あたし、稲葉リナは困惑していた。
この日の授業も終わり、いつものようにイリヤ、クロエ、美遊と一緒に帰路…、と言うか、あたしはエーデルフェルトのお屋敷へと向かっていた。
「ミユ、新しい生活は慣れた?」
イリヤが尋ねると、美遊はコクリと頷いた。
美遊・エーデルフェルト改め、
……さすがに、衛宮姓じゃマズいし。衛宮士郎さんが二人になっちゃうからねぇ。実際士郎さんの名前も、朔月
そんなわけで、美遊は四郎さんと一緒に旧衛宮邸、向こうの世界の衛宮邸と同じ武家屋敷に暮らしてるんだけど、ルヴィアさんとこの
「ねー、ミユ。今度の日曜日、遊びに行ってもいい?」
「ん…、いいけど、その日はお兄ちゃんいないよ?」
クロエが遊びの約束を取り付けるものの、四郎さんはいないという。
「あれ? シロウさん、何か用事?」
疑問を口にするイリヤ。まあ、それも最もだ。ルヴィアさんは気を利かせて、兄妹水入らずで過ごせるように、二人の休みを土日にしているのだ。実際、オーギュストさんがいれば大体事足りるし。
で、当然この兄妹も、そこんとこは理解してるわけで。
「お兄ちゃん、士郎さんと弓道部に顔を出すんだって」
そ、それはシュールな絵面になりそうね。桜ねーちゃんや桜ねーちゃんを見た四郎さんの反応も気になるし。
「それは、こっそり見守らないとだな」
「うん、そーね。……って雀花!?」
いつの間にか、雀花、那奈亀、龍子、美々の四人があたし達の傍にいた。
「イリ助の兄貴と美遊吉の兄貴ってそっくりなんだろ!?」
「興味深いよねー」
「うん。出来たらインタビューさせてもらいたい」
「いや、わたし達のお兄ちゃんで盛り上がられてもッ!」
「てかミミ!? インタビューって、何を聞く気よ!?」
穂群原小の四神+αに突っ込むイリヤとクロエ。……おいこら、美遊。頬を染めて興味深そうに、美々を見てんじゃないわよっ! 創作物とはいえ、アンタのにーちゃんが毒牙にかかろうとしてるってのに!
「というわけで日曜日、
「わかった」
「「「美遊(ミユ)うぅぅ!?」」」
あたしとイリクロが同時に突っ込んだ。
ご満悦の四神+αと別れると、今まで息を潜めていた二人が話しかけてきた。
『それにしても士郎さんと四郎さん、こんなに仲良くなるとは思いもしませんでしたねー』
『全くです。通常、同位存在同士は嫌悪感を抱くものなのですが…』
ふーん。そういうものなのか。
あたしはルビーとサファイアの会話に感心したが、同時に疑問も浮かんだ。
「あたし、並行世界のあたしに、嫌悪感なんて抱かなかったけど?」
かつて異空間と美遊の世界で出会った、それぞれの世界のあたしとは、むしろ気が合ってたと思う。
『それはリナさんが、その身体の本来の持ち主、「稲葉リナ」さんの魂を取り込んだために、変質してるからでしょうね』
『憑依転生に加え、「稲葉リナ」として生きていたために、今のリナさまは本来の「リナ=インバース」とは違う存在なのかもしれません』
ああ、なるほど。あたしの場合は「≒」ですらなくなってたわけか。
「つまりお兄ちゃん達の場合は、それぞれの世界での生活環境の違いで、本質は同じでも性質が違くなって嫌悪してないって事かしら?」
『あ、クロさんのそれは、結構的を射てるかも知れませんねー』
確かに。士郎さんは、人助けしたがるお節介な性格ではあるものの、ごく普通の高校生だ。一方の四郎さんは、正義の味方を目指し、それを捨て美遊の
「ねえ、リナ。なんか失礼なこと考えてない?」
「大丈夫。イリヤのことじゃないわよ」
「失礼なことは考えてたんだねッ!?」
ふっ。あたしは前世で、例え相手がガウリイだろうが魔族だろうが、言いたいことはハッキリ言ってたのよ? むしろ心の中に留めてるだけ、まだマシってもんよ。
