このカレイドなスレイヤーズに祝福を!   作:猿野ただすみ

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もう、長くなるのは諦めた。


機動要塞

~稲葉リナ~

「うう~~~みゅぅぅぅ…」

 

あたしは頭を抱えてい呻いていた。いや、だって、せっかく全員揃ったってのに、門(の穴)を潜ったら変な場所に跳ばされて、あまつさえ、てきとーなグループ分けで分断されたみたいだし、こんなおもてなしなんていらないやい。

 

「おいリナ子、悩んでたって現状は好転はしないぞ?」

 

イリヤ側のカズマ(A作)さんが、けっこぉ落ち着いた態度で語りかける。もっとヘタレた男かと思ってたけど、意外とたくましいのかも知れない。……とか思っていたら。

 

「プークスクス。ちょっとカズマってば、自分より取り乱してる人がいると思ったら、急に格好いいこと言っちゃって!ちょー受けるんですけど!」

「な!? べべ別にカッコつけようだなんて、ここここれっぽっちも?」

 

何だ。カッコつけてただけか、と安堵する。

 

「ですけど、カズマさんが落ち着いてるのも、ある程度納得できますね」

「はい。だってここ、[アクセルの街]ですもんね」

 

シルフィールとゆんゆんがそんな会話を交わす。というか。

 

「えっと、この街のこと、知ってんの?」

「知ってるも何も、ここって私達の暮らしてる街だもの」

「まあ、今は雪が積もる季節じゃないし、何よりここには人も見当たらないから、あくまでそこを模した空間だとは思うけど。でも、それでも気が楽なのは確かだな」

 

あたしの疑問に答えるアクアさんとA作さん。そうか。ここが。……というか、あたしの前世世界の街並みにも雰囲気が似てる。まあ、いわゆる中世ヨーロッパ風の街並みという、異世界ファンタジーのお約束な世界観ではあるけど。

だが、あたしとしてはむしろ、わざわざ彼らの世界を再現しているこの状況の方が気にかかる。もうひとりのクロエが言っていた「おもてなし」というものも踏まえると、彼らの世界での何かが起きるのではないか。そんな気がするのだ。

……おや?

 

「……リナ…子さん」

「シルフィールも気がついた?」

「はい。何か地響きのような音が、遠くから…」

 

うむ。何か大きな物が高速移動している…、そんな感じの振動がするのだ。

 

「地響き…?」

「まさか…」

 

A作さんとアクアさんの顔色が変わる。心当たりでもあるのだろうか。いや、それよりもまずは、確認が先だろう。あたしは呪文を唱え。

 

翔封界(レイ・ウイング)!」

 

風を纏い上空へと移動すると、ぐるりと辺りを見回しその原因を…って、何じゃありゃあああああ!?

あたしの視線の先には、遠巻きながら巨大な蜘蛛のようなゴーレムが、この街へと迫ってくる様子が見てとれたのだ。

 

 

 

 

 

「……デストロイヤーだ」

「デストロイヤー?」

 

A作さんの呟きに、聞き返すあたし。

 

「機動要塞デストロイヤー。それは魔法技術大国ノイズで生み出された巨大な蜘蛛型ゴーレムです。強力な魔法結界で魔法攻撃は受け付けず、地上のものはモンスターだろうと挽肉と化し、上空から接近しようともバリスタで打ち落とされるって聞いてます」

 

ゆんゆんが深刻な顔で説明をする。

 

「えっと、あたしの竜破斬なら…」

「今のレベルアップしためぐみんならわからないけど、元の世界で現れたときは、爆裂魔法でも無理って言ってたからな?」

 

なるほど。当時よりも強力になっているらしい爆裂魔法ならわからないけど、それより前は無理だったと。同時に、今なら結界を破れるかも知れないけど、それは不確定事項ってわけか。

 

「まあ、ブースト版ドラスレを試してみるって手はあるが、せっかく竜破斬が使える人が二人もいるんだ。以前と同じ手で撃退と行こうじゃないか」

 

