ううみゅ。これは一体、どういうことだろうか。
紅魔の里から帰ってきてから一週間後。あたし、リナ=インバースはガウリイと一緒に、シルフィール及びカズマのパーティーと合同で、
そして森の中を進むあたし達の前に現れたのは。
「なあぁっ! 何でこんなとこにゴブリンの群れが現れんのよおぉ!?」
「カズマ! 撃っていいですか? 撃っていいですか!?」
「ばかやろう! こんなとこで無駄玉撃とうとしてんじゃねぇ!」
「さあ来い、モンスターども! 貴様らの攻撃は全て、この私が受け止めてやろう!」
うん。カズマんトコは平常運転だ。取りあえずはあたしが。
「
「ギャッ!?」
地面に触れた掌を起点に、氷の糸が蔦の伸びるように広がっていき、それに触れた多くのゴブリン達が氷漬けになっていく。
「ハァッ!」
「
「『ファイアボール』!」
ガウリイが取りこぼしたゴブリンを切り伏せていき、シルフィールとゆんゆんが火属性の魔法で、氷漬けのゴブリンを倒していく。
そして間もなく、ゴブリン達を全て片付け。
「ま、こんなもんでしょ」
あたしは右手を腰に当てて言った。
「はぁ…、ホント、リナ達がいてくれて助かったよ」
ため息を吐いたカズマが、しみじみと言う。いや、しかし。
「別にあたし達がいなくたって、アンタらなら充分倒せたと思うけどね?」
「そうだぞ、カズマ。お前達なら、ゴブリン相手でも問題ないと思うぞ」
ガウリイもあたしの意見に合わせてくる。
「いや、まあ…。そこまで評価してくれるのは有難いけど、それ以前にアイツらをまとめ上げるのが、なあ…」
まあ、カズマの言い分もわからなくはない。確かに、あの三人をまとめ上げるのは大変だろう。でも同時に、あの三人を上手くまとめ上げられるのはカズマしかいない。あたしはそう思っているのだ。
「カズマカズマ!」
「はい、カズマです」
「石龍が現れたら、取りあえず撃ってみてもいいですか、爆裂魔法」
「いや待て、まずは調査が先だろ。討伐が可能だったら俺たちが石龍の力を殺ぐから、それまでは待機だ! わかったな!?」
「む…、仕方がありませんね」
ほら、やっぱり。カズマ相手だとめぐみんは、そしてダクネスも、それなりに言う事を聞いてくれる。カズマはそれだけ、みんなとの信頼を築き上げているのだ。
最も、築き上げたのは「信頼」だけじゃないのかもしんないけど?
「めぐみんさんって、やっぱりカズマさんに…?」
「シルフィールもそう思う?」
やっぱりシルフィールも気づいてたか。
どうやらめぐみんは、カズマに気があるみたいなのだ。
「なあ…、なにがやっぱりなんだ?」
あたし達の会話の意味がわからないガウリイが、口を挟んできた。
「あんたには関係ないわよ」
「ガウリイさま。女性同士の会話には、秘密が一杯なんですよ?」
あたしの素っ気ない返しに続いて、シルフィールが口元に人差し指を当て、ウインクしながら応える。
「……そーいうもんなのか?」
「「そういうもの
あたし達は声を揃え、ガウリイに向かってキッパリと言い放った。
「それにしても、石龍とは一体どのようなモンスターなのだろうか?」
「それがわからないから、今向かってんじゃない。……まあ目撃情報だと、全身岩で出来た巨大なドラゴンだって話だけど」
ダクネスの呟きに答えるあたし。この情報は、別のクエストでやって来ていたパーティーが、偶然目撃したのが始まりらしい。その後も二つの目撃情報が寄せられ出されたクエストを、シルフィールとゆんゆんのパーティーが受けて、あたし達とカズマのパーティーが力を貸すことになったんだけど。
「そーいやシルフィール。聞いてなかったけど、何であたし達の力を借りてまで、このクエストを受けようと思ったの?」
「リナさん。『岩で出来たドラゴン』って聞いて、何か思い浮かべませんか?」
「何か、って…」
……ん? おや? 岩で出来た…?
