レッサーデーモンと呼ばれたモノ達がワラワラと集まってくる。それと同時に得も言われぬ恐怖心が沸き上がってきた。でも、もしこれがわたしの知ってる存在なら、それも仕方がないと思う。
レッサーデーモン。それは以前、ミーねえから聞いた、亜魔族と呼ばれるもの。魔族は人の負の感情を糧にする。そして自我の薄い生物を依り代とした亜魔族は、その存在自体が人間に恐怖心を引き起こさせるものらしい。
何よりも、ガウリイさんと一緒にいるシルフィールさんが[レッサーデーモン]って言ったんだ。それだけで意味はあると、わたしは思ってる。
「くっさぁ! 物凄く悪魔臭いんですけど!」
「アクアさん、悪魔じゃなくて魔族の
魔族! それじゃあやっぱり…。待って。レッサーデーモンって言えばあの魔法…。
わたしは慌てて呪文を唱え始める。
「来るぞ!」
ガウリイさんの警告と同時に、レッサーデーモンが複数の炎の矢を作り出す。
『ぐるうあぁぁぁあ!』
咆哮と共に、レッサーデーモンが炎の矢を撃ち出した!
わたしはルビーを振りながら、完成させた術を発動させる!
「
「えっ!?」
シルフィールさんが驚いてる。って事は、この人も多分…。
「これは、炎の矢が届かずに爆ぜている?」
そう。この術は高位の耐火魔法。詠唱には時間がかかるけど、ダクネスさんが言ってたとおりかなり強力な炎も、熱も含めて防ぐことが出来る。
普通は戦闘中に使うのは難しいけど、レッサーデーモンが炎の矢をよく使ってくるのはミーねえから聞いてたし、それ以外の攻撃だったとしても、ガウリイさんやシルフィールさんが何とかしてくれると思って呪文を唱えてた。
「ちょっと、何でニホン人のあんたが、スィーフィード世界の魔法を使えるの?」
「ごめんなさい。それはまたあとで。今はレッサーデーモンを何とかしないと」
「そ、そうね。今はこの、悪魔臭い連中を退治しちゃわないと!」
アクアさまは納得して身構える。ガウリイさんは既に群れの中に飛び込んで、シルフィールさんが援護をしてる。
けど、戦闘中にわたし達の会話は充分な隙になってた。いつの間にか一匹のレッサーデーモンが近づいていて、腕を振り上げていた! マズい!
「させるかっ!」
ガガアァ!
ダクネスさんが身を呈してその攻撃を受ける!
「ダクネスさん!?」
「……ふふ、いい。なかなかいい攻撃だぞ! さあ、もっと私に貴様らの嗜虐心をぶつけてくるがいいっ!!」
……えっと?
『どうやらドMな方だったようですねー』
うわあ、リアルで見るのは初めてだぁ。
「まあダクネスなら、魔王軍幹部の攻撃にも耐えられるし大丈夫よ」
『ドMで硬いなんて、まさに盾役にピッタリですねー』
うう、何だか納得いかない。でも今はそれどころじゃない。
「ルビー、行くよ!」
『ハイハーイ』
わたしはルビーに魔力を込めて。
「
レッサーデーモンの一体に魔力弾をぶつけると、咆哮をあげながら消滅した。一方アクアさまは。
「『ゴッドブロー』ッ!!」
魔力の隠った拳でレッサーデーモンを粉砕する。そうか、そういう闘い方もあったね。それじゃ早速試してみよう!