多少は落ち着いたのか、A作さんが提案すると、アクアさんが任せなさいと胸を叩く。

 

「えっと…?」

「慌てるな。今、説明をするから」

 

 

 

 

 

A作さんの説明によると、アクアさんがデストロイヤーの結界を破り、あたしとシルフィールの竜破斬でデストロイヤーの左右の脚をそれぞれ破壊するというもの。なお、デストロイヤーの動力には[コロナタイト]というものが使われていて、本体を竜破斬で攻撃したら誘爆して、被害がどれほどの規模となるかわからないらしい。

あのデストロイヤーがまったく同じかどうかはわからないものの、危険は極力避けるという意味で以前と同じく脚の破壊を選んだそうだ。

そして今。デストロイヤーは、街の外壁の上からでも視認できる距離まで近づいてきた。

 

「よしやれ、アクア!」

「任せなさいな! 『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!!」

 

アクアさんから光が放たれ、デストロイヤーの結界に触れた途端、パキィンと結界ははじけて消えた。

 

「あら?」

 

アクアさんは何か思案顔をしているが、詮索している暇はない。

 

---黄昏よりも昏きもの

   血の流れより紅きもの

   時の流れに埋もれし

   偉大な汝の名において

   我ここに闇に誓わん

 

あたしとシルフィールの詠唱が響き渡る。

 

---我らが前に立ち塞がりし

   全ての愚かなるものに

   我と汝が力もて

   等しく滅びを与えんことを!

 

あたしはシルフィールと視線を交わすと、お互いに頷き合う。

 

「「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!」」

 

放たれた二つの術が、デストロイヤーのそれぞれの脚を赫い光を放つ爆焔に飲み込んだ。やがて脚を失ったデストロイヤーは、慣性の法則によって滑りながら近づき、外壁から少し離れた場所でストップする。

 

「よし、乗り込むぞ!」

 

って、展開早っ!

 

「え? えっと、私は待っててもいいわよね?」

「お前も来るんだよっ!」

「ええーっ! いやよ、いやいや!」

 

ううみゅ。これが女神とは俄には信じがたいわね。いやまあ、L様みたいなのもいるし、一概には言えないけど。

とはいえ、ここでワガママ言われるとさすがに困る。A作さんが乗り込もうとしてるのも、例の[コロナタイト]とかいう物の処理が目的だろうし、必須事項ではあるだろう。さて、どう説得したものか。

そう頭を悩ませていた、その時。あたし達の目の前に、1枚の扉が現れた。って何事!?

 

「な、ど●でもドアか!?」

 

……いやまあ、確かにぶっちゃけ、脳裏によぎったけど。

 

がちゃり

 

その扉が開かれて、そこから現れたのは。

 

「え…。あ、リナさん!」

「神名!?」

 

状況が飲み込めなかったのだろう、扉から現れた神名は最初戸惑っていたが、あたしを見つけて相好を崩した。

あたしへと駆け寄る神名。すると扉はすうっと消えた。

 

「神名、どうやってここに?というか、今の扉って…」

「……え? まだ扉、見つけてないの?」

 

何だ? びみょーに会話がかみ合ってないよーな。

 

「あー、ええと、そこんトコもう少し詳しく説明してくれないかな、ロリ神名」

「え、あ、はい。……って、ロリ神名!?」

 

おお。変なニックネーム付けられて動揺してるわねー。付けたのあたしだけど。

 

「神名が二人いるからニックネームを付けたのよ。大人の神名さんはカナ大さんで、あなたがロリ神名」

「リ、リナさぁん…」

 

神名が情けない声を出して縋ってくる。普段は見られない姿なので、ちょっと新鮮かもしんない。

 

「まあまあ。あたしだってリナ子って呼ばれてるし、イリヤも二人いるから、こっちのイリヤはプリヤ呼びよ?」

「おいこら、俺にだってA作って付けただろ!」

 

