なんか、また知らない人が増えたわねー。どうやらちっちゃい二人は、もうひとりのあたしの世界から来たみたいだし、今のあたしより年上の子は、並行世界のカズマのとこから来たらしいけど。
「……それで、何でミリィや青川くんまでこんな所にいんのよ」
「それを言ったら、カナさんだってどうしてここに!?」
もうひとりのあたし…面倒くさいからシルフィールに倣ってイナバさんとしとくけど。彼女と、もうひとりのイリヤ…こっちもイナバさんに倣ってイリヤちゃんとしとく。彼女がそれぞれに疑問を投げかけた。
「俺達はキャナルと一緒に、お前達を追いかけてきたんだ」
「わたしも、和真くんとイリヤちゃんを助けに来たの」
キャナル? なんだかまだ誰かいるみたいね?
「……どっちも助けに来たのはわかったけど、それじゃあミリィ達を連れてきたキャナルはどうしたのよ?」
「キャナルは、裏方に回るって言ってた魔族についてったわよ。監視の意味も含めて」
……魔族?
「……ねえ、あなた達。ちょっと聞きたいんだけど、その魔族の名前って…」
「え、あ。大人のリナ? って事はあなたが…って、それは今はいいか。えっと、名前だよね。確かゼロスって名乗ってたけど」
『ゼロス!?』
あたし以外にも、同時に声をあげる人が複数。
「……えーっと、ミリィ? 監視とはいえ、よくキャナルが魔族相手に同行したわね? 曲がり形にも神の眷属なのに」
神の眷属? それって四竜王やそれに連なるものって事?
「神名が間に立ってたから」
「えっ、カナさんが?」
イリヤちゃんが驚いてカナを見ると、彼女は首を横に振る。
「わたしの事じゃないよ。並行世界のわたし。イリヤちゃんと同じ歳で、精神体だったキャナルの依り代になってるらしいの」
なるほど。よーわからん。……ん? カズマ?
「カズマ、どうしたのですか? 何やら考え込んでいるようですが」
あたしと同じく、カズマの様子に気がついためぐみんが尋ねた。
「いや、なんて言うか…。キャナルにミリィ、だよな」
うん? それってどういう…。!? あたしをちらりと見た?
「もしかしてなんだが、キャナルが遣える神って、
「えっ、お兄さん!?」
「ちょっとカズマさん、どうして知ってんのよ!?」
ミリィって子とイナバさんがかなり驚いてる。という事は、カズマが言ったことは正しいってことか。それに、
「……えっとだな? おれが元いた場所では、リナ達が主役の創作物で【スレイヤーズ】ってのがあるんだが」
うみゅ。それは出会った頃のカズマから聞いたことあるわね。
「それと同じ作者が書いた作品で【ロスト・ユニバース】って話があるんだ」
……をや? この話の流れって、もしかして。
「その話の中で、遥か以前に滅びた文明の神話として、[
やっぱしそのパターンかああああ! というか、
「……つまり、キャナル
イナバさんが疲れた表情で尋ねる。というか、キャナルも…って事は、彼女も自身が物語の登場人物だって知ってるって事? ……そうか。さっきカズマともしょもしょ話してたのって、その事だったのだろう。イリヤって子が、なんかの作品の登場人物みたいな話してたし。
それはともかく、カズマはイナバさんの問いに答える。
「……天使のキャナルはどっちかって言うと、あくまでその話の中の神話って位置づけだな」
「……天使のキャナル? それって、天使じゃないキャナルもいるって事じゃ?」
さすがは並行世界のあたし。なかなかに耳ざとい。カズマはしまったって顔してるが、すぐに諦めのそれへと変わった。
「【ロスト・ユニバース】、通称【ロスユニ】はSF作品なんだけど…」
SF?
