林の中に、突如響いた声。あたしは気配を探り。……そこッ!
「
ちゅごーん!
「わきゃっ!?」
爆音と共に小さく悲鳴が上がる。
「えっ! ちょ、ちょっと!?」
クリスがうろたえてるけど、そんなのは気にしない。だってアレは。
「ちょっと! いきなり攻撃を仕掛けるなんて、何を考えてるのよっ!」
うん。やっぱ無事だった。ちらりとクリスを見ると、目を丸くして驚いてる。そして。
「……ダクネスの親戚?」
……言いたいことはわかるけど、ある意味ダクネスより面倒くさいから。
「私を無視するんじゃ、……て、あら? あなた、リナじゃないの」
「よーやく気づいたみたいね、……ナーガ?」
姿を現したナーガに、あたしは小さくため息を吐いてから言った。
「……えっと、なに? 悪の女魔法使い?」
ナーガの姿を見てクリスが言う。
まあ、その疑問も当然だろう。何しろその格好は、黒のビキニに棘突きのショルダーガード、黒のマントにドクロのネックレス。うみゅ、どう見ても悪役としか思えない。
「あぁら、このセンスがわからないなんて、あなたもリナ同様まだまだお子様のようねぇ」
「……そのセンスを理解するくらいなら、お子様のままでいいです」
クリスが頬を掻きながら言った。うん。というか、そんなセンスがわかる大人も、なんかやだ。
「ところでカズマ、いつまで隠れてんのかしら?」
あたしが声をかけると、[潜伏]を解いたカズマがおっかなびっくり、けれど視線は、ナーガの大きな胸元から外さないまま現れた。
「さすがはゲスマねー」
「うん。クズマくんらしいね」
「うぉおい、その呼び方はやめろ! というか、男ならしょうがねえだろ!」
あたしとクリスが冷ややかな視線を送ると、カズマが慌てて言い訳を始める。
「でも、つい視線がそっちいくってんなら、しょうが無いけど…」
「カズマくん、ガン見してるよね?」
「……すんませんでしたぁ!」
カズマは、土下座して謝った。よし、あたしらの勝ち!
……とまあ、カズマをからかうのはこれくらいにして。
「ところでナーガ。アンタ、ゴーレムなんか呼び出して何してたのよ?
……てかアンタも、エリスに頼まれて転生してたの?」
「えっ、ア…、エ、エリス様?」
しどろもどろになって尋ねるクリス。けど、今は無視。
「そうよ。しばらくは色々と理由をつけてくつろいでいたけど、リナやあなたの仲間が転生していったから、私も重い腰を上げたってわけ」
いや、重い腰を上げるって、自分に言う事じゃないと思うんだけど。
「……で? あのゴーレムは?」
「頼まれたのよ」
「頼まれた?」
何だか、わかりたくないけど、わかった気がする。ちらりと二人を見ると、クリスはキョトンとしてるけど、カズマの方は苦り切った顔をしていた。
「仕事の邪魔をする連中が時々いるから、追っ払って欲しいって言われたのよ」
「ほう…? で? 邪魔する連中の名前って、聞いてるのかしら?」
「もちろんよ。[白い悪魔]とか[
[
「「アホかあああああッ!!」」
あたしとカズマは同時にツッコミを入れた。
「えーっと、それで結局、貴女は誰さん?」
ナーガをスリッパで引っぱたき、とりあえず気が晴れたところでクリスが尋ねてくる。そーいやさっき、話の途中でナーガに邪魔されたんだったっけ。
「何言ってんだよクリス。リナは…」
「ちょい待ち、カズマ」
あたしはカズマを制してから、クリスに向き直る。
「クリス。アンタ、魔族って知ってる?」
あたしが尋ねると、軽く小首を傾げてから口を開く。
「悪魔やそれに類するモノなんかを魔族って言ったりもするけど、貴女…、リナが言ってるのってそういう種族って事だよね? だったらアタシは知らないよ」
ふむ。やっぱり間違いないようだ。
「どうやら、あたしたちとクリスは、それぞれ別の世界の住人みたいね」
「「えっ!?」」
あたしの推測に驚く二人。
「それってまさか、並行世界ってヤツか!?」
「へっ、へいこうせかい?」
カズマの言う[へいこうせかい]ってのはよくわかんないけど、何か心当たりがあるみたいだ。
……って、クリス? 何だか真剣な表情をしてるけど、ひょっとして[へいこうせかい]を知ってる?
