泥の英霊相手に、クロとミユが戦ってる。クロはいつもどおりの、赤い弓兵の姿。ミユは口や鼻を布で覆い、ピッチリとした黒い衣装をまとった
「(おい、あの色黒の子、イリヤそっくりじゃねえか。……イリヤ?)」
ごめんなさい、カズマさん。でも今は、カズマさんの疑問に答えてる場合じゃないから…!
「ルビー!」
『はいはーい。
コンパクト・フルオープン!
鏡界回廊最大展開!』
魔法少女に転身したわたしは、ルビーに魔力を込める。わたしの中で再生・強化された小聖杯には、日頃からルビーの魔力供給を受けて、かなりの魔力が貯め込まれてる。いざという時に、その力が充分に発動できるように。そう。例えば今。
「全力の散弾!!」
一発あたり、黒化英霊のアサシンなら倒せるくらいの威力を残した散弾を、
ドオォッ!!
「!!!?」
直撃したうちの何体かが消滅した。
「え、今のって?」
驚くクロの前に、わたしは降り立つ。
「なっ、イリヤ!? どうして…」
「話は後! 今はこの、泥の英霊達だよ!」
クロの言葉を遮り、わたしはルビーを構えた。
わたしとクロ、ミユの三人で泥の英霊達を倒していく。ある程度数が減ったところで、わたしはふたりに指示を出した。
「クロ、ミユ! 残りの英霊達を一カ所に集めること、出来る?」
「英霊相手に、無茶言うわねー」
「さすがに難しいと思う」
だけどふたりの答えは芳しいものじゃなかった。と、そこへ。
「『狙撃』ッ!」
コツン、と英霊のひとりに小石が当たる。それだけで英霊達は視線を移す。
「カズマさん!」
「ハッ! 英霊なんて言っても、全然大したことねえな! 最弱職の俺の攻撃も躱せないんだからなっ!」
英霊達を煽るカズマさん。その手には、紐の中央に布を当てたもの、……確かあれ、テレビで見た投石器だったと思うけど、それを持ってる。多分、鍛冶スキルで急遽作ったんだ。
さらに。
「『スティール』ッッ!!」
窃盗スキルで英霊の一体から槍を奪う。……って、あの槍、
「ほーら、大事な武器、奪ってやったぞぉ。……って来たッ!」
危険だと判断したのか、泥の英霊達がカズマさんを追いかけ始めた。英霊達を引き連れる形で逃げるカズマさん。
あ…、あれってベルディアと闘ったときの…。
「お願い! わたしがあの英霊達を倒すから、ふたりはカズマさんを助けて!」
「「わかった!」」
ふたりは頷いて、同時に動き出す。わたしはクラスカードを取り出し。
「クラスカード[セイバー]、
わたしが夢幻召喚した瞬間、クロとミユがぴくりと反応したけど、それで行動を疎かにするようなふたりじゃない。
「くうっ、ヤバイ! 追い、つかれるっ!」
カズマさんが弱音を吐いた、そのタイミングで。
「
クロが複数の長い剣を投影して、カズマさんと英霊達との間に突き立ち邪魔をする。そしてミユがカズマさんに追いついて。
「ここから離脱します。掴まって下さい」
「えっ、ああ?」
よくわからないまま、カズマさんがミユの腕を掴む。
「
ミユがそう唱えた瞬間、ふたりの姿がその場からかき消えた。なんという絶好のシチュエーション。
わたしは聖剣を頭上に構え、振り下ろしながら真名を開放する!
