えーっと、これってどういうことなんだろう?
紅魔の里からアクセルの街に帰ってきて数日が経った。わたしが冒険者ギルドでお昼ご飯を食べてると。
「あ、イリヤ。久しぶり!」
「クリスさん!」
クリスさんがわたしに声をかけてきた。確か前に会ったのは、アルカンレティアに湯治に行く前だったっけ。
「……あれ? 今日は一人なの?」
『何、ルビーちゃんを無視してくれちゃってるんですかねー?』
髪の中からひょっこり現れて、ルビーは文句を言った。
「あはは、ゴメンゴメン。キミ達って二人でセットだからつい」
うーん、確かにルビーはパートナーだけど、セットにされるのには不満があるなぁ。
『何ですか、イリヤさん。文句があるなら聞こうじゃありませんか』
「めぐみんさんのマネはいらないから」
思わず突っ込むわたしを見て、コロコロ笑うクリスさん。
「キミ達ってやっぱり、いいコンビだね」
いえ、ルビーがすぐにトンデモないこと言うから、自然に突っ込み体質になっただけです。
『いやー、イリヤさんは私と出会ったときから、既に突っ込み体質だったように思いますよー?』
「だから、勝手にモノローグ読まないでよっ!」
再びの突っ込みに、クリスさんがまたもや笑う。もう、恥ずかしいなぁ。
「はは、ホントにゴメンね。それじゃあ話を戻すけど、今日はキミ達だけなの?」
クリスさんは表現を変えて、もう一度尋ねてきた。
「うん、今日はみんな自由行動だよ。カズマさんとめぐみんさんは爆裂散歩に行って、もう帰ってるころだと思う。ダクネスさんは実家に顔を出してくるって言ってた。それからアクアさんは、多分ソファーでまだゴロゴロしてるんじゃないかな…?」
「先輩は、相変わらずだなぁ…」
わたし達にしか聞こえないくらいの小声でつぶやくクリスさん。ク…、エリスさまもアクアさんには振り回されてたんだろうな。
そんなことを考えてると、ギルドの扉が開き。
「あー、腹減ったァ」
そう言いながら、カズマさんが現れた。
「よう、クリス! 久しぶり!」
クリスさんに挨拶しながら、カズマさんがこっちに来る。
「イリヤ、やっぱりここだったんだな」
そう言いながら同じテーブルに着く。
「うん。ところでめぐみんさんは?」
「ああ、ゆんゆんが勝負を挑んできて、その相手をしてるぞ」
あー、そっちもいつもの通りだね。
そしてカズマさんはクリスさんを見て。
「クリスも昼飯なら、一緒にどうだ?」
クリスさんへの何気ないひと言。それを聞いて、わたしは内心でほくそ笑む。
「え? あ、うん、そうだね」
思ったとおり、クリスさんは少しそわそわしてる。
『(ラブラブ大作戦、どうやら上手くいってるみたいですねー)』
「(うん。意識さえさせちゃえば、こっちのもんだからね)」
ルビーとふたりでコソコソと内緒話をしてると、クリスさんがこっちを睨んできた。女神さまは地獄耳だ。
そのあと、ふたりが注文した料理が運ばれてきたところで、わたしはお昼ご飯を食べ終わった。
「ふたりとも、ちょっとごめんね」
そう言って席を立ち上がろうとすると。
「何だ? トイレか?」
「カズマさん、デリカシー無さすぎ!」
「キミは、女の子相手に何言ってんのさ!?」
『真の男女平等と言っても、限度がありますよー?』
「お、おう、すまん」
わたし達女性陣に一斉に突っ込まれて、さすがのカズマさんも思わず謝った。
わたしはテーブルに戻ると、バン! と、クエストの依頼書を叩きつけるように置く。
「ふたりとも、この依頼請けてみよう!」
