
もう少ししたらグループやキャラのタグは増やす予定です。
そして、気付けばお気に入り数が200件を超えました。
本当に皆様、ありがとうございます。
評価も最近は高評価ばかりでとても嬉しいです。
6/23 タイトルを変更しました
沙綾に誘われたライブから1日が経ち、今日は火曜日。
氷川さんのバイトの日であり、今日から氷川さん1人でホールを回してもらう事になっている。
とは言え俺がやるのは多少のフォローぐらいだ。
今日はディナー用の仕込みも必要無さそうだし、気長に休憩でもしようかと思っていたのだが…
「んー!! このポテトもすっごく美味しいよー! るんっ♪ってくる!!」
どうしてこうなった?
「んー、なんかるんっ♪って来ないなぁ…」
一昨日にみんなで合同ライブをやって、初めてお姉ちゃんと共演出来た事はすっごくるんっ♪って来たんだけど、問題はその後だった。
あたしの知らない男の人が、お姉ちゃんやリサちーと話してるのを見つけた。
それだけならまだしもなのだが、その男の人はあろう事か、お姉ちゃんを泣かせたのだ!
でも、帰ってからのお姉ちゃんはいつも通り…いや、むしろなんか嬉しそうにしてた。
泣かされたのに嬉しそうにしていただなんて…お姉ちゃんってば、実は……なのかな?
話の内容は周りが騒がしくてほとんど聞こえなかったけど、お姉ちゃんが泣かされたというのは紛れも無い事実だ。
うん、やっぱりあたしがお姉ちゃんを守らないと!
思い立ったが吉日、善は急げ、うまいものは宵に食え!!
「リサちー!! 早退するから代返よろしくっ!!」
「えっ? ちょっと日菜っ!?」
無理だよ〜!という声が聞こえたような気がしたが、そんな事は気にしない。
あたしはお姉ちゃんを泣かせたあの男の人の元へ急いだ。
「あれ? そういえばあの人はどこにいるんだろ?」
そもそも、あの人が何者なのかすらわからない。
いきなりの手詰まりである。
しかしあたしは考えた。
あの日の事を順に思い出していき、そしてあたしは閃いた!
「まりなさーん!! この前の男の人の事を教えて!!」
そしてあたしはCiRCLEへと辿り着いた。
そう、あたしは思い出したのだ。
あの時、まりなさんが『東雲さん』と呼んだ事を。
「えっ!? 日菜ちゃんっ!? こんな時間だけど、学校はどうしたの?」
「リサちーに代返頼んだから大丈夫!」
「えっと…高校で代返は相当無理がないかな…?」
「大丈夫! あたしはリサちーを信じてるから!」
だから、さっきから携帯がやたらと震えてるような気がするのもきっと気のせいに違いない!
「そんな事よりこの前の男の人の事を教えて!」
「この前の男の人って…東雲さん?」
「そう! お姉ちゃんと知り合いっていう人!」
「えっと…東雲さんの事は私もそんなによく知らないよ? Afterglowのみんなや沙綾ちゃん、はぐみちゃんと幼馴染みって事と、商店街で東雲亭って洋食屋をやってるって事ぐらいしか…」
「商店街の東雲亭だね! まりなさん、ありがとー!」
「えっ!? ちょっと日菜ちゃんっ!?」
好機逃すべからず、今日なし得る事は明日に延ばすな、鉄は熱いうちに打て!