「
剣から放たれた極光は、寄り集まっていた英霊達を飲み込み消滅させた。
わたしは夢幻召喚と転身を解く。そこへ、同じく
「ええと、イリヤ?」
戸惑った表情で声をかけるクロを見て、わたしの緊張の糸は解けてしまった。
「クロッ!」
わたしはクロに抱きつく。
「クロ、会いたかったよ…」
「イリヤ…」
そんなわたしにそれ以上はなにも言わず、クロはただ優しく、わたしの頭を撫でてくれた。
多分、十~数十秒そうしていたけど、いい加減クロから離れる。わたしも異世界転生してから、気持ちの切り替えが早くなったみたいだ。
「ごめんね、クロ」
「アラ、なんだったらお姉ちゃんが、もう少し慰めてあげたっていいのよ?」
クロがそうからかう。でも、そういうワケにもいかない。だって。
「ううん、ホントにごめんね。わたし、クロの、ふたりの知ってるイリヤじゃないのに」
そう。ここにいるクロとミユは、別の世界のふたりだ。
「イリヤ、気がついていたの?」
尋ねるミユに、わたしは首を縦に振った。
ふたりが別人なのは、最初に見たときから薄々感じてた。[アーチャー]のカードを取り込んでるはずのクロが接続解除したのを見て、確信に変わった。それでも、別の世界のふたりでも、わたしは嬉しいと思った。思ってしまった。
ぽん、と頭の上に手が置かれる。カズマさんの手だ。
「ええと、横から聞いてただけだが、この二人はイリヤにとって、並行世界の二人って事なんだろ? だったら甘えたっていいじゃないか。
確かに別人かもしんないけど、同一人物でもあるんだからさ」
あ…、そうか。同じ人だけど別人って考えるんじゃなくて、別人だけど同じ人って考えれば…。
『カズマさんってば、イリヤさんの前では格好つけますねー』
「う、うるせえ! イリヤは、妹みたいなもんだからなっ!」
からかわれたカズマさんが返した言葉を聞いて、わたしは嬉しさを感じたと同時に、少しだけ切なさも感じていた。
『まあでも、カズマさんの意見には賛同できますよ。そちらのサファイアちゃんは、私と一緒に創られたサファイアちゃんじゃありませんけど、それでも私にとっては妹のサファイアちゃんと同じですから!』
『姉さん…』
……ルビーってば、前よりも
「ところでイリヤ。俺達、自己紹介とかした方がいいんじゃないか?」
ハッ!? そういえばクロ達とカズマさん、面識が無いんだった!
「そう言や、自己紹介がまだだったわねー。……うん、それじゃわたしから。
わたしはクロエ・フォン・アインツベルン。イリヤの姉的存在よ」
「ちょっとクロ! 言うに事欠いて姉の座取らないでよ!」
「あぁら、わたしに縋りついて泣いていたのは、どこの誰だったかしらねぇ?」
「ぐぬぬぅ…」
悔しいけど、やっぱりクロの方が口が上手い。
「……そうか、君が
真剣な顔でつぶやくカズマさんに、驚きながらクロはわたしを見る。
「わたしの…、[聖杯戦争]の事は、ある程度話してあるから」
「そういうこと…」
クロは納得したように頷く。
「それじゃあ君が…」
カズマさんがミユの方を見る。
「わたしは、
……はえ?