「……まさか、
「さすがリナさんですね。私もそれを思い浮かべました」
「おい! それって、
あたし達の会話に、カズマが割って入ってきた。
「カズマさんはご存じなんですか?」
シルフィールが驚きの表情を浮かべる。って、そーいやシルフィールは知らなかったんだっけ。
あたしはシルフィールに、小声で説明する。
「(カズマが、他の世界から転生してきたのは知ってるわね? 彼の居た世界では、あたし達の活躍が物語として存在してるそうよ?)」
「(え? 本当ですか、それ)」
「(本当みたいよ? 知り合いの、別の転生者も知ってたから)」
「(そうなんですか…)」
シルフィールが複雑な表情を浮かべる。
「あの、二人でなにをお話してるんですか?」
「ん、ああ。もしかしたら石龍の正体、あたし達が使う魔法で創られたゴーレムじゃないかって話よ」
ゆんゆんの疑問に答えると、今度はめぐみんが口を開く。
「そういえばリナ達は、別の世界から来た、と言うことでしたね。
……確かに、紅魔の里復興の際にリナが作り上げたゴーレムは、我々が扱うものとはどこか違ってました」
さすがめぐみん、見るとこはちゃんと見ている。ってゆーか。
「めぐみんには扱えないでしょ? 爆裂魔法一択なんだから」
「そういう上げ足取りは、要りませんから…」
めぐみんが拗ねて、プイと横を向く。うむ、カワイイぞ、めぐみん。
そんな会話をしながら歩いていると、突然視界が開け、ちょっとした断崖の上に出た。
「……それほど深くはないか。だが、足場は脆いみたいだな」
ダクネスの意見に頷くあたし。確かに縁の断面も、風雨に晒されていない真新しいものが多く見受けられる。
「こんな所で石龍と出会ったら、ひとたまりもありませんね」
なっ!?
「おいこらめぐみん! そんなフラグになるようなこと、言ってんじゃねぇっ!!」
カズマが叫ぶ! あたしも言ってやりたい、が!
ズズゥ……ン………
地響きが聞こえる。
「ねえ、カズマ。私、すごくイヤな予感がするんですけどー?」
「きき、奇遇だな。俺もそんな気がしてた所だ。
おいアクア、晩飯奢ってやるからちょっと見てこい」
「私が奢ってあげるから、カズマさんが見てきなさいな」
……ったく、この二人は。
そんなことやってる間に、森の中から岩で出来たドラゴンが現れた。実際は巨大というイメージほどではなく、森の木々を越えない程度のサイズで納まっている。
そして一目見て気がついた。あれはまさしく、魔法で創られたロックゴーレムだという事を。……いや、だって、あんな左右のバランスが崩れた生物がいるとは思えないし。よくあんなで動き回れるもんだ。
そしてふと、既視感を感じる。前にもこんなの、見たことあるよーな。
ほんのわずか。考え込んでしまったのがいけなかった。想像よりも小さいとはいえ、石龍は全身岩で出来ている。もちろんその重量はかなりのもの。そんなのが断崖に近づけば、それこそめぐみんが言ったとおり…。
びききぃぃ!
亀裂の入る音が響き、そして。
ぼごぉっ
どがらしゃあぁぁ!
「うきゃああああああっ!!」
「やっぱりこうなるのかよおぉ!?」
あたし達は断崖へと飲み込まれていった。
そして次の瞬間、あたしは雪が降り積もる平原に立っていた。途方に暮れて当然だろう。
「……えっ、あれ? 俺達、崖から落ちたんじゃ…」
隣には何故か、カズマがいる。そして、他のメンバーの姿は見えない。
「なんかわからないけど、どこかに飛ばされたみたいね?」
「どこかって…。まあいいけど、こういう景色見てると冬将軍思い出して嫌なんだが」
あー、あれは確かにトラウマになるわね。
「んー、取りあえず、あそこに見える林まで行ってみない?」
「ああ、そうだな。もしかしたら誰かに会えるかも知れないしな。……俺達だけなら、運だって良いし」
そう、あたし達は非常に運がいい。特にカズマは、アクセルの街のギルド内で二番目に運がいいと、この間ルナさんに聞いたばかりだ。因みに一番はクリスだという。うむ、さもありなん。
そんなわけであたし達は、林に向かって歩いていく。……どうでもいいけど、カズマと二人きりで行動するのも何だか新鮮ね。大概カズマの周りには誰かがいるし、今じゃあたしも、ガウリイと行動してるからね。
そんなことを考えていると。
……ズウゥゥン
そんな音と共に、林の中から雪煙が上がるのが遠目でもわかった。
「カズマ!
