とある洋食屋の物語   作:ジャンパー

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誤字報告ありがとうございます。
毎回投稿前にチェックはしてるのですが、あれは気付きませんでした…。
もしまた見つけたら報告頂ければ幸いです。

そして皆様、お気に入り登録、評価ありがとうございます。



お誘い

氷川さんの初バイトから1ヶ月ほど経過した。

 

あれから週に2回ペース、火曜と金曜に入ってくれており、今日で8回目のバイトが終わって、今はいつもの賄い、もといポテトタイム中だ。

 

氷川さんの仕事ぶりは、まだ笑顔に関してはぎこちなさがあるものの少しずつ改善されていってるし、他の業務に関してはほぼ任せられるレベルになっている。

 

2回目のバイトの時、4枚持ちやトレーの持ち方がほぼ完璧になっていたのは正直かなり驚いた。

 

練習用のお皿を借りて帰り、家で練習していたと言うのだからとても真面目で妥協を許さない子だ。

そして初回には教えていなかったレジ業務やドリンク作成、ワインの抜栓までも、もはや葵のフォローはほぼいらなくなっており、1人で任せても問題ないだろう。

 

ワインの抜栓も、空瓶とソムリエナイフと沢山のコルクを持ち帰って練習すると言い出した時はびっくりしたもんだ。

 

ストイックに努力出来るところは氷川さんのとてもいいところだ。

 

新しい事を教えたら次には覚えてくるんだから、教える側としてもとても教え甲斐がある。

 

それによく来る常連さんも、村松さんを筆頭に顔を覚えてくれだしているみたいだしね。

 

 

 

「というわけで、次回から氷川さんには独り立ちしてもらうね」

 

「なにが『というわけで』なんでしょうか…」

 

 

 

そんな風にジト目でこちらを見てくる。

 

1ヶ月も経つとある程度は遠慮も抜けてくるようで、たまにツッコミを入れてくるようになった。

 

葵にもたまに言われるが、俺は直前に考えてた事を口に出してたつもりになって話す事があるらしいから、言われた側は何の話かわからないらしい。

 

ちなみに氷川さんにこれをやったのは今ので2回目で、前回はひたすら狼狽えていた。

 

もしかして自分が話を聞き落としてしまったのか…とかなり焦ったらしく、めちゃくちゃ申し訳なさそうに聞き返されたのだが、その時は葵がフォローしてくれて事なきを得た。

 

その記憶があるから、今回もまたか…といった感じなんだろう。

 

 

「ああ、ごめんごめん。氷川さんも仕事に慣れてきたし、そろそろ葵と一緒じゃなくて1人で回してもらおうかなって思ってさ」

 

「兄さん、私は毎日でもいいんですよ? 日曜はお休みなんですし、兄さんと働くのは楽しいですからね」

 

「いや、それはありがたいんだけど、やっぱ今しかない高校生活も楽しんでほしいからさ」

 

「でも…」

 

 

 

葵が俺に対して引け目を感じているのは知っている。

 

葵と暮らすために、高校生活の最後の方は店の経営や料理、サービスについての勉強に明け暮れていたのを見ていたんだからな。

 

それでも俺の自己満足なのかもしれないが、うちの手伝い以外に何かしたい事を見つけてくれればと思う。

 

それにあの時は確かに大変だったが、どうせいずれはやるつもりだった事だ。

 

それが少し早くなったってだけなんだから、俺としてはあまり苦ではなかった。

 

 

 

「とりあえずこの話は終わり! これからだって葵にはまだ週4日はお願いするわけなんだからさ。氷川さんは次から1人になるけど、俺ももちろんフォローするからよろしくね」

 

「わかりました」

 

 

 

そして食事に戻ろうとしたところで

 

カランカラン

 

 

 

「悠介ー、いるー?」

 

「やーやー、ゆーくんはどこだー」

 

 

 

閉店後にも拘わらず突然の闖入者、もとい、沙綾とモカ。

 

モカはともかく、沙綾がこの時間に来るのは珍しいな。

 

 

 

「あれ、沙綾ちゃんにモカちゃんだ。どうしたの?」

 

