『何やら面白おかしい予感がします!』
ええと、いきなりなんだろう。
わたしの名前は稲葉リナ。11歳の魔術使い。ミーねえ、凛ねえと一緒に暮らしてる。
ミーねえは、ミリーナ・サンダースって名乗ってるけどそれは偽名で、ホントの名前はリナ=インバース。異世界からやって来た、天才魔道士だ。
そして凛ねえは、遠坂凛って言って、宝石の魔術使い。前は魔術師として、この冬木市を管理していたらしい。
そしてふたりは、わたしの魔道と魔術の先生でもある。……このふたりは、わたしの大事な家族だ。
そんなわたし達の元に、ある日トラブルメーカーが現れた。その名はカレイドステッキのマジカルルビー。並行世界を渡り歩く、孤高の魔法のステッキ…、と本人が言ってた。
彼女は時々、ワケのわからないことを口走る。例を挙げてみると。
『私と魂を同じくする
『あぁ、マジカルアンバーちゃんに会ってみたいですねー。あ、とは言っても、私のアバターじゃありませんよ? 私と同じく、並行世界を
『こう見えても私は、タイころアッパーの真のボスだったんですよ? 他の私とは格が違います!』
等々。……今思い出しても、よくわかんないや。
そんなルビーがまた、ワケのわかんないことを言い出した。ホント、今回はなんだろう。
「ちょっとルビー。いきなりなんだってのよ」
ミーねえもおんなじ事を思ったみたい。凛ねえは呆れた眼差しでルビーを見てる。
『いえ、ルビーちゃんセンサーによると、あちらの世界のリナさん達が、異空間で事件に巻き込まれたと訴えてるんですよー』
「何でそんなにピンポイント!?」
「ミリーナ、突っ込むだけ無駄よ。何よりルビーの、意味がないけど無駄に高性能な機能なら、それくらいやってのけてもおかしくはないわ」
無駄にって、ヒドい言い方だなぁ。否定する気もないけど。
『いえいえ、さすがになんの取っかかりも無しに、並行世界の出来事を察知するのは、このルビーちゃんをもってしても出来ることではありません。
以前の出会いで向こうのルビーちゃんとは、ちょっとしたパスを繋げているため、時々ですが向こうの情報が流れてくるんですよ』
「そうなの?」
ミーねえが尋ねると、ルビーはこくりと頷き。
『そうでなければ、いくら一度行ったことのある世界だからと言って、簡単にアクセス及び移動なんて出来ませんよー』
これは半月くらい前に、わたしが
「もしかしてわたし、リナ達を助けに行ける?」
そう言うと、ルビーは我が意を得たり! という表情になった。いや、表情はないけど。
『リナさんは私のやりたい事がわかったようですね! さすがは私のマイ・マスター!』
ホント、ルビーってば調子がいいんだから。
『本来第二魔法…、並行世界の運用の一部を行使できる、というのが私の機能です。が、向こうの私を通してなら、近しい異空間なら何とか辿り着けるでしょう。あくまでパスを利用した特例、ですが』
んーと、つまり。あっちの世界のルビーと繋がりがあるから、並行世界じゃない世界にも行ける、って事だよね?
「ルビー。わたし、リナやイリヤ達を助けたい。あなたなら、それが出来るんだよね?」
『ええ。ただし、私が出来るのはお手伝いだけ。助けるのはリナさん自身ですよ?』
ああ、そうだった。ルビーは単体じゃ、魔力砲ひとつ撃てないんだ。こちらの世界に来たのだって、虎聖杯の力を使ったからだ、って話だし。
『でも、まあ、リナさんならやってくれそうな気がするんですよねー。その歳にして私の精神支配を撥ね除ける、強靱な心を持った貴女なら』
精神支配。ルビーは初めて転身したとき、わたしを操ろうとした。だけど、ミーねえ凛ねえ、それにリナ達を助けたいって思いが、ルビーの支配に勝った。それ以降、ルビーはわたしを正規のマスターと認めて精神支配を仕掛けることは無くなったんだ。
「……うん、行こう!」
わたしは力強く頷いた。だけど。
「ちょい待ち! あたしとしては、リナをひとりでそんな世界に送るなんて、納得できないんだけど?」
「そうよね。私達はリナの保護者なんだから」
ミーねえ、凛ねえ…。
『いやー、素晴らしい家族愛ですねー。ルビーちゃん、感動しちゃいましたー』
