「
ちゅごうん!
あれから更に2度ほど火炎球を放って、少しして。
「あ、いたいた!」
「イリヤ! リナ!」
その声に振り返り。
「ようやく来たわね、クロエ、美遊。……え?」
予想外の人物に、一瞬言葉に詰まる。
「稲葉リナちゃん?」
「てへっ。来ちゃった♡」
「『てへっ。来ちゃった♡』じゃなくって! 何? あんたも引き込まれたの!? っていうかクロエに美遊、どーして連絡くれなかったのよ!?」
うん。我ながらかなり動揺してるなあ。
「わたしは自分で来たんだよ。ルビーがそっちのルビーとパス繋いでるみたいで、近しい異空間なら移動できるからって」
『アハー! 原典に近いわたしは、やっぱり能力が桁違いですねー』
ルビーが羽根ルビーを称賛するが、あたしとしてはあんまし嬉しくない。
「……で?」
視線をクロエに移すと、彼女もてへぺろしながら言った。
「いやー、連絡入れるのが面倒くさかったのと、リナが驚いた顔が見たくって♡」
「わたしも、その誘惑には勝てなかった」
「おまいら…」
まさか、美遊まで加担するとは…。
「……まあ、いいわ。それで、あなたがもうひとりのイリヤね? そしてもうひとりのカズマさん」
「う、うん」
「あ、ああ。ていうか、既にもうひとりの俺と…」
カズマさんが何か言おうとしたところで。
「カズマ! めぐみん! ゆんゆん!」
「よかった、無事だったようね」
金髪の女騎士と青髪の女性が、カズマさん達に声をかけた。
「お前らも無事だったみたいだな」
こちらのカズマさんも、軽く溜息を吐いて返す。
「っていうか、あたしは無視かい!」
もうひとりのあたし、リナさんが割って入る。とは言うものの、世間のあたしへの評価からすると…。
「いえ、リナさんならきっと大丈夫だと思ってましたから」
「そうだな。リナなら何されても死なない気がするしな」
見知った顔の二人がそんな評価を下す。しかしこの男、自称保護者だろ。もう少し心配してやれ。
「カズマくん、イリヤ」
「お、クリス。無事だったか」
「よかったぁ」
こちらも再会を喜んでいる。ともかくこれで、全員合流したって事でいいのかな?
「……あの」
「うん?」
声をかけられ、そちらを向くあたし。それはあたしが見知った、長い黒髪のプリースト。
「あなたが、もうひとりのリナちゃんですか?」
そう呼ばれて、あたしはリナちゃんをチラリと見る。
「……あ。途中で説明が大変になったから、会えばわかるって…」
まさかの丸投げだった。あたしはひとつ溜息を吐き、視線を戻す。
「……まあ、もうひとりの稲葉リナで間違いはないけど、正解でもないのよねー」
「え? どういう…」
「……なあお前、リナじゃないか?」
ふむ。彼は相変わらず勘が冴えている。
「さすがガウリイね。そう、あたしのこの体は稲葉リナ
「ええっ!?」
シルフィールはそれはもう驚いている。言い当てたガウリイでさえ少し驚いた顔をしているが、当たり前っちゃ当たり前か。
「なるほど。こちらのイナバリナがスィーフィード世界の魔法を使えるのは、リナ=インバースでもあるイナバリナから能力を引き出してたから、という訳だな」
金髪の女騎士…おそらくは、待っている間に説明を受けたカズマさんの仲間のクルセダー、ダクネスさんが納得するように言った。つまり、青い髪の女性がアクアさんか。
『あ、ところで、そちらのイリヤさんのわたし。テレフォンモードで我々と通信できないか、確認してもらえませんか?』
『ああ、そうでした。そちらの姉さん、お願いします』
あ。そーいや、その問題があったっけ。
『ええ、構いませんけど?』
答えたもうひとりのルビーは、テレフォンモードになって通信を試みる。が。
『……おや、繋がりませんねー?』
予想はしていたが、やはり通信は出来ないらしい。
「なになに、どういうこと?」
アクアさんが聞いてきた。
「あー…、ええっと、ルビーとサファイアはお互いに遠距離通話が出来るんだけど、この空間内では何故か不通になってたから、もうひとりのルビーに確認してもらったのよ」
あたしは異世界人でも何とかわかるように、言葉を選びながら説明する。
「ふーん? 携帯電話みたいなものかしら?」
「そうそう、そんな…って、何で携帯電話なんて知ってんのよ!?」
あたしはわざわざ、そーいった言葉を使わずに説明したってのに! それとも何か? 異世界にも携帯電話があるというのか!?