「お、おお…」
カズマは頷いて、少し顔を赤く染めながら、恐る恐るあたしの腰に手を回す。……おいこら、いつものクズマでゲスマで鬼畜のカズマはどうした? そんな態度とられると、こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないのっ!
くっ、と、とにかくっ!
---四界の闇を統べる王
汝の欠片の縁に従い
汝らすべての力もて
我にさらなる力を与えよ
あたしは[
「
[力ある言葉]と共に、あたしはカズマを伴い飛び立った。
林に近づき見えてきたのは。
「あれはさっきの石龍じゃねえか!」
そう、あの石龍が林の中で暴れまくっているのだ。しかも、なんか誰かが戦ってるみたいだし。……ううみゅ、さすがにこのままってワケにはいかないわね。
「カズマ、降りるわよ!」
「降りる、……って、あれと戦う気かよ!?」
「誰かいるみたいだし、このまま放置ってワケにもいかないでしょ!」
あたしの言葉に、カズマは少し悩んでから。
「ったくもう、しょうがねぇな!」
まったく、コイツは…。でも、カズマのこういう所は嫌いじゃない。
あたしは石龍から少し離れたところに降り、術を解除した。
「まずは石龍と戦ってる人と接触するわよ!」
「おう!」
あたし達は石龍に気づかれないように近づいていく。すると。
「『ワイヤートルネード』!」
そんな声が聞こえてきた、……んだけど、この声って。
ざしゃああ!
その疑問は、瞬時に解決した。
「「クリス!?」」
そう、あたし達の前に躍り出たその人物は、顔見知りの少女。その名をクリスと言い、盗賊職の冒険者である。……だが。
「えっ、カズマくん!? あと、貴女は誰?」
はい? なに言ってんの、この子? いや、でも、この表情は冗談を言ってる雰囲気でもなさそうだし。
ええい、とにかく今は、石龍が先だ!
「カズマ! しばらく石龍の気を逸らして!」
「わかった! 『狙撃』ッ! そして『潜伏』…」
カズマが背負っていた弓に矢を番え、石龍を射る。もちろん矢は岩の体に弾かれるが、あたし達から石龍の気を逸らすことには成功した。その間にあたしは、クリスに話しかける。
「クリス、細かい話は後よ。少しの間でいいから石龍…、あの岩のドラゴンの動きを止めて。その間にあたしが、あれをどうにかするから」
「よくわかんないけど、わかった! それじゃあ、『バインド』!」
クリスの『バインド』が石龍の両足を縛り上げる。ミチッと縄に負荷がかかる音がするが、金属を編み込んであるのか、今んとこ切れる様子はない。
よし、今のうちに。
あたしは再び魔力の増幅呪文を唱え、引き続き[
「
ぎぎゃああああ!
複数の光球を石龍へと放つ。その光球が爆炎を撒き散らし、耳を劈くような激しい音と共に、石龍は跡形も無く消し飛んだ!
「なっ、こんな魔法、見たこともないんだけど…?」
クリスのその呟きを聞いて、あたしは確信する。
「クリス。アンタやっぱり、あたしの知ってるクリスじゃ…」
あたしがそう、言い切る前だった。聞きたくもない
「おーほっほっほっほ! どこの誰かは知らないけれど、ゴーレムを倒したくらいでいい気にならない事ね!」
あーっ、聞きたくない聞きたくない! 何で、何であれがいるのよおおおおおお!
あたしは、心の中で絶叫した。
ついに出ます。一見悪の魔道士風の、その実金魚のうんちさんが。