このカレイドなスレイヤーズに祝福を!   作:猿野ただすみ

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~イリヤスフィール~

「「どうして…。クロ…!」」

 

わたしと、もうひとりのわたしの声が被った。でも、そんなの当たり前だ。だって、だってもうひとりのクロが、わたし達の目の前に敵として現れたんだから。

 

「あら、イリヤ。そんな事聞いてる余裕なんてあるのかしら?」

 

そう言ってもうひとりのクロは弓と矢を投影して、それを番えて引き絞る。投影した矢は貫通力がある偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)…じゃない!? あれ、アーチャーさん(お兄ちゃん)と同じ偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!?

ふと、もうひとりのわたしと視線が合う。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

クロが矢を放って。

 

「「物理保護・錐形(ピュラミーデ)!!」」

 

わたし達は物理保護を展開する。バキャン!と物理防御壁が破壊される。矢の軌道はほとんど変わっていない。だけど、ガギャン!と二枚目の防御壁が破壊されながらも、矢は斜め上へと軌道をずらして後方へと過ぎていった。

 

「ちっ、やるじゃないの!」

 

そう言ってもうひとりのクロは再び矢を投影する。今度は赤原猟犬(フルンディング)だ。でも。

 

「『スティール』!」

 

クリスさんが[窃盗]のスキルで奪い取る。……カズマさんがやるとぱんつ奪っちゃうし、的確な判断だと思う。

 

「馬鹿! 早く捨てろっ!」

 

リナさんの方のカズマさんが、大きな声で叫ぶ。……あっ!

クリスさんはカズマさんに怒鳴られたことに驚いて、掴んでいた矢を離し。

 

ドゴォン!

 

矢が爆発を起こして、クリスさんが吹き飛ばされた。うっかりしてた。アーチャーさんの切り札、壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)に気づかないなんて。もうひとりのクロも想定外だったんだと思う、少し間が開いたからクリスさんは大ケガしないで済んだみたいだけど。ケガはアクアさんに任せよう。

 

「躱されたか…。!?」

 

ガッ! と金属がぶつかり合う音。いつの間にか距離を詰めたクロが、もうひとりのクロと刃を交えていた。お互い手にしてるのは、馴染み深い陰陽の双剣、干将・莫耶だ。

 

「まったく。何があったか知んないけど、あなた(わたし)を見てるとイライラしてくるわ!」

「あら、奇偶ね。何も知らないあなた(わたし)を見てるとムカつくのよ!」

 

お互い、嫌悪感を剥き出しにしてぶつかり合ってる。うう、こんなに接近してたら攻撃も出来ないよぅ。

 

爆煙舞(バースト・ロンド)

 

ぼぼぼん!

 

もうひとりのリナちゃん…リナ子さんが、何事でも無いかのように魔法を放った。クロは二人揃って爆発に巻き込まれる。そうだった。リナ=インバースってそういう人だった!

 

「っつう。痛いし熱いし、なんなのよあなた!」

「あたしは剣士にして天才魔道士の稲葉リナよ!」

「天才魔道士、ねぇ。でも、随分とショボい術じゃない」

「本当に強い魔道士は、強力な術を使う者じゃない。どの場面でどの魔術を使うと効果的か、的確に判断できる者よ」

 

リナ子さんの説明を聞いて、思わずカズマさんの顔を見る。カズマさんの戦い方がまさに、リナ子さんが今言ってることだと思ったから。

 

「そして、いくら才能があっても使えないのは…伏せてっ!!

 

え、何? そんな疑問が浮かんだのも束の間、わたしはカズマさんに強引に押し倒されて。

 

風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウィン)ッ!!」

 

ナーガさんのその声と共に、強力な風が荒れ狂った。

 

「おーっほほほほ! 私の攻撃に、為す術も無く吹き飛びなさいっ!!」

「アホかああああああっ!!!」

 

スッパアアアアン!と。リナさんがスリッパで、ナーガさんの頭を思いっきり引っぱたいた。

 

「痛いじゃないの、リナ!」

「痛いじゃないのじゃないわっ! アンタ、お仲間まで一緒に吹っ飛ばして、どーすんのよっ!」

「…………あ」

 