「ええっ、いきなりどうしたのさ!?」
わたしの突拍子の無い発言に、目を丸くして驚くクリスさん。対してカズマさんは依頼書を手にし、その内容を読み上げる。
「えーっと。
『[採集クエスト]
この時期、西の森でのみ採集可能な[ひっそりマンドラゴラ]の採集をお願いします。[ひっそりマンドラゴラ]は死を呼ぶ絶叫はあげませんが、生息数が少なく見つけにくい植物です。
報酬 希少性が高いため、一株五万エリスで買い取ります。ただし品質の悪いものは、買い取り不可となる場合あり。』
……近場の採集クエストなんて珍しいな?」
「うん。この依頼書にも書いてあるけど、西の森のみで採取可能で、個体数が少ない上に目立ちにくい場所に、その名の通りひっそりと生えてるんだ。だから収穫量は運の良し悪しに影響を受けるし、人手をかけてでも手に入れたい人はそれなりにいるよ」
カズマさんの疑問に補足説明をするクリスさん。
「ふぅん…。ん? 運の良し悪し?」
どうやらカズマさんは、わたしの考えに気がついたみたいだ。……いや、正確にはルビーの入れ知恵なんだけど。
「そう、わたし達ってすごく運がいいから、まさに打ってつけのクエストだと思わない?」
「なるほどねー」
納得したクリスさんが頷いた。
カズマさんは、狙った物がかなりの確率で『
「うーん、でも金だって有るのに、わざわざクエストなんか請けなくても…」
「だめ、かな…?」
わたしは、あからさまに落ち込んだ声で言う。我ながら、かなりあざとい。ナナキのお姉さんのこと言えないよね、これ。
「よし、力も持て余してるし、一丁やってやるか!」
「チョロいなあ」
『チョロいですねー』
「外野、うるさい」
そう、カズマさんは言い返したけど、わたしもチョロいと思ってます。
そして即席パーティーを組んだわたし達は、西の森へとやって来た。そして、カズマさんが背負ったカゴの中には。
「よし、これで十一本目だね」
たった今クリスさんが加えた分で[ひっそりマンドラゴラ]が十一本になった。内訳はクリスさんが五本、わたしとカズマさんが三本ずつ。
普通は一本見つけるだけでもラッキーらしいけど、それを五本って…。さすがは幸運の女神としか言いようがない。
『(うーん。それにしても、クエストに乗じてふたりをいい雰囲気にしようと画策していたんですが…)』
「(気がついたら、わたし達全員採集クエストにのめり込んじゃってたからねえ)」
そう。これはわたしとルビーが企てた[カズ×
「よし、あと一本見つけたら終わりにしよう。そうすりゃ報酬が、ちょうど三等分に分けられるからな」
「了解。それじゃあ誰が先に見つけられるか、勝負しない? 勝った人が晩ご飯タダって事で」
カズマさんの提案にクリスさんが、わたし達に勝負しようと持ちかけてくる。だけどカズマさんは。
「その手には乗らねえぞ、クリス! どうせ既に見つけてあるとか、そんなとこだろ!」
「ええっ? クリスさんがそんな卑怯なこと…、クリスさん?」
クリスさんを見ると、何だかいたたまれない表情で頬を掻いていた。ええと、まさか?
「ゴメン。カズマくんの言うとおりなんだ」
そう言って指を指した先を見ると、背の高い草に紛れるように生える[ひっそりマンドラゴラ]があった。
『クリスさんってば、結構したたかですねー?』
「クリスが俺に『スティール』勝負を挑んできた時に、初心者の俺に対し小石を手に一杯持って対策してきたんだぞ」
「ちょ、ちょっと! あれは『スティール』対策と実戦の厳しさを教えるためだから!