そんなあたしの手を取り、引っ張るリナちゃん。そして耳許に口を寄せ言った。
「(アクアさまって、実は女神さまなんだって。ルビーも神気を感じてるし)」
……は?
「(それにこっちに来たとき、言葉が通じなかったのも何とかしてもらったし、神さまなのは間違いないと思うよ?)」
ううみゅ。俄には信じ難いが、多分本当のことなんだろう。後でどっちかのカズマさんに確認しとこ。
「あの。ところで、もうひとつ聞きたいことがあるのですけど」
少しオドオドした感じでシルフィールが尋ねてきた。もっとも、この態度に騙されてはいけない性格の持ち主だけど。
「めぐみんさんの爆裂魔法の後に放たれた竜破斬は、リナさんによるものですか?」
この場合のリナは、当然リナさんの事だろう。そう思って彼女を見る。
「いや、あたしもアレを見てこっちに向かってたのよ」
その答えを聞き、今度はあたしのことを見た。
「それでは
おそらくリナちゃんと区別するためだろう、そう尋ねる。それに答えようとしたところで、めぐみんが口を挟んできた。
「いえ、先程の竜破斬はイリヤが放ったものです」
その答えに、スィーフィード世界の魔術を知りつつも、あたし達の事情を知らないメンバーが驚きの表情を見せる。
「イリヤ、使って見せてあげて。そのほうが説明しやすくなるから」
「あ、そうだね。それじゃあ、クラスカード[キャスター]
あたしに促されたイリヤがカードを夢幻召喚すると、紫色の僧侶の服装に変わる。それを見て、やはり驚きの声が上がった。もちろん、誰よりも驚いていたのは。
「私と、同じ衣装…?」
シルフィールである。
「今、イリヤが使ったカードは[クラスカード]。死後、[英霊の座]という場所に至った英雄と繋がったカードよ。そしてキャスターのカードの英霊は、並行世界で[座]に至ったシルフィール」
「私が…」
驚きが冷めやらぬうちに、さらなる驚きが彼女を襲う。
「で、この英霊というのは通常ひとつ、多いと二つから三つ、宝具っていうとっておきを持っているのよ。そしてあなたの宝具は二つ。ひとつは回復魔法の[
「……[
言葉を引継ぎ答えるシルフィール。そのセリフはしっかりとしている。
「そういうこと」
あたしは軽い感じで言った。
「そうかぁ。ミーねえが創った[キャスター]のカードの英霊って、シルフィールさんだったんだ」
おや。リナちゃんもそれは知らなかったか。
「えっと、リナちゃん」
「ん?」
「はい?」
ゆんゆんに名前を呼ばれ、あたしとリナちゃんが返事をした。さすがにリナさんは反応しなかったけど。
「あ、その、私と一緒だった方のリナちゃん」
「りょーかい。それで何?」
改めて聞き返すあたし。
「そのカードでシルフィールさんの力を借りられるのはわかったけど、もしかしてガウリイさんとかのカードもあったりするんですか?」
「……ええ、あったわ。ガウリイ、ゼルガディス、アメリアの三枚が。それぞれセイバー、バーサーカー、ランサーの英霊としてね」
「おい、ちょっと待った。アメリアがランサー?」
あたしの答えに疑問を投げかける、リナさん側のカズマさん。まあ、あたしだって最初は戸惑ったが。
「キャスターのカードがシルフィールに取られたから、次点でランサーになったみたいよ。拳の攻撃を槍に見立てて、っていう無理くりな理由だけど」
「ムチャクチャな理屈だが、菌糸類ならやりそうだな」
なんか知らんが納得してくれた。……というか、菌糸類?
