とある洋食屋の物語   作:ジャンパー

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バンドリキャラも出てきてないプロローグで既に何人かお気に入り登録してくれてありがとうございます。
ちなみにいいタイトルが思い付いたらタイトル変えるかもしれません。


邂逅

「すみません…。まだやっていらっしゃいますでしょうか…」

 

 

 

そんな声がしたのでドアの方に振り返る。

 

水色の髪をロングヘアーにした、めちゃくちゃ美人な子がドアを半分だけ開けて恐る恐るといった雰囲気でこちらを伺っている。

 

あれ?そもそもなんでまだ鍵開いて「ああ!氷川さん!」

 

 

 

そう言って急に立ち上がる葵。

 

ガシャンとカトラリーが音を立て、グラスに注いでいた烏龍茶が揺れる。

 

というか知り合いなのか?

 

 

 

「あら、あなたは同じクラスの東雲(しののめ)さん…。どうしてこちらに?」

 

「ここ、私の家なんです。1Fは兄さんの店なんですけどね。えへへ…」

 

「そうだったんですね。ポテトのとてもいい匂いがしたので、匂いを辿ってみたのですが…」

 

 

ポテトの匂いを嗅ぎ分けるって…この子の前世は犬なんだろうか?

 

というか…

 

 

 

「葵、お前クローズしてなかったのか?」

 

 

そう問われてしばし考えた素振りをした後

 

 

「ああー!!忘れてました!すぐ締めてきます!」

 

 

 

たまにある葵のうっかりがここで炸裂したようだった。

 

基本的には何でも出来る器量良しなのに、たまにうっかりやらすのが玉に瑕だ。

 

 

「とりあえずクローズ看板だけでいいぞー」

 

 

走って出ていく葵にそう声をかけておき、とりあえず来客の対応をしておこうか。

 

意識を接客モードに切り替える。

 

 

「いつも葵がお世話になってます。葵の兄、そしてこの店のオーナーシェフをしております、東雲悠介と申します」

 

「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は氷川紗夜と申します。葵さんとはクラスメイトでして、こちらこそいつもお世話になってます」

 

「そして大変申し訳ないのですが、うちは21時でクローズでございまして…」

 

「あぁ、やっぱりそうですよね…。外から見た雰囲気的にもまだやってそうには見えなかったのですが、ポテトを諦めきれずダメ元で伺ってみただけでしたので大丈夫です。失礼しました」

 

 

そう言って残念そうな顔で出て行こうとする氷川さん。

 

 

「ああ、氷川さん、ちょっと待って!」

 

「はい?」

 

 

呼び止められるとは思っていなかったのだろう。キョトンとした顔をしている。

 

そんな顔でもかわいいと思える辺り、ほんと美人は特だなと思ってしまう。

 

 

「せっかく来てくれたんだし、良かったら食べていかない?

ちょうどうちも今から晩飯のつもりだったしさ。結構多めに作ったし、フライドポテトもあるよ」

 

 

接客モードを解き、友達の兄みたいなスタンスで誘う事にした。

 

その方が変に緊張しないだろうしな。

 

 

「……せっかくのおさそ『氷川さん、良かったら食べていって下さい!兄さんのフライドポテトは絶品ですから』

 

 

遠慮しようとする雰囲気が出ていたが、ちょうど看板を出して戻ってきた葵が氷川さんを誘う。

 

ちなみに俺のフライドポテトがそこまで美味いのかはわからないから、その誘い文句は俺がヒヤヒヤするからやめてくれ。

 

未だに親父のフライドポテトを超えられていない自覚もあるしな。

 

しかしその誘い文句が功を奏したようで、少し考えこんでから

 

 

「それでは良ければご馳走になります」

 

「了解。そしたら氷川さんの分のスープとか用意してくる。ちなみにアレルギーとか、苦手な食材とかはある?」

 

 

ちょっと考えて、言うか言わないか悩んだ結果、意を決した感じの素振りで

 

 

「アレルギーはありませんが………………にんじんが少し……苦手なので外していただけると…」

 

 

マジか。一見するとクールビューティーな雰囲気を醸し出す氷川さんの苦手なものがにんじんとは…。

 

なんというか…ギャップがすごいな…。

 

思いがけないかわいらしさを目の当たりにしてしまった為か、はたまた恥ずかしさで顔を少し赤らめている為か、妙な親近感を得てしまった。

 

まぁでも聞いてて良かった。聞いてなかったらサラダに入れるところだった。

 

 

「了解。じゃあ用意しておくから、葵は氷川さんを手洗い場まで案内して」

 

「わかりました!氷川さん、こちらですよ!」

 

 

何やら葵のテンションが少し高いのが気になるが、とりあえずチャチャッと準備してしまおう。

 

妙にフライドポテトを気にしていたからそれも少し揚げとくとして、他はまぁ足りなくなったらでいいな。

 

手早く追加を準備してテーブルまで戻ると、2人とももう席に着いていた。

 

 

「お待たせ。お口に合えばいいんだけど」

 

 

そう言って氷川さんの前にサラダ、スープ、ライス、フライドポテトを置く。

 

ついでに俺と葵の分のスープとライスも温め直したものを用意した。

 

 

「こっちの唐揚げとメンチカツも自由につまんでね。足らなかったらすぐ用意するから遠慮なく食べて。あとサラダ、スープ、ライスもおかわりあるから」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ食べようか」

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

そんなわけで、少し冷めてしまった唐揚げから手を付ける。

 

うん、今日の唐揚げもうまく出来てるな。漬け込む時の隠し味を少し変えてみてたんだが、これは当たりだ。

 

 