「ん? イリヤからは、ミユ・エーデルフェルトって聞いてたんだが…?」
「……朔月は、わたしが生まれた家の名前。そのあと養父と兄の家に引き取られたけど、色々あって生き別れて、そんなわたしを拾ってくれたのがルヴィアさん…、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトなんです」
そうだったんだ。前に聞いた説明じゃ、そこまでは教えてくれなかったからなぁ。
「それじゃあ朔月姓に戻ったのって…」
「兄と再会できて、ルヴィアさんに兄共々、朔月の姓の戸籍を作ってもらった」
「何だ、その犯罪臭のする話は!?」
「ルヴィアさんんん!?」
『ホントに、相変わらずとんでもないバ金持ちですねー』
『ルヴィアさまに常識を求めるのが、そもそもの間違いかと存じます』
ルヴィアさんの所業に、思わず突っ込むわたし達。というか、何気にサファイアも混ざってディスってる。やっぱりルビーの妹なんだなあ。
「それでお兄さんは?」
ひとり話の輪に加わらず、冷静にカズマさんに自己紹介を促すクロ。それでカズマさんも我に返った。
「ああ、すまないな。
俺は佐藤和真。イリヤと一緒に冒険者のパーティーを組んでる」
「冒険者?」
ミユが軽く首を傾げながら聞いてくる。
「そういやイリヤのその格好、何なの? コスプレ?」
いやクロ、コスプレって…。まあ、確かに現代の地球の衣装から考えれば、コスプレっぽいけどね? リーンさんの格好なんかは、現代日本でも充分通用すると思うけどさ。
そんなことを考えてると、カズマさんがわたしの代わりにその疑問に答えてくれた。
「俺とイリヤは、タイミングは別だけど、地球から別の世界に神様転生したんだ」
「神様転生? ……! それじゃイリヤ!?」
どうやらクロも、カズマさんが言いたいことに気づいたみたいだ。
「うん。わたし、八枚目のカードの英霊と戦って、死んじゃった。それでわたしは、七枚のクラスカードを特典に、今いる世界に転生したんだ」
んー、状況に慣れたと思ってたけど、こうやって話すと、やっぱり気持ちが沈んでくるなぁ。
「因みにその世界では、魔王の脅威によって生まれ変わりを拒否する人が増えて人口が減ってるから、地球で若くして死んだ人に特典持たせてその世界に転生させて、ついでに魔王退治もお願いしてるんだとさ。しかも魔王を倒したら、何でも一つ願いを叶えてくれるらしい」
カズマさんが話の補足をしてくれた。
「……まるっきりラノベね?」
それは言わない約束だよ、クロ。
「でもまあ、大体状況はわかったわ。要は元の世界、……いや、ミユの世界に行くために、イリヤは魔王を退治するつもりなワケね」
「うん。時空の揺り戻しで、みんなあっちに行っちゃったって天使さんに聞いてたから」
カズマさん達との暮らしも楽しいけど、この気持ちは今でも変わらない。
『イリヤさんってば、こうと決めたら頑固ですからねー』
ルビーのセリフに、みんなが一斉に首を上下させる。わたしって、そんなに頑固かな?
「さて、つい話し込んじまったけど、いい加減移動を始めないとな」
あっ、そうだ。あの爆裂魔法が聞こえたところへ、向かってる途中だったんだ。
「もしかして、さっきの爆発音?」
「うん、そう。もしかしてミユ達も?」
「うん」
そうか。やっぱり気になるもんね。
「それじゃあ一緒に…」
そこまで言ったとき。
ドギュわあぁん!
またもや聞こえた爆音と共に、離れた上空で赤く爆発しているのが見てとれた。
「爆裂、魔法? でもちょっと違うような…」
「ああ、アレは爆裂魔法なんかじゃない。爆裂ソムリエの俺が断言する」
カズマさんがそう言うんだ。間違いないだろう。でも、それじゃあ…。
「クロ、あれって…」
「ええ、間違いない。[
ドラグ・スレイブ? ……ん? あれ? なんか聞いたことあるような?
「ちょっと待て。[
「あっ、思い出した! 前にリズお姉ちゃんがDVDで見てた、異世界ファンタジーアニメの、あの術だ!」
確か主人公のリナが得意とする、ドラゴンも一撃で倒す必殺魔法だったはず!
「そっか。そっちの世界には【スレイヤーズ】があるんだ」
んん? 何だか意味深な発言だけど?
「とにかく急ごう。そこにイリヤと
ええっ、ちょっと待って、ミユ!? そこに
リナってまさか、リナ=インバースの事? それってアニメの主人公じゃないの? 一体、どうなってるのおぉッ!?
実は【スレイヤーズ】が存在しない日本は、「ドラまた☆リナ」の世界だけです(この三作品以降に書いてる【このすば!】作品も、日本側は基本、【スレイヤーズ】が存在してます)。
あと1話書いてありますが、例によって2話で一組(前後編表示ではありませんが)だという事と、「ドラまた☆リナ」側の結構重要なネタバレが入っているので、いずれまた、という事にします。
たとえ本年度中に追いつかなくても、来年正月には上げることにします。