わたしが呪文を紡いでいると。
「グルゥガアァ!」
一体のレッサーデーモンが再び、わたしに腕を振り上げる。
「リナさん!!」
「な、リナだって!?」
シルフィールさんがあげた声に、ダクネスさんが驚いた。そういえばダクネスさんには自己紹介してなかったっけ。
それはともかく、わたしは呪文を唱え終え。
「
拳に魔力を纏わせ。
「……フッ!」
凛ねえから教わったマジカル八極拳で
『ルビーちゃんとしては、肉体言語で語るなんて魔法少女っぽくないと思うんですけどねー』
「いいんだよ。わたしは、魔術師で魔道士で格闘家な魔法少女だから」
『どこのリリカルなストライカーですか』
「いや、何言ってるかわかんないから」
わたしは思わずツッコミを入れる。何だか最近、ツッコミ慣れしてきたような。
「おいおい、今はのんびり会話している場合じゃないと思うんだが」
「あ、はい」
ガウリイさんに窘められてしまった。いけない。反省反省。というわけで、高火力呪文で複数まとめて倒しちゃおう!
「ルビー、使用魔力量、
『了解です』
ルビーの力で、わたしが安全に使える限界ギリギリまで、
---凍れる森の奥深く
荒ぶる獣を統べる王
滅びを誘う汝の牙で
我らが道を塞ぎし者に
我と汝が力もて
滅びと報いを与えんことを
「え…、黒魔術!?」
「ちょっと、悪魔臭いんですけど!」
シルフィールさんが驚き、アクアさまが何か失礼なことを言ってるけど、今は気にせずに[力ある言葉]を唱える。
「
わたしが放った光弾がレッサーデーモンの一体を貫き、その軌道を操って二体、三体と倒し、四体目を貫いたところで消滅する。
「おい、それってリナが使ってた魔法じゃないか?」
攻撃の手を休めずにガウリイさんが聞いてきた。
「それについても後で。レッサーデーモンを倒し終わったらお話しします」
「おう」
ガウリイさんは短く応えて、再び戦闘に専念する。……わたしもがんばろう!
そしておよそ五分後。一帯のレッサーデーモンは全て退治できた。
「すんすん、すんすん。……うん、悪魔臭くないし、もう大丈夫ね」
……アクアさま、すごい判断の仕方だね?
「……さて。それでは聞かせてもらえませんか? 何故リナさんは、私やガウリイさまのいた世界…、スィーフィード世界の魔法が使えるのかを。
それに名前も、私達の知るリナさんと同じですし、ね」
シルフィールさんが、けっこお痛いところを突いてくる。
『(シルフィールさん、薄々気付いてるんじゃないですかねー?)』
「(うん。わたしもそんな気がしてる)」
でも、それも仕方がない。わたしの名前が「リナ」で、スィーフィード世界の魔法を使う。そして何より、わたしの容姿は、ミーねえの顔をそのまま幼くしただけだ。勘が良ければ、関係を疑うのが当たり前だよね。
「えっと、とりあえず結論を先に言うと、わたしはリナ=インバースの、異世界での同一存在です」
「「「同一存在?」」」
ガウリイさん、シルフィールさん、ダクネスさんが疑問の声を上げた。一方アクアさまは、なるほどと頷いてる。さすがは女神さま、この手の話には理解が早いみたい。
「世界ってね、私達が住んでいる以外にも沢山あるの。天界や地獄だけじゃないのよ? それこそリナ達がいたスィーフィード世界みたいにね。
そんな全然別の世界同士でも、他の世界の人物に相当する人っていうのがいるもんなのよ。もちろん、全員が全員って訳じゃないけど。だから例えばだけど、スィーフィード世界にも、ダクネスに相当する人がいるかも知れないわ」
「なるほど」
アクアさまの説明に感心するダクネスさん。シルフィールさんも頷いて、ガウリイさんは…、何だかぽけーっとしてる。
そしてルビーが。
『丁寧な説明、ありがたいですねー。ルビーちゃんは並行世界が専門なので、異世界事情はちょっと疎いんですよー』
「「並行世界?」」
今度は、シルフィールさんとダクネスさんが聞き返してきた。
「可能性の世界ね。もしあの選択をしていたら。もしあの人と出会ってなかったら。もしあの人が生まれてなかったら…。そういった、似てるけどちょっと違った世界の事よ」
『えーと、アクアさん? そこはルビーちゃんが説明する場面だと思うんですけど?』
「いや、別に張り合わなくても。……ん?」
何だかダクネスさんが、驚いた顔してるんだけど?