「SFとは何ですか?」
やはり、あたしと同じ事を疑問に感じためぐみんが、カズマへと尋ねる。しかし当のカズマは困った顔をしている。多分、あたし達のような、カズマにとって異世界の人間が理解できるように説明するのが難しいのだろう。
と、そこでイナバさんが口を挟んできた。
「あたしの世界にもSFって概念があるから、代わりに説明するわ。SFは空想科学って訳されてるわね。科学ってのは物理現象の研究とか、錬金術から魔術的なものを廃してその変化を分析・実験する、そういったものを総合した学問ってとこよ。
つまりSFは、そう言った科学が遥かに進んだ世界を想定した物語ってわけね」
そうか。つまり、前の世界で圧縮した空気で筒から玉を発射させる絡繰りを作った人がいたけど、そういった研究なんかが科学ってことか。
「……なるほど。完全に理解したわけではありませんが、大体はわかりました。カズマ、話の腰を折ってしまい、すみませんでした。続きをお願いします」
「あ、ああ…」
少し怯んだ感じで相槌を打ち、カズマが続きを話し始めた。
「その話は遥か未来、人類が宇宙船っていうので宇宙…空より遥か上の世界まで進出してるんだ。で、主人公が乗る宇宙船は更に特別なもので、遙か昔に一度滅んだ人類が造り上げた超科学の宇宙船、その名も[ソードブレイカー]」
……[ソードブレイカー]? それって王都にいる転生者が開いてるお店の名前…。あ、カズマの様に【スレイヤーズ】を知ってたって事は、【ロスト・ユニバース】も知ってたって事か。
「だけどそれは、真の名前を隠すために主人公が付けた別の名前で、本当の名前は[ヴォルフィード]。宇宙船を造った先史文明が神話の神から取ってつけられたんだ。で、[ヴォルフィード]の人工知能の名前が、神話の天使[キャナル]だったって訳だ」
まあ、船に神や偉人の名前を付けることは、ままあることではある。人工知能ってのが船とは別に名前がある理由はわからんけど。
「そもそもその文明では大きな戦争が行われていて、相手側が造った、神話の魔王[デュグラディグドゥ]の名を冠した基艦と、魔王の武器の名を冠した五つの僚艦に対抗するために造られたのが[ヴォルフィード]だったってわけだ。だけど[ヴォルフィード]が起動したときには人類が滅亡していて、自分と共に敵艦を封印するのが限界だった」
なんだか英雄譚でありがちな話ね。
「で、主人公の祖母が発掘したのが[ヴォルフィード]、敵ナイトメアの総帥が発掘したのが[デュグラディグドゥ]で、僚艦の5隻も発掘した。そして祖母から[ヴォルフィード]を譲り受けた主人公が、ナイトメアと戦うことになったんだ」
……最初渋ってた割りに、なかなかよく回る口だ。きっと話してるうちに興が乗ったのだろう。とここで、ミリィって子が小さく手を挙げて和真に尋ねる。
「……あの、その話とわたしって、何か関係があるの? さっき尋ねたとき、わたしの名前も言ってたよね?」
「あ、そうだったな。ええと、主人公の名前がケイン=ブルーリバーで、1巻で仲間になるヒロインがミレニアム=フェリア=ノクターン。愛称がミリィなんだ」
おや、なんと。
「……ノクターンって、お母さんの旧姓だよ。それにミドルネームは無いけど、わたしの名前も当初はミレニアムにしたかったんだって。でも仰々しいからミリィにしたって言ってた」
「……マジかよ」
カズマも、まさかそこまで同じだとは思ってなかったみたいね。
「それならおれだって、苗字は青川だぞ? 英語にしたらブルーリバーだ。ケイ・ブルーリバー。主人公の名前にそっくりだ」
エイゴはわからんが、それなら確かに似ている。
「つまりあなた達は、その物語の登場人物の、異世界での同位存在なんでしょうね。稲葉リナちゃんがリナ=インバースの同位存在なのと同じで」
イナバさんの説明に、成る程と頷く二人。なるほど、同位存在だからあたしとそっくりだし、並行世界のあたしが憑依する形で転生したってわけね。
……おや、もうひとりのイナバさん…っていうかリナちゃん、なんか難しい顔してるわね。
「ねえ、リナちゃん。どうかした? すごく難しい顔してるけど」
「……あ、うん。今話してるのとは関係ないから黙ってたんだけど。えっと、慧くんとミリィも自分でこの世界に来たんだよね?」
「え、ああ」
「正確にはキャナルの力でだけど」
そーいやそんなこと言ってたっけ。でも、それが一体?