「えっと、あたしからも。『ある』じゃなくて『あった』って言ったわよね、今」
さすが並行世界のあたし。ちゃんと細かいとこまでしっかり聞いてる。
「ええ。詳しいことは省くけど、エインズワース家が興した[聖杯戦争]って儀式で色々あって、世界崩壊の危機に陥ったの。それを阻止するために、その三枚は消滅したのよ」
あたしの説明に、並行世界のイリヤとその世界のカズマさんが渋い顔をした。……てことは、カズマさんにも聖杯戦争の知識がある? とか思ったら。
「ねえ。さっき、こっちのイナバリナからも少し聞いたけど、聖杯戦争ってもしかして、[冬木の聖杯戦争]の事?」
『は?』
アクアさんからの意外な発言に、みんなが声をハモらせる。……いや、並行世界のイリヤとそっちのカズマさんは、むしろ「やっぱり」みたいな表情で押し黙ってる。
「アクアさん、何かご存知なんですか?」
「もちろん!」
尋ねるシルフィールに、しっかりとうなずく。
「[聖杯戦争]っていうのは、魔術師って呼ばれる人達が、あらゆる願いを叶えるっていう[聖杯]を顕界させるために行われる儀式の事よ。ひとり一体、合計七騎の英雄の霊、英霊を呼び出して戦わせ、勝ち残った者が聖杯を手にするっていう、最低な儀式ね。
しかも人間をひとり小聖杯に据えて、破れた英霊の魂を集め最後に大聖杯にくべる、なんていう、外道過ぎて冗談でも笑えないって代物よ」
これは、アイリさんから聞いた話と遜色ない内容だ。イリヤ達には美遊の世界で、四郎…いや、士郎さんから過去の出来事を聞いた後、同じく情報の共有のために話してあるから、今はそれほどのショックは無いだろう。
だが、それにしても。
「アクアさん。ちょっと迂闊じゃないかしら?」
「ほへ?」
アクアさんは変な声を上げ、間の抜けた表情を浮かべた。
「その小聖杯が、イリヤなのよ」
あたしがそう告げると、アクアさんは「え?」と小さく洩らし、二人のイリヤを交互に見る。イリヤは二人とも、困った表情で笑みを浮かべた。という事は、もうひとりのイリヤも自身のことを知ってたって事か?
……そうか。向こうのアクアさんから、既に同じ話を聞いてたんだ。だから、イリヤとカズマさんはアクアさんの話を聞いてたとき、あんな表情をしてたってわけか。
「え、あ、私は別に…」
かなり狼狽えるアクアさん。オツムは軽そうだが、決して悪い人ではないのだろう。そんな彼女に声をかけたのは向こうのイリヤだ。
「アクアさん、大丈夫だよ。わたし、向こうのアクアさんから聞かされて、もう覚悟は出来てるから」
「わたしも、リナから話は聞いてるから」
こっちのイリヤも、アクアさんを慰める。
「ほれ、アクア。二人のイリヤがこう言ってくれてんだ。ちゃんと謝れ」
「うう…。二人とも、ごめんね?」
カズマさんに促され、アクアさんは素直に謝った。……どうでもいいけど、まるで親に促されて謝る子供みたいね?
