十三話
今日久々に塾長から電話がかかってきた。なんでも俺がバイトをやめてから明日で一年経つらしい。一体何の記念日だと言いたくなった俺だが、塾長のことだからそろそろ戻ってこないかと言う催促だろう。
だが、俺にはその気が全くなかった。
俺は教師という道を諦めたものだ。俺が誰かに物を教えるというのはひどく酷いことだと思う。
それに、塾長が中野五月と協力して、いろいろな策謀を企てていることは知っている。彼女が俺に構ってくるのも、塾長から頼まれているからだし、塾長が俺に構ってくるのも俺への同情による物なのだろう。
そんなことを知っているからこそ、俺が復帰することはなかった。俺は同情なんてして欲しくない。して欲しいのは放っておくということだけ。俺は自分で諦めて、自分でその道を捨てたのだから、もう見放して欲しいという願望だけしか持ち合わせていないのだ。
「はあ、何でわかってくれないかなー」
俺は独り言のようにそう呟くと、一つのショートメッセージが届く。
宛先を見てみると、彼女からであった。ラインをブロック削除したから、きっと電話番号を使ったSMSで連絡をとってきたのだろう。
俺は送られてきた内容を見ようか、見ないでおこうか悩む。もし、講義のことでのラインだったら無視すれば俺が困るし、かと言って塾についてのことだったら俺は不快になってしまう。
メリットとデメリットが何度もせめぎ合いを繰り返した結果、俺は思い切って開けてみるとこにした。
メッセージに書かれていたのは簡単な文章だった。
”明日の12時に駅に集合”
それだけかかれた文章を見て俺は怪訝に思う。
過去、彼女に遊びに誘われたりした俺だが、その時は決まって用件も伝えてきた。なにぶん、彼女は誰もが認める真面目キャラなため、そう言ったことを書き逃すような女ではないのだ。まるで業務報告や業務連絡を想起させるメッセージをいつも送りつけてきたというのに、今回のこれはどういうことだろうか。
これは最早命令文でしかない。
”急に何?用件も言われないと困るんだけど”
俺は即座に中野五月にSMSを送り返す。
すると、ものの数秒で彼女から返信がきた。
”来れば分かる。だから絶対に来ること。来なかったら迎えに行きます”
何でスマホのタイピング速度だけこんなに速いんだよ。パソコンの時とは桁違いの速さじゃねーか。
と内心でツッコミを入れながら、俺は呆れながら明日の12時に駅に向かうことにした。
これで、塾に集合とかだったら無視していたのだが、生憎駅は塾から遠い。そのため、そう言った用件ではないだろうと俺は予想した。
というより、塾長が待ち合わせ場所にいたら全力で逃げよう。そうしよう。
「それにしても、本当に用件って何なんだ」
俺はそんなことを考えながら、その日を過ごした。