怒鳴るA作さんに、びくつく神名。

 

「……栄作?」

「ABCのAよ。もうひとりがB作さん。苗字が佐藤だから」

「やっぱりそれが理由かよ!」

「?」

 

あたしの説明にA作さんが突っ込むが、神名は理解出来てない表情。まあ、あたしくらいの年齢で、昭和の首相の名前知ってるのも珍しいのかも知んないけど。芸能関係にも疎いみたいだし。

 

「ねえ、カズマ。話逸れてるわよ?」

「……お前に正論で突っ込まれると、無性に腹が立つんだが」

 

うむっ。気持ちはわかるぞ。

 

 

 

 

 

軽く自己紹介した後、神名から聞いたところによると。神名とゼロスも別の空間に閉じ込められていたようだが、1枚の扉を発見すると共に敵と遭遇。倒すと何故か扉が三つに分かれたらしい。で、おそらくあたし達も分断されて、そのどれかに繋がってるんだろうと結論づけて、神名とゼロスはそれぞれの扉を潜ったって事だ。

 

「なるほどね。だから『まだ見つけてない』ってわけか」

 

そう言ってから、デストロイヤーへ視線を移す。

 

「……やっぱ、あの中が一番怪しいよな」

「でしょうね」

 

A作さんの、独り言のような、質問のようなセリフに、あたしは相鎚を打ちながら答えた。

 

「まあ幸い、以前のような暴発をする気配もないし、じっくりと探索するか。……アクア、本当に行きたくないのか?」

 

A作さんはさっきの言い争いに引っかけて、揶揄うように言う。

 

「や、やあねえ。冗談に決まってるじゃない。…………こんな所に取りに残されるなんていやあああ!」

 

頭が残念だという話だが、さすがに状況は理解していたようだ。

 

 

 

 

 

そしてあたし達はデストロイヤーに乗り込んだ。

 

「あれ? 甲板の上にゴーレム達がいない?」

 

ゆんゆんがいぶかしげに言う。

 

「そういえば結界も、以前と違って抵抗もなく砕けたわね」

 

ああ、そういえば結界が破れた直後、確かに思案顔をしてたっけ。

そんな話をしてると突然、神名の髪色が変わった。

 

「キャナル」

「へえ、君が…」

「自己紹介はいらないようですね。それよりも、そちらのお二人の話ですが」

「ゴーレムがいないとか、結界が簡単に破れたってヤツか」

 

聞き返すA作さんに頷くキャナル。

 

「おそらくこれは、誰かの記憶から再現されたものです。私達も、おそらくリナさん達の記憶から生み出されたであろう存在と戦いましたから。あの魔族曰く、ズーマとかいう暗殺者だったみたいですが」

 

ぶふぉ!?

 

思わず吹き出すあたし。よりによって、暗殺者の中の暗殺者(アサッシン オブ アサッシンズ)なんかと。

そんな疑問やらなんやらを話しているうちに、入り口と思われる扉の前までやって来た。

 

「……やっぱり開かないか」

 

扉を色々と弄りながら、A作さんは言う。

 

「なら斬妖剣で…」

 

あたしは斬妖剣の柄に手をかけ。

 

「待ってください」

 

うん? キャナル?

 

「ここは、わたしにやらせてもらえないでしょうか」

「別に構わないけど、何で?」

 

聞き返すと、キャナルは少しだけ口籠もり言った。

 

「わたし、全く活躍していないんです。城の門を開けたのも、ズーマを倒したのも、あの魔族です…」

 

……あー。門は別にしても、武術が得意じゃない神名を依り代にしているせいで、剣の腕があたしレベルに落ちた今のキャナルじゃ、たとえズーマが本物より劣化してたとしても、その相手はキツいだろう。しかし、随分と人間臭い理由だ。

 

「りょーかい。任せたわ」

「ありがとうございます」

 

お礼を言い、キャナルが通学カバンから取り出したのは、両端に装飾が施された棒状のもの。

 