……ルビー。ホントに感動してる? 自分でも捻くれてるなーって思うけど、ルビーの性格を考えると、どうしてもそういう思いが湧いて出る。
『だけど残念ですが、時空移動できるのはリナさん一人だけです。並行世界の移動なら、貴女
「……でも、送れる可能性はあるんでしょ?」
「あっちの私ほどじゃないけど、私だって一応第二魔法の研究はしてるんだからね」
『ふたりとも頑固ですねー』
ミーねえと凛ねえの意見に、ため息を吐くルビー。これだけ心配してくれて、正直嬉しくてたまらない。……でも。
「ごめん、ミーねえ、凛ねえ。その世界には、わたしとルビーで行くよ」
「「リナ!?」」
驚きの眼差しを向けるふたりに、わたしは言う。
「ミーねえはもう、元の世界の術は使えないんでしょ?」
「……ッ! それは」
言い淀むミーねえ。
「凛ねえだって魔術を使うのに必要な宝石、エインズワースと闘うときに使い切っちゃったんだよね?」
「ぐっ!?」
凛ねえも言葉に詰まる。
「それにわたしは、友達を助けたいから行くの。……家族だからって、それに口出しするの?」
わたしは、ミーねえが時々見せるような不敵な笑みを浮かべながら言った。すると、一瞬呆気にとられたミーねえが笑顔を作ってわたしの頭の上に手を置き、髪をグシャグシャってして言った。
「まったく、虚勢なんか張っちゃって。そんな風に言われたら、逆に応援したくなっちゃうじゃないの」
「ミーねえ!」
ミーねえは、優しい眼差しをわたしに向ける。
「ただし! ちゃんとあたし達の元に帰ってくること! いいわね?」
「うん!」
わたしは再び、力強く頷いた。
「……ったく。ミリーナがO.K.出したら、私は何も言えなくなるじゃないの」
「あはは、ごめん、凛。でも…」
「わかってるわよ」
そう言って凛ねえはわたしを見て。
「無事を祈りながら送り出すのも、家族の務めだものね」
「ミーねえ、凛ねえ、ありがとう!」
わたしはふたりにお礼を言った。
『さて、早速転身といきましょうかー!
コンパクト・フルオープン!
鏡界回廊最大展開!!』
ルビーが呪文? を唱えると、わたしの衣装が袖の無い、フリルのついたピンクのワンピースに、マントを羽織った姿へと変わっていく。
ミーねえはその姿を見ると、いつもしかめっ面になる。何でも、多少アレンジしてあるけどこの衣装は、ミーねえが昔持ってたローブと同じデザインなんだって。かわいいと思うんだけど、ミーねえにはあまりいい思い出がなかったみたい。
『それでは転送を始めます。
限定次元反射炉、半径1メートルで形成。
鏡界回廊一部反転。
次元位相17%推移。
転移元空間座標固定。
……
そしてわたしは、
次の瞬間わたしは、雪の積もった林の中にいた。
『ふむ。さすがに向こうのリナさん達の前には出られませんでしたか。まあ、そんなに都合よくいくもんでもありませんからねー』
うん、それはわかってる。でもやっぱり、都合よくいった方が有難いかな?
『それではまず、辺りの探索と行きましょう』
「うん」
わたしはルビーに促されて辺りを調べることにした、そのタイミングで。
ざっ、ざっ…
雪を踏みしめる音が聞こえる。それも複数。わたしが緊張した瞬間、三人の人影が現れた。
ひとりは長い金髪の、背の高い男の人。ひとりは長い黒髪の、清楚な感じの女の人。最後のひとりは長い水色の髪の、活発な印象の女の人だ。それにしても、あの男の人って…。
ううん。今はそれよりも、この人達とコンタクトを取らないと。
「あの…」
わたしが声をかけると。
「∋∩⊗⊆#&*?」
男の人が発した言葉を、わたしは理解出来なかった。
「ルビー、何言ってるかわかる?」
『いえ…。どうやら、私が知るどの言語体系にも当てはまらないようです』
そうなんだ。うーん、困ったなあ。
「あら。貴女、ニホンの人?」
「……ふぇ?」
水色の髪の人の言葉に、わたしはマヌケなことしか言えなかった。
『失礼ですが、私達の言葉がわかるんですか?』
「そりゃあわかるわよ。だって私、女神だもの!」
「……はい?」
えっと、この人は何言ってるんだろう。
『!? 待ってください! 確かにこの方からは、神気と呼べるものが感じられます!』
「ええっ!?」
それじゃ、ホントに女神さま!?
