中野五月と俺の大学生活(完結済み)   作:よきき

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最終話

最終回

 

 

 三人の人影がこちらへ走ってくる。

 一人は黒髪で自分と同い年くらいの男性、もう一人は中野五月と似た顔をした大きなリボンをつけている女性。そして最後の一人は……。

 最後の一人は見間違うわけがない、二人の男女に連れられて出てきたのは、転校したその子だった。

 

「先生!お久しぶりです!」

「なっ……」

 

 言葉を失わずにはいられなかった。もう会うこともないと思っていた子が、目の前にいるのだ。目を見開かずにはいられなかった。

 

「先生、何も言わずに引っ越してごめんなさい。確かにいじめはひどくなったけど、でも先生のせいじゃないんだ!いじめが酷くなったのは、他に虐められていた子を助けたからで……、引っ越ししたのも元から決まっていたことなんだ」

 

 その子は顔を伏せながら、泣くのを必死に我慢して語ってくれる。

 

「でも、挨拶するのが怖くて。先生にアドバイスしてもらったのに、いじめ止めれなくて、それが情けなくて。ごめんなさい、自分のせいで先生が今そんなに悩んでるって知らなくって、ごめんなさい……」

 

 何が一体どうなっているんだ。何で俺はこの子に謝られているんだ。なんでこの子がこんな場所にいるんだ?

 俺が導いてやったのが間違いじゃない?全部自分のせい?

 そんなわけあるか、この子のことをちゃんと考えず、無責任にアドバイスをしたのは俺だ。何のアフターケアもなく、その時の感情だけで行動してしまったのは俺だ。

 俺が悪いに決まっている。俺がしたことは確かに教師としてやってはいけない行動だった。

 

「引っ越しした後のことを調べました。どうやら東京に引っ越していたらしいです。そして、運のいいことに、私の知人がこの子の家庭教師をしていましてね。つい最近、連絡をとることができました。ありがとうございます、上杉くん」

 

 そう言って、彼女は一人の同い年くらいの男性に頭を下げた。

 

「いや、気にするな五月。えーと、あんた。その、俺は五月から伝え聞いた話しか知らないからあんまり言えないけど、単純にあんたのその生徒にかける熱意はすごいと思った。だから、勘違いだけで教師を辞めるなんていうなよ」

「勘違いだけだと……、そんなわけあるか、この子を絶望の淵に落とし込んだことに間違いはないじゃないか!無責任なことを言うな!」

 

 怒鳴らずにはいられなかった。そうでもしなきゃ、頭がおかしくなりそうだった。

 何でみんな俺の罪を許そうとする?

 なんて俺を教師の道へと戻そうとする?

 違うそうじゃないんだ。

 もう無理なんだよ、俺の心は粉々に砕け散っているんだ。今更、そっちには戻れないんだ。

 

「えーと、五月や風太郎。多分そうじゃないと思うんだ。彼が困ってるのってそう言うことじゃないと思う」

 

 中野五月と上杉を黙らせながら、リボンをした女が俺を見ながら呟く。

 

「多分、絶望したんだよ。自分にできることがこれだけしかないのかって。自分がやらかしたことに真摯に向き合って、そして逃げずに戦って、その上で放棄したんだと思う。自分の夢を、理想を、憧れを。何もかも捨てたんだと思う」

 

 その通りだ、彼女の言う通り俺は何もかも捨てた。もう俺には何もない、何も残ってはいないんだ。

 志も、夢も、理想も俺の中にはもうこれっぽちも残っていない。あるのは、ただの後悔と無能な自分への侮蔑。

 だから、だからこんな俺をどうか

 

「_____、放っといていくっ」

 

 パチンと乾いた音が響く。俺の頬にじりじりとさすような痛みが広がった。

 

「だったら、拾えばいいだけの話です。無くしたから?絶望したから?捨てたから?何もかも言い訳です。子供みたいに駄々をこねてふざけないでください!」

 

 俺は恐る恐る、頬を叩いた犯人である彼女の目を見る。

 すると彼女は、酷く辛そうな顔をしながら泣いているではないか。

 

「一回の挫折で何ですか。一回の絶望が何ですか。初めからうまくいく人なんていませんよ。一人で何でもできる人なんているわけないじゃないですか」

 

 彼女はそう言って、俺の頬を優しく包んだ。

 

「いいですか。私は高校時代まで、いえ、今でも勉強が酷く苦手です。教師になりたいと言う願望があっても、それを目指す資格すらありませんでした。そんな時、上杉くんや姉たち、そして恩師と言ったたくさんの人が私を助けてくれたんです。今の私はその人たちのおかげであるんです!」

 