「リナさん! まさかあれって…!?」

 

驚きのあまり、あたしをリナ子呼びするのも忘れるシルフィール。そして【スレイヤーズ】を知っているA作さんも、ギョッとした表情を浮かべている。だが、あたしが答えるよりも先に。

 

「光よっ!」

 

かけ声と共に、棒の一端に光の刃が形成される。

 

「やっぱり、[光の剣]…[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]か!?」

「ええ。[ヴォルフィード世界]の神族が造ったレプリカだけどね」

 

そんな短い会話の間にも、キャナルは扉を断ち斬り、くるりと振り向き言葉を紡ぐ。

 

「レプリカとはいえ、リナさんの竜破斬を受け止めるだけのキャパシティはありますよ。さすがに[金色の母]の術は、不完全版でも無理ですが」

 

いや、不完全版だろうと、レプリカで重破斬(あんなもの)受けきられたら、さすがに引くんだけど。

 

「さあ、進みましょう」

 

……うん。深く考えるのはよそう。

 

 

 

 

 

しばらく進んでいくと、広い空間へと出た。一段高いところに立派な椅子が鎮座している。機動()()という名前が示すとおりなら、あそこは最高責任者の席なんだろう。

 

「やっぱり、開発者の死体はないか」

「開発者の死体?」

 

あたしが聞き返すと、A作さんは苦り切った表情を浮かべ。

 

「多分、俺の大先輩」

 

大先輩? ……あ、A作さんよりも前に送られた転生者!

 

「書き残された日記もありませんね」

 

席の近くにあるテーブルに近づき、シルフィールは言った。

 

「てことは、やっぱりキャナルが言うとおり、俺達の記憶から再現されたものって事か。というか、ほぼ投影魔術じゃないか」

 

確かに。ズーマの様な生命体まで再現してるのは、既にその域を超えてるけど。

 

「みんな! ここにロリカナちゃんが現れたのと同じ扉が!」

 

ゆんゆんが隅っこの奥まった場所から声をかける。慌てて駆け寄ると、そこには確かに扉があった。しかし。

 

「……開きませんね」

 

シルフィールがノブを回そうとするも、ガチャガチャと音を立てるだけで動かない。

 

「おそらく、まだ条件を満たしていないのでしょう」

 

条件を満たしていない? キャナルの発言に思考を巡らせようとした、その時。

 

火炎球(ファイアー・ボール)…」

 

遠くから、とても小さな声で呟かれたものだけど、とても性能のいいあたしの耳は聞き逃さない!

 

氷結弾(フリーズ・ブリッド)!」

 

素早く呪文を唱え、声のした方へと光球を放つ。

 

パキィィィン!

 

あたしが放った光球と、相手が放った光球が引かれ合い、ぶつかると同時に砕けるような音を立てて消滅する。魔術の相互干渉が引き起こす現象のひとつだ。

 

「……ったく。隠れてないで、出てきなさい!」

「オーッホホホ! よくわかったわね!」

 

あたしが声をかけると、あたし達が入ってきたのとは別の入り口から、予想どおりの人物が現れる。

 

「リ、リナさん、誰なんですか!? あの、壊滅的なセンスの女性は!?」

 

そうか。キャナルはまだ会ってなかったっけ。うん、でも良かった。キャナルもあたし達寄りのセンスで。

 

「全く。このセンスがわからないのが多いわね。まあ、いいわ。

私はナーガ! リナ=インバースの最大にして最強のライバル、白蛇(サーペント)のナーガよ!」

「その実、ただの金魚のうんちだけど」

 

すかさず、説明を付け足すあたし。

 

「何よ、生意気な子供ねっ! って、そういえばさっき、貴女もリナとか言ってたわね? それにその容姿…」

 

どうやらようやく疑問に思ってくれたようだ。

 

「そうよ。あたしは別の世界に転生したリナ=インバース。そっちのあたしと違って、子供の姿だけどね」

「なっ!?」

 

さすがにナーガも、子供姿のあたしには驚いたようね。

 

「でも、言われてみれば、とってもよく似ているわね。特に胸の辺りが」

「……なん、ですって?」

「そのまな板のような胸が、とぉっても貴女らしいと言ったのよ、リナ=インバース!」

 

ふ。ふふふ。よくも。よくもよくもよくもっ!