「やっぱり兄さんの料理はすっごく美味しいです。このスープ、今までで一番かもしれません」

 

「そのコーンスープな、いつもの八百屋で新入荷してたらしいやつを使ってみたんだ。今後も入荷安定するかわからんらしいから、今だけの味になるかもしれないぞ」

 

「えー!それじゃあ今のうちにいっぱい飲んでおきますね!」

 

 

 

そう言っておかわりを注ぎにいく葵。

 

気に入ってもらえて何よりである。

 

そして氷川さんは……なんかひたすらフライドポテトを貪り食ってる…。

 

どんだけ好きなんだ、フライドポテト。結構多めに揚げたのにもう無くなりそうだ。

 

 

「氷川さん、少し冷めてるかもだけど、こっちのポテトも食べていいからね?」

 

 

そう言うと少し恥ずかしそうに顔を赤らめて

 

 

「は、はい…ありがとうございます…」

 

 

と言いながら、さらにポテトを食べてた。

 

一応他のも食べてるが、ポテトの減り方が尋常じゃない。

 

まぁここまで喜んで食べてもらえるなら料理人冥利に尽きるってやつだ。

 

少し揚げ足しといて良かったよ。

 

 

 

「氷川さん!兄さんのフライドポテト、すっごく美味しいですよね!?」

 

 

 

スープをなみなみ注いできた葵が戻り、氷川さんにそう声を掛ける。

 

 

「ええ、ここまで美味しいフライドポテトは初めて食べました。一体何が違うんでしょう…」

 

「うちのはメークインって種類のフライドポテトを使ってるから、それのおかげかもしれないね。一般的には男爵いもを使ってる事が多いから、氷川さんの舌にはメークインの方が合ってるんだと思う。あとは揚げる前にちょっと一工夫してるからそれもあるかもしれないね」

 

 

メークインで作る場合は細切りにして、カリカリに揚げる。

 

男爵いもで作るとホクホクになるのだが、個人的には揚げたてならメークインの方が好きなのでこちらをチョイスしている。

 

親父のレシピもメークインだったしな。

 

 

「兄さん、特別な事はしてないって言ってたじゃないですか…。あれは嘘だったんですね…」

 

「嘘ではないぞ。他の料理でもやる事だし、特別な事って前提ならしてないと答える」

 

「そういうのを屁理屈って言うんですっ!」

 

「まぁまぁ、そういう事もあるよ」

 

「意味がわかりませんっ!」

 

 

なんて、よくわからない言い合い?をしてたら氷川さんがポカンとした表情でこちらをみている。

 

 

「氷川さん、どうかした? フライドポテト足りなかったら追加揚げてくるけど」

 

「いえっ、ポテトはもう大丈夫です。ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 

「いえいえ、お粗末様でした。それならどうしたの?」

 

「いえ、お二人はとても仲が良いなと思いまして…。少し羨ましいなと…」

 

「羨ましい?」

 

「あっ……いえ……失言でしたので忘れてください…。それよりもご両親はいらっしゃらないのでしょうか? もし良ければご挨拶させていただきたいのですが…」

 

 

その言葉に葵の表情が少し固まる。

まぁ疑問に思っても仕方ないよな…。

 

 

「あー…ごめん。実はうち、両親は事故で亡くなってるんだ…。だからうちは、俺と葵しかいないんだよ」

 

「あ…その…申し訳ありません…」

 

「いやいや、知らなかったんだから仕方ないよ。それに、両親はいなくても俺には葵がいるからね。たった2人の家族なんだから、仲がいいのも当然と言えば当然だよ。葵が嫁に行くまでは俺が親代わりだしね」

 

「私としては兄さんの方が早く相手を見つけてほしいんですけど。私のせいで生涯独身とか嫌ですからね?」

 

「じゃあ俺が早く結婚出来るように、葵も早く相手見つけろよ?」

 

「むううー!!」

 

 

 

葵を弄って暗い雰囲気を霧散させる。

 

その後は食後のデザートとしてクレームブリュレとコーヒーを用意し、葵と氷川さんの学校の話を聞いたり、氷川さんが最近組んだバンドの話を聞かせてもらったりした。

 

Roseliaというバンドの中で氷川さんはギタリストらしく、頂点を目指して活動しているとの事。

 

いいな。俺、聴くのは大好きなんだが、弾く方は全然なんだよな。

 

高校生の頃に憧れて、学校にあったアコギを触らせてもらったんだが、全く上達しなくていつの間にやらなくなった。

 

結局あの頃は親父に料理を習う方が楽しかったしな…。

 

 

結局氷川さんは1時間ちょっと滞在したが、元々遅い時間だったので1人では危ないかと家まで送ろうとしたが、丁重に断られてしまった。

 

 

「今日はご馳走様でした。あの、お代金の方は…」

 

「ああ、いいよ。こっちから誘ったんだし、葵のお友達からお金は受け取れない。それに、久々に葵以外と食事出来て俺も楽しかったから」

 

「私も楽しかったです!氷川さん、またいつでも来てくださいね?」

 

 

そして見送る時に何かを見つけたのか、立ち止まって何かを見ている。

 

あれは……バイト募集の貼り紙か。

 

色んな人の目に付くようにと、入り口の扉にも貼っていたものだ。

 

そして何かを考えており、やがて決心したように

 

 

「あの…こちらでバイトとして働かせていただきたいのですが…」

「……………え?」

 

 

あまりにも青天の霹靂な出来事だったが、貼り紙の効果はあったようだった。




というわけで、この作品のメインヒロインは氷川紗夜でございます。
紗夜に接客業やらせてみたいなと思って書き始めた小説です。
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