中野五月と俺の大学生活(完結済み)   作:よきき

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かんこう

 駅についた。少し警戒して12時5分に来るよう調整してみたのだが、流石俺というところだろう。時計を見てみればちょうど長針が5分を指し示していた。

 ついでに、スマホには中野五月から馬鹿みたいな量のメッセージが来ていたりする。

 

「どれどれ、あの女はどこかなー」

 

 俺はそんなメンヘラちっくな彼女のメッセージを無視して、駅を見渡してみる。

 人が多いせいで、彼女を見つけるのが大変かとも思ったが、別にそんなことはなく、彼女が噴水の前で座っているのが見えた。

 周りには誰もいない。中野五月一人だけである。腕時計を眺めながら、時折周りを見渡しているのは俺が来ていないか確認するためであろう。

 俺はそこまでわかると、次に物陰に誰も隠れていないか確認した。

 怪しい人物は誰も見当たらない。詳細にいうと、塾バイトをしていた時の同僚とか学部の連中とか、塾長とかは一切見当たらなかった。

 逆にここまで怪しいところがなさすぎると、警戒心がグッと高まってしまう俺。だが、怪しもうにも怪しむところが見当たらないため、俺は観念して彼女の前に踊りでた。

 

「すまん、遅れた」

「本当。10分も遅刻するのはどうかと思うよ」

 

 彼女は頬をぷくりと膨らましながら、怒っていますという表情をする。久しぶりにその顔を見た俺は、つい笑ってしまった。警戒していた自分がバカらしく感じたことも笑ってしまった原因としてはあるのだろうか。

 だが、直ぐに目の前にいる女は自分の嫌いな奴ということを思い出し、鉄仮面に戻す。

 危ない嫌な女に隙を見せるところだった。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 唐突に立ち上がりそう告げる彼女。

 

「はあ?どこに?」

 

 中野五月は笑顔でこう言った。

 

「どこって”東京”だよ」

 

 

 

###

 

 

 

 彼女の奢りで新幹線に乗りやってきた東京。そこから山手線を使って向かったのは原宿だった。

 久しぶりにみた竹下通りの風景に俺は感慨深い物を感じながら、道中で彼女と買ったチーズドッグを食べる。無駄に高いこの食べ物は、少し前に若者の間で流行っていたらしい。

 

「で、何しに東京に来たんだよ。まじで観光だけしにきたの?」

「んー、少しね」

 

 俺がそう問いかけると彼女は腕時計を眺めながら、煮え切らない返事をする。どうやら、何か時間が来るのを待っているらしい。

 

「まあ、お前の奢りで東京これたから何でもいいけどさ。嫌いな女の誘いも受けてみるもんだな」

「あなた私の事、嫌い嫌い言い過ぎじゃない?なんか、言い聞かせてるようにしか聞こえない」

 

 その言葉に自然と黙ってしまう。言い聞かせていると言われたが、それは実のところ的を得ていて、俺は俺という人格を守るために彼女を嫌っている。彼女のお節介焼きは非常に俺の心をえぐってくるから、彼女への怒りで誤魔化さないと、えぐられた傷を直視してしまいそうで怖いのだ。

 俺は残ったチーズドックを平らげながら、大きくため息を吐いた。

 結局のところ、彼女に俺という人間はずべて見透かされていたわけだ。そのことが、ひどく恥ずかしくなってしまった。

 

「それじゃ、次明治神宮いこっか。中々のパワースポットらしいよ。いい事あるかも」

 

 俺はその言葉に静かに頷くと彼女の跡をついてまわる。

 きっと彼女は俺を慰めるために東京に連れ出してきたのかもしれない。バイトを辞める時、俺は死んだような顔をしていたのだろう。その場に居合わせた彼女は俺の顔を見て酷く暗い表情をしていた。

 それもそうか。大学が始まった時に語り合った「どんな教師になりたいのか」。その時に俺はこう言った。

 ______困った生徒を導けるような、そんな優しい教師になりたい。

 彼女もそれに頷いたことから、きっと同じ志を持っていたのだろう。だが、志を共有した俺はあの生徒の一件以来壊れてしまった。

 彼女はきっと俺を重ねているのかもしれない。あり得たかもしれない自分の未来に、彼女はきっと俺を重ねているのだろう。だから、放っておけなかった。だから、かまわずに入られなっかった。

 それが、中野五月という人間の本性だ。

 

「綺麗なところだね」

 

 生茂る木々を眺めながら微笑む彼女は一体何を見ているのだろうか。

 それは俺が見えなくなってしまった光景な気がして、どこか寂しさと嫉妬を感じずにはいられなかった。もし、彼女と同じものが見えるなら。見させることができるなら、今の俺は何でもするのかもしれない。

 

「ねえ、あなたがバイトをやめた理由って、ある生徒の相談がきっかけだったんだよね」

 

 唐突にそんな話題を降ってきた彼女に怪訝な感情を抱きつつ、俺は答える。

 

「ああ……」

「あなたは導けるような優しい教師を目指していたんだよね」

「ああ……」

 

 そう俺は目指していた。困った生徒を見放さない、そんなヒーローのような存在に。

 

「あなたはあの生徒を導こうとしたんだよね」

「ああ……」

 

 憧れていた、夢に見ていた、だがそんな存在に自分は相応しくなかった。俺にできるのは誰にでもできるような、そんなちっぽけな事だけ。非常な大人にでもきるような、そんな勉強を教えるという、そんなありふれた事だけだった。

 

「あなたは成ろうとしてたんですよね、あなたの夢に」

「ああ……」

 

 そうだ、それでも成れなかった。

 

「あなたは絶望したんですよね」

「ああ……!!」

 

 彼女のいうことは全て正しい。

 俺に人を導く力なんてない、誰かを救う力なんてない、運命を変えてあげられる力なんてないのだ。

 それを思い知った。それを思い知らされた。

 だから、俺は教師になることを辞めた______。

 

「ですが、勝手に絶望するなんて思い上がりも甚だしいです。あなたが何も救えなかった?そんなことはありません」

 

 何を言っている。俺は何も救えていない、何も変えられていない。現にあの子の人生を俺は狂わせた。

 

「あなたに救われた人はちゃんとここにいますよ」

 

 そう言って、奥から出てくる三人の人影が見えた。

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