それにキミだって、奪ったアタシのぱんつ振り回して、『当たりも当たり、大当たりだー』とか言ってたじゃないかっ!」
「勝負を挑んできたのはクリスの方だろ!?」
うわぁ。何だかどっちもどっちな気がする。
ともかく、カズマさんの[ぱんつ脱がせ魔]の真相を、図らずも知ってしまったワケで。そしてクリスさんにも非があるのがわかったワケだけど。
結論。やっぱりどっちもどっちだネ。
「と、とにかく。これを収穫したらお終いって事だよね?」
そう言いながら[ひっそりマンドラゴラ]の葉っぱを握り、わたしは思いっきり引っ張った。
そして次の瞬間には、わたしは雪の降る、冬枯れの林の中にいた。直ぐ近くにはカズマさんがいて、すぐ横にはルビーが浮いてるけど、何故かクリスさんの姿が見えなかった。
「これは一体…」
呆然とつぶやくカズマさん。
『うーん、これは…。イリヤさん。以前元の世界で、美遊さんと共に異空間に飛ばされたことがありましたね?』
「あの、なのはちゃんとフェイトちゃんに会った、アレのこと?」
あの時のことはよく覚えてる。ルビーと間違えてレイジングハートがこっち来ちゃったときはどうなるかと思ったけど、時空管理局のクロノさんって人がルビーを連れて来てくれて、どうにかなったんだっけ。並行世界は管轄外で大変だったみたいだけど。
『はい。おそらくですが、今回のコレは、それと同じ状況ではないかと』
「って事は、ここは異空間なのか!?」
『はい。あるいは異世界かと思われます』
「それって大変じゃない! 急いでクリスさんを捜さないと!」
そこでわたし達はクリスさんの名前を呼びながら林の中を探し回ったけど、クリスさんからは返事ひとつない。だけど。
どぐわおぉん!
爆裂音が鳴り響いた!
「あれは、爆裂魔法か!? かなり遠いみたいだが。……因みに85点ってとこか」
さすが爆裂ソムリエ。こんな時でも的確な採点だ。
「ってそうじゃなくって! 爆裂魔法って事はめぐみんさん!? でもあそこには、わたし達とクリスさんしかいなかったはずなのに」
『そうですねー。関係者も実は転移していた、なーんて展開もあるにはありますけど、魔術的な観点からいっても、そしてあの世界の「テレポート」といった魔法での人数制限から考えても、現実的な考え方ではありませんねー』
小難しい事はよくわかんないけど、めぐみんさんも巻き込まれた可能性はやっぱり低いみたいだ。
「とにかく行ってみるか。もしかしたらクリスも、今のを聞いて向かってるかも知れないからな」
「うん!」
音が聞こえた方に向かって進んでいくと、数分で木々が途切れ、平地が広がって…。
「なむぐうっ」
思わず叫びそうになるわたしの口を、カズマさんの手が塞いで。
「『潜伏』っ!」
スキル『潜伏』を発動して木陰に身を潜める。ルビーが羽根の飾りを上手に曲げて、カズマさんにサムズアップを返してる。
「(しかし、ありゃ一体何だ?)」
カズマさんがつぶやく。でも、それも仕方がないと思う。だって、わたし達の目の前には、黒い泥で出来た人型のナニカがたくさんいるんだから。
……ただ、小聖杯の力があるわたしには、アレがどういったものなのか、おおよその見当がついていた。
「(あれは、呪いの泥によって汚染された、英霊の成れの果て、だよ)」
「(英霊って、イリヤがカードでインストールとかしてる、アレか!?)」
「(うん)」
そして多分だけど、取り寄せてもらった分の本来のクラスカードの英霊は、これで汚染させられたんじゃないかと思う。だってアレは、わたしが死ぬことになった八枚目のカードの英霊が撒き散らしていたものと同じだと思うから。
でも、何でそんなものがこの世界に?
その時、泥の英霊達に紛れて動く、それとは違うふたつの人影に気がついた。……って、何で? どうしてあのふたりがここにいるの?
「クロ…、ミユ…」
実は「カレイドの魔法少女」はカズクリだったというのが、別作品で先に語られるという。どうしてこうなった(自分のせい)。