五話
授業中、ちょろそうと言う理由だけでとった情報処理の時間に俺は頭を抱えていた。
隣にはたまたま同じ授業をとっている中野五月。学部内では俺とコイツしかこの授業をとっていないので、必然的に席は隣同士だった。
さて、俺がなぜ頭を抱えているのかと言うと、原因はさっきから話題に上げている彼女が原因だ。
なんでもパソコンはあまり使ったことがないらしく、タイピングがなめくじの歩行スピードか何かと見間違うレベルである。それだけなら良いのだが、彼女はパワーポイントの使い方がまるでからっきしだったため、スライドを一枚作るのにすごい時間を用していた。
最初の方は教授が頑張ってアドバイスなどをしていたのだが、途中から面倒を見切れなくなったのか、比較的パソコン(と言うよりオフィス系統)の扱いに慣れている俺が、彼女を教える任に就かされた。
最後の授業アンケートの時にやつの悪事を書き連ねてやろうと俺は心の中で決める。
「だから、そこはBを押して太字にするの。ショートカットキーとかお前が使えるわけねーから、やめろ」
変にキーボードを同時押しする彼女を止めながら、俺は太字にするところを指差してやる。
一応、本日の課題としては多種多様のショートカットキーを学んでみようとか言う物凄い初歩的なことなのだが、彼女はタイピングが遅いせいでまずそこまでいけていない。
「納得いきません!なぜショートカットキーを教えてくれないのですか!」
一年生の時の口調に戻った中野五月が、頬を膨らましながら俺に抗議する。
「お前がショートカットキーなんて覚えても使いこなせないからだ」
「なんですか、その理由は!?私もあなたみたいにマウスを使わないで色々と操作してみたいです」
やめておけ、そんなのマウス操作に慣れている人間にとってはものすごく無駄なことでしかない。
俺はマウスなしの方が慣れている部分もあるから、比較的マウスやトラックパッドは使ったりしないが、それでもマウス操作が便利な時は使っている。
それに、彼女が俺の領域にくるにはこの授業時間だけでは決して足りないのだ。それなら無駄なことを覚えるより、マウス操作を覚えた方が将来的に彼女の役に立つと思って、俺はショートカットキーを教えていない。
「お前が覚えて良いショートカットキーは五つ。”control"+"z"、”control"+"y"、”control"+"c"、”control"+"x"、”control"+"v"。以上だ」
俺が一本一本指を立てながら説明していると、その言葉が気に入らなかったのか彼女は顔を真っ赤にさせる。
「断固拒否します!このけち!あなたなんてもう知りません!」
「そうかい、そうかい、それはよかった。俺もお前のなめくじタイピングをみなくて清清する」
「君たち授業はもうちょっと静かに……」
「ええ、そうですか!私のはどうせみててあくびが出るような速度ですよ!悪かったですね」
「自覚してるなら少しは速度を上げろ、ノロマ。LINE友達いないから指が退化してるんじゃねーのか」
俺のその言葉が止めになったのか彼女はそれ以上何も言わずにパソコンに向き合った。
馬鹿め、なんのヒントもなしにショートカットキーがど素人にわかるものか、やれるものならやってみろ。俺はそう思い本日分の課題を提出してさっさと退席することにしたのだった。