とある洋食屋の物語   作:ジャンパー

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お待たせしました。
今回もシリアス回です。


紗夜捜索

10話

 

 

 

唐突だが、私は『悠介さん』の事は『東雲さん』と呼んでいる。

 

『悠介さん』と呼んでいるのはあくまで心の中だけだ。

 

当初、私の中の悠介さんの立ち位置は『同級生のお兄さん』もしくは『バイト先の店長』といったものだった。

 

それが気付けば、『東雲悠介』として見るようになっていた。

 

いつからかは覚えていないが、完全に意識したのはついこの前、悠介さんと葵さんが初めてライブを観に来てくれ、ファンになったと言ってくれた時からだ。

 

私と日菜と比較し、その上で私を選んでくれた。

 

それは、いつしか常に暗闇を歩み続けてきた私にとっての一筋の光明だったと思う。

 

その出来事はついこの前の事だが、あれから今日までの2日間がとても待ち遠しかった。

 

授業中も時間が進むのがとても遅く感じ、最後の6限目に至っては何回時計を盗み見したかわからない。

 

そして授業が終わり、葵さんと共に東雲亭へと向かう時も、いつの間にか足早になっていたと思う。

 

バイト開始時刻には早かったのだが、早めに行けば悠介さんが試食も兼ねて何かしら用意してくれ、それを摘みながら葵さんも交えて雑談に花を咲かせる。

 

いつしかこの流れが出来上がっており、私にとってはとても大切な時間となっていた。

 

そして何より、現状東雲亭でしか接点のない悠介さんに会える。

 

それがとても待ち遠しいと…ここまで考えて、ふと理解した。

 

そうか…私は、悠介さん…『東雲悠介』に恋をしている。

 

私は音楽をしており、その中で恋愛の歌詞について勉強した事もある。

 

今まではいまいちピンと来なかった恋愛における心理描写も、唐突に共感を得た事で急速に理解が深まった。

 

そしてそう実感すると、とにかく早く悠介さんに会いたくて仕方なくなった。

 

葵さんがいなければ駆け出していたかもしれない。

 

そして逸る気持ちを必死に抑えながら、東雲亭への道のりを歩む。

 

この時、紗夜の顔が少し赤くなっていたのだが、その原因は初夏が近付きつつある気候のせいなのか、はたまた別の要因なのか。

 

その答えを知る者は誰もいないのだった。

 

 

 

しかし

 

ようやく辿り着いた東雲亭で私を待っていたのは絶望だった。

 

東雲亭に入ってすぐ、悠介さんの後ろ姿を見つける。

 

悠介さんの後ろ姿で隠れて見えないのだが、誰かと話しているようだった。

 

 

 

「兄さん、ただいまです」

 

「東雲さん、こんばんは」

 

「2人ともおかえり。氷川さん、お客さんだよ」

 

 

 

お客さんと言われてもピンと来なかった。

 

東雲亭でバイトしているという事はあまり口外にしていないからだ。

 

例外はRoseliaの皆ぐらい。

 

なので、私は宇田川さん辺りが来ているのかと思った。

 

そして悠介さんの奥の人物を覗き込むと…

 

 

 

「え、私に…? って、日菜っ!?」

 

「あ、やっほー、お姉ちゃん!」

 

「あ、貴女…なんでここに…」

 

 

 

当然ながら、私は日菜に東雲亭の事は伝えていないし、両親にも口止めしていた。

 

日菜と同じクラスである今井さんにも言わないようお願いしてある。

 

そして日菜とは学校も違うし、私はいつも学校からバイトに直接向かうから見つかるという事もないはずだ。

 

では何故…

 

 

「いやー、この前のライブの時にお姉ちゃんと話してるの見掛けて、その時にお姉ちゃん泣いてたでしょー? それで気になっちゃって」

 

 

 

少し懸念はしていたが、あの時に見られていたようだ。

 

しかし、ここをどうやって知ったかの回答は得られていない。

 

それを問い詰めようとするが

 

 

 

「あぁ、つまり紗夜さんが心配で来たって事ですか? とてもいい妹さんですね!」

 

「えへへー、照れるなぁ」

 

 

 

悠介さんの表情を見ても、いつも通り微笑んでいる。

 

概ね同意…という事だろう。

 

目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。

 

葵さんも…悠介さんも…まさかここまで来て日菜を選ぶの…?

 

いや…そんな事あるはずがない…!