「ふふん、恐れ入ったようね。そう、私はアクア。アクシズ教の御神体にして、水の女神よ!」
『……なんでしょうか。普通に自己紹介をしているのに、この滲み出るような残念感は』
「ああ!? 残念とか言った! 栄えあるアクシズ教の御神体たる私に、残念とか!!」
……何だか、
「ええっと、アクアさま。神さまなら、わたし達の話が通じない状況を何とか出来ませんか?」
こういう相手には下手に出て、尚且つプライドを刺激するといい。……って、凛ねえが言ってた。
「あら、貴女わかってるじゃないの。モチロン、女神の私には容易い事だわ。どう? 敬う気になった?」
うわあ、ウザっ! ミーねえから教わった攻撃をしたくなるけど、ここはぐっとこらえて、わたしはニコリと笑って頷いた。
「うんうん、素直なよい子ねー。それじゃいい? いっくわよぉ!」
そう言ってわたしとルビーの頭に、……ルビーの頭? まあ、それはいいや。とにかくアクアさまは手をかざす。
これからどうなるんだろう、と、ドキドキ・ワクワクしていると。
「? どうしたの? もう終わったわよ?」
ええっ!? 掌から光が放たれたり、不思議なオーラで体が覆われたりしないの!?
『確かに、私の言語情報が上書きされた形跡がありますねー』
そうなんだ。何だ、ガッカリ。
『しかし、この上書き処理は少しばかり強引ですねー。運が悪いとパーになっちゃいますよ?』
「……え?」
なんか今、ルビーからとんでもない発言が飛び出したような…。
「まあねー。でも、余程運が悪くない限り大丈夫よ。貴女達だって、問題なかったでしょ?」
そうだけど!
「あの、アクアさん。何だか物騒なこと話してませんか?」
多分居ても立ってもいられなかったんだろう、黒髪の女の人が話に割って入ってきた。
「物騒とは何よ。私はただ、この子達がわたし達と会話が出来るようにしてあげただけよ」
いえ、その副作用が物騒なんだけど。……って、黒髪の女の人の言葉が理解できてる!
「あ、あのっ!」
「え? あ、はい。何ですか?」
一瞬驚いた顔をしてすぐに、笑顔で応えてくれた。
「えっと、わたしは稲葉リナ、このステッキはカレイドステッキのマジカルルビー。わたし達は友達を助けるために、この世界に来ました。
……それで、あなた達はどなたですか?」
わたしが自己紹介をすると、この人達は一瞬、驚いた表情を見せた。
「それじゃあ私からね! 私はア…」
「あ、アクアさまはさっき済ませてあるのでいいです」
「ひどっ!」
ひどいかなぁ。二度手間、三度手間するよりよっぽどいいと思うけどな。
「ええと、私はハイプリーストのシルフィール=ネルス=ラーダと言います」
ハイプリースト…。プリーストが僧侶だから、高僧、でいいのかな?
「オレはガウリイ=ガブリエフ。しがない旅の傭兵だ」
ガウリイ、さん…! それじゃあやっぱり!
……でも、ガウリイさんはあのことを知らないはずだし、余計なことは言わない方がいいよね?
「それでリナさんは、友達を助けに来たと仰ってましたが、この世界に、というのはどういうことでしょうか」
そうシルフィールさんが尋ねてきたけど、この人多分、薄々気づいてる気がする。
「うーんと、ルビーの説明だとここは異空間、世界の狭間に出来た異質な世界って言えばいいのかな? そういう所らしいんだけど」
「異空間、ですか…」
そう呟いて、顎に手を当てて考え始める。だけど。
「シルフィール、考え事は中断だ。……殺気が近づいてるぞ」
ガウリイさんの言葉に緊張が奔る。
「敵は複数…。だけどこれは、知ってる気配も混ざってるな。多分…」
でも、ガウリイさんが言い終わるのよりも早く、わたし達の前に人影が躍り出た。
それは金髪碧眼で、鎧を身に纏った背の高い女の人。
「ダクネス! ダクネスじゃないの!」
「アクアか! それにガウリイとシルフィールも一緒か」
どうやらその人、ダクネスさんは知り合いみたいだ。でも、それよりも。あとから現れたモノ達が問題だ。それは二足歩行の異形な獣としか表現できない。
そして。シルフィールさんが呟いた言葉が、わたしの耳着いて離れなかった。
「レッサーデーモン…、どうしてここに?」
リナとの会話でもわかるとおり、ここで登場しているマジカルルビーは、「ドラまた☆リナ」で登場した羽根ルビーです。間にいくつかの世界を彷徨ってから、美遊世界に辿り着きました。