十一話
中野一花という女優はどうやら目の前にいる中野五月の姉妹の一人らしい。
YouTubeを見ていて、炭酸飲料のCMが出てきたときに、彼女が自慢げにそう言ってきた。俺たちの会話を盗み聞いていた彼女の女友達はーー彼女が女友達と座っているのに、前に座っていた俺に話しかけてきただけーーそれを聞くなり黄色い歓声をあげた。
それだけ有名な女優なのだろうか?
俺はあまりテレビとか見ないので、そう言った情報はとても疎かったりする。見るのはニュースだったり、天気予報がすべて。それもYouTubeからでしか見ないため、ドラマとかに最近よく出演している女優と言われても、俺にはピンとこなかった。
「あなたはもう少し周りに興味を持ったら?」
そんなことを言われても、興味がないものには全く興味がない。人に勧められた本とか、曲とかにあまり関心が湧かないのと同じように、彼女らがどれだけ俺にその魅力を伝えようが、俺には全く響かない。
「ねえねえ五月、今度サイン欲しいからさ、何かイベントとかあったら前情報とか頂戴!」
「わかった、また聞いておくね」
中野五月の友達の一人はどうやらその一花という女優にご熱心なようで、イベント情報を事前に手に入れようとしていた。
すごいな、今時他人頼りにサインもらうとかじゃなくて、自分の力で正式にサインをもらおうとする奴がいるんだな。
俺は妙に感心しながら、自分のスマホ内で笑顔を振りまく彼女そっくりの顔を眺めた。
それにしても、本当にそっくりだ。
ぱっと見では分からないほどに彼女とその姉妹たちは似ている。それこそ、ドッペルゲンガーが現れたと言っても過言ではないほどだ。
だけど、一年と数ヶ月間近くも嫌々関わっていた俺からしたら、彼女とその姉妹との顔の差異は何となくわかっていた。それを言葉にしろと言われたら、難しいが、感覚的にだろうか?彼女とその姉妹の顔はどこか違うように見える。
この感覚は俺だけのものなのだろうか。
ふと、そんなことが気になったため、それとなくそんな事を聞いてみる。
「なあ、お前ら姉妹ってよく間違われるの?」
「ええ、間違われることは多いかな。でも、見分けられる人もいるよ」
そう言う彼女の笑顔は珍しくとても綺麗に感じた。
なるほど、その見分けられる人は彼女にとって、とても大切な人たちなのだろう。
俺はそんなことを考えながら、別に羨ましいと思うこともなく、中野一花が出ているCMをスキップした。
「そろそろ講義始まるからスマホしまったら」
「へいへい、開始音が鳴ったらしまいますよーだ」
俺はそんな軽口を叩きながら、スマホから流れる映像をボーッと眺める。
頭を空っぽにできると言う意味では、やはり動画配信アプリはいいのかもしれない。こう言った、空き時間にぴったりだ。
俺はそんなことを考えながら、そのまま恐怖映像20連発を眺め続けた。
蛇足だが、後ろから俺の映像を見ていた女子集団は食い入るように、俺のスマホを見入っていたらしい。