クロが、テレフォン・オーブとかいうアイテムで連絡を取り合っている。そこから聞こえた声は、確かにアニメで聞いた閣下の声とよく似ていた。そして更に聞こえた別の声は。
「これ、確かにイリヤの声だな」
カズマさんが呟くように言った。わたし自身は、自分の声というより他人の声っぽく聞こえるけど、多分きっとそうなんだろう。
やがて通信が終わって。
「リナが居場所の目印になるように、定期的に
そこまで言ったその時。
どおおおおおん!
上空で炸裂音と共に炎が巻き起こった。
「早速みたいね。それじゃ行きましょうか」
軽い口調で促すクロ。並行世界のクロとはいえ、わたしの知ってるクロと変わらないその言動に、わたしは安心感を覚える。
それからしばらく進んだ所で、カズマさんが口を開いた。
「なあ。さっき、『そっち世界には【スレイヤーズ】があるんだ』とか言ってたけど、それってどういう事なんだ?」
あ。そういえば、わたしも疑問に思ってたんだった。
「ああ、うん。ええと、わたし達が亜空間で出会った子達から聞いたんだけど」
「うん? それってもしかして、なのはちゃん? あれ? でもあの時は、クロは一緒じゃなかったけど…」
『イリヤさん。彼女達は並行世界のクロさん達です。同じ現象に巻き込まれたとしても、まったく同じ条件だったとは限りませんよー?』
「あ、そうか」
そもそも向こうのわたしは死んでないし、リナ=インバースらしき人もいたりするんだから、色々違っててもおかしくないもんね。
「……なのはって、【リリカルなのは】が思い浮かぶんだが」
うにゅ? リリカルなのは?
「そう、そのなのはよ。リナが見てた魔法少女ものの主人公。ただしアニメとは違う可能性世界、要は並行世界の彼女だけどね」
……アニメの主人公?
「……それなら、【マジカル☆ブシドームサシ】の世界もあるのかな?」
「
呆れたように返すクロ。別にいいじゃない。好きなものは好きなんだから。
「三人とも。話が逸れてる」
あう。ミユに突っ込まれちゃった。
「えっと、【スレイヤーズ】の話だったわね。わたし達の世界には【スレイヤーズ】という作品は無いけど、そこで会ったなのは達の世界には【スレイヤーズ】という、リナ=インバースを主人公にした作品があったってワケ」
「なるほど。それを聞いて知ってたからの、さっきのセリフってワケか」
ほへぇ。不思議な事ってあるもんだなぁ。……いや、ルビーに巻き込まれて以降も不思議なことの連続だけど。
『ところが、それだけではないのです』
ん? サファイア?
「……そっちの世界にも、リナがいたの。逢魔リナって名前の転生者として」
……はい? なんだかミユが、とんでもないことを言ってる気がする。
「つまりは何だ。【スレイヤーズ】が存在する世界に、その主人公が転生してたって事か?」
「そういう事よ。因みに、そっちのリナのデバイスはL様だったけど」
「[
ロード・オブ・ナイトメアって確か、リナ=インバースの最強魔法を司ってる魔王だったっけ?
そんな事を話したりしていると。
どおおおおおん!
再び炸裂音が聞こえてきた。
『どうやら、進んでいる方角で間違いないみたいですねー』
「うん。少し近づいた気もするし」
さっきよりも音が大きく聞こえたから、多分そうだと思うけど。
「ねえミユ。一度上空から、辺りを確認してくれない?」
「……うん。わかった」
「あ、それならわたしも一緒に」
クロの提案にわたしも乗っかることにする。
『……と言うことは、わたしとしては久々にアレですね。いきますよ、サファイアちゃん!』
おおう。ルビーがいつもより気合いを入れてる!?
『『コンパクト・フルオープン!
