「はい!? もうひとりのイリヤに出会った?」
「ねえ、クロ。揶揄ってるわけじゃないよね?」
自身の遠話球を起動させて尋ねるイリヤ。まあ、気持ちはわかる。亜空間で「もうひとりのリナ」事、逢魔さんの事を聞いたあたしと同じ状況なワケだから。
『冗談じゃないって。8枚目のカード、わたし達にとっては11枚目のカードの英霊と戦ったときに死んで、異世界転生したらしいわ』
「「って重ッ!!」」
あたしとイリヤの声が思わず重なる。いやいや、一体どこのラノベだっつーの。
『まあ、詳しい話は合流してからって事で。で、場所を特定したいから、定期的に何か合図してくれると嬉しいんだけど』
ああ、なるほど。さっきの竜破斬や爆裂魔法…だったか? それらだけじゃ大体の場所しかわかんないもんね。
「りょーかい。じゃあ定期的に
『ありがと。それじゃあまた後で』
お礼を言ってクロエは通信を切った。
「はぁぁ。もうひとりのわたしかぁ」
イリヤが半ば惚けたように呟く。
「リナ=インバースとしてのあたしに、もうひとりのイリヤか。なんかまだまだありそうな気がするわね」
「やめてよリナ。本当にありそうだから」
うん。今更ながら、フラグを立ててしまったよーな気がする。えーと、まあ、気にしない方向で行こう。
「あの、お話は終わりましたか?」
あたし達の様子が気になったんだろう、ゆんゆんが尋ねてきた。
「ああ、うん。ここで落ち合うから目印として、定期的に魔法を炸裂させることになったわ。というわけで早速」
あたしは素早く呪文を唱え。
「
[力あることば]と共に光球を上空へと放り投げて。
「ブレイク!」
言ってパチンと指を鳴らす。と同時に。
どおおおおおん!
竜破斬程ではないが、大きな音を立てて光球が炸裂した。
「これを10分置きに繰り返しましょ」
そう言ってあたしはにっこりと笑う。……なんだかゆんゆんの顔が引きつってるように見えるのは、きっと気のせいだろう。
それから更に二度、火炎球を打ち上げ、そろそろ次をと思っていたところ。
ザッ…ザッ…
雪を踏みしめる複数の音。そして現れたのは…!?
「あっ、めぐみん! ゆんゆん!」
「えっ、イリヤ!?」
冴えない感じの男、おそらくめぐみんが言ってたカズマという人物に、何故かイリヤを知ってる銀髪ショートの女の人。そして。
「な…、幼いあたし?」
そう。もうひとりの、前世で旅をしていた頃の姿そのままのあたし。めぐみんから事前に聞いてなければ、あたしも物凄く驚いてただろう。
「うええっ!? わたしの事、知ってるのっ!?」
まさに、今のイリヤの様に。
「あ、クリスさんも来てたんですか!?」
うん? ゆんゆん? もしかして銀髪の子とも知り合い?
「なんでもうひとり、あたしがいんのよ!?」
いや、なんでと言われても…。
「え、イリヤ? アタシの事がわからないの!?」
あー、ええと…。
「カズマ、これはどういうことですか?」
……。
「いや、どうと言われても…」
ぷちっ
「だああああっ! やかましいわああああっ!!
ずごわおぉぉぉん!!
