中野五月と俺の大学生活(完結済み)   作:よきき

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たわむれ

 大学の授業が終わり、昼休みで賑わいを見せるキャンパス内。

 食堂で学食を食べている者、コンビニで友達の課題をコピーしている者、バンドサークルの路上ライブを聞き入っている者。みんなそれぞれ自分のやりたいこと、やらなければいけない事をたった50分の間で行っている。

 そんな中、俺はと言うと、一人誰も座っていないベンチに座りながらタバコをふかしていた。

 もう何も入っていないウィンストンの箱を片手で握り潰す。すると紙特有のクシャクシャと言う音が聞こえた。

 ______ああ、だるいな。

 俺はそんな風な事を考える。

 もう自分がこの大学に入った本当の意味さえ思い出せない。

 なんでこんなつまらない日常を送っているのだろう。別に望んでいたわけでもないのに。誰のせいとも言う気はないが、どうしようもない日常をただ無駄に消費している自分が腹立たしい。

 今は次の授業にいくためにわざわざ大学内に残ってはいるが、頭の中では帰ってしまおうかなと考えている自分がいた。

 そんな事をすれば後半出席日数が足りなくなって面倒なことになるのが目に見えているのに、それでもその甘い誘惑に勝てそうにない。

 焼き切れた灰を落とすため、咥えていたタバコを一旦外しトントンとリズミカルにベンチに当てる。

 バイトは今日無いし、このまま帰って寝れたらどれだけ幸せだろうか。微睡の中布団に籠る自分を想像し、幸福感に満たされる。

 ああ、母親の胎内ってあんな感じだったんだろうな。

 

「またタバコを吸ってるの、体に悪いよ?」

 

 そんな時、横から俺の幸福感を害す言葉が聞こえた。

 誰だよこんなところにまで来て人の嗜みを否定する奴は。きっとろくでもない奴に決まっている。

 俺はそう思って、目の前に佇む女「中野五月」を軽く睨み付ける。

 

「何?文句あんの?」

「文句ではなく忠告。それにあなたまだ二十歳の誕生日来て無いでしょ」

 

 そんな事を言われるが知った事では無い。大学生みんな未成年飲酒や喫煙は平常運転でやっている。

 そんな事を律儀に守っているやつなんて、目の前の中野五月みたいなお嬢様で、真面目で、世間知らずの女くらいだ。

 現に俺がタバコを吸っていようと、大学の教授は「君タバコ吸うんだね」としか言ってこない。つまり、大学や人間社会には暗黙のルールと言うものがあるわけだ。

 

「こら、無視しないの」

 

 内心で持論を述べていたら、中野五月は痺れを切らしたのか俺の咥えていたタバコをスッと奪い去る。

 こいつ殴ってやろうか。人が楽しんでいるものを勝手にとっちゃいけませんって母親に教わらなかったのかよ。

 

「返せよ。いい加減嫌われてることに気づけ」

 

 俺は敵対心を剥き出しにしながら、中野五月にハンドサインでタバコを返すよう催促する。

 しかし、彼女はそんな事を知らないと言わんばかりに、そのタバコを公共の灰皿へ容赦無く入れてしまった。

 

「なっ!?お前!!」

 

 灰皿の中から気持ちの良い火が消える音がする。こうなっては完全にもうだめだ。改めて吸うことなど叶わない。

 

「お前これ最後の一本だったの知ってんのか!?」

「無視をするあなたがいけないの。それに未成年喫煙は見過ごせないから」

「ふざけんな、弁償しろ」

 

 喫煙者からしたらこれは笑えない冗談だ。俺がリッチ大学生ならいざ知らず、それが貧乏学生ともなれば尚のことである。

 

「知らない。これもあなたのためよ」

「俺のためなら放っておいてくれよ、そう言うのが鬱陶しんだよ」

 

 中野五月と言う女はとにかく鬱陶しい。

 授業で課題を出された日には毎晩の如く課題をやっているのかのラインを送ってきたし(後にブロ削した)、一限目の授業の開始3分前に教室にいないと熱烈な電話コールが鳴り響く。

 お前は俺の母親かとすごく言ってやりたいのだが、中野五月はそれがさも当然のようにお節介を焼いてくる。

 もうこんな落ちぶれた俺なんてさっさと見放して仕舞えば良いのに、それでも彼女は俺に話しかけてくるのだ。

 

「あなたは”教師”になるのでしょう。こんなことしていたらなれませんよ」

 

 彼女が敬語になる時はいつだって彼女の心からの言葉だった。

 教師になる。

 そんなこと知らない。俺はもうとっくにその目標を失っていた。今更そんなものを目指そうなどとは思ってもいない。

 

「ほっとけ」

 

 そんな負け犬のような言葉しか出せなかった。反論の余地がないわけじゃない。彼女に浴びせたい罵声がなくなったわけでもない。

 ただただ白けてしまった。彼女とのやり取りはなんの生産性もないことを再認識してしまった。

 いつも、こんなことの繰り返し。

 俺を見つけては口うるさく注視してきて、俺がそれを突き返す。一種のルーティンとなった日常。

 

「どこにいくの?」

「タバコ買いに行くんだよ」

 

 俺はそれだけ言って、家の近くにある煙草屋へと足を運ばせる

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