ナーガさんは、風に吹き飛ばされて枯れ木に背中を強打したもうひとりのクロを見て、小さく言葉を洩らす。もっとも、それでも立ち上がってくる根性は、やっぱりクロだなとは思う。

 

「……やっぱり面白おかしい奴だわ」

 

こちらのクロがそう洩らす。するとカズマさんが、ああと呟いて言った。

 

「そういや短編集の方でリナは言ってたな。『味方につけると心細いが、敵に回すと面白い』って」

 

そうなんだ。わたしはアニメしか知らないけど、リズお姉ちゃんはTVアニメ版のDVDしか持ってないんだよね。一応、OVAや劇場版にナーガさんが出てるのは、情報として知ってるけど。

 

「ったく。火傷だけじゃなく、余計なダメージまで受けたじゃない」

 

もうひとりのクロが愚痴を言うけど、当然だよね。しかも、こっちはリナ子さんの合図のおかげで、みんな被害を受けなかったし。

 

「……ねえ、ちょっといいかな?」

 

突然、カナさんが口を開く。

 

「……何よ?」

「この世界って、貴女が創り上げたの?」

 

……え?

 

「……あなた、何を知ってるの?」

「別に何かを知ってるわけじゃないよ。ただひとつ、気がついただけ。この世界は、誰かの心象世界の具現化…固有結界の中だっていうこと」

 

固有結界!? それってアーチャーさんの! ……でも。

 

「カナさん、クロは違うよ。だってクロは、アーチャーのカードの力を借りて、身体を維持してる。だから、もしクロが固有結界を使えたとしても、その心象世界はアーチャーさんの影響を受けて、[剣]にまつわる世界になるはずだから」

 

そう。おそらくは、クロの心象世界が混ざった[無限の剣製(Unlimited Blade Works)]に。

 

「……あなた、本当にイリヤ? 随分と頭が回るみたいだけど」

「失礼な! 学校の勉強は結構出来る方なんだから!」

 

もうひとりのクロは随分と口が悪い。……とか思ったら、こっちのクロも似たような眼差しを向けていた。なんだか納得がいかない。

 

「……まあ、いいけどね。イリヤの言うとおり、この世界…固有結界を創ったのはわたしじゃないわ。誰が創ったかはナイショだけど♪」

「だったら、力尽くで聞き出すまでよ!」

 

そう言ってクロがもう一度斬り込もうとした、その時。

 

『悪ぃが、そういう訳にゃいかねぇんだ』

 

突然声が聞こえて、一瞬前までクロがいた空間に何かが奔った。そう、一瞬前まで。クロは声がした瞬間、転移してリナ子さんの隣にいたから。

 

「ほう。俺の槍を避けるか」

 

そう言って突然出現したのは、黒い槍を担いだ青い髪のお兄さん。だけど雰囲気で、ただの人間じゃないのはわかる。

 

「うそ…」

 

……? リナ子さんが呟く。何が嘘だって言うんだろう。

 

「アンタ、ディルギアの仲間の…」

 

リナさんの知り合い? というか、ディルギアって聞いたことあるような。

 

「どうやら、憶えててくれたようだな。俺は…」

「クラン…」

 

お兄さんが自己紹介をしようとした、その時。リナ子さんが呟くように言った。

 

「あん? 何で俺の名前を知っていやがる。そういやテメェ、リナ=インバースに似てやがんな?」

「あたしのことはどうだっていいわ。それよりあなたは、竜将軍(ジェネラル)ラーシャートの元配下で、現在は[覇王(ダイナスト)]の許にいる中級魔族。同僚にスポット、……もといディルギアとルビーっていう二匹もいる。そうでしょう?」

 

話してるうちに落ち着いたのか、リナ子さんはちょっとしたボケを織り交ぜながら確認する。というか、ルビーって…。

 

『わたしと同じ名前ですね』

 

……さすがに今は突っ込まないからね?

 

「……ルビーはそこのリナ=インバースに倒されたが、確かに間違っちゃいねぇ。間違っちゃいねぇが…、何でそこまで知っている?」

「そんなの簡単よ。あたし達は、並行世界のあなた達を倒したんだから!」

 

ええっ!?