……まあそれはともかくとして、あのふたりが仲がいいのも、絶妙なバランス故なんだろう。どちらかが少しズレてただけで、お互いを嫌悪する仲になっていたのかも知れないのだ。
なんてやってる間にエーデルフェルト邸の、そしてイリヤの家の前までやって来た。だけどイリヤとクロエは、エーデルフェルト家の門の前にいる。
実は最近、四郎さんに挨拶する呈で美遊の妹モードを観察して帰るのが、この二人の日課となってるのだ。全く、いい趣味してるわ。
そんな事とは露程にも思っていない当の美遊が、格子状の門戸を押し開けた。
そして今、あたしとイリヤは、雪の積もる冬枯れの森の中にいる。これが困惑せずにいられようか。
「……え? あれ? なんでわたし達、こんなとこに? ミユとクロは?」
そう、今ここには美遊とクロエの姿は見えない。おそらくここへ飛ばされてきたときに、離れ離れになってしまったんだろう。そして、この現象は多分…。
『これは、原因はおそらく違いますが、以前異空間へ飛ばされたときと同じ現象のようですね』
「異空間って、なのはちゃん達と出会ったときの、あれ?」
『そのとおりです』
やっぱりか。ただ、ハッキリと違うのは、この世界は現実にありそうな風景で、且つ安定しているということだ。
ともかくあたしは、気持ちの切り替えを図った。いつまでもこんな場所で、突っ立ってるわけにもいかない。あたしは
「美遊、クロエ、聞こえたら返事して」
『……リナ、こちらクロエ。今、ミユと一緒にいる。そちらの状況を知らせたし』
「……どーやら二人とも、無事みたいね。こっちはイリヤと一緒よ」
『もう、リナってば。ノリが悪いなぁ』
いや、ここでノリを求められても。
『……おかしいですねー?』
ん? ルビー?
「どうかしたの、ルビー?」
『いえ、イリヤさん。私もサファイアちゃんに連絡しようとしたんですけど、何故か繋がらないんですよ』
繋がらない? 遠話球での会話は出来るのに?
「クロエ、こっちではルビーが、サファイアと繋がらないって言ってるんだけど?」
『こっちもサファイアが、おんなじ事言ってる』
……どういうこと? 技術は若干違うとはいえ、魔術特性には殆ど差がないはずなのに。
『なんて言いますか、私達の使うチャンネルに共鳴する何かがあって、結果的に妨害してるって感じなんですよねー。サファイアちゃんの意見はどうですか?』
『こちらも同じ印象を受けますね。おそらくそれが解明するまでは、私達を通しての会話は不可能かと思われます』
遠話球を通しての会話をする、ルビーとサファイア。……おや?
「ちょっと二人とも。確か
それであたしは、遠話球の出来を確認したんだし。
『いえ、どうも私達を介してることが、妨害の影響を受ける一因となってるみたいなんですよー』
『つまり、私達を介する通信は一切不可能だと認識していただいた方が、よろしいかと思われます』
「そっか…。ってことは、あたし達の相互の位置は、確認できないってことね?」
むみゅうぅ…、こりはこまった。こんなワケのわからん世界であたし達が合流するには、結構時間がかかるかも知れない。
とはいえ、嘆いてたって始まらん。
「仕方ないから、お互い周辺を探索しましょ。とりあえず、この世界のことが知りたいしね」
『うん、わかった』
『リナ、イリヤ。二人とも、気をつけて』
遠話球から美遊の声が聞こえる。どうやら彼女も遠話球を起動させたようだ。
「ミユ。うん、ミユとクロも気をつけてね!」
イリヤは、あたしの遠話球に口を寄せて言った。
「イリヤ、とりあえず…」
遠話球での会話を終え、イリヤに行動を促そうとした、その時。
どぐわおぉん!