「どうしたんだ、アクア。いつもと違って、随分と聡明な気がするんだが?」
「いつもと違ってって、どういう意味よ!? 私は女神なんですから、いつだって聡明なのっ!」
「……ああ、よかった。自分を女神などと
「だから、どうしていつも信じてくれないのよおおお!!」
アクアさま、女神だって信じてもらえてないんだ。でも、アクアさまには悪いけど、何だかわかる気がする。
「んんっ! それでもう一度お聞きしますが、何故リナさんは…」
「さん付けじゃなくていいよ。そっちのリナさんとややこしいでしょ?」
わたしはシルフィールさんに言った。それにわたしの様な年下相手に、さん付けみたいな他人行儀はあまり好きじゃない。……ルビーの場合は、他の部分で馴れ馴れしいから問題ないけど。
「……それでは、何故リナちゃんは、私達のいたスィーフィード世界の魔法が使えるのか。しかもガウリイさまが言われたように、私達が知る限りリナさんのみが扱える黒魔術を、何故リナちゃんが扱えるのか、説明願えますか?」
「……ええと、質問と逸れたところからの導入になるけど。
わたしはエインズワースが興した『聖杯戦争』ってやつで起きた災害のせいで、孤児になっちゃったんだ」
『!?』
一瞬、周りの空気が凍りつく。
「あ、わたし自身はよく覚えてないし、あまり気にしてないから。
それでその時、わたしを保護して、今一緒に暮らしてる人が、ミーねえと凛ねえ…、ミリーナ=サンダースと遠坂凛の二人なんだ」
もっと言えば、その二人の後見人で、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグって人もいるけど、わたしは会ったことないからなあ。
「……ミリーナって、なんか聞いたことある気がするんだがなぁ?」
ガウリイさんが呟くように言う。ミーねえが言ったとおりの人なら、何となくでも憶えてるだけ凄いことだ。
「ミリーナは、ミーねえの昔の知り合いから拝借した偽名だよ。本名と何となく似てるからって。サンダースも本名のもじりだって。
……ミーねえの本名は、異世界の剣士にして天才魔道士の、リナ=インバースだよ」
『!?』
今度はみんなが、驚きの表情を浮かべる。
「ちょっと、それってスィーフィード世界の並行世界から来たリナってこと!?」
「そ…」
『そうなんですよー。まあ、マスターの世界に来てから6年の間に、徐々にそちらの魔術体系に置き換わり、少し前にとうとう、スィーフィード世界の魔術は使えなくなりましたけど。
それでもその知識は健在ですので、マスターにそれを教え込んだ、というわけです』
……わたしのセリフ、取らないでほしい。
「世界は違ってもさすがリナ、といったところだな」
「なるほど。だからリナが使ってた魔法が使えるんだな」
ダクネスさんとガウリイさんが、感心して頷いてる。
「待ってください。まだ疑問は残ってますよ」
「その通りよ。どうして別の世界の人間である貴女が、世界を超えてスィーフィード世界の
さすがシルフィールさん。それに、さすが女神さま。
「……いや、リナやシルフィールだって魔法、使ってるだろ?」
ガウリイさんの疑問に軽くため息を吐き、シルフィールさんは答える。
「お忘れですか、ガウリイさま。私達が世界を超えても魔法を使用できるのは、エリス様に色々と手を尽くしていただいた結果なんですよ?」
「…………そーだっけ?」
……なるほど。これがミーねえが言ってたことかぁ。
「ねえねえ、ダクネス。私も頭は良くないけど、ガウリイには勝てる気がするの」
「アクア。言わないでいてあげるのも、優しさだからな?」
アクアさま、何気にヒドい。ダクネスさんの返しも大概だけど。
「……ともかく、そちらの理由を伺ってもよろしいですか?」
あ、無かったことにした!? シルフィールさんも見た目に反して、大概な性格してるなぁ。
まあ、それはそれとして、確かにこのままじゃ話が進まないよね。
「うん。だけどこれは、わたしよりもルビーの方が詳しいから」
『はいはーい。というわけで、ルビーちゃんが説明させていただきまーす!