 

「……なるほどな。並行世界の俺達を倒した、か。……おもしれぇ! その実力、試させてもらうぜっ!!」

 

その瞬間、考えるよりも先に身体が反応していた。

 

「クラスカード[ランサー]、夢幻召喚(インストール)!」

 

ランサーの能力(ちから)を宿したわたしは、手にした槍で、クランがリナ子さんに繰り出した槍を弾く。

 

「へぇ、嬢ちゃんもなかなかやるな。だが…」

 

ふっとクランが消えて。

 

「イリヤ、大局が見えてないわよ!」

 

もうひとりのクロの声。そっちを見ると、複数の刀剣が宙に浮いている。まずい。あんなの、受けきれない!

スッと右手を挙げて人差し指で指差したと同時に、刀剣が発射されて…。

 

風波礫圧破(ディミルアーウィン)ッ!」

 

リナさんがそう言った途端、直線状に強烈な風が吹き荒れて、刀剣を吹き飛ばした。更にリナ子さんが。

 

氷窟蔦(ヴァンレイル)!」

 

地面に手を着いて呪文を唱える。すると雪で見えにくいけど、氷の筋が枝状に広がっていった。

 

「ちっ!」

 

舌打ちしたもうひとりのクロが投影した剣を放つと、伸びた氷の筋がその剣を凍りつかせる。

 

火炎球(ファイアー・ボール)! ブレイク!」

 

ナーガさんはファイアー・ボールを放って、その火炎で氷の筋が広がるのを止めた。

 

「おいおい嬢ちゃん、こっちが疎かになってるぜ?」

 

気がつけばクランが槍を突き出そうとしていた。私は慌ててゲイ・ボルクで防御しながら体を躱す。その時。

 

「今だ!」

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!!」

 

もうひとりのカズマさんの合図と共に、アクアさんがエメリウム光線の様なポーズで悪魔祓いの呪文を放った。

 

「があああッ!?」

 

これにはクランも結構効いたようで、大きく悲鳴をあげてる。

 

「!?」

 

クランは突然振り返って槍を振るった。途端、槍の先が蒸発するように消える。その位置には、黒くて太い三角錐状の何かがあって、スッと消えた。

 

「なっ、ゼロスまで来てやがんのか!? すまねぇが、アンタらの手助けは出来なくなった。今、アイツの相手をする訳にゃいかねぇんだ」

 

クランはもうひとりのクロにそう言うと、スッと姿を消してしまった。

 

「まったく、向こうから話を持ちかけといて…。でもまあ、必要な情報は得てるし、問題ないでしょ」

 

情報?

 

「クロ、情報って一体…?」

「そんなの、教えるわけないでしょ」

 

ですよねー。

だけどクロは、急に意地の悪い笑顔を浮かべて。

 

「……でも、どうしても知りたいなら、城まで来なさい。この森を向こうへ抜けた先に見えるわ」

 

そう言いながら、その方向を指し示す。

 

「そこに、この世界を創った人物もいるわ」

『!?』

 

全員が息を飲む。

 

「その人物も、あなた達に会いたがってる。最も、まだ下準備が済んでないから、色んな方法でおもてなしする事になるとは思うけど」

「いやいや、その気持ちだけ受け取らせてもらうから」

「そうはいかないわ。せっかくのお客様だもの。丁重におもてなしさせていただくわ」

「「フフフフ…」」

 

うあっ。もうひとりのクロとリナ子さん、なんか怖いんだけど!?

 

「それじゃあ引き上げるわよ」

「え、あ、ちょっと!?」

 

そう言って立ち去るクロを、ナーガさんが慌てて追いかける。はぁ、なんか疲れた。

 

『イリヤさん、年寄り臭いですよー?』

「だから、モノローグ読まないでってば」

 

わたしがいつもの様に文句を言うと、もうひとりのわたしが近寄ってくる。

 

「なんだかおんなじルビーなのに、こっちのルビーより面倒くさそうだね?」

『こっちのよりって、わたしも面倒くさいってことですか!? ルビーちゃんショッキング!!』

『そうですよ! たかがモノローグを読むくらい、なんだってんですかー』

「「二人とも、黙ってて!」」

 

うん。やっぱり二人とも面倒くさい。

 

「はいはい、イリヤズは落ち着いて、ルビー達はお静かに!」

 

イリヤズ!? リナ子さんに、十把一絡げにされた!?