 

 

「このお店、とってもるんっ♪って来るね! お姉ちゃんも働いてるんでしょ? あたしも一緒に働いちゃおうかなー」

 

 

 

これを聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。

 

 

 

「やめてちょうだいっ!!!」

 

 

 

 

瞬間、空気が凍りついたのがわかった。

 

しかし、感情が爆発していた私は止まらなかった。

 

いや、止まれなかったという方が正しいだろう。

 

 

 

「貴女はいつもそう!! これ以上私の居場所を奪わないで!!!」

 

 

 

ここまで来て、私は我に帰った。

 

そして途端に、とてつもない後悔が押し寄せてくる。

 

悠介さんも葵さんも、びっくりした顔をしている。

 

そして

 

日菜の傷付いた顔を見た時

 

気が付けば私は

 

 

 

「ご…ごめんなさいっ!!!」

 

 

 

東雲亭から飛び出していた。

 

 

 

 

 

そこから先はあまり覚えていない。

 

とにかく走った。

 

どれぐらい走ったのか、どういう道順だったのか、そもそもここがどこなのか、全てわからないまま。

 

困惑…焦燥…後悔…そういった負の感情を拭い去りたかった。

 

このまま消え去りたかった。

 

その為に私はひたすら走り続けた。

 

そうして辺りが暗くなった頃、いつの間にか辿り着いた場所は…

 

 

「ここは…確か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今家に着いたんだけど… お姉ちゃん、まだ家に帰ってなかったの!」

 

「氷川さんが!? 既読は…まだ付いてないな…」

 

 

時間を見ると、今は21:55。

 

帰ってなくてもおかしくはないが、夕方の状況が状況なだけにすごく心配だ。

 

 

 

「ゆーくん…どうしよう…」

 

「ちなみにご両親は何か言ってる?」

 

「今日は2人ともいないの! 昨日から出張に行ってて…」

 

「そうなると…俺が探して回るよ」

 

「あたしも行くっ!」

 

「いや、日菜ちゃんはいつ氷川さんが帰ってきてもいいように家にいてほしい。もし帰ってきたら連絡して。連絡先は…」

 

「RAINのID、×××××だから登録して!!」

 

 

言われた通り打ち込むと、日菜ちゃんのプライベートアカウントらしきものにヒットしたので追加する。

 

試しにスタンプを送ると、スタンプが返ってきた。

 

 

「おっけ。じゃあ日菜ちゃんは家で心当たりに連絡してみて。んで、もし氷川さんが帰ってきたらすぐ連絡ちょうだい」

 

「わかったよ! ありがとうね、ゆーくん!」

 

「お礼は見つかってからでいいよ。そうだ、心当たりの場所とか知らないかな?」

 

「えっと…ごめん…。最近のお姉ちゃんの事はあんまりわからなくて…。あっ、リサちーならわかるかもだから聞いてみる!」

 

「あー、Roselia繋がりならあこちゃんもだな。もしかしたら一緒にいるかもだし、こっちも聞いてみるよ」

 

 

 

そう言って電話を切った。

 

 

 

「葵ー! 葵ー!」

 

 

とりあえず俺は、締め作業をしていた葵を呼んだ。

 

 

 

「兄さん、そんなに慌ててどうしました?」

 

「氷川さんがまだ帰ってないって日菜ちゃんから電話が来た。何か心当たりとかないか?」

 

「えっ、紗夜さんがっ!? でもごめんなさい…。普段は私と紗夜さんはグループが違うんで、共通の友人っていうのはあまり…」

 

「そうか…。とりあえず俺は今から氷川さんを探しにいくから、留守番を頼む」

 

「私も行きます!」

 

「いや、時間も時間だし、可能性は低いだろうけどうちに来る可能性も0じゃない。だから家にいてほしい」

 

「……わかりました。確かに私まで動いたら得策ではありません…。必ず紗夜さんを見つけてください」

 

「ああ、わかった」

 

 

 

そして俺はコックコートから着替えながらあこちゃんに電話する。

 

 

 

「もしもし、悠兄ぃ? 電話なんて久々だね! どーしたの?」

 

「あこちゃん! 今、氷川さんと一緒にいたりしない?」

 

「いないよー? 今はりんりんとクエストしてるんだー!」

 

「そうか…。氷川さんがよく行く場所とか知らないか?」

 

「えっと、CiRCLEとか駅近くのファーストフード、あとはファミレスかな…? というか、もしかして紗夜さんに何かあったの…?」

 

「あー…。ちょっと詳しくは言えないんだが、氷川さんがまだ家に帰ってないんだ。それで日菜ちゃんが心配してて…」

 

「えっ!? あの紗夜さんがこの時間まで帰ってないのは絶対おかしいよ!! あこも行く!!」

 