マスターがスィーフィード世界の魔術が使える理由。それは私が第二魔法、「並行世界の運用」の力の一部を使って、並行世界の「稲葉リナ」さんの能力の一部を引き出してダウンロードし、マスターが使える様にしているからです』
ルビーの説明に、みんなが頭を悩ませる。特にガウリイさんとアクアさまは、チンプンカンプンって顔してる。うーんと、もう少しわかりやすく言うと…。
「並行世界でスィーフィード世界の魔法を使ってるわたしから、その『使う』能力を、ルビーの力でわたしに憑依させた、って言えばわかるかな?」
「……ええ、一応は」
「私も何となくだが…」
「……なんとか」
「オレの事は気にしなくていいぞ」
……ガウリイさん、とうとう諦めたみたいだね?
「あ、でもでも、どうして並行世界の貴女はスィーフィード世界の魔法が使えるのかしら?」
あ、そこに気付いちゃうんだ。
「それは接続先が多分、わたしの知ってる『稲葉リナ』だからじゃないかなー、なんて…」
言葉を濁すわたしに、みんながキョトンとしていた。
結局説明が大変だから、「会ってみればわかる」って言って、話は切り上げたんだけど。そこでアクアさまが、質問の矛先をダクネスさんに切り換えた。
「そういえばダクネスってば、どうして逃げてたの? いつもだったら、あの悪魔臭い奴らに甚振られて喜んでそうな気がするのだけど?」
「お、おい、アクア。それでは私がいつも、誰かから甚振られるのを楽しみにしているみたいじゃないか」
ダクネスさんはわたしの視線を気にしながら、アクアさまに言い返してる。
「え? 違うの?」
「私は別に…!」
『あー、ええとダクネスさん?』
更に言い返そうとしているダクネスさんに、ルビーが声をかけた。
『先程の戦闘で、貴女がドMなのは理解してますので、取り繕う必要はありませんよー?』
「なぁっ!? わ、私はドMなんかじゃ、ドMなんかじゃにゃいからぁっ!!」
と、頬を染めて恍惚の表情で言われても、全く説得力はないんだけど。
そしてしばらくして、ようやく落ち着いたダクネスさんが説明を始めた。
「私がドMかどうかは別として…」
まだ取り繕うんだね?
「奴らと対峙もせずに逃げていたのは、二度の爆発を目撃したからだ」
「二度の爆発?」
わたしが疑問を言うと、シルフィールさんが説明してくれた。
「はい。私達がリナちゃんと出会う前、地上に一度、10分ほど過ぎてから上空に一度、爆発が起きました」
「ああ、その通りだ。それで一度目がめぐみん…、私とアクアが所属するパーティーの魔法使いだが、彼女が放つ爆裂魔法で、二度目がリナの
「今、後ろ髪を引かれ…」
「言ってない」
わたしの言葉に被せて否定するダクネスさん。もうバレバレなのに、なんで隠してるんだろ。
「んー、だけどなぁ…」
「ガウリイさま、どうされたのですか?」
浮かない顔のガウリイさんに、訊ねるシルフィールさん。
「確かにあれは竜破斬だと思うんだが、なんかリナが使ってるのとは違う気がすんだよなぁ」
……リナじゃない?
この時のわたしは、イリヤが持っているキャスターのクラスカードについての詳細を、まだ知らなかった。
次回も別のオリキャラ(と半オリキャラ)達がメインで進みます。