 

「今大事なのは…」

「ええ、そのとおり」

 

え、リナ子さんにリナさん?

 

「「ゼロス、少しは状況を説明なさいっ!!」」

 

え、ゼロスって、あのゼロス? いや、確かにクランも言ってたけど。

そんな事を考えてると、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

『……いやー、説明と言われましても、クランさんの魔力を感じたので、精神世界面(アストラル・サイド)を通して遠隔から攻撃を仕掛けただけです。まさかクランさんまで来ていらっしゃるとは思いませんでしたよ』

「……それで、何で姿を現さないのかしら?」

 

そんな事を聞くリナさん。でも、確かに言われてみれば。

 

『ええと、すでにご存知かも知れませんが、こちらには監視役の天使がいまして。そちらに移動するのを幸いに、そのまま姿を眩ますのではと疑ってらっしゃいます。なので、精神世界面(アストラス・サイド)を通して存在の一部をそちらに繋げた、という訳です』

「……あー。確かにキャナルらしいわ」

「……わたしのせいじゃないけど、なんかごめん」

 

リナ子さんが呟くように言って、ミリィさんが謝る。

 

『本当に、害虫とか石の下のナメクジとか、散々に言われてますよ』

「あんたが本気で愚痴を言うのも珍しいわね?」

『ええまあ。相性みたいなものですかねぇ』

 

魔族にも相性ってあるんだ。

 

『まあ、宿主の方が色々と気を使ってくださるので、キャナルさんも出会った時よりは大人しくしてますけど』

 

宿主って、並行世界のカナさん?

 

「……神名には後で、何かおごってあげよう」

「そうだな」

 

ミリィさんとケイくんが、神妙な表情をして言った。でも、気持ちはわかる。そっちのカナさんは知らないけど、苦労してるのはわかるからね。

 

「まあ、いいわ。それでこっちの話は聞いてた?」

『はい。城のことですね? と言うか、僕達はこの世界を構成する魔力の出所を追っていたので、遠目にですが既に発見してますよ』

「「早っ!」」

 

リナさんとリナ子さんが突っ込んだ。

 

『ま、こちらはこちらで色々と探ってみますよ。もっとも本命は、取り込まれた貴方(がた)だと思いますが』

「……ええ。敵方のクロエのセリフも、そんなニュアンスだったしね」

 

ゼロスさんの忠告に応えたのはリナ子さん。確かにクロは言っていた。この世界を創った人も会いたがってるって。

 

『理解なさっているなら結構です。まあ、リナさんにはこの程度の敵、勝ってもらわないと困りますから』

「……また魔族側の思惑って訳ね。でも、ま、あたしだって死にたかないし、もちろん勝つ気で戦うわよ!」

『期待してますよ。それではまた…』

 

リナさんの意気込みを聞いたゼロスさんは、嬉しそう…って言うより楽しそうな声色で答えて、多分ここから去って行った。

 

「……さて、と。色々と疑問は残るけど、とりあえずの目標は決まったわね」

「ええ。クロエのお誘いもあったことだし、まずはそのお城を目指すわよ! みんな、異論は無いわね?」

 

リナ子さんに言われて、わたしを含めたみんなが頷いたのでした。




クラン、そしてディルギアとルビーは【ドラまた☆リナ】の【魔法少女リリカルすれいや~ず】とのコラボで登場したオリジナルの魔族で、【この素晴らしい世界にドラまたを!】において並行世界の存在と設定して、このすば世界に入り込んだ魔族としています(裏設定)。まだ登場はしていませんが。
因みに、直後にクロエが放った刀剣類、本当ならこのすばイリヤは躱せます。単純に、ランサー(クー・フーリン)には[矢避けの加護]がある事に気づいてないだけです。

ナーガが火炎球をブレイクさせた理由。【スレイヤーズ】世界の魔法は、違う術同士が相互干渉を起こして全く別の効果を発生させることがあるので念の為、直接は当てずに直前で炸裂させて、その火炎で氷窟蔦の効果を打ち消しました。ナーガは性格はああですが、すごい魔道士である事には間違いありませんから。
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