六話
大学に入学してから一ヶ月が経った。あのコンパ以来中野五月が俺に話しかけてくることが多くなった。理由としては簡単で、どうやら俺は彼女に言い寄らないかららしい。
彼女のことを魅力的に思わないのかと言われたら、それはもちろん思うと答える。だが、好きになることはなかった。なんとなくだが、彼女に恋をしたところで無理な気がするからだ。
俺は特段人の感情に機敏と言うわけではない。だからと言って鈍いか聞かれれば、それもまたないと思う。それでも何故だか彼女に対してそう感じてしまう。理由は俺にもわからなかった。
そんな時、彼女からある話を持ち込まれた。バイトである。どうも知り合いの紹介で塾バイトを募集しているらしく、それを一緒にやらないかと言うことだった。女友達にも声を掛けてみたが、既にその子は違うところでバイトをしているらしく断られたそうだ。そこで、前々からもう一つ俺もバイトを増やしたいとぼやいていたのを思い出して誘ってくれたらしい。
俺は二つ返事でそれに頷いた。
これでも教師になりたいと思っている。塾バイトは高校生時代から興味はあったしやってみるのも悪くないと思えた。
俺と彼女は早速次の日にバイトの面接とテストを受けに行った。
問題は常識問題と思えるような数英の問題。面接に関してはどの日なら入れるかや、どの教科、年代を教えたいかなどを聞かれた。
帰り道、マックで晩ご飯を食べて一緒に帰ろうと言われたのでマックに寄った。彼女は試験が終わってからずっと不安そうな顔をしていた。
俺はそんなにヤバかったのかと思い、なんとなしに尋ねた。
______そんなに難しい問題なんてなかったろ?
彼女はその言葉に力なく笑うと、こう答えた。
______私ずっと勉強ができなくて、こう言うの結果出るまで落ち着かないんです
俺はなるほど、思いながら適当に相槌をうった。
勉強が得意か不得意かと言われれば俺は教科にもよるが得意な方である。中学の勉強は非効率でも数をよく解けばある程度の学力は示れたし、高校では自分なりの勉強法を確立できたおかげでそこそこの成績だった。
ただ、物理だけはどうしても理解できない。塾でもそれだけは教えれませんとはっきり答えるほどに嫌いだった。
______どうしてそんな余裕そうにしていられるんですか?
______まあ、塾バイトは面接が大事だって聞くし、あまり学力では心配していないからかな
俺がそんな風に答えると、彼女も少しは気が晴れたのか、はたまた注文していたバーガーが届いたからなのか、陰鬱とした空気が少しだけ軽減された。
俺もそれをみて、自身の注文したバーガーにかぶりついた。
塾バイトの合否が連絡された。結果としてはどちらも採用。次の週から勤務が開始されるらしい。
俺は彼女によかったなとお祝いの言葉を述べるために近付いた。彼女も俺がなんのために近付いてきたのか分かったのか、笑顔で俺に答える。彼女は報告したい相手がいるらしく、俺のお祝いの言葉を受け取ると、そのままどこかへと消えていってしまった。
あの喜びようは今でも忘れられそうにない。
たかだか塾バイトに受かるくらいではしゃぎすぎだ。