あたしは商店街へと向かった。
「今日のランチは全然ですねー」
「そうですね。ここまでなのは珍しいような…」
俺はパートのおばちゃんと暇を持て余していた。
最初だけ少しお客さんが入ったが、13:00を過ぎた辺りからノーゲストである。
大抵はここまで暇な事もないのだが…
「今日はもうお客様も来なさそうですし、良かったら上がっちゃってください」
「そう? じゃあお言葉に甘えて上がりますね」
そう言ってパートさんはサッと着替えて帰っていった。
まぁ少人数なら俺1人でも回せるし、問題ないだろう。
そう思って少しずつ閉店の準備を始めていき、そしてそろそろ閉店しようかと思った頃。
カランカラン
「いらっしゃいませー!」
ギリギリ駆け込みのお客さんが来たようだ。
とりあえずお出迎えをしようと入り口まで行くと、そこには氷川さん?が立っていた。
『なんでこの時間に?』という疑問もあるが、いつもの制服とも違うし、髪の長さも違う。
恐らく、この前見たPastel*Palettesの妹さんの方だろうか?と思った時。
「見つけたーっ!!!」
どうやら俺は探されてたらしかった。
「良ければそこに掛けてくれるかな」
とりあえず立ち話も何なので、テーブルに掛けてもらう。
それにしてもノーゲストでほんとに良かった。
いきなり大声出すもんだからびっくりしたよ。
俺は手早くオレンジジュースを用意し、妹さんの向かい側に座って話す事にする。
「一応先に自己紹介しておくね。俺は東雲悠介。この東雲亭のオーナーシェフだよ。君は…氷川さんの妹さんで間違いないかな?」
「うん。あたしは氷川日菜。お姉ちゃん、氷川紗夜の妹だよ」
「うん、やっぱりそうだよね。それで、今日はどうしてここに? というか、そもそも学校では?」
「この前のライブの日、お姉ちゃん達と話してる所を見たんだけど、その時にお姉ちゃんを泣かしてたでしょー? だから文句言いにきた! 学校はリサちーに代返頼んだから大丈夫っ!」
「ああ、なるほど…」
あれを見られていたから来たって事か。
姉想いのとてもいい子じゃないか。
ストイックでクールな氷川さんとは違って何やら破天荒な雰囲気はあるのだが、心配になって居ても立ってもいられなかったのだろう。
そして代返ってとこは流しておこう。
高校で代返は無意味だと思う。
「あー、あの時か。すまないんだけど、俺も詳しくはわからないんだよね…。なんか俺が言った事が琴線に触れた感じだったっぽいんだけど、確信はないんだ…。でも誓って、暴言を吐いて泣かせたとかでは絶対にないから、それだけは信じてほしい」
「そっかー。まぁあの後の家でのお姉ちゃんは何となく機嫌良さそうだったし、ゆーくんがそう言うならそうなのかなって思うよ」
………ゆーくん?
「その…氷川さん? そのゆーくんって…」
「えー、その方が呼びやすいでしょ? あと、あたしの事も日菜でいいよ。お姉ちゃんと被っちゃうし」
なんかえらく距離の詰め方が早い子だな…。
「うん、まぁ了解だ。とりあえず日菜ちゃん。そういえばよくここがわかったね?」
「うん、まりなさんに商店街の東雲亭って聞き出して、あとはスマホで検索して来たんだよ。ほんとはこの前、帰る時に後を尾けようとしたんだけど、千聖ちゃんに捕まっちゃったから出来なくて、それで今日すっごく苦労したよー」
「あー、うん…それは大変だったね…」
人はそれをストーカーと言うんだ…。
性格面は氷川さんとはほんと似ても似つかないな…。
そしてその時
ぐううう
「もしかしてお腹空いてるの?」
「あっ、そういえばお昼ご飯食べる前に学校出たんだったよ」
「そっか。ならなんか出してあげるから待ってて。嫌いなものとかアレルギーとかはある?」
「えっとねー、豆腐とか、味が薄いのじゃなければなんでも食べれるよ」
「了解」
とりあえず腹に溜まるものがいいだろうから、今日のランチで出したチーズハンバーグにする。
チーズハンバーグは中にチーズを仕込むタイプと、ハンバーグの上に乗せるタイプ、後からトッピングするタイプ、チーズソースを掛けるタイプがある。
手間を考えたら中に仕込むのが一番楽なのだが、今日はチェダーチーズがいつもより少し高く、そしてラクレットがかなり安かったのだ。