 初めて知った彼女の苦しみ。そして感謝。

 たくさんの人の支えがあって、ここまでこれた自負。

 それはあの時の、そして今の自分には持ち合わせていないもの。助け合うと言う至極当たり前のことだった。

 

「だから、頼ってください。何でも背負い込まないでください。大学に入学した当初、右も左もわからない私はあなたと初めて話すことで、気分が楽になったのを覚えています。酷く緊張していた私をあなたが助けてくれた。それは、あなたの言う導きや救いではないんですか?」

 

 何も言えなかった。

 聞かされたことのなかった、彼女からの素直な俺と言う人間。

 大学時代、誰よりも長く、誰よりも親密に関わってきた彼女だからこそ、その言葉は俺の胸に深く突き刺さる。

 

「戻ってきてください。教師の道に。一緒に頑張りましょう?困ったときはお互い様なんですから」

「先生、自分も救われました。あなたがいなかったらこんな素晴らしい人たちに出会えなかったし、いじめに立ち向かうことすらできなかったと思います。先生のおかげで今があります、先生は決して諦めていい人間ではないんです」

 

 良いのか?罪を犯した俺がそれを許されて。

 良いのか?何もかも捨ててしまった俺が再びその道を目指して。

 良いのか?人を頼り「力になって」と叫んで。

 

「良いのか……?こんな俺が教師になっても?」

「許可なんて要りませんよ。なりたいのならなりましょう?それがあなたの本音なんですから」

 

 その言葉を皮切りに、俺は1年間出すことのできなかった涙を出すことができた。

 取り憑いていた何かがスッと落ちるような感覚。

 今まで囚われていた妄執が、俺の心から離れていくようなそんな感覚。

 

 目の前にいる彼女は涙を流し続ける俺を優しく撫で続けた。

 そんな光景を優しく包み込むように、他の三人は暖かく見守ってくれる。

 

 俺が自身の本音を口にして、分かった事がある。

 俺は罪を許されたかったわけじゃない。確かに、この子にしてしまったことは、ひどく俺を苦しめた。だけど、それを許されたとしても、俺は救われなかっただろう。

 本当に俺を苦しめていたもの。本当に俺が望んでいたものは、もっと簡単なものだったんだ。

 こんな無力な俺が、こんな罪だらけの俺が、誰かに教師をして欲しいと、教師になれば良いと、そう言って欲しかったのだ。

 ひどくひねくれた俺が求めた答えは、たったそれだけのことだった。

 

 

 

 

 

 

「さあ、では聞かせてください。あなたはどんな教師になりたいですか?」

 

 

「ああ、俺は______、困った生徒を導き助けられる、そんな五月みたいな優しい教師になりたい」




全話完走しました、ありがとうございました。
ここからは裏話的なものをただ書き連ねます。


:主人公が「彼女」と表現することについて
実は、というか普通に分かっていられると思うのですけど、主人国が「彼女」というのは中野五月だけなんです。
理由は簡単で、どんな事が起っても、どんな人物を見ても、主人公は五月基準で考えてしまうから。
例えば、誰かにものを教えているとすれば、主人公は「彼女に昔教えていた時、ここが分かりにくそうにしていたな」という風に回想してしまうんです。
それだけ、主人公は五月に強い感情を持っていました。

・主人公にとっての五月
主人公にとっての五月は恋愛感情があるの?ってなるかもしれませんが、これはあえて触れていません。女として普通に魅力的に感じる、で留めているので、それ以降は皆様のご想像にお任せしております。

・主人公が五月を嫌っていた本当の理由
これはボツネタにしてしまいましたが、本当は五月と昔の自分を照らし合わせてしまっていたのが、主人公です。
早くこいつも現実を見て絶望すれば良いのに、みたいな感じで主人公は五月を見ていました。

・最後に主人公が「五月」と呼ぶことについて
主人公は今まで頑なに口で五月を名前で呼びませんでした。「お前」とか「嫌いな女」とか、心の中ではいつも「中野五月」と呼んでいました。
最後に「五月」と名前呼びしたのはきっと主人公の中で何かが変わったからなのでしょうね。


まあ、他にもあるんですけどあまり語りすぎたら面白くないのでこの辺で。
今回の小説は私がオリジナルに書いていたものを、暇つぶしに五等分の花嫁に落とし込んだ結果にすぎません。原作で、中野五月が敬語なしで喋ったことほとんどないから、口調が難しすぎましたね。
ここまで読んでいただいた方ありがとうございました。
短い間でしたが楽しんでいただけましたか?
これにて、主人公と五月の物語はひとまず幕を閉じます。
作者の筆がのれば続編や番外編も出るでしょうが、期待はしないでください。
それでは皆様、またどこかでお会いいたしましょう。
さようなら。
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