「何で二人は、言葉が通じるの? この世界に無理矢理召喚された人達は話が通じるみたいだけど、わたしは最初、ガウリイさん達と会話できなかったんだよ?」
『確かにそうでしたね。アクアさんの不思議パワーで会話できるようにはなりましたけど、そうで無ければ今でも、日本人同士でしか会話できなかったでしょうね』
なんと! いやしかし、確かに異世界で会話が通じるのはおかしな事ではある。
「ああ、それはゼロスのおかげだ」
「ゼロスさんが別れ際に、『どっかのアークプリーストの真似事ですが』とか言って、言語を強制的にインプットしてくれたのよ」
ゼロス、なんだか便利屋みたいなんだけど。いや、実際に便利屋扱いすることもあるけど。
「ちょっと、『どっかのアークプリースト』って何よ! ここは『麗しき水の女神アクア様』って言うべき所でしょ!」
「落ち着けアクア」
「いくら水の女神と同じ名前とはいえ、さすがに場を弁えないとイタい人だと思われますよ」
「だから、どうして信じてくれないのよおおお!」
そしてアクアは、相変わらず女神と信じてもらえない、と。あ、
「それで青川君は…」
「おい。あいつらほっといていいのかよ?」
イナバさんがアオガワくんに話しかけるけど、当の本人がアクア達を見て言った。するとイナバさんはこちらを見て。
「もうひとりのあたしであるリナさんが平然としてるって事は、いつもどおりって事でしょ?」
「まあ、そうね。アクアが女神だと言っても周りが信じないから泣きわめいたり、カズマと口ゲンカして言い負かされて泣きわめいたりなんて、日常的な事ね」
「……なんか、タツコを彷彿とさせるわね」
確かクロエと言ったか、褐色肌の子が半ば呆れながら呟いた。おそらく知り合いにも、こんなおバカで残念な子がいるんだろう。
「えーと、まあ、そんなわけだから、気にする必要はないわよ」
「あ、ああ、そうだな…」
イナバさんとアオガワくんはそんなこと言ってるけど、さすがにちょっとばかし引いてる…と言うか、アクアを哀れんでるみたいだ。
「で。話を戻すけど、青川くんはもしかして、あたしにその剣を届けに来たの?」
そう言って指差す先には、アオガワくんが手に携えた一振りの剣。実はあたしも気になっていた。何しろあの剣って…。
「本来の目的は稲葉達を助けに来たんだが、この世界に来る前に遠坂さんから、この剣を稲葉に渡すように頼まれたんだ」
「最初はキャナルが持ってたんだけど、魔族と行動することになったから慧が持つことになったってわけ。慧なら剣術の心得もあるし」
アオガワくんとミリィの説明に、確信を持つ。やっぱりあの剣は。
「……なあ。その剣って、
ガウリイが二人に声をかけ、自身が持つ剣を鞘に納めたまま差し出して見せた。そして。ガウリイが言ったとおり、そしてあたしが思ったとおり、その造形は何から何まで一緒だった。
「そう。それは並行世界の…しかもおそらく、ガウリイが
イナバさんはそう言って、右手首に着けられた[
「…………なるほど」
ガウリイはそう答えたけど、あんた、全然わかってないでしょ。呆れながら彼に近づこうとした、その時。ガウリイが突然動き出したかと思った次の瞬間、素早く剣を抜き放ち。
ぎゃきいいいん!