「それからアクアさん。エインズワースの[聖杯戦争]は冬木で行われたけど、その説明のものとは別よ」
「え?」
あたしは次の言葉を発する前に、美遊をちらりと見る。それに気づいた美遊は軽くうなずいた。
「エインズワースの[聖杯戦争]は遙か昔、神代で分岐した並行世界の冬木で行われたもの。英霊の力はカードに収められ、大聖杯は
「ええっ、そうなの?」
うむ。そうじゃないかと思ってたけど、やっぱりあちらの聖杯戦争は知らなんだか。まあ、神様とはいえ万能ではないのだ。当然のことだろう。
「……えっと、リナ…ちゃん? さん?」
「あー、どっちでもいいわよ。……えっと、イリヤ
あたしはこっちのイリヤと区別を付けるため、ちゃん付けにする事にした。
「……それじゃあリナ子さん」
リナ子…。まあ、別にいーけど。
「あなた達は、向こうの事件を解決済みなん…」
「ストーーーップ!」
「ふぇっ!?」
皆まで言わせず、あたしはイリヤちゃんの話を止める。
「あなたのことだから事件の内容を知りたいんだと思うけど、生憎とあたしからは答えらんないわ。
まずひとつに、こっちじゃあたし…ていうか、あたしの前世世界の魔族達が関与してるせいで、あなたの世界線とは大きく変質してると思われるから。
そしてもうひとつが…」
「内容を教えたら、未来が変わってしまうかも知れないから。でも、その未来はもうひとりのわたしのもの。自分の力で変えるのはいいけど、先の結果を知ってるわたし達の知識が入っちゃいけない…だよね?」
あたしの言葉をイリヤが継いで言った。以前あたしが言ってたこと、ちゃんと覚えてたんだ。
「……ま、イリヤが言った通りよ。ピトスのこと言っといて今更ではあるけど」
「でも…」
まだ何か言いたそうにしているイリヤちゃん。そんな彼女の頭に、カズマさんが手を乗せる。
「あきらめろ、イリヤ。リナ=インバースってキャラを知ってるなら、何言ったって無駄なのはわかってるだろ? 向こうのイリヤも、なんか鍛えられてるみたいだし」
「……うん。そうだね」
……むみゅ? イリヤちゃんのあの反応、もしかして? ……いや、余計な詮索はよしておこう。
「……さて、無駄話はこれくらいにしましょ。どうやら全員揃ったみたいだし、今後の方策を…」
リナさんがそう言うと、クリスさんが一瞬キョトンとしてから待ったをかける。
「ちょ、ちょっと! まだひとりいるでしょ!? 確か、ナーガとか言う人が…」
ぶふぉっ!?
「ちょ、ちょっと待て! い、今、ナーガって言った!?」
「リ、リナ。ナーガって、あのナーガさんだよね!?」
「歩く災害」
「あー…、あの面白おかしい痴女魔道士ね」
あたし達は戦慄する。あの金魚のうんちが、この世界に来てるだと?
あたし達はアイコンタクトをとると頷き合う。
「「「「
「ええっ!?」
キレイにハモったあたし達の返答に、クリスさんがびっくりしている。
「……そうだな。
「あー、あれはひどかったよねー」
ネコアルクはよくわからんが、カズマさんとイリヤちゃんが疲れた顔でそう言った。というか、そんなハチャメチャキャラ、他にもいるんかい。
「とまあそんな訳だから、気にせず方策を立てま…」
再び仕切ろうとするリナさん。と、その時。
「あ、やっと見つけた!」
「稲葉、こんな所にいたのか。……って、もうひとりの稲葉!?」
……おいおい。何でおまいらがここにいる。
「えっ、ミリィにアオガワくん!?」
そう。あたし達の前に現れたのは、クラスメイトの星見ミリィと、その親戚の男の子、青川慧だ。
そしてもうひとり、気になる人物。陰陽師の正装をした、長い黒髪の二十歳前後のお姉さん。その顔に、ある少女の面影が浮かぶ。
その時、イリヤちゃんが言った。
「カナさん!」
と。……いや待て。つまり彼女は、年齢こそ違えども。
「……あんた、黒神神名なの?」
「え? ……ああ、あなたが稲葉リナちゃんだね。そう、並行世界の黒神神名だよ」
……むみゅうう。なんか、とんでもなく大所帯になった気がするんだけど。さすがに少しばかり気が滅入ったあたしは、溜息をひとつこぼすのだった。
因みに、クロがナーガを表して言った「面白おかしい」のおかしいは、「面白い」という意味ではなく「変」の方です。