十二話
あの生徒が来なくなった。
俺がアドバイスをしてから塾に訪れなくなった。
何があったのかは分からない、塾長に聞いてみたら、あの子は来なくなった3日後に引越しをしたらしい。なぜ、唐突に引越しをしたのかは塾長にも分からなかったらしいが、俺には心当たりがあった。
いじめだ。
いじめが原因で引っ越しをしてしまったのだ。
俺のアドバイスがいじめを加速させてしまったのかもしれない。俺はそう思うと、夜も眠れない気持ちに苛まれた。
あの子が引っ越しをしたと聞かされてから数週間が経った頃、新しい子が生徒として入ってきた。新しい生徒は、引越しした子と同じ学校だったらしく、学年も同じだった。
俺は何かに取り憑かれたようにその新ししく入ってきた生徒に、引っ越した子のことを聞いてみた。
多分、救われたかったのだろう。俺のアドバイスのせいで引っ越したわけじゃないと、立証したかったのだと思う。
だが、現実は無慈悲だ。
その新しく入ってきた子は俺の言葉を聞いて、表情に陰鬱な影を落としながら語り始めた。
______あの子は虐められていたんです。最初は笑ってごまかしてたんですが、途中からそのいじめっ子たちを無視するようになって。それでいじめがひどくなっちゃって。多分、それが原因で引っ越したんだと思います。
その言葉は俺にとって死刑宣告も当然の言葉だった。
俺がその子を放っておけないと、助けてあげたいと、導いてあげたいと思ってやった行為は、逆にその子を傷つけるものとなってしまった。
その事実がどれだけ俺の胸に刺さったことか。それを聞いてからしばらくの間、何も喋れないでいた。
今まで苛まれていた感情から解放されるかもしれないと思って聞いたのに、まさかさらに自分の心を蝕んでしまう毒になるなんて考えてもいなかった。
その後のことはあまり覚えていない。新しく入ってきた生徒にきちんと教えてあげることができていたのかも、授業報告がきちんと作成できていたのかも、俺には分からない。
ただ、記憶にあるのは自分への罪の言及だった。
次のシフトの日。俺は塾長へバイトを辞めると報告していた。もう続けられる気がしなかった。己が目指した先生像のせいで、生徒一人の人生をめちゃくちゃにしてしまったのだ。こんな奴が教師になっていいわけがないとそう思っていた。
塾長や中野五月はなんで俺が辞めようとしているのか問いただしてきた。
だけど、そんな理由が言えるはずがなかった。
俺は聴かれるたびに、乾いた笑みを漏らしながらごまかした。そうやって、最後のシフトの日まで俺が口を破ることはなかった。
塾のバイトをやめた俺は、必然的に教育関係から逃げるようになっていた。学部内の友達とも疎遠になり、俺は空に篭るようになっていた。それでも、お金を出してくれている親には迷惑をかけられないため、単位だけは必要最低限度とることにしていた。
俺が大学から逃げなかったのはそれだけの理由である。
バイトをやめたため、元から行っていたバイトに尽力するようになった。そっちのバイト先からはひどく歓迎されたが、俺の空虚な穴を埋めることは出来なかった。同僚や店長からの歓迎の言葉はどれも耳には入らなかった。
俺はこれからどうすればいいと言うのだろう。