「いや、さすがにこの時間は危ないからダメだよ。俺が探しに行くから。あこちゃんと一緒にいないか確認したかったのと、心当たりが聞きたかっただけだし」

 

「ううううぅぅぅ……。確かにそうだよね…。ごめん、悠兄ぃ…」

 

「いや、仕方ないよ。氷川さんは俺が責任持って見つけるから」

 

「うん! お願いね、悠兄ぃ!」

 

 

 

ちょうど着替え終えた俺は、スマホと財布だけ待って飛び出した。

 

あこちゃんの情報を頼りに、まずはCiRCLEを目指す。

 

走ればそこまで遠くもないため、ものの5分程度で辿り着いた。

 

当然ながら閉まっていたが、かろうじて残っていた月島さんの姿が見えた。

 

 

 

「月島さんっ!」

 

「え…えっ!? 東雲さんっ!? どうしてここにっ!?」

 

「氷川さんを見掛けませんでしたかっ!?」

 

「えっと…氷川さんって紗夜ちゃんの事ですよね? 日菜ちゃんの方なら来ましたけど、紗夜ちゃんは今日は見てませんね…」

 

「そうですか…ありがとうございましたっ!」

 

「えっ、ちょっと東雲さんっ!? 今日はこんなのばっかりだよー!!!」

 

 

 

CiRCLEを後にした俺は、ファーストフード店に向かう。

 

ファーストフード店も中の方まで全て見て回ったが、氷川さんの姿は無かった。

 

次はファミレスに行ってみるかと思って走り出そうとした時、何やら携帯が震えた。

 

氷川さんかもしれないと、急いで携帯を取り出して見てみると、RAINグループの招待が来ていた。

 

よくわからないまま参加を押してみる。

 

 

 

 

ひな

「ゆーくん! お姉ちゃんいたっ!?」

 

☆リサ☆

「日菜、落ち着きなって。まだ30分ぐらいしか経ってないじゃん」

 

湊友希那

「CiRCLEの閉店時間はとっくに過ぎてるのだから、そこにいる可能性は低いわ」

 

聖堕天使あこ姫

「さすが友希那さん! あこ、思いつかなかったです!」

 

RinRin

「あこちゃん、次は頑張ろ(((o(*゚▽゚*)o)))」

 

Aoi

「兄さん、紗夜ちゃんをお願いしますね!」

 

 

 

みんな、氷川さんが心配なのだろう。

 

わざわざこの為に新しいRAINグループを作るぐらいなのだから。

 

とても頼もしい仲間達だ。

 

 

東雲悠介

「とりあえずCiRCLEには今日は行ってないらしい。月島さんに聞いてきたから間違いない。ファーストフード店も客席まで全部見たけどいなかったよ」

 

☆リサ☆

「あとはファミレスとかカラオケだけど、制服のままだとこの時間だと追い出されるんじゃないかなー?」

 

RinRin

「確かにそうですね( *゚д゚)( *。_。)ウンウン

お店ではなく外でしょうか(・_・?)」

 

聖堕天使あこ姫

「外となると…どこならいけますかねー?」

 

湊友希那

「この時間でも人目に付きにくいとなると…公園辺りかしら?」

 

ひな

「公園…。あっ、もしかして…」

 

Aoi

「日菜さん、心当たりがあるんですか?」

 

ひな

「うん。昔、お姉ちゃんとよく遊んだ公園があるんだよ。お姉ちゃん、昔はそこが大好きだったからもしかしたら…」

 

☆リサ☆

「そこかもじゃん! どこなの!?」

 

ひな

「えっと、確か駅前のコンビニから左に曲がって…」

 

 

 

日菜ちゃんの情報を頼りに、その公園へと向かうのだった。

 

 

 

 

そろそろ6月とはいえ、この時間になると肌寒くなってくる。

 

ましてや、雨が降ってきたのなら余計であろう。

 

当然傘など持っていなかった俺はひたすら雨に打たれ続けながら走った。

 

ビショビショにはなっているが、それは雨のせいなのか、汗のせいなのかはわからなくなっていた。

 

それでも時間が惜しかった俺はそのままその公園へ向かい、そしてようやく辿り着いた。

 

公園の中を見ると、砂場に滑り台、ジャングルジム、ブランコといった、公園によくある遊具が一通り揃っている。

 

しかしパッと見で誰かがいるようには……いや、暗くてよく見えなかっただけで、こんな雨の中でもブランコに腰を落としている人影を見つけた。

 

あぁ、やっと見つけた。

 

その人こそ、俺が必死に探していた、氷川さんだった。




次回は明日か明後日には上げられるよう頑張ります。
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