 

「あ、あの、リナさん? こちらのリナさんと違って新しい肉体を得ているんですし、年齢的にもこれから成長をするんですから、あまり怒らなくても…」

「……あたしのお母さん、少ないの」

「……え?」

「それから、お父さん側のお祖母ちゃんも、ね」

「あ…、ええと…」

「シルフィール。無理して慰めなくてもいいわ。むしろ余計に油を注ぐようなモンだから♡」

「……はい」

 

うん。シルフィールは聞き分けのいい子ね。

 

「……というわけで、ナーガ! あたしを冒涜した罪、身をもって知りなさいっ!」

「返り討ちにしてあげるわ!」

 

あたしは烈閃槍の詠唱を始め…って、その詠唱は!? チィッ!

 

烈閃槍(エルメキア・ランス)!」

魔竜吠(グ・ル・ドゥーガ)!」

 

一瞬早く、あたしは術を放ったが、ナーガの術で召喚された魔王竜(デイモス・ドラゴン)がその射線を塞いでしまう。召喚されたのはこの種でも小型の個体だが、広いとはいえ、このデストロイヤーの天井にぶつかりそうで頻繁に気にしている。もちろん小型でも、魔王竜相手にこの程度の精神攻撃は焼け石に水だ。

しかし、出会ったときのゆんゆんの説明で魔王竜が召喚されてる可能性は頭にはあったが、まさかこんな形で証明されるとは。

 

「さあ、やっておしまい!」

 

あ。また不明瞭な指示を。案の定、魔王竜はコントロール不能で暴れだした。ええい、面倒な!

 

「キャナル! あたしはナーガを何とかするから、このドラゴン、お願いできる?」

「わかりました。任せてください」

 

そう答えるキャナルは、かなりイキイキとしている。活躍できなかったことで、相当鬱憤が溜まってたんだろう。

 

「ホホホ、子供ひとりで魔王竜が倒せるとでも?」

 

キャナルを侮るナーガ。だがしかし、世の中には例外というものがあるのだ。例えば前世での、郷里(くに)のねーちゃんの様に。

 

「光よっ!」

「……え? まさか、光の剣?」

 

再び剣を発動させるキャナルの姿を見て、ナーガは目を丸くさせる。

 

ぐるがぁぁぁっ!

 

危機を感じたのだろう。キャナルに向かって襲いかかろうとする魔王竜。そこへ。

 

明かりよ(ライティング)っ!」

 

()()()()()()()精霊魔術を使い、一瞬の閃光を放つ。さすがのドラゴンとて、不意打ちで目を焼かれればその行動を封じられる。

 

「め、目がっ! 目がああああ!」

 

あ、ナーガにも効いた。いや、それはともかく。

 

「ハッ!!」

 

魔力で身体を強化したのだろう、大きくジャンプをすると裂帛の気合いと共に剣を薙ぎ、魔王竜の首を斬り落とした。暴れだす前の怯んでいるうちに、その全てが終わったのだ。さすがあたしでも、ここまで流れるような戦いは無理である。

 

「す、すげぇ…」

 

感嘆の声を洩らすA作さん。

 

「……少し邪魔ですね。あまり使いたくはないですが。

塵化滅(アッシャー・ディスト)!」

 

彼女の前では一度しか使っていない、[スィーフィード世界]の黒魔術を発動させ、魔王竜の亡骸を塵へと化した。この術は特定の魔族から力を借りてるわけではないので、おそらく[混沌の言語(カオス・ワーズ)]を弄って[ヴォルフィード世界]側の魔族から力を借りたんだろう。