「カズマ、[へいこうせかい]って?」
「あー、そうだな。簡潔に言えば可能性の世界。頭の悪い言い方をすれば、似てるけどちょっとだけ違う世界ってとこか。
確かお互いの世界は並行していて、交わることがないから[並行世界]って言う、……んだったと思うけど、そこら辺はハッキリ言ってうろ覚えだ」
ああ、なるほど。確かにあたしが思ってたのも、別の世界があって、でもそこにも、めぐみんやダクネス、ルナさんやテイラー達、そして転生者達やクリスがいて生活を営んでいる。そういったイメージだった。並行世界か…。
……ん、クリス? なんだろ。随分と考え込んでるけど。
「どうしたのよクリス。何か気になることでもあったの?」
「ん?ああ、そうだね。キミとカズマくんが言ってたことはなるほどと思うんだけど、アタシ達がここに来た理由はなんだろうなって思ってね」
「あたし達が来た理由…?」
それってどういう…。
「……ってまさか!?」
「まさかってなんだよ?」
「……ここが、元いたのとは全然別の世界かもしんないって事!」
「なんだって!?」
普通じゃ突拍子もないことだけど、あたしとカズマはそれぞれ別の世界からあの世界に来たのだ。それなら、さらに別の世界があったっておかしくはないだろう。
「とりあえず、辺りを探索してみましょうか。カズマはナーガと…、ってナーガがいない!?」
「ええっ!?」
気がつけばナーガは、忽然と姿を消していた。道理で大人しいと思った。
「ねえ、そのナーガって人、捜した方が良いんじゃないかな? キミの友達なんでしょう?」
「あんなの、友達じゃない。ただの金魚のうんち、腐れ縁よ!」
キッパリと言い放つあたしに、返す言葉もないクリス。一方、ナーガとの関係を知ってるカズマは
「ま、ナーガのことだから、そのうちどっかから、ひょっこりと顔を出すでしょ」
「……いいのかなぁ」
「いーのいーの」
手をパタパタと振りながら言うあたし。そもそも、ナーガと一緒に行動したら、ひたすら厄介なことに巻き込まれそうな気がするし。味方につけると心細いが、敵に回すと面白い。そーいうヤツなのだ、ナーガは。
「えーと、そういうわけで、カズマは一人で探索お願い。クリスはあたしと一緒よ」
「ちょっと待て。何で俺とクリスじゃダメなんだよ。リナは強いんだし、一人で探索出来るだろ?」
確かに。言っちゃあなんだが、あたしはこの三人の中でなら、条件付きながら一番強いと自負している。だけど、あたしはクリスと一緒でなければならないのだ。
「だって、カズマと一緒にしたら、クリスがどんなセクハラを受けるかわからないじゃない」
「あのなあ、リナの中で俺は、どんなゲス男なんだよ!」
「ぱんつ脱がせ魔」
「ぐはッ!?」
あたしの口撃にダメージを受けるカズマ。クリスはそっぽを向き、一筋の汗を流しつつ頬を掻く。やっぱりあの噂の出所はクリスだったか。
「まあ、半分は冗談だけど」
「……半分は本気なんだな」
「当たり前でしょ? 心当たりが無いなんて言わせないからね!」
ぴしゃりと言うと、カズマも視線を逸らして跋の悪い表情になる。
「そんなわけだから、はいこれ」
あたしはカズマに、二枚の円形のチップを握らせる。
「おい。これってまさか、レグルス盤か?」
さすがカズマは、あたし達のことを知ってるだけあって察しがいい。
「ええ。アリアがひょいざぶろーさんを通して、ウィズのお店に卸してるものよ」
アリアはかつての世界で出会った魔道士の子で、ある事件で自らの命を対価にして、あたし達に勝機を与えてくれた。
その後、数少ないこちらからの転生者として、あたしが今いるあの世界へ、お姉さんのベルさんと共にやって来た、ということだ。
『今じゃ私は、おばあちゃんですけどね』
そんなこと言ってたけど、あたしは再会できて、ホントに嬉しかったものだ。
「そうか。じゃあこれで連絡を取り合えばいいんだな?」
「そういうこと。起動の呪文は
『吹き直ぐ風よ