「葵お姉ちゃん! 実は、今日はモカがうちに来るのが遅くなったんだけど、来た頃にはパンがほぼ完売しちゃってて…」

 

「およよ〜。それで超絶かわいい美少女JKのモカちゃんが悲しみ明け暮れてましてー。それでー、ここに来たらあるかなーと思ってやってきたのでしたー」

 

「パンの余り…。兄さん、パンってまだ余ってました?」

 

「まぁクルトンとオードブル用の分さえ残してくれれば構わないかな。ちょっと取ってくるわ」

 

「ありがとうね、悠介。……あれ、他に誰かいるけど…新人さん?」

 

「ええ、こんばんは、山吹さんに青葉さん」

 

「えっ!氷川さん!? どうしてここに??」

 

「先月から週に2回、こちらでお世話になっているんです。貴女方はどうして?」

 

「私たちは悠介と葵お姉ちゃんの幼馴染みなんです。他にもハロハピのはぐみにAfterglowのみんなも一緒ですよ」

 

「なるほど、このお店の立地から見たら不思議ではありませんね」

 

「氷川さんがここで働くのなら、これから結構会うかもしれないんで、よろしくお願いします。そして悠介の暴走を頑張って止めて下さいね」

 

「ええ、任されました」

 

「こらこら」

 

 

パンを持って戻ってきたら、何やら不穏な会話が聞こえてきた。

 

いつ俺が暴走したんだよ、と沙綾をジト目で睨むと『冗談じゃんかー』と笑って流された。

 

まぁいいんだけど、氷川さんも悪ノリするとは思わなかった。

 

打ち解けてくれるのなら素直に嬉しいしな。

 

 

 

「とりあえずモカ。これがパンな。バケットはブルスケッタ用に使うから、ロールパン多めになってるけど」

 

「おおー、ありがたやー。ゆーくん、ありがとーねー」

 

「まぁせっかくの美味いパンだからな。早めに食ってもらえるならそれに越した事はない」

 

 

 

そこそこな量はあるが、食欲魔人のモカなら食い切れるだろう。

 

その身体のどこにあの量のパンが入るのか、そして何故太らないのか、人体の謎は不思議がいっぱいだ。

 

 

 

「ひーちゃんにカロリーを送ってるからだよー」

 

「ひまりが泣くからやめてやれ…。あと考えを読むな」

 

 

 

しかし食生活のわりにスタイルがいい子が多いのってなんなんだろうな。

 

氷川さんもポテト好きで、バイトの度に大量に食べてるのに体型は全く変わらないしな。

 

 

「東雲さん…?」

 

 

とてもにこやかな表情でこちらを見る氷川さん。

 

おお、そんないい笑顔が出来るようになったなんて、俺はすごく嬉しいよ。

 

あとはその威圧感さえ消してくれれば完璧だ。

 

そして俺の心臓が保たないので早急に頼む。

 

 

 

 

気付けば沙綾とモカも混ざってデザートタイムになった。

 

今日は試作用に桜風味のプリンを作ってみてたので、ちょうどいいやと試食してもらった。

 

桜を使うと和風チックになるからどうかと思ったのだが、好評そうで良かった。

 

でも自分で食べると、とてつもなくあんこが欲しくなったから、洋食屋で食うなら少し改良が必要かもなとも思った。

 

美味くてもうちの雰囲気に合うかは別だからな。

 

 

 

 

 

そしてみんな食べ終わって、そろそろお開きにしようかという時に沙綾が話しかけてきた。

 

 

「そういえば悠介と葵お姉ちゃん、明後日は暇だったりしない?」

 

「私は大丈夫だよ」

 

「んー、俺も空けれなくもないな」

 

 

何もなかったらネットでレシピ漁って試作でもしようかと思ってたって程度だしな。

 

 

 

「なら明後日の13時からライブ観に来てよ。ここにいるみんな出るからさ」

 

 

こうして唐突に日曜の予定が埋まったのだった。




今回は少し短めでした。
次回は長くなると思いますが、余りにも長くなったら分けるかもしれません。
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