安全地帯のあたしを中心として、円環状に地面が噴き上がる。
「……ったく。少しは落ち着いて話をしなさいよ!」
『いやー。皆さん、今のリナさんには言われたくないと思いますよー?』
さりげなく逃げおおせたルビーがツッコミを入れるが、棚上げはあたしの美徳である。
「あー…。まさか自分からツッコミ入れられるとは、思ってもみなかったわ」
もうひとりのあたしが、以前逢魔さんに対してあたしが思ったのと同じ感想を述べた。いや、まあ、ちょっぴりやり過ぎたかも知れない。
とまあ、反省は後回しするとして、だ。
「えーと、みんないいかしら?」
あたしの問いに、みんなが首を縦に振る。……クリスと呼ばれてた子が、少しガクブルしてるのは見ない振りして。
「とりあえずあたし、稲葉リナともうひとりのあたし、リナ=インバースの、元の世界からの知り合い同士でグループ組んでくれない?」
「ああ、なるほど」
カズマと呼ばれてた男は、あたしの案に納得する。どうやらあたしのやりたい事がわかった様だ。彼は中々頭の回転が早いらしい。
ちなみにもうひとりのあたしは本質が同じだけに、彼が納得する前に既に気づいていたようだ。
それはともかく、あたし達はそれぞれにグループ分けをする。そして出来たのが。
・あたし、イリヤのグループ。
・もうひとりのあたし、めぐみん、ゆんゆん、カズマさんのグループ。
・クリスさん(ソロ)。
以上の三つである。
「ふみゅ。どうやら、少なくとも三つの世界がこの世界に引き込まれたようね」
「ええ。実際クリスと会った時も、あたしのこと知らないって言ってたし」
「ええと、つまり、ここにいるイリヤは、アタシが知ってるイリヤじゃないって事でいいのかな?」
「その認識であってると思いますよ。イナバリナから聞いた、並行世界というものでしょう」
「ええと、可能性の世界だったよね?」
「うん。わたしの世界じゃ第二魔法っていうのに当たるみたいだよ?」
「へー。……ん? 第二魔法?」
あたし達がそれぞれに情報交換をしていると、カズマさんが何やらおかしな顔をしてイリヤを見つめ、更にその隣りに浮かぶルビーに視線を移す。
「……って、カレイドステッキのマジカルルビー!? まさか、【Fate/hollow ataraxia】なのか!?」
へっ? ホロウ…?
『おや。そちらの彼は、【hollow ataraxia】をご存知ですか。メタな発言になりますが、わたしは【hollow】のルビーちゃんではなく【プリヤ】のルビーちゃんですよー?』
「ええっ!? ちょっとルビー、【ホロウ】とか【プリヤ】って何のことー!?」
うん。あたしも気になる。しかし説明を始めたのは、ルビーではなくカズマさんだった。
「【Fate/hollow ataraxia】は、ゲーム【Fate/stay night】のファンディスクで、その中に出てきた魔術礼装がカレイドステッキのマジカルルビー。そして【プリヤ】は正式名称【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】で、【stay night】のヒロインのひとりイリヤを、魔法少女の主人公にしたスピンオフ作品だ」
なん、だと!?
「つまり、18禁だから情報しか知らないけど、【とらいあんぐるハート3】の妹キャラをヒロインにした魔法少女もの、【魔法少女リリカルなのは】と同じって事!?」
「それを言ったら【stay night】のオリジナルだったパソコン版はエロゲーだぞ?」
うあー、イリヤがエロゲの登場人物かー。……おや、待てよ?
「ちょっとアンタ、なんでファン
「ああ…」
カズマさんは少し言いあぐねた後、あたしの耳許に口を寄せて囁く。
「(実は俺、女神によって異世界転生したんだ)」
「あ、なるほど」
「って、随分あっさりと納得するな!?」
耳許から離れたカズマさんがツッコミを入れる。まあ、気持ちもわからんではないが。
「……あたしもおんなじだから。あたしの場合は同位存在への憑依って形だけど」
「あ、憑依転生…」
こら。不用意にンなこと言うな。まあ、めぐみんやゆんゆんには転生の話は言ってあるけど。
「ともかく。そっちのあたしも、おそらくカズマさんと同じなんでしょうね。……もうひとりのイリヤの件もあるし」
「ん? なんか言ったか?」
「あ、いや、別にたいしたことじゃないわ」
慌てて誤魔化すあたし。まあ、その内わかることではあるが、今話すと話がややこしくなりかねない。
「そうか? ……それにしても」
ん?
「イリヤが物語の登場人物だって話なのに、随分落ち着いてるよな。リナも、イリヤも」
「ああそれ。だってあたし達、本物の[リリカルなのは]や[カードキャプターさくら]と会ってるから」
「……は?」
「それになのは達から前世のあたし、リナ=インバースが主役のラノベ、【スレイヤーズ】の事も聞いてるし」
「はああああ!?」
カズマさんは、それは間抜けな声を上げて驚いていた。
「さて。カズマが何か驚いてるのは無視して」
「おいこら」
「そろそろアンタらの事、教えてくんない?」
そう言ってあたしを指差す、もうひとりのあたし。まあ、確かにまだ、自己紹介も済ませてないわね。
「そうだったわね。それじゃあまずはあたしから。
あたしは…」
自己紹介を始めようとした、その時。
ゲロ、ゲロゲロ
突然聞こえてきたカエルの鳴き声。
「こ、この鳴き声はまさか…」
めぐみんが声をうわずらせながら言う。というか、心当たりがあるのか?
ともかくも、あたし達は鳴き声が聞こえた方を向いた。……って!?