此方より彼方まで
我が声を伝え給え』
よ」
あたしは送信用のチップに呪文を唱えて、実践してみせる。カズマは、受信用のチップからあたしの声が流れるのを聞いて感動していた。
「じゃあカズマ、そっちは頼んだわよ」
「おう、任された! 『潜伏』!」
カズマは返事をしてから、『潜伏』を唱えて、林の奥へと消えてった。
探索を始めて、しばらくののち。クリスが口を開く。
「それで、リナ。アタシに何の用?」
「……何の事?」
あたしはとぼけてみせるが、まあ、通用はしないだろうな。
「リナはわざと、カズマくんを遠ざけたでしょ? 多分、カズマくんに聞かせたくない話があるんだ。違う?」
やっぱり気づかれてたか。ま、そりゃそうだろう。
今回の振り分け、単独行動ならクリスがやってもいいんだし、最弱職のカズマを気心が知れたあたしが守るって形の方が、状況的にはしっくりとくるはずだ。
「その通りよ。彼にはまだ、貴女の正体を隠しておきたいからね」
あたしのセリフにクリスは、ぴくりと肩を震わせる。
「アタシの正体って、何の事?」
「別に隠す必要はないわよ。向こうのアンタとは、すでに折り合いがついてるから。ね、
クリスはしばらく黙っていたが、やがて、ふぅ…、と息を吐く。
「……だからと言って、こちらの[クリス]が[エリス]であるとは限らないでしょう? 何故そうだと思ったのですか?」
纏う雰囲気が変わり、口調が
「いや、だって、あたしが『エリスに転生』の話したら、アンタは『アタシ』って言いそうになってたじゃないの」
そう。あそこでしどろもどろなってたのは、なんてことは無い、ただ単に誤魔化すためだったってワケだ。
「他にもあるわよ? カズマが[並行世界]って口にしたとき、あたしは知らなかったのに、アンタは神妙な顔をしてた。それって、[並行世界]を知ってたって事よね?
いろんな世界の存在を知っている神様なら、[並行世界]を知ってたっておかしくはないでしょ?」
クリスは再び、ため息を吐く。
「……リナさん。本当に、よくそんなことが思いつきますね」
「あたし、得意なのよ。鋭い推理ってやつ」
まあガウリイには、「お前さんの鋭い推理は当てにならない」とか言われたけど。
「それで
そう。あたしはこれを確認したかった。しかしカズマがいると、それに答えられるクリスに疑問を持ってしまうだろう。だからカズマには悪いけど、理由をつけて追っ払ったのだ。
「ええ。ここは私の知る、どの世界でもありません」
……は?
「女神も知らないって、そんな世界もあるの?」
「はい。……と言うより、私の知る世界はそれほど多くはありません。
私が管理するあの世界以外では、後数か所知っているに過ぎませんから」
「そんなもんなの?」
「はい」
……なんか、ちょっと予想外なんだけど。
「……ただ、この世界はちょっと異質ですね。何というか、閉ざされているというか…。そう、まるで結界の中にいるような、そんな雰囲気がします」
「結界…」
一瞬、サイラーグで経験した魔王が創った世界を思い浮かべたけど、さすがにそれは無いと思いたい。
「こちらのカズマさんとイリヤさんが心配です。早くお二人と合流したい所なんですが…」
……ん? カズマと、……イリヤ?
「ねえ、イリヤって…」
クリスに尋ねようとした、その時。
どぐわおぉん!
遠くから聞こえる爆発音。
「あれは、爆裂魔法!?」
「きっと、めぐみんだわ!」
『リナ、聞こえたか!?』
カズマがレグルス盤を通して聞いてきた。
「もちろんよ。カズマ、一旦さっきの場所で落ち合いましょう」
『わかった!』
簡単な会話を終え、あたし達は来た道をとって返す。……めぐみん、無事でいなさいよ!
というわけで、「このカレイドの魔法少女に祝福を!」のクリスでした。
クリスの一人称が片仮名で「アタシ」になっているのは、先に書いた「ドラまたを!」でリナの一人称と区別するために行ったことを、そのまま引き継いでいるためです。