いや、それよりもその威力。天使としてのキャパシティ故か、人間が使うものと威力・範囲共に桁違いだ。

 

「う、うそ…」

 

ようやく目が見えるようになったんだろう、ナーガは塵となった魔王竜を見て呟いた。さすがに彼女も、信じられない思いだったようだ。

 

「さぁて、ナーガ。ちょぉっとばかし()()()が過ぎたようね」

「え、ちょっとリナ。目が本気で怖いんだけど?」

 

本気で怒っているのだ。当たり前である。

 

「というわけで、少しばかり痛い目を見て貰いますよ、()()()()()()?」

「な!? ちょ、貴女どうして…!?」

 

あたしの発言に動揺するナーガ。そんなことはお構いなしに呪文を唱え。

 

霊王結魔弾(ヴィスファランク)!」

 

拳に魔力を纏わせる。

 

「フィリオネル王子直伝のぉ…」

「おとう…!?」

「いやあああ! それは口に出さないでえええええ!!」

 

ナーガの呟きが、シルフィールの叫び声で打ち消される。というか、あんたまだトラウマ抱えてたんかい。いや、確かにあたしも今、さぶイボ立ったけど。

それはともかく。

 

「平和主義者クラアアアアアッシュッ!!」

 

あたしの右拳がナーガの顔面を打ち抜いた。ナーガは激しく吹き飛んで、そのまま気を失ってしまう。

 

「あ、あなた、容赦ないわね…」

 

アクアさんがかなり引いている。

 

「いや、怒ったリナならこんなもんだろ?」

 

A作さんはわかりきったかのように言う。ちょっとムカつくが、あたし自身理解してるので、言い返すのはやめておく。それに、念のための仕上げをしておかないと。

 

「シルフィール、ゆんゆん、手伝って。ナーガを縛り上げて、呪文も唱えられないように猿ぐつわを噛ませるわ」

 

「あ、はい」

「うん」

 

そう言って二人が駆け寄る中。

 

がちゃり

 

例の扉から音が鳴る。

 

「……なあ、おい。これって、鍵が開いたんじゃないか?」

「ええ、その様ですが…」

 

A作さんが誰にとも無く言うと、戸惑いながらキャナルが答える。

 

「ねえ、カズマ。これって、ナーガって人を倒したから開いたんじゃないかしら?」

 

だとしたら、ちょっとへこむぞ?

 

「いや、それもあると思うけど、その前にデストロイヤーを行動不能にしたからじゃないか? 両方揃って条件を満たしたんだと思う」

 

それならまあ、まだ納得できるけど。

まあいいわ。とりあえずはナーガを拘束しとかないと。彼女の復活の早さは侮れないし。

まずはゆんゆんが猿ぐつわを噛ませ、あたしとシルフィールでキツめに身体を縛り上げる。

 

「……なんかエロいな」

「あなた、最低ですね」

 

ぽつりと洩らすA作さんに、キャナルはキツめのツッコミを入れた。

 

「まあ、エロマさんはほっといて」

「エロマ言うない! というか、何故そのあだ名知ってんだ!?」

 

いや、半ば冗談だったんだけど、まさかホントにそう呼ばれてるとは。

 

「ナーガが目を覚ます前に行きましょう」

「無視した!」

 

うるさいA作。

 

「この方はどうするんですか?」

「もちろん連れてくわ。あたし達がいなくなった後も空間が維持されてるのかわかんないし、黒幕が回収してくれるかもわかんない。いくら鬱陶しい金魚のうんちでも、そんな場所に放置じゃさすがに寝覚めが悪いからね」

 

ま、腐れ縁というヤツである。

 

「それじゃ、行くわよ?」

 

そう言うとあたしは、握ったドアノブをゆっくりと回すのだった。




因みに、本当はキャナルは魔王竜を倒すだけでした。ではなぜ塵化滅を放つ描写を足したかというと、ナーガが血を見ると失神するという設定を思い出したから。危なかった。
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