「大っきなカエル!?」
『うーん。高さだけでも二階建てバスくらいあるんじゃないんですかねー』
慌てるイリヤに、冷静に状況説明をするルビー。いや、さすがに少しは慌てろ。
「ハ、ハァッハッハ! 慌てる必要などありません! たかがジャイアント・トード如き、我が爆裂魔法で…!」
「いや、嫌な予感がするからやめろ。というか、さっき撃ったばかりじゃないのか?」
「それならば、ルビーのお陰で既に完全回復しています」
「てめえ、よけいなことしてんじゃねえ!」
カズマさんがふよふよ浮いてたルビーを掴み、文句をぶつける。
『いやですねー。やらせたのはイリヤさんとリナ…稲葉リナさんですよー』
こら、ルビー。余計なこと言うんじゃない!
「あ、あのー。今は言い争ってる場合じゃなぁっ!?」
と、突如イリヤの姿が消え…って!
「イリヤ!?」
気がつけばイリヤが、カエルの口にすっぽりと納まっていた。
「うわあああん! 助けて~~~!」
助けを求めるイリヤを救おうと、呪文を唱えようとしたその時。
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!!」
ゆんゆんの手から光が奔り、それがカエルの腹を真っ二つに薙いでいた。
「大丈夫、イリヤ!?」
「うう、身体中が臭くて、ねばねばしてるよぅ」
クリスさんによって引っ張り出されるイリヤを横目で見ながら、ひとつだけ溜息を吐き。それでからゆんゆんの許へと近付いて。
「この、おバカさんがあああッ!!」
すっぱあああああん!
あたしが振るったスリッパが、ゆんゆんの頭をはたく。
「いったああああい!?」
「アンタ、何考えてんのよっ!」
「え、何って…」
まったく。まるで気づいてないみたいね。
「アンタからあのカエルの間までに、あたしやカズマさん達もいたのよ? そんなとこで今みたいな横薙ぎの攻撃したら、こちらもとばっちり受けてたかも知んないでしょうが!」
「あ…」
「それにイリヤだって、少し手元狂っただけでカエルと一緒に真っ二つになってたかも知んないのよ!」
これらの事を言ったら、さすがにゆんゆんの顔も青ざめた。と思ったら、めぐみんも青い顔をしている。ふみゅ。どうやらめぐみんもこのカエルに飲まれて、同じ様に助けられたことがあるみたいね。
「……まあ、今回は問題が起きなかったけど、これからは気をつけてよね?」
「……はい」
ほんとに…。そーいえばシルフィールとパーティー組んでるとか言ってたけど、あの子はこういう注意をしなかったんだろうか。
……まあ、いいか。それよりも。
「さて。イリヤ、ちょっと冷たいけど我慢してね?」
「へ?」
疑問を浮かべるイリヤは無視して、あたしは[
---四界の闇を統べる王
汝の欠片の縁に従い
汝らすべての力もて
我にさらなる力を与えよ
魔力増幅をして、更に別の術を組み上げて[力あることば]を唱え。
「
ばしゃあっ!
あたしが通常よりも大量に出現させた水を、イリヤは頭から被ることになる。
「~~~!?!?」
あまりにもの冷たさに、イリヤは声にならない声を上げた。ま、雪景色の中で浴びせられたのだから、当たり前の反応ではあるが。
「ちょっと。アンタ、自分の友達にひどい仕打ちじゃない?」
「いや。自分からそーいうツッコミ、入れられたくないんだけど。それにちゃんと考えもあるし」
もうひとりのあたしから突っ込まれたあたしは、先程までめぐみんがもたれかかっていた大岩の前に立つ。
「あ、そーいうこと」
どうやら、もうひとりのあたしも理解したようだ。というか、そもそも前世でもたまに利用していた方法である。
「
光球を投げつけ、岩にぶつかると同時に炸裂して火炎を上げる。あたしはそれをあと2回ほど繰り返し。
「これでよし。イリヤ、岩の近くに来て」
「え、うん」
頷いてからこちらまで近づくイリヤ。
「わっ、
「即席の暖房機よ。あ、火傷するから岩には触れないでね」
注意を促すと、イリヤは再びこくりと頷いた。
「さて。あとは目印用の…」
彼らと会って後回しになっていたことを思い出し、あたしは呪文を唱える。
「
どぐわぉん!
よし。これでクロエ達への合図は済んだわね。
「それじゃあ、お互いの自己紹介でもしましょうか」
そう言ってあたしはにっこりと笑った。
今日中にもう一本書き上げられたら投稿します。無理だったらまた来年です。