突如鳴り響く爆発音。
「えっ、何? ドラグ・スレイブ?」
……いや、美遊に貸してるのは
従って、あたしがここにいる限り、ドラスレの可能性はない…、いや、少ないのだ。
しかし、それに近い威力の爆発があったことには違いない。
「……イリヤ」
「うん、行こう!」
イリヤは魔法少女へ転身する。あたしも急ぎ呪文を唱え。
「
[力ある言葉]とともに風を纏い、上空へ舞い上がる。あたしはぐるりと周囲を見回し。少し離れてクレーター状にえぐれた場所を見つけた。
「イリヤ、あそこへ行くわよ」
『わかった』
クレーターの縁へと降り立ち、辺りを捜索することおよそ十分。
「誰か、いるの…?」
あたし達の雪を践み歩く音に気づいたのだろう。女性、……女の子の警戒する声か聞こえた。あたしとイリヤは頷き合い、声のした方へと進んでいく。するとやがて大きな岩が現れ、足を前に投げ出して岩にもたれかかる少女と、その隣にちょこんと座る少女の二人がいた。どちらもあたし達より、少し年上みたいね。
もたれかかっている少女は黒髪ショートの、いろんな意味で小柄な子。もう一人はセミロングの黒髪を左右に分けてリボンで縛っている、いろんな意味で発育のいい子。あたしの敵ね。
そして最も特徴的なのは、その赤い瞳。イリヤ同様、ルビーのように赤いその瞳には、強烈な意思の力が宿っている。
「……なんでしょう。あなたを見ていると気が合いそうな気がします」
「な、なんだか私を見る目が恐いんだけど…」
どうやら勘もいいようだ。
「ああ、ごめんなさい。あたし達は…」
あたしが事情を説明しようとした、そのとき。
グルォアァァ!!
突如聞こえる絶叫。姿を現したのは、空を舞う巨大な
「そんな…、ワイバーンまでいるなんて…」
「我の魔力さえ回復していれば、必殺の爆裂魔法をお見舞いしていたものを!」
「言ったよね? あそこはめぐみんの爆裂魔法より、私のライト・オブ・セイバーの方がいいって、私言ったよね!?」
「過ぎたことをウジウジと。そんなだからゆんゆんは、いつまでたってもぼっちのままなんですよ」
「ぼっちじゃないよ!? ちゃんとパーティーだって組んでるんだから!」
ううみゅ。この掛け合いは見ていて楽しいが、今はそれどころじゃない。イリヤなんて、どうしたらいいのかわからず、オロオロしてるし。というわけで。
「しゃーない。あたしがなんとか…」
「…待って!」
おう!? イリヤ!?
「リナは、魔力量が格段に上がったとはいえ、それでも全盛期ほどじゃないんだよね? だったらわたしが、あれを何とかするよ! わたしならルビーがいるから、魔力もすぐに回復できるし、ね?」
イリヤ…。ホントにこの子は、目を見張るほど成長したわね。
「……うん、わかった。それじゃあイリヤに任せるわ」
イリヤはコクリと頷いて、カードを取り出す。
「クラスカード『キャスター』、
「えっ、あの服装って…」
ゆんゆんって呼ばれてた子がキャスターの衣装を見て、何かポツリと呟いた。
イリヤは上空の飛竜を見上げると、印を結びながら[
---黄昏よりも昏きもの
血の流れより紅きもの
時の流れに埋もれし
偉大な汝の名において
我、ここに闇に誓わん…
「その詠唱は!?」
今度はめぐみんって呼ばれてた子が、驚きの声を上げた。……ってか、ドラスレのこと知ってる…?
---我らが前に立ち塞がりし
すべての愚かなるものに
我と汝が力もて
等しく滅びを与えんことを!
そんな中、イリヤは呪文を唱え終え。
「
[力ある言葉]とともに、イリヤが生んだ赫光が飛竜へと収束して。
ドギュわあぁん!
強烈な爆音を放ち、粉塵へと帰した。
この自作コラボ三作品は、現在(2023年1月現在)よりも少し未来の話です。