鈍い金属音と共に弾け飛ぶ、数本の矢。
「な…」
リナちゃんが呆気にとられてるが。
「[アーチャー]
クロエがさっきのイリヤの様に、弓兵と見られる姿に変わり。
「「「
二人のイリヤとミユが、何処ぞの魔法の老女を彷彿とさせる姿になった。当然あたし達も戦闘態勢に入っている。
「え、えっと」
「リナちゃん、敵です」
戸惑う彼女に、シルフィールは落ち着いた口調で告げた。どうやらリナちゃんは、戦闘経験が少ないみたいね。
さて、次はどんな手で来るか…?
「
なっ!?
ばぢゃああああっ!!
大地に雷が這い、あたし達を撃ち、みんな倒れ込む。って、この攻撃は…って言うか、この声は!
「おーっほほほほ! 無様な姿ね、リナ=インバース!」
『
姿を現したナーガに、あたしを含めた彼女を知るもの達が、一斉に声を上げた。くっ、しかし体が動かないことには…。そう思ったその時。
「『セイクリッド・ハイネス・ヒール』ッ!!」
アクアが放った魔法と共に、電撃によるあたしの麻痺状態が解かれる。えらいぞアクア、珍しく役に立ったじゃないか!
「『セイクリッド・ハイネス・ヒール』! 『セイクリッド・ハイネス・ヒール』! …」
ひとりずつ魔法をかける姿は間抜けだけど。
「さて、ナーガ。どういうことか、聞かせてもらいましょーか?」
「ふっ。どういうこともなにも、私は依頼を受けただけの事よ。あなた達を倒して欲しいってね」
「依頼? 一体誰が…」
あたしがそう言いかけたところで、ガウリイがあたしの前に出る。
「気をつけろ。他にも
あたしの気が引き締まる。誰か、ではなく何か。つまり人ではないということ。
「あぁら、勘がいいわね。……出ていらっしゃい」
ナーガが軽く右手を挙げて声をかける。すると林の奥から、真っ黒な泥に覆われた
「……ベルディア?」
イリヤちゃんが呟く。そう。コイツは魔王軍幹部のひとり、勇者殺しのベルディア。
「コイツ、
クロエは言った。聖杯の泥というのはわからないが、まともな自我を持ち合わせていないのは、その雰囲気で理解できる。
「■■■…、死の…宣告…!」
ベルディアは指差し、昏い何かがミリィを襲う。だがしかし。
「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」
すかさずにミリィへ、解呪の魔法をかける。どうしたアクア。今日はえらく冴えてるじゃないの。
そしてスキルを発動した直後のベルディアに、ガウリイが距離を詰めて袈裟懸けに斬りつける。やはり本来よりも劣化しているのか、反応すらまともに出来ていない。更にそこへ。
「「
イナバさんとリナちゃんが同時に獣王牙操弾を放ち、ベルディアを貫いた。
「■■■…」
ベルディアは声にならない声を上げ、あっさりと消滅していった。
「……さーて、ナーガ? お仲間さんはあっさりと倒しちゃったけど、降参するな…」
「待て、リナ。まだ誰かいるぞ」
えっ、まだ? というか、今度は誰か…人って事?
そんな疑問を抱いていると。
「……本当に、勘のいいオニーサンね?」
そう言って現れたのは。露出度の高い黒のボディスーツに赤い外套を纏った、銀色の髪に褐色の肌の少女。
「う…そ…」
「どういう…事よ…」
ミユとイナバさんが上ずった声で言い。
「「どうして…。クロ…!」」
二人のイリヤが、もうひとりのクロエの名前を叫ぶのだった。
補足
何処ぞの魔法の老女……【スレイヤーズ】短編(【スレイヤーズすぺしゃる】)に登場した老女プリンシア。