そんなわけで今日は後からトッピングするタイプを用意した。
個人的な好みだが、中に仕込むならチェダーが好きなのだ。
ゴルゴンゾーラ辺りのブルーチーズをソースにして掛けてもいいのだが、好き嫌いがとても分かれるのでやめておいた。
そしてラクレットならやはり溶かして掛けるのがベターだと思う。
とりあえずハンバーグをオーブンに放り込み、自家製のデミグラスソースを火にかける。
トッピングには甘めに作ったキャロットグラッセにコーンバター、フライドポテトを添える。
サラダは強めの味付けになるようにシーザードレッシングをかけ、温玉、パルミジャーノ、ベーコンチップ、黒胡椒をかけ、ポテトサラダを添える。
今日のスープは大根のポタージュだ。
ほんとは人参のポタージュもいいなと思ったのだが、今日は氷川さんの出勤日なので予定延期にした。
「はい、おまたせ」
「おお! なんかすっごく本格的だ!」
「一応プロだからね。そしてこれが仕上げだ」
そう言って俺は、ラクレットの断面にバーナーを当てた。
ちなみにラクレットというのはスイスのチーズで、よくチーズフォンデュにも使われるチーズだ。
アルプスの少女ハ○ジに出てくるお爺さんが暖炉に近付けて溶かしていたチーズと一緒のものである。
一応補足だが、チーズフォンデュで使われるチーズはラクレットではなく、エメンタールチーズやグリュイエールチーズを使われる事も多いので、必ずしもラクレットを使う訳ではないとだけ言っておく。
そんな事を思っているうちに、ラクレットの断面がいい具合に溶け出し、チーズの焼けるいい匂いが漂う。
そしてこれをナイフで削りながら、ハンバーグに掛けていく。
溶けたチーズというのは、どうしてこんなに官能的なのだろうと常々思う。
「よし、完成だ」
「うわああ!!! すっごくるんっ♪ってくるよ!!」
よくわからないが、多分いい意味だろう、うん、多分。
「ちなみにパンかライスはいる? ラクレットだからパンの方が合うとは思うけど」
「じゃあパンで!」
「了解」
そんなわけでオーブンにパンを入れる。
しかしパンが焼けた頃には半分近く食べていたのには驚いた。
よっぽどお腹が空いていたんだろう。
「んー!! このポテトもすっごく美味しいよー! るんっ♪ってくる!!」
姉妹なだけあるのか、日菜ちゃんもポテト好きなようだ。
「ポテト追加で揚げようか?」
「いいの!? じゃあ食べる!」
これだけ美味しそうに食べてくれるのなら、料理人冥利に尽きるってやつだ。
そして俺は追加のフライドポテトを揚げに行くのであった。
「ふぅ〜、すっごく美味しかったよ。ご馳走さまでした」
「お粗末様。それなら良かったよ」
なんだかんだでそろそろ16時だ。
この後どうするつもりなのだろうか?
氷川さんが来るまで待つつもりかな?
それを日菜ちゃんに聞こうとした時。
カランカラン
「兄さん、ただいまです」
「東雲さん、こんばんは」
そんな事を思っていたらもう来たよ。
「2人ともおかえり。氷川さん、お客さんだよ」
「え、私に…? って、日菜っ!?」
「あ、やっほー、お姉ちゃん!」
「あ、貴女…なんでここに…」
「いやー、この前のライブの時にお姉ちゃんと話してるの見掛けて、その時にお姉ちゃん泣いてたじゃん? それで気になっちゃって」
「あぁ、つまり紗夜さんが心配で来たって事ですか? とてもいい妹さんですね!」
「えへへー、照れるなぁ」
「……………」
うん? なんか氷川さんの様子がおかしいような…
「このお店、とってもるんっ♪って来るね! お姉ちゃんも働いてるんでしょ? あたしも一緒に働いちゃおうかなー」
「やめてちょうだいっ!!!」
その瞬間、辺りがシーンとする。
それはそうだ。
俺も葵も、氷川さんのそこまで大きい声を聞いた事もなかったのだから。
「お…お姉ちゃん…?」
「貴女はいつもそう!! これ以上私の居場所を奪わないで!!!」
そこまで言って、氷川さんはハッと我に帰った。
そして
「ご…ごめんなさいっ!!!」
店から逃げるように出て行った。
俺達はそれに対して何も出来ず、ただ黙って見送るしかなかった。
日菜の暴走は書くのが楽しいですね。