鏡界回廊最大展開!』』
二人の声が綺麗に重なる。そして、わたしとミユは光に包まれ。
『カレイドルビー、カレイドサファイア、プリズマ☆イリヤ&美遊推参です!』
わたしは可愛いポーズをとらされながら、ルビーがノリノリで口上を上げた。
『……おや、イリヤさん? いつもの様な文句は言わないんですか?』
「うん、まあ、今日くらいは生温かく見守ってあげようかと思って」
並行世界のとはいえ、サファイアと再会できてテンションが上がってるのは、わたしとしても理解できるし。
『……なんと言いましょうか、望んでた反応ではないのに嬉しくも感じてしまう自分が、非常に悔しいです』
「お前、難儀な性格だな?」
屈折したルビーの感情に、カズマさんは呆れながらツッコミを入れた。
「ほら、くだらないコントなんかしてないで、さっさと見てきなさい!」
「イエッサー!」
わたしとミユはある程度の高さまで来ると、ファイアー・ボールが上がった方角を見てみる。……んだけど。
「んー…。さすがにまだ見えないね」
「そう、だね」
ミユはそう返した。……うーん。なんだかぎこちないなあ。
「ねえ、ミユ。あんまり畏まらないで?」
「え?」
「多分、ミユが知ってる『イリヤ』じゃないから、どう接していいのかわかんないのかも知れないけど。
でも、カズマさんが言ってたでしょ? 別人かも知れないけど同一人物だって。だからわたしは、同じ人だけど別人って考えるんじゃなくて、別人だけど同じ人って考えるようにしたんだ。
……わたしはミユに、そっちのわたしと同じ様に、わたしと接してほしいよ。確かに話が噛み合わない時もあると思うけど、それでもわたしは、『ミユ』の親友の『イリヤ』だから」
わたしは思ったことを、包み隠さずにミユに告げた。
「……うん。わかった。確かに、イリヤはイリヤだものね」
そう言ってミユは、わたしに微笑みかけてくれる。
『いいですねー。女の子同士の友情! ちょっと百合っぽい感じがして、また何とも言えませんよー』
「ちょっとルビー、雰囲気台無しにしないでよ!」
『アハー!』
まったく、ルビーってば。
いや、今はこんな事を、いつまでもグダグダ考えてる場合じゃない。
「えっと、それじゃ戻って報告しよっか」
「うん、そうだね」
ミユも頷いて同意したので、戻ろうとしたのだけど。少し離れたところから、すうっと上空に飛び立つ姿が見えた。
「……あっ! イリヤと美遊だ!」
そう言って近づいてきたのは、ピンクのワンピースのコスチュームを纏った、長い赤毛の女の子。年の頃は、わたしと同じくらい。
でも、何より驚くべきところは、その手にしているのがわたしと同じ、カレイドステッキのマジカルルビーだということだ。
「……あれ? わたしの知ってるイリヤじゃない?」
「えっ! わかるの!?」
この子が、ここに居るミユと知り合いなのは、ミユの反応を見てわかってる。でも、多分見た目が変わらないわたしが、この子の知り合いの「イリヤ」じゃないなんて、ぱっと見でわかるとは思えないんだけど?
「ああ、うん。わたしって何故か、そーいうのがパッとわかっちゃうときがあるんだ」
へぇ。きっと直感力が高いんだろうなぁ。
『ええと。ところで、そちらのわたしはひょっとして、【hollow ataraxia】か【タイころ】のわたしではないですか?』
『おや、さすがはわたしですね。そのとおり。わたしは【タイころ】のルビーちゃんですよー』
【ホロウ】? 【タイころ】? 何言ってんのかわからないんですけど?
「イリヤ。彼女達の会話は深く考えない方がいい。あと、わたし達は向こうのルビーを[羽根ルビー]って区別してる」
「羽根ルビー?」
「よく見たらわかるけど、向こうは二枚の羽根が重なって一枚に見えるから、六枚×二で倍の枚数。そして数が多いから羽根ルビー」
「なるほど、了解」
単純と言えば単純だけど、非常にわかりやすい。……って、それよりも。
「ところで、あなたは誰?」
「あ、まだ名前言ってなかったね。わたしは稲葉リナだよ」
……へ? 確か
「彼女はわたしの世界にいる、リナ=インバースが憑依転生していないリナだよ」
わたしの…って、ミユの世界?
「え? つまり、並行世界の
「うん。そうだよ。あ、それからさん付けじゃなくていいから」
「うん、わかった」
何だろう。リナ=インバースじゃない、聞いた話の方の
『そりゃあ同位存在とはいっても、生活環境やらなんやらが違いますからねー。イリヤさんが想像してるリナ=インバースと違ってもおかしくはありませんよ』
「そうだけど。……って言うか、モノローグ読むのはやめてってば」
まったくルビーは、隙あらばすぐにこれなんだから!
「あ、そうだった! ねえ。二人に会わせたい人達がいるんだけど、ついてきて」
「会わせたい人達?」
「あ、ちょっと待って。下にカズマさんとクロがいるから、連れて来るよ」
「……カズマさん?」
わたしがそう告げるとカズマさんの名前に、リナは少しだけ首を傾げたのでした。
二人の許に戻ったわたし達は簡単な説明をして、わたしがカズマさん、ミユがクロを連れて再び上昇、リナの後を着いて少し離れた場所に降り立った。って!?
「な、アクアにダクネス!?」
「二人もこっちの世界に…!?」
カズマさんとわたしが驚きの声を上げると。
「え、カズマ? 何言ってるの?」
「石龍の調査は私達も一緒だったじゃないか」
「「石龍?」」
アクアさんもダクネスさんも、何を言って…。
「お二人とも、少し待ってください」
そんな二人を制したのは、長い黒髪の清楚そうなお姉さん。……でも、どこかで見たことあるような?
「カズマさんとそちらの女の子は、私とこちらの剣士に見覚えがありませんか?」
うん?
「……いや。どこかで見た格好ではあるが」
「わたしも。同じく、なんか見覚えがある気はするけど」
「……やはりそうですか」
やはり?
「アクアさん、ダクネスさん。こちらのカズマさんは、私達が知るカズマさんではないようです。先程アクアさんが説明された並行世界、そちらのカズマさんではないでしょうか」
「「「「あ」」」」
わたしとカズマさん、アクアさん、ダクネスさんが、同時に短く驚いた。
「……さすがサイラーグの巫女、シルフィールね」
……え、クロ?
「……私の事をご存知なのですか?」
「直接は会ったことないけどね。貴女が言った並行世界の、そっちのガウリイには会ったことがあるわ」
「ええっ、そうなの!?」
クロがなんか、とんでもない爆弾を落とした。って言うか。
「おい、それじゃあこの二人は、【スレイヤーズ】のガウリイ=ガブリエフとシルフィール=ネルス=ラーダって事か!?」
「何だ、オレの事知ってるのか?」
あ。受け答えがアニメで見た感じに似てる。それに、確かに二人とも、アニメの声優さんが当ててた声にそっくりだ。
「知ってるって言うか…」
カズマさんが答えようとした、そのとき。
ずごおおおん!
上空にファイアー・ボールが炸裂する。
「……また火炎球ですね。リナさんが放っているんだと思いますが…」
……なん、だと!?
「あの、リナ=インバースも一緒なんですか?」
「え? ああ、そうです。石龍の調査にはリナさんも同行してましたから、おそらくは」
ミユの質問に答えるシルフィールさん。やっぱりそうなんだ。
「……って言うか、リナ、多過ぎじゃない!?」
聞いた話も含めると、
「……因みに、ミユ世界のリナの育ての親…姉?のミリーナ=サンダースは、更に並行世界のリナ=インバースだからね?」
わたしの耳許で、更に爆弾投下をするクロ。
『この作者さんは、相当【スレイヤーズ】がお好きなようですねー』
「作者って何の事よ、ルビー!?」
『いやー、見事なメタ発言ですねー』
「羽根ルビーは黙っててっ!!」
うう、ルビーが二人もいると、突っ込むのも大変だよぅ。
「もうみんな、落ち着きがないわねー。ホラ、私の芸でも見て、少しは落ち着きなさいな。花鳥風月ー!」
ええっと。空気を読まないというか、読んでるけど対応が明後日の方向に行ってるというか、とにかくそんな、いつもと変わらないアクアさんを見て、ある意味気分が落ち着いた。
「……取りあえずは、自己紹介だな」
なんとも言えない空気の中